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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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エーテルの時代の幕開け42:指揮者の覚醒――魂のネットワーク

希望の光――確信に満ちた進軍


夜。


グランベルク王立学園の地下深くを、一条の希望の光が疾走していた。


エーテル解放戦線の精鋭部隊が、アシェルの新たな能力を羅針盤として、中央マナ炉へと向かっていたのだ。


彼らの足音は、静かだった。


しかし、その足取りは――


確信に満ちていた。


彼らの動きは、もはや闇の中を手探りで進む逃亡者のそれではなかった。


敵の配置。


罠の位置。


警備の隙間。


その全てを知り尽くした、確信に満ちた進軍だった。


作戦の第一目標は、学園のエネルギー供給網を支える、第三補助動力室の破壊。


それを破壊することで、学園全体の警備システムに一時的な麻痺を引き起こす。


そして、その混乱に乗じて中枢へと到達する。


それが、カインとアシェルが導き出した、反撃の第一歩だった。


「……前方三百メートル」


隊列の中ほどを進むアシェルの声が、響いた。


いや――


響いたわけではなかった。


それは、もはや囁き声ではなかった。


それは、離れた場所にいる仲間たちの魂に直接語りかける、**思念のエーテル・リンク**だった。


アシェルの声は――


直接、仲間たちの心に届いた。


「旧式の警備ゴーレムが十体」


「その奥に、龍人族のエリート兵が二人、潜んでいるわ」


先頭を行くケンシンの脳内に、アシェルの声と同時に、敵の配置図が、まるで目の前に地図が広がったかのように、鮮明に映し出された。


それは、驚くべき体験だった。


視覚ではない。


しかし――


見えた。


敵の位置が、はっきりと分かった。


(……了解した)


ケンシンは、思念で短く返した。


声に出さずに。


ただ、心の中で思うだけで。


それが、アシェルに届いた。


彼の隣を走るタケルも、同じ情報を受け取っていた。


これが、アシェルの覚醒した力の、最初の応用だった。


彼女は、自らの魂を中継点とし、仲間たちの意識を一つのネットワークとして繋ぎ合わせ、戦場の情報をリアルタイムで共有させていたのだ。


まるで――


一つの生命体のように。


## 戦場の指揮者――完璧な連携


「タケル、おはんは右からゴーレム五体ば引き受けろ」


ケンシンの思念が、部隊全体に伝わった。


全員が、同時に受け取った。


「わいは左の五体と、龍人族の二人ば同時に抑える」


「カインは後方で全体の動きば分析し、リアンとエルザは遠距離からの援護を頼む」


指示が、瞬時に伝わった。


声を出す必要がなかった。


だから、敵に気づかれることもなかった。


かつては、声と身振りでしか連携できなかった彼らが、今や、思考そのものを共有し、一体となって動いていた。


そして、その巨大な有機体の、指揮官としての中枢を担っていたのが、アシェルだった。


「……来る!」


アシェルの警告が、全員の心に響いた。


通路の角を曲がった瞬間――


暗闇の中から、赤い光点が十数個、一斉に現れた。


待ち構えていた、敵部隊だった。


「侵入者発見!」


ゴーレムの機械音声が響いた。


「排除セヨ!」


ゴーレムたちが、重い足音を立てて突進してきた。


ドシン、ドシン、ドシン。


地面が、揺れた。


その瞬間――


アシェルは、深く息を吸い込んだ。


彼女の意識は、もはや個々の敵を捉えてはいなかった。


彼女は、戦場全体のエーテルの流れ――


味方の闘志。


敵の殺意。


機械の無機質なマナ。


そして、この地下空間に澱む古い記憶の残滓。


その全てを、一つの巨大な奔流として感じ取っていた。


すべてが――


見えた。


いや、感じられた。


(――みんな、私の力を受け取って!)


アシェルの思念が、仲間たち全員に届いた。


そして――


彼女は、自らの魂の核から、仲間たち一人一人へと、純粋なエーテルの奔流を送り込んだ。


それは、以前の「譲渡」のような、自らを削る一方的な行為ではなかった。


仲間たちの魂と、自らの魂を**「共鳴」**させ、互いの力を増幅させ合う、高次元の力の共有だった。


循環。


与え、受け取り、また与える。


それが――


真の力だった。


## SATUMAの覚醒――限界を超えた力


ケンシンとタケルの身体が、淡い黄金色のオーラに包まれた。


それは、美しかった。


神々しいまでに。


「……なんだ、こいは……!?」


タケルが、驚愕の声を上げた。


「身体が……羽のように軽か……!」


「力が、底から湧き上がってくるごつある!」


タケルは、自分の身体を見た。


黄金色のオーラが、纏わりついていた。


そして――


力が、漲っていた。


これまで感じたことのない、力。


SATUMAのメンバーは、自分たちの「気」が、アシェルの力と呼応し、身体能力が飛躍的に向上するのを実感していた。


アシェルが送る純粋なエーテルは、彼らが体内で練り上げる「気」と完璧に共鳴し、そのポテンシャルを限界以上に引き出したのだ。


「チェストォォォォォ!」


タケルが、木刀を振り下ろした。


その一撃は――


もはや、物理法則を超越していた。


ガシャァァァン!


