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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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エーテルの時代の幕開け39:死と再生――真の指導者の覚醒

千年の墓所――変わり果てた姿


砕け散ったエーテル遮断壁の向こう側は、千年の墓所のごとき、完全な静寂と闇に支配されていた。


空気は、氷のように冷たかった。


吸い込むと、肺が痛かった。


生命のエーテルは、完全に枯渇していた。


何も、感じられなかった。


ただ、死の匂いだけが、希薄に漂っていた。


その、あまりにも非人間的な空間の、最も奥まった場所に――


一つの小さな影が、か細い蝋燭の炎のように、静かに揺らめいていた。


「……アシェル……!」


リアンの、悲痛な叫びが、闇を引き裂いた。


仲間たちは、その影に駆け寄った。


粉塵が、まだ舞っていた。


視界が、悪かった。


しかし――


そこに、彼女がいた。


アシェルが、いた。


そこにいたのは、仲間たちの記憶にある、あの快活で、意志の強かった少女の面影を、ほとんど留めていない、変わり果てたアシェルの姿だった。


長く艶やかだった髪は、輝きを失っていた。


乾燥して、ぱさぱさになっていた。


その頬は、痛々しいほどに痩せこけていた。


骨が、浮き出ていた。


もともと華奢だった身体は、まるで子供のように小さく見えた。


ボロボロになった制服だけが、かろうじて彼女の身元を証明していた。


「アシェル!」


リアンは、アシェルに駆け寄った。


そして、その手を取った。


その手は――


冷たかった。


まるで、氷のように。


「しっかりしろ!」


ケンシンも、駆け寄った。


そして、その冷え切った身体を支え起こした。


その瞬間――


ケンシンは、息を呑んだ。


軽い。


あまりにも、軽すぎる。


その軽さに、彼は衝撃を受けた。


まるで、鳥の骸を抱いているかのようだった。


だが――


彼がアシェルの顔を覗き込んだ瞬間、ケンシンは、さらに大きな衝撃を受けた。


アシェルの、灰色の瞳。


その瞳には――


絶望も、悲しみも、苦痛の色さえもなかった。


ただ、嵐が過ぎ去った後の、どこまでも澄み切った湖面のような、恐ろしいほどの静寂が広がっていた。


それは、生きとし生けるものが持つ、感情の揺らぎというものが、完全に消え失せたかのような、神聖ですらある空虚さだった。


いや――


空虚ではなかった。


それは――


満たされていた。


何かで、完全に満たされていた。


それが何なのか、ケンシンには分からなかった。


しかし、確かに――


何かが、変わっていた。


「……みんな……」


アシェルの唇から、声が漏れた。


その声は、か細く、ひび割れていた。


しかし――


その響きには、仲間との再会を喜ぶ純粋な感情と共に、全ての苦悩を乗り越えた者だけが持つ、不可思議なまでの安らぎが宿っていた。


「来て、くれたんだね……」


アシェルは、微笑んだ。


その微笑みは――


美しかった。


痛々しいほどに、美しかった。


「ああ、当たり前じゃ!」


タケルが、涙でぐしゃぐしゃになった顔を隠すように、怒鳴った。


「おはんを、こんな場所に一人で置いておけるわけがなか!」


タケルの声は、震えていた。


泣いているのを、隠そうとしていた。


しかし――


隠せていなかった。


## 帰還――異質なオーラ


アシェルは、仲間たちによって救出された。


ケンシンは、その衰弱しきった身体を慎重に背負った。


そして、一行は再び、来た道を引き返し始めた。


急がなければならなかった。


追っ手が、来るかもしれない。


警備システムが、復旧するかもしれない。


しかし――


その道すがら、カインやリアンは、アシェルが生きていたという安堵感と同時に、彼女から放たれる、以前とは全く異質なオーラに、戸惑いを隠せずにいた。


以前の彼女の周りには、常にエーテルの小さな渦が、無意識のうちに渦巻いていた。


それは、彼女の力の強さを示していた。


しかし――


