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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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エーテルの時代の幕開け37:魂の共鳴――絆という名の光

永遠の静寂――融解する時間


時間という概念が、融解していた。


一日が、一週間が、あるいは一ヶ月が。


もう、分からなかった。


永遠とも思える静寂の中。


アシェルは、地下監獄「奈落」の冷たい石床の上で、静かに瞑想を続けていた。


彼女は、座禅を組んでいた。


背筋を伸ばし、手を膝の上に置いていた。


目を閉じていた。


呼吸を、整えていた。


ゆっくりと、息を吸う。


ゆっくりと、息を吐く。


そのリズムを、繰り返していた。


肉体は、エーテルの枯渇によって極限まで衰弱していた。


もはや、指一本動かすことさえ億劫だった。


身体は、重かった。


力が、入らなかった。


しかし――


だが、彼女の精神は、これまでにないほど澄み渡り、研ぎ澄まされていた。


心は、クリアだった。


雑念が、なかった。


ただ、自分の内面だけを見つめていた。


外界からのエーテルを完全に遮断されたこの場所は、皮肉にも、彼女に自分自身の内面世界へと深く潜ることを強いていた。


エルダンが教えた「魂の剣」。


ケンシンが説いた「気の流れ」。


それらの教えを、反芻していた。


一つ一つ、思い出していた。


そして、理解を深めていた。


彼女は、ひたすらに、自らの魂の最も深い場所にある「核」を見つめ続けていた。


それは、孤独な作業だった。


誰とも、話せなかった。


誰の顔も、見えなかった。


ただ、一人。


しかし――


だが、不思議と寂しくはなかった。


目を閉じれば、仲間たちの顔が、鮮やかに蘇るからだ。


リアンの、優しい笑顔。


カインの、真剣な表情。


ケンシンの、厳しくも温かい眼差し。


タケルの、力強い拳。


それらが、鮮明に思い出された。


(……リアン……)


アシェルは、心の中で呼びかけた。


(カイン……)


(ケンシンさん……)


(タケルさん……)


(みんな、無事でいるだろうか……)


仲間たちを危険に晒してしまった罪悪感は、まだ彼女の心を重く縛っていた。


しかし――


内なる対話を続けるうちに、その感情は、単なる後悔から、仲間への深い愛情と、彼らの無事を祈る、切なる想いへと、少しずつ形を変えていった。


罪悪感だけではなかった。


今は――


ただ、会いたかった。


(……会いたい……)


アシェルの心が、叫んでいた。


(もう一度だけ、みんなの声が聞きたい……)


その、あまりにも純粋で、強烈な願いが、やがて、奇跡の扉を開くことになる。


## 最初の響き――魂の波動


瞑想を始めてから、何日目の夜だっただろうか。


もう、数えていなかった。


時間の感覚が、なかった。


アシェルの意識が、自らの魂の最も深い淵へと沈み込んだ、まさにその時。


……アシェル……


不意に、声が聞こえた。


アシェルは、はっとした。


今、何か聞こえた。


しかし――


それは、牢獄の外から響く物理的な音ではなかった。


扉の向こうから、誰かが呼んでいるのではなかった。


記憶の中に残る幻聴でもなかった。


それは――


彼女の魂に直接、まるでさざ波のように、微かに響いてくる、温かい波動だった。


(……今の……声は……?)


アシェルは、全神経をその微かな響きに集中させた。


呼吸を、止めた。


すべての意識を、その声に向けた。


それは、か細かった。


途切れ途切れだった。


しかし――


間違いなく、リアンの声だった。


いや、声というよりも、「想い」そのものだった。


……負けないで……アシェル……


リアンの想いが、届いていた。


……私たち、ずっと、信じてるから……


その想いと共に、リアンの優しく、しかし今は強い意志を宿した笑顔が、アシェルの脳裏に鮮明に浮かび上がった。


リアンが、微笑んでいた。


以前よりも、強い目をして。


「……リアン……?」


アシェルは、思わず声を漏らした。


それは、この牢獄に来てから、初めて発した言葉だった。


声が、出た。


自分の声が、聞こえた。


その瞬間――


別の、より力強い波動が、彼女の魂を揺さぶった。


……嬢ちゃん、聞け


タケルの声だった。


荒々しく、しかし優しい声。


……てめえは、俺たちが必ず助け出す


……だから、絶対に、へこたれるんじゃねえぞ!


……チェストォ!


