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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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エーテルの時代の幕開け31:狐の侵入――偽りの協力者

革命前夜の熱気――地下室の作戦会議


中央マナ炉の衝撃的な真実が暴露されてから、エーテル解放戦線の雰囲気は一変していた。


悲しみと怒りは、やがて鋼のような決意へと昇華されていた。


アジトである古い管理棟の地下室は、革命前夜の熱気に満ちていた。


地下室は、広くはなかった。


天井は、低かった。


窓は、なかった。


壁は、石でできていた。


湿った空気が、満ちていた。


しかし――


その地下室は、今や革命の中枢となっていた。


壁には、学園の詳細な地図が張り巡らされていた。


大きな地図。


そこには、様々な印がつけられていた。


赤い印、青い印、緑の印。


それぞれが、何かを示していた。


警備の位置。


重要な建物。


侵入経路。


すべてが、記されていた。


テーブルの上には、無数の書類が積まれていた。


情報を記した羊皮紙。


分析結果。


作戦計画。


カインを中心に、連日連夜、学園中枢への攻撃計画が練られていた。


カインは、ほとんど眠っていなかった。


目の下には、深いクマができていた。


しかし、その瞳には――


分析官としての鋭い光が宿っていた。


「警備ゴーレムの巡回ルートは、三時間周期で変更される」


カインは、地図を指差しながら説明した。


「だが、午前二時から四時の間、メンテナンスのために中央動力室の防御フィールドが、ほんの数分だけ弱まる瞬間があるはずだ」


カインの声は、憔悴していた。


しかし、その分析は正確だった。


彼は、この数日間、徹底的に学園の警備システムを調べていた。


すべてのパターンを分析していた。


「その隙ば突くちゅうわけか」


ケンシンが、腕を組んで言った。


彼は、地図を睨みつけていた。


「じゃっどん、あまりに危険すぎる」


「罠じゃっちゅう可能性もあッど」


ケンシンの指摘は、正しかった。


この計画は、非常に危険だった。


失敗すれば、全員が捕まる。


あるいは、殺される。


「分かっています」


アシェルが、答えた。


「でも、これは私たちに残された、数少ない好機の一つよ」


アシェルの声は、静かだった。


しかし、その声には――


強い決意が込められていた。


彼らの計画は、大胆かつ緻密だった。


中央マナ炉を停止させる。


そして、カプセルの中の人々を解放する。


その後、学園長の犯罪の証拠を、王国中に公表する。


それが、彼らの計画だった。


だが――


絶対的に不足しているものがあった。


それは、学園中枢の、リアルタイムの内部情報だった。


カインが持っている情報は、古かった。


数週間前、あるいは数ヶ月前の情報だった。


しかし、警備システムは日々変化している。


最新の情報がなければ――


計画は、成功しない。


## 突然の訪問者――予期せぬ侵入


その時――


アジトの入り口を見張っていたメンバーが、慌てた様子で駆け込んできた。


「……侵入者だ!」


その声は、緊張していた。


「一階に、誰かいる!」


その言葉に、地下室の空気が一変した。


全員が、立ち上がった。


ケンシンとタケルが、音もなく木刀を構えた。


臨戦態勢に入った。


アシェルたちも、緊張に身を固くした。


学園の追っ手が、ついにこの場所を突き止めたのか。


もし、そうなら――


戦わなければならない。


しかし、勝てるのか。


階段から、足音が聞こえてきた。


ゆっくりとした、足音。


一人だけだった。


その足音が、徐々に近づいてくる。


全員が、階段を見つめた。


誰が来るのか。


敵なのか。


それとも――


やがて、階段をゆっくりと降りてきた人物の姿が見えた。


その瞬間――


アシェルは、息を呑んだ。


「……サイラス……!?」


そこに立っていたのは――


レメディアル寮の同室者であり、そして、あの秋季カップ以来、その動向が掴めなくなっていたサイラス、その人だった。


サイラスは、両手を上げていた。


敵意がないことを示しながら。


そして、ゆっくりと地下室へと足を踏み入れた。


彼の表情は、穏やかだった。


かつてのような、冷たい笑みはなかった。


代わりに――


どこか、疲れたような表情をしていた。


## 悪魔の囁き――巧妙な説得


「……探したぜ、アシェル」


サイラスの声が、地下室に響いた。


「みんな、こんな暗い場所に隠れていたのか」


サイラスの口調は、以前の皮肉っぽさが消えていた。


代わりに――


仲間を案じるような、真摯な響きを持っていた。


しかし、その瞳の奥には――