今の彼女は、まるで凪いだ海のように、静まり返っていた。


エーテルの波動が、感じられなかった。


いや――


感じられないわけではなかった。


それは――


あまりにも穏やかで、あまりにも自然で、まるで風や水のように、周囲に溶け込んでいた。


何かが、変わっていた。


根本的に、変わっていた。


## 変容、そして新たな力――循環の理解


アジトである古い管理棟に戻った。


エリアーデが、待っていた。


「アシェル君!」


エリアーデは、驚いた表情でアシェルを見た。


そして、すぐに治療を始めた。


懸命の治療が、施された。


薬が、投与された。


傷が、手当てされた。


栄養のあるスープが、与えられた。


その後――


アシェルは、丸一日、深い眠りについた。


そして――


静かに、目を覚ました。


「……目が覚めたのね」


ベッドの傍らで、リアンが、心配そうに彼女の顔を覗き込んでいた。


リアンは、ずっとアシェルのそばにいた。


一度も、離れなかった。


「アシェル……?」


リアンの声は、心配そうだった。


「どこか、痛むところは……?」


アシェルは、ゆっくりと上体を起こした。


驚くべきことに――


あれほど衰弱していたはずの身体には、不思議と力が漲っているのを感じた。


身体が、軽かった。


痛みも、なかった。


そして――


何かが、根本的に変わってしまったことを、彼女自身が、誰よりも理解していた。


「……大丈夫」


アシェルは、微笑んだ。


「もう、どこも痛くないよ」


アシェルは、自分の手のひらを見つめた。


その手は――


もう、震えていなかった。


絶望の底で内なる対話を終えた彼女は、もはや力の代償に怯える少女ではなかった。


これまでの彼女は、自分の特異な力を、生まれ持った「呪い」として、あるいは、仲間を救うための、やむを得ない「道具」として、捉えていた。


その力を使うたびに、罪悪感と恐怖に苛まれていた。


自分は、人を傷つけている。


自分は、奪っている。


そう、思っていた。


だが――


今は、違った。


奈落の底で、エルダンとケンシン、そして仲間たちの魂と対話し、自らの魂の核と向き合ったことで、彼女はついに、真理に到達したのだ。


「……これは、呪いじゃなかった」


アシェルは、静かに呟いた。


「道具でもなかったんだ……」


アシェルは、リアンの手を、そっと握った。


リアンの手は、温かかった。


その手から――


温かく、そしてどこまでも穏やかなエーテルが、リアンの体内へと、自然に流れ込んでいった。


だが、以前の「譲渡」のような、自らを削るような感覚は、もうどこにもなかった。


痛みが、なかった。


苦しみが、なかった。


ただ――


自然に、エーテルが流れていった。


まるで、川の水が流れるように。


「あ……」


リアンの身体が、温かい光に包まれた。


その光は、優しかった。


そして――


リアンは、感じた。


彼女の長年の持病であった心臓の不調が、その根本から、癒やされていくのを。


心臓が、楽になった。


呼吸が、楽になった。


身体全体が、温かくなった。


「これは……」


リアンは、驚いた表情でアシェルを見た。


「これは……『循環』なのよ」


アシェルは、リアンに微笑みかけた。


その微笑みは、もはや絶望の影を宿したものではなかった。


全てを受け入れた、女神のような、慈愛に満ちたものだった。


「私だけが、与えているんじゃない」


アシェルの声は、穏やかだった。


「リアンも、みんなも、世界も、私に与えてくれている」


「私たちは、みんな、一つの大きなエーテルの流れの中で、繋がっている」


「私は、その流れを、少しだけ、お手伝いしているだけなの」


その言葉に――


リアンは、涙を流した。


理解できた。


アシェルが、何を悟ったのか。


アシェルは、もう――


一人で戦っていなかった。


みんなと、共にいた。


## 真の指導者への再生――新たなビジョン


彼女は、自らの力を完全に受け入れ、その意味と責任を理解した、真の指導者として再生を遂げていた。


彼女の瞳には、個々の敵を打ち破るための戦術ではなく、この世界全体の、歪んだエーテルの流れそのものを、本来あるべき調和の取れた姿へと導く、より大きなビジョンが映っていた。


