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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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エーテルの時代の幕開け41:魂の奔流――力の真髄への目覚め

静寂の地下――もう一つの戦い


解放戦線の地下アジトは、かつてないほどの緊張と、そして静寂に包まれていた。


地上では――


学園長の正規軍と解放戦線の散発的な衝突が続いていた。


爆発音が、遠くから聞こえてきた。


悲鳴も、聞こえた。


学園全体が、内戦状態に陥っていた。


しかし――


この地下深くでは、物理的な戦いとは全く異なる、もう一つの静かな戦いが繰り広げられていた。


アシェルは、アジトの最も奥まった小部屋で、座禅を組んで瞑想を続けていた。


彼女の周りには、誰もいなかった。


静寂だけが、あった。


彼女は、あの奈落の底で体験した、自らの魂の核との対話を、今一度、自らの意志で試みようとしていたのだ。


(……足りない)


アシェルは、心の中で呟いた。


(力が、まだ足りない……)


仲間たちは、必死に戦っていた。


ケンシンもタケルも、命を賭けて戦っていた。


しかし――


戦況は、芳しくなかった。


サイラスが構築した管理システム「プロヴィデンス」の監視網は巧妙で、解放戦線の動きはことごとく事前に察知され、ゲリラ戦術も効果を上げられずにいた。


圧倒的な物量と情報網を誇る学園正規軍の前に、彼らはじわじわと消耗していくだけだった。


このままでは――


負ける。


「アシェル、無理はするな」


ケンシンが、部屋に入ってきた。


彼は、彼女の消耗しきった様子を案じて声をかけた。


アシェルは、仲間たちの負傷を癒やすために「譲渡」の力を酷使していた。


その顔には、深い疲労の色が浮かんでいた。


頬は、痩せこけていた。


目の下には、クマができていた。


「……大丈夫」


アシェルは、力なく微笑んだ。


しかし――


その身体が限界に近いことは、誰の目にも明らかだった。


(このままじゃ、みんな……)


アシェルは、心の中で呟いた。


(何か、もっと根本的な方法で、この流れを変えなければ……)


アシェルは、目を閉じた。


そして、再び意識を自らの内へと深く、深く沈めていった。


エルダンが教えた呼吸法。


ケンシンが説いた「気」の流れ。


それらの教えを道標に、彼女は自らの魂の源泉、あの奈落の底で触れた「核」へと向かって、精神の旅を始めた。


## 個の限界、そして繋がりへ――仲間からの贈り物


最初は、何も感じなかった。


ただ、自らの肉体の疲労と、エーテルの枯渇による冷たい感覚だけがあった。


身体が、重かった。


動かすのが、困難だった。


エーテルも、ほとんど残っていなかった。


枯渇していた。


(……ダメだ)


アシェルは、絶望しかけた。


(私の中には、もう、分け与える力なんて、残っていない……)


絶望が、再び彼女の心を覆いかけた。


その時――


『……独りじゃないでしょ』


不意に、リアンの優しい声が、心の中に響いた。


アシェルは、はっとした。


そうだ。


彼女は、もう独りではない。


部屋の外では、リアンやカイン、そして他の仲間たちが、彼女の身を案じ、静かに祈りを捧げてくれていた。


アシェルは、意識の触手を、自らの内から、外へと伸ばしてみた。


仲間たちの魂へと、そっと。


すると――


温かいエーテルの流れが、仲間たちから自分へと、逆に流れ込んでくるのを感じた。


それは、驚くべきことだった。


これまで、アシェルは――


いつも、与えるばかりだった。


自分のエーテルを、他者に譲渡していた。


しかし、今――


逆に、受け取っていた。


仲間たちから、エーテルを受け取っていた。


リアンの、ひたむきな信頼。


その想いが、温かく流れ込んできた。


カインの、冷静な分析力に裏打ちされた友情。


それも、感じられた。


ケンシンの、厳しくも揺るぎない魂の誓い。


力強く、伝わってきた。


タケルの、真っ直ぐで単純な忠誠心。


熱く、燃えていた。


それら、仲間たちの想いが、彼女の枯渇しかけた魂の核に、温かい雨のように降り注いだ。


そして、再び力を満たしていった。


身体が、温かくなった。


エーテルが、戻ってきた。


力が、蘇ってきた。


(……そうか)


アシェルは、理解した。


(私は、与えるだけじゃなかったんだ)


(ずっと、みんなからも、貰っていたんだ……)


アシェルは、ついに自らの力の真髄に気づいた。


彼女の力は、個人のエーテルを操作するものではなかった。


それは――


他者との絆、魂と魂の繋がりそのものを媒介とし、より大きな力の流れを生み出すための能力だったのだ。


一方通行ではなかった。


循環だった。


与え、受け取り、また与える。


それが、彼女の力の本質だった。


## 魂の奔流、そして淀み――学園全体の姿


仲間たちとの精神的な繋がりを確立したアシェルの意識は、さらに拡大していった。


彼女の魂は、もはやこのアジトという小さな器には収まりきらなかった。


学園全体へと、まるで水が大地に染み込むように、静かに、そしてどこまでも広がっていった。


意識が――


広がっていく。


どこまでも、広がっていく。


アジトの外へ。


地上へ。


学園全体へ。


その瞬間、彼女は「見た」。


いや、感じ取った。


それは、視覚的な光景ではなかった。


学園に生きる、数万の人々の魂が放つエーテルの、巨大な奔流そのものだった。


生徒たちの希望と不安。


教官たちの情熱と諦観。


龍人族の誇り。


苦学生たちの渇望。


あらゆる感情と生命活動が、巨大なエネルギーの川となって、学園の地下深くへと、絶えず流れ込んでいた。


それは――


圧倒的だった。


まるで、大河のように。


いや、海のように。


無数の魂が、そこにあった。


(……すごい……)