誰も気づかぬ、計算高い冷たい光が宿っていた。


それは、ほんの一瞬。


すぐに消えた。


普通の人間なら、気づかなかっただろう。


「何の用だ!」


タケルが、木刀の切っ先を、サイラスの喉元に突きつけた。


その動きは、素早かった。


サイラスが反応する前に、木刀が喉元にあった。


「てめえ、学園長の手先になったちゅう噂じゃねえか!」


タケルの声は、怒りに満ちていた。


サイラスが学園長の補佐官になったという噂は、レメディアル寮中に広まっていた。


そして、その噂を聞いた者たちは――


皆、サイラスを裏切り者だと思っていた。


「……その噂は、半分は本当で、半分は嘘だ」


サイラスは、喉元に突きつけられた木刀にも臆することなく、冷静に答えた。


その声は、落ち着いていた。


まるで、これを予想していたかのように。


彼は、ゆっくりとアシェルに視線を向けた。


「アシェル、お前に話がある」


サイラスの目は、真剣だった。


「私も、学園長のやり方には反対だ」


「だから、内部から君たちに協力したい」


その、あまりにも予想外の申し出に、解放戦線のメンバーたちはどよめいた。


「……信じられるか」


誰かが、小さく囁いた。


「あいつは、金のためなら何でもする男だぞ」


別の誰かが、言った。


仲間たちの囁き声が、地下室に響いた。


誰もが、サイラスを疑っていた。


「君たちが私を疑うのは当然だ」


サイラスは、全てを予期していたかのように、続けた。


「だが、私も学園長に利用されていたに過ぎないことを知った」


サイラスの声には、わずかな怒りが込められていた。


しかし、それは――


演技だった。


完璧な、演技。


「彼は、私を補佐官に取り立てると言っておきながら、実際はただの監視役として使い、用が済めばバルトールのように切り捨てるつもりだった」


サイラスは、一度言葉を切った。


そして、深く息を吸った。


「……あの男は、誰も信用していない」


「ただ、駒として使い潰すことしか考えていない」


彼の言葉には、真実が含まれていた。


実際、学園長はそういう人間だった。


だからこそ、その説得力は増していた。


「私は、もうあの男の駒でいるのはうんざりだ」


サイラスの声に、本物の怒りのような感情がこもった。


それも、演技だった。


しかし、あまりにも上手い演技だった。


「それに……」


サイラスは、少し間を置いた。


「レメディアルの仲間が、あの地下施設で犠牲になっていると知って、黙っていることなどできなかった」


「私とて、あの寮で君たちと過ごした人間だ」


その言葉が――


仲間たちの心を、揺さぶった。


そうだ。


サイラスも、レメディアルだった。


同じ寮で、暮らしていた。


同じ苦しみを、味わっていた。


サイラスは、懐から数枚の羊皮紙を取り出した。


そして、テーブルの上に広げた。


「これは、私が学園長の下で働いている間に、密かにコピーしておいたものだ」


サイラスは、羊皮紙を指差した。


「学園の最新の警備配置図、重要人物の行動スケジュール、そして……」


サイラスが最後に指し示したのは――


一枚の、複雑な文字が書かれた羊皮紙だった。


「……これを、君たちへの『手土産』として持ってきた」


「これは、中央マナ炉の防御フィールドの、機密解除コードだ」


## 信頼を勝ち取る芝居――完璧な罠


その決定的な情報に、解放戦線のメンバーたちは息を呑んだ。


特に、カインは、その情報の価値を誰よりも理解していた。


カインは、羊皮紙を手に取った。


そして、詳しく調べ始めた。


その目は、真剣だった。


しばらくして――


カインが、顔を上げた。


「……これは……本物だ」


カインの声は、震えていた。


興奮で、震えていた。


「このコードがあれば、我々の作戦成功率は、飛躍的に上がる……!」


カインの言葉に、仲間たちがざわめいた。


これは、本当に――


本物なのか。


サイラスの提供した情報は、実際には――


学園長が意図的に流させた、偽情報と真実を巧妙に織り交ぜたものだった。


警備配置図は、本物だった。


しかし、その配置図には――


わずかな、しかし重要な誤りが含まれていた。


そして、解除コードは――


侵入者を特定のエリアに誘い込むための、罠への入り口だった。


しかし、それらの偽りは――


あまりにも巧妙に隠されていた。


カインほどの知性をもってしても、見抜けないほどに。


「どうだ、アシェル」


サイラスは、まっすぐにアシェルの目を見つめた。


「これで、私を信じてくれるか?」


その瞳には、改心した者が持つ、誠実な光が宿っているように見えた。


しかし――


それも、演技だった。


完璧な、演技。


アシェルは、迷っていた。


サイラスが、過去に金のために地下闘技場へと自分を誘ったことは、事実だった。


彼は、信用できない人間だった。


しかし――


彼がレメディアルの仲間であることも、また事実だった。