その変容は、居合わせた全てのメンバーを圧倒した。


「……アシェル……?」


ケンシンでさえ、戸惑っていた。


「おはん、一体……」


ケンシンは、彼女から放たれる、あまりにも大きく、そしてあまりにも穏やかな「気」のオーラに、畏敬の念を禁じ得なかった。


それはもはや、一人の人間のそれではなかった。


大いなる自然そのものが持つ、荘厳な波動に近かった。


まるで――


大地のように。


海のように。


空のように。


すべてを包み込む、大きな存在。


「ケンシンさん」


アシェルは、ベッドから立ち上がった。


そして、集まった解放戦線のメンバーたちの前に立った。


「タケルさん」


「リアン」


「カイン」


「そして、みんな」


アシェルは、深々と頭を下げた。


その姿勢は、真摯だった。


心からの、謝罪と感謝だった。


「……ごめんなさい」


アシェルの声は、震えていた。


「そして、ありがとう」


「私の、独りよがりな戦いで、みんなを危険な目に遭わせてしまった」


「……でも、もう迷わない」


アシェルは、顔を上げた。


その小柄な身体からは、信じられないほどのカリスマが放たれていた。


まるで――


女王のように。


いや、女神のように。


「私たちの敵は、学園長オルティウスでも、サイラスでもない」


アシェルの声は、力強かった。


「私たちの本当の敵は、『力を独占し、他者を支配しようとする、歪んだ心』そのものだ」


その言葉に、メンバーたちは頷いた。


そうだ。


敵は、個人ではない。


敵は、システムそのものだ。


「私たちは、中央マナ炉を、破壊しない」


アシェルの宣言に――


誰もが、耳を疑った。


破壊しない?


それでは、どうするのか。


「破壊は、新たな憎しみを生むだけ」


アシェルは、説明した。


「私たちは、あのシステムを、『解放』する」


「囚われた魂を解き放ち、独占されていたマナを、この学園に生きる全ての人々と、『共有』する」


「それこそが、私たちの、本当の勝利よ」


その言葉に――


メンバーたちは、感動していた。


そうだ。


破壊ではない。


解放だ。


共有だ。


それこそが、真の革命だ。


## 新たなる希望の光――思想的指導者の誕生


主人公の精神的な『死と再生』。


それは、この章の紛れもないクライマックスだった。


奈落という肉体的な死の淵で、彼女は一度死んだ。


そして――


全く新しい存在として、生まれ変わったのだ。


その覚醒は、絶望の淵にあった解放戦線に、絶対的な希望の光をもたらした。


彼らのリーダーは、もうただの「エーテル・ドレインの魔女」ではなかった。


彼女は、世界の歪みを正し、真の「共有」の時代を導くための、思想的指導者へと昇華していたのだ。


カインは、アシェルの新たな理念に基づき、作戦計画を全面的に練り直し始めた。


「分かった」


カインは、ノートを取り出した。


「新しい作戦を、立てよう」


ケンシンとタケルは、彼女の護衛として、そして彼女の意志を遂行する剣として、新たな誓いを立てた。


「わいらは、アシェルの剣じゃ」


ケンシンが、言った。


「おはんが進む道を、わいらが切り開く」


そして、リアンは、アシェルの理念を、学園内の人々に広めるための、広報役としての役割を、自ら買って出た。


「私が、みんなに伝える」


リアンは、決意していた。


「アシェルの想いを」


「行こう」


アシェルは、アジトの窓を開けた。


窓の外には――


夜明けの光が、差し込んでいた。


空が、明るくなり始めていた。


長い夜が、終わろうとしていた。


そして――


新しい一日が、始まろうとしていた。


アシェルは、その光を見上げた。


「私たちの、本当の戦いを、始めよう」


彼女の、力の真髄への目覚め。


それは、物語が、単なる学園内の反逆劇から、世界のあり方そのものを問う、より大きな哲学的、そして革命的な叙事詩へと、変貌を遂げた瞬間でもあった。


絶望の最も深い場所から、物語は今、最も輝かしい希望へと、その翼を広げようとしていた。


革命は、完成へと向かっていた。


そして、その先に――


真の夜明けが、待っていた。


運命の歯車は、最後の回転を続けていた。


もう、誰にも止められない。


すべてが、決まる時が――


近づいていた。

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