ゴーレムの重装甲が、まるでバターを切るかのように容易く両断された。


破片が、飛び散った。


そして――


その一撃は、背後の壁にまで深い亀裂を刻み込んだ。


「なんじゃ、こいは……!」


タケル自身が、驚いていた。


自分の力が――


信じられないほど、強くなっていた。


ケンシンの動きは、さらに神がかり的なものとなっていた。


片腕一本でありながら、彼の木刀は残像を伴うほどの速度で舞った。


シュッ、シュッ、シュッ。


その動きは、見えないほど速かった。


同時に三体のゴーレムを無力化した。


そして――


さらに、龍人族のエリート二人が放つ魔法の矢を、その切っ先で全て弾き返した。


カキン、カキン、カキン。


魔法の矢が、弾かれた。


「馬鹿な……!?」


龍人族の兵士たちが、信じられないといった表情で後ずさった。


「我々の攻撃が、全く当たらない……!」


恐怖が、彼らの目に浮かんでいた。


## 共鳴する魂たち――完璧な情報共有


アシェルの支援は、SATUMAだけに留まらなかった。


「カイン!」


アシェルの思念が、カインに届いた。


「今、相手の思考が一瞬乱れた!」


「詠唱の隙ができるわ!」


アシェルは、龍人族の兵士の、ほんの一瞬の迷い――エーテルの揺らぎさえも感じ取っていた。


そして、それをカインへと伝達した。


「……了解!」


カインは、すぐに分析した。


そして、指示を出した。


「リアン、エルザ!」


「目標、左の龍人族!」


「防御魔法の詠唱直前だ!」


カインの的確な指示が、飛んだ。


リアンとエルザは、すぐに反応した。


リアンが、エーテルの流れを操作した。


敵の魔法を、妨害した。


エルザが、弓を引いた。


そして、矢を放った。


シュッ!


矢が、風を切った。


そして――


ドスッ!


龍人族の兵士の急所を、正確に捉えた。


連携が、完璧だった。


寸分の狂いもなかった。


リアンとエルザの連携攻撃が、敵の急所を捉えた。


アシェルの新しい力は、味方を強化する**「指揮官」としての能力**そのものだった。


それは、これまでの「譲渡」とは次元の違う、広範囲への支援能力であった。


彼女は、戦場の全ての情報を掌握し、仲間たちの魂を繋ぎ、その力を最大限に引き出す、戦場のオーケストラの指揮者と化していた。


「……なんてことだ……」


遠隔監視モニターで戦況を見ていた情報統括官は、青ざめていた。


スクリーンには――


信じられない光景が映し出されていた。


解放戦線の戦士たちが、まるで一つの生命体のように動いている。


完璧な連携。


完璧なタイミング。


まるで――


あらかじめ、すべてを知っているかのように。


「……彼らは、まるで一つの生命体のように動いている」


統括官の声は、震えていた。


「これは、もはや単なる連携ではない」


「……魂の、ネットワーク……?」


彼は、理解できなかった。


どうやって、これほどの連携が可能なのか。


しかし――


事実として、目の前に起きていた。


## 勝利、そして次なるステージへ――本当の戦いの始まり


第三補助動力室を巡る攻防は、わずか十分で決着がついた。


圧倒的な物量を誇った学園の警備部隊は、解放戦線の、常識を超えた連携術の前に、なすすべもなく壊滅した。


ゴーレムは、すべて破壊された。


龍人族のエリート兵も、倒された。


「……動力室、確保!」


カインが、制御盤を操作しながら報告した。


彼の手が、素早く動いていた。


スイッチを切り、レバーを引いた。


動力室が、停止した。


ウィーンという音が止まった。


そして――


学園全体の照明が、一瞬、揺らいだ。


エネルギー供給が、不安定になった。


計画通りだった。


だが、彼らの顔に、勝利を喜ぶ余裕はなかった。


この勝利が、学園長との全面戦争の始まりを告げる、本当の狼煙であることを、誰もが理解していたからだ。


これは――


始まりに過ぎない。


本当の戦いは、これからだ。


アシェルは、力の行使によってふらついていた。


身体が、揺れた。


疲労が、襲ってきた。


しかし――


彼女は、壁に手をついて毅然と立っていた。


倒れるわけには、いかなかった。


「……行くよ、みんな」


アシェルの声は、静かだった。


しかし、その声には――


揺るぎない決意があった。


彼女の瞳は、この施設の、さらに奥深く、囚われた者たちの魂が眠る、本当の闇を見据えていた。


「……私たちの戦いは、まだ始まったばかりだ」


仲間たちは、静かに、しかし力強く頷いた。


アシェルという稀代の指揮者を得て、エーテル解放戦線は、もはや単なる反乱分子ではなかった。


彼らは、学園という巨大なシステムに、そしてその背後に潜む巨大な悪意に、正面から戦いを挑む、真の革命軍として、その第一歩を踏み出したのであった。


「前進!」


ケンシンの声が、響いた。


一行は、再び動き出した。


さらに深く。


中央マナ炉へと。


そして――


学園長との、最終決戦へと。


運命は、動き出していた。


もう、誰にも止められない。


革命は、完成へと向かっていた。


そして、その先に――


真の夜明けが、待っていた。


すべてを決する時が、近づいていた。


物語は、いよいよクライマックスへと突入していく。

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