アシェルは、感嘆した。


(これが、この学園の、本当の姿……)


それは、個々のマナ量などとは比較にならない、圧倒的な、生命のエネルギーの渦だった。


そして――


その巨大な奔流の中心、最も深く、最も暗い場所で、彼女は、**微かな「淀み」**を発見した。


それは、不自然だった。


健康な生命の流れの中にあってはならない、澱だった。


まるで、清流の中に沈む、黒い泥のように。


その淀みからは、彼女が地下で聞いた、あの苦痛に満ちた、声なき魂の叫びが、今もなお、かすかに響いてきていた。


囚われたレメディアルの先輩たちの魂の叫び。


それが、巨大なエーテルの奔流の中で、小さな、しかし消えることのない**「淀み」**となっていたのだ。


それが――


すべての元凶だった。


## 新たな知覚、神がかりの力――完璧な索敵


「……見つけた」


瞑想から覚めたアシェルが、呟いた。


その瞳は――


もはや、灰色のそれではなかった。


黄金色に、輝いていた。


その瞳には、学園全体の魂のネットワーク図が、マナ・スクリーンに映し出された精密な地図のように、くっきりと映っていた。


「アシェル……?」


ケンシンが、彼女の尋常ならざる気配に、息を呑んだ。


何かが、変わっていた。


アシェルから放たれる気が――


以前とは、まったく違っていた。


「……わかるの」


アシェルは、誰もいない壁の一点を指差した。


「あの壁の向こう、二百メートル先に、警備ゴーレムが五体」


ケンシンは、驚いた。


どうして、分かるのか。


壁の向こうなど、見えるはずがない。


「その更に奥、地下三階の動力パイプの横に、サイラスが仕掛けた監視用の魔力探知機がある」


アシェルは、さらに続けた。


「そして……」


アシェルは、目を閉じた。


そして、再び意識を集中させた。


「……中央マナ炉の防御フィールド」


「そのエネルギー供給ラインに、微小な構造的欠陥がある」


「カインの計算通り、毎日午前二時十五分」


「三分間だけ、その部分のエーテル循環が、ほんの僅かに乱れる……」


「そこが、私たちが突くべき、唯一の弱点……!」


その言葉に――


ケンシンもカインも、驚愕した。


彼女の力が、個人的なものから、より広範囲で索敵や分析にも応用できる神がかり的なものへと進化した瞬間だった。


彼女はもはや、地図や情報に頼る必要はなかった。


学園に流れる魂の泉そのものにアクセスし、敵の位置やシステムの弱点を、直感的に把握できるようになっていたのだ。


「……すごい」


カインが、呟いた。


「これが、アシェルの、本当の力……」


カインは、自らの分析能力を遥かに超えた、その神託のような言葉に、戦慄した。


これは――


もう、人間の域を超えていた。


## 反撃の計画――完璧な設計図


アシェルの新たな覚醒により、解放戦線の作戦は、根本から書き換えられた。


もはや、暗闇の中を手探りで進むような、博打に近い潜入作戦ではなかった。


「私には、この迷宮の全ての道筋が見える」


アシェルは、カインが広げた地図の上に、エーテルの流れを頼りに、完璧な侵入経路と、敵の配置を、正確に描き込んでいった。


その手は、迷いがなかった。


まるで、すべてを知っているかのように。


実際――


アシェルは、すべてを知っていた。


学園全体の、エーテルの流れを感じ取ることができた。


だから――


すべてが、分かった。


「このルートを通れば、最小限の戦闘で、中枢までたどり着ける」


アシェルが描いた経路は、完璧だった。


警備の薄い場所を選んで進む。


監視カメラのない場所を通る。


すべてが、計算されていた。


「それだけじゃない」


アシェルは、続けた。


「私は、この学園にいる、『まだ良心を失っていない人々』の心の光も、感じることができる」


マルクスのような内部協力者。


学園長のやり方に疑問を抱いている教官。


システムの犠牲になっている仲間たちの解放を願う、声なき生徒たち。


彼らの心の光が――


アシェルには、見えていた。


「彼らの力を、借りるの」


アシェルの計画は、もはや単なる軍事作戦ではなかった。


それは、学園に生きる全ての人々の良心に直接語りかけ、内側からシステムを崩壊させる、壮大な革命の設計図だった。


カインは、その計画を見て、感動していた。


「完璧だ……」


カインの声は、震えていた。


「これなら、勝てる……」


ケンシンも、頷いた。


「ああ、勝てる」


タケルは、拳を握りしめた。


「よっしゃ!やってやるぜ!」


リアンは、涙を流していた。


「アシェル……すごい……」


彼女の力の真髄への目覚め。


それは、物語が、絶望的な抵抗運動から、確かな勝機を見出した、反撃の狼煙を上げる段階へと、移行したことを告げる、重要な瞬間であった。


アシェルは、ついに自らの力の本当の意味――**「繋ぎ、共有し、そして導く」**こと――を理解した。


その覚醒が、やがて来る最終決戦の、勝利の鍵となるのであった。


「行こう」


アシェルは、立ち上がった。


その目は、前を向いていた。


もう、迷いはなかった。


「最後の戦いを、始めよう」


仲間たちは、頷いた。


そして――


決戦へと、向かった。


運命の時が、近づいていた。


すべてを決する、最後の戦いが。


革命は、いよいよ完成へと向かっていた。


そして、その先に――


真の夜明けが、待っていた。

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