それは、タケルの、不器用だが真っ直ぐな、友情の叫びだった。


アシェルの目から、涙が溢れた。


続いて、カインの、冷静だが確かな信頼に満ちた想いが届いた。


……アシェル、君の頭脳は、まだ死んでいない


カインの声は、落ち着いていた。


いつものように、分析的だった。


しかし、その奥に――


確かな、信頼があった。


……諦めるな


……必ず、道はある……


そして――


最後に、最も静かで、しかし最も深く、彼女の魂を貫く波動が届いた。


……アシェル


ケンシンの声だった。


低く、力強い声。


……おはんは、一人じゃなか


……わいらが、ついちょる


ケンシンの、揺るぎない、魂の誓いだった。


## エーテルの共鳴――新たな力の目覚め


アシェルの灰色の瞳から、大粒の涙が流れ落ちた。


だが、それは絶望の涙ではなかった。


歓喜と、感謝と、そして、生きる希望に満ちた、温かい涙だった。


「みんな……」


アシェルは、震える声で呟いた。


「みんな……無事だったんだ……」


仲間たちは、生きていた。


戦い続けていた。


自分を、諦めていなかった。


その事実が――


アシェルに、力を与えた。


彼女は、物理的な繋がりなしに、遠く離れた仲間たちのエーテルと、微かに共鳴できるようになったのだ。


この「奈落」は、外界からのエーテルは遮断する。


壁も、床も、天井も――


すべてが、エーテルを吸収する素材でできていた。


しかし――


魂と魂が結びついた、より高次のエーテルの波動――「絆」そのものまでは、遮断することができなかったのだ。


絆は――


物理的な壁を、超えていた。


どんなに離れていても。


どんなに遮断されていても。


心と心は、繋がっていた。


彼女の力は、無意識のうちに、新たな段階へと進化していた。


それは、単なるエネルギーの「吸収」や「譲渡」ではなかった。


離れた相手の心を感じ取り、想いを交わす**「精神的な感応能力」**。


その兆しが、今、絶望の底で、確かに芽吹いていた。


仲間たちが諦めていないことを感じ取った彼女の心に、再び、力強い希望の光が灯った。


彼らが、戦い続けている。


ならば――


自分もここで朽ち果てるわけにはいかない。


「待ってて、みんな……」


アシェルは、涙を拭った。


「私、必ず帰るから……」


## 魂の鍛錬――来るべき時のために


その日から、アシェルの独房での日々は、一変した。


それはもはや、絶望に耐えるだけの時間ではなかった。


仲間との、声なき対話の場であり、来るべき再起のための、魂の鍛錬の場となったのだ。


彼女は、毎日、仲間たちの想いを感じ取ろうとした。


瞑想を深めた。


魂の核に、意識を集中させた。


すると――


おぼろげながらも、仲間たちの状況を、把握することができた。


彼らが、作戦を練っている。


アジトを、移動している。


そして時には、追っ手と渡り合っている。


その緊張感や高揚感が、断片的に伝わってくる。


リアンが、仲間たちを励ましている。


カインが、計画を立てている。


ケンシンとタケルが、訓練をしている。


エリアーデが、何かを調合している。


すべてが――


アシェルを救い出すため。


(みんな……頑張ってる……)


アシェルは、心の中で呟いた。


(私も、負けていられない)


アシェルは、自らの内に眠る「魂の核」に、意識を集中させ続けた。


それは、枯渇寸前だった泉が、再び少しずつ、しかし確実に、その水量を増していくような、地道な作業だった。


エーテルが、戻ってきていた。


わずかずつ。


しかし、確実に。


彼女は、仲間からの想いという「光」を浴びることで、自分自身の内なるエーテルを、ゆっくりと、しかし着実に、再生させていたのだ。


身体も、少しずつ回復していった。


指が、動くようになった。


腕を、上げられるようになった。


立ち上がることも、できるようになった。


彼女の力は、確実に進化していた。


以前の彼女の力は、他者から奪うか、自分を削って与えるか、そのどちらかしかできなかった。


「吸収」か「譲渡」。


それだけだった。


しかし今――


彼女は**「共有」**という概念を、より深いレベルで理解し始めていた。


力とは、一方通行のものではない。


それは、与え、与えられ、互いに共鳴し合うことで、より大きく、より強く、そしてより温かいものになる。


(……そうか)


アシェルは、理解した。


(エルダンが、ケンシンさんが言いたかったのは、こういうことだったんだ)


真の強さとは、個の力ではない。


他者との絆の中にこそ、その源泉はある。


一人では、弱い。


しかし、みんなで力を合わせれば――


どんな困難も、乗り越えられる。


それが、真実だった。


## 再会への誓い――三日後の約束


ある夜。


アシェルが、いつものように瞑想をしていた時。


『……アシェル、聞こえるかい?』


カインの、より鮮明な思念が届いた。


以前よりも、はっきりしていた。


まるで、すぐ近くで話しているかのように。


「カイン……」


アシェルは、小さく呟いた。


『……救出計画の、最終段階に入った』


カインの声は、真剣だった。


しかし、その奥に――


希望があった。


『あと三日だ』


『それまで、何とか耐えてくれ』


三日――


あと三日で、仲間たちが来てくれる。


あと三日で、ここから出られる。


「……うん」


アシェルは、声に出して答えた。


「待ってる」


その声は、もうか細くはなかった。


力強く、明確だった。


地下牢の闇は、相変わらず深かった。


光は、届かなかった。


音も、聞こえなかった。


しかし――


だが、アシェルの心は、もはや闇の中にはなかった。


彼女の心は、遠く離れた仲間たちと共にあり、確かな希望の光に照らされていた。


彼女は、ゆっくりと立ち上がった。


極度の衰弱により、足元はふらついていた。


身体は、まだ弱かった。


しかし――


その瞳に宿る光は、地下闘技場で見せたどの戦いの時よりも、強く、そして気高く、輝いていた。


アシェルは、拳を握りしめた。


その手に、力がこもった。


「三日後……」


アシェルは、呟いた。


「必ず、ここから出る」


「そして、みんなと共に、この歪んだ世界に、本当の夜明けをもたらす」


それが、アシェルの誓いだった。


彼女の目は、前を向いていた。


もう、下を向いていなかった。


絶望は、消えていた。


代わりに――


希望が、輝いていた。


物語は、主人公の内面的な覚醒を経て、反撃の狼煙が上がる直前の、最も緊張感に満ちた局面へと移行していた。


絶望の底でこそ、真の絆は最も強く輝く。


そして――


その絆が、奇跡を起こす。


三日後。


すべてが、始まる。


アシェルの救出作戦が、決行される。


そして、その先に――


学園長との、最終決戦が待っている。


運命の歯車は、最後の回転を続けていた。


もう、止まらない。


革命は、完成へと向かっていた。


夜明けは、もうすぐそこまで来ていた。

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