そして、何より――


彼が持ってきた情報は、あまりにも魅力的すぎた。


この情報があれば、作戦は成功するかもしれない。


カプセルの中の人々を、救えるかもしれない。


アシェルは、長い沈黙の後――


決断した。


「……信じよう」


アシェルの言葉に、サイラスの口元がわずかに歪んだ。


しかし、それは一瞬だった。


すぐに、感謝の表情に変わった。


「ありがとう、アシェル」


サイラスの声は、感動しているようだった。


「君が、私を信じてくれて……本当に嬉しい」


アシェルの決断に、リアンやカインも頷いた。


彼らもまた、サイラスの言葉に込められた「仲間」という響きに、心を動かされていた。


「ありがとう、サイラス」


アシェルは、微笑んだ。


「あなたのような、内部からの協力者がいれば、私たちは……!」


アシェルの目には、希望の光が宿っていた。


しかし――


その希望は、偽りの光に照らされていた。


こうして、解放戦線のメンバーたちは、何の疑いもなく、彼を新たな仲間として迎え入れた。


狐を、羊の群れの中に招き入れてしまったのだ。


サイラスは、心の中で冷たく笑っていた。


(完璧だ……)


(彼らは、完全に信じている……)


(これで、学園長閣下の計画は、順調に進む……)


## ケンシンの違和感――武人の直感


しかし――


その和やかな輪の中で、ただ一人、ケンシンだけは、腕を組み、黙り込んでいた。


彼は、サイラスの言葉を一言も信じてはいなかった。


ケンシンは、壁に寄りかかっていた。


その目は――


じっと、サイラスを観察していた。


(……目が、違う)


ケンシンの、武人としての鋭い観察眼は、サイラスの瞳の奥底に宿る、一瞬の光を見逃さなかった。


それは、改心した者のそれではなかった。


それは――


獲物を見つけ、罠にかける寸前の、狩人の目に宿る、野心の光だった。


ケンシンは、長年の戦闘経験で、人間を見る目を養っていた。


言葉は、嘘をつける。


表情も、偽れる。


しかし――


「気」は、嘘をつけない。


サイラスの言葉は、完璧だった。


表情も、態度も、改心した若者のそれに見えた。


だが、彼の身体の中心から放たれる「気」の流れが、その言葉とは全く逆のことを語っていた。


彼の気は、仲間を思いやる温かいものではなかった。


それは――


全てを計算し、支配しようとする、冷たく、そして鋭利な刃物のような気配を放っていた。


(……あの男、何かを企んじょる)


ケンシンは、確信していた。


(じゃっどん、証拠はなか)


それが、問題だった。


証拠がなければ、誰も信じない。


特に、アシェルは――


希望に満ちている。


今、それを壊すことはできない。


しかし――


警告だけは、しておかなければならない。


## 蛇の警告――消えない疑念の種


会議が終わった後。


サイラスは、仲間たちと談笑していた。


まるで、本当に仲間になったかのように。


しかし、ケンシンだけは――


その輪に、加わらなかった。


彼は、アシェルの元へ向かった。


アシェルは、一人で地図を見ていた。


サイラスの情報を基に、作戦を練り直していた。


「アシェル」


ケンシンの声が、静かに響いた。


「……何、ケンシンさん?」


アシェルは、振り返った。


そして、ケンシンを見た。


ケンシンの表情は、真剣だった。


「……あの男ば、完全に信用するな」


ケンシンの声は、低かった。


「蛇は、最も美しい姿で、人を惑わすもんじゃ」


その言葉に、アシェルは困惑した。


「サイラスのこと?」


「でも、彼は、あんなに重要な情報を……」


アシェルは、サイラスを信じたかった。


彼が、本当に仲間になってくれたと。


しかし――


「情報が真実かどうかは、問題じゃなか」


ケンシンは、静かに言った。


「問題は、そん情報を、なぜ、今、わいらに渡したか、じゃ」


その言葉に、アシェルは黙り込んだ。


確かに――


なぜ、今なのか。


サイラスが本当に学園長に反発しているなら――


もっと早く、来ることもできたはずだった。


「……くれぐれも、油断するなよ」


ケンシンは、アシェルの肩に手を置いた。


「おはんは、優しすぎる」


「だから、騙されやすい」


「わいが、見張っちょく」


その言葉に、アシェルは小さく頷いた。


「……ありがとう、ケンシンさん」


ケンシンの警告は、アシェルの心に、小さな、しかし消えない疑念の種を蒔いた。


だが、目の前にある希望の光が眩しすぎて、彼女はまだ、その背後に潜む、巨大な影の存在を、明確に認識するには至っていなかった。


アシェルは、サイラスを完全には信じていなかった。


しかし――


完全には疑ってもいなかった。


それが、危険だった。


サイラスは、その夜――


学園長に報告書を提出した。


---


**潜入報告書 第十号**


エーテル解放戦線への潜入、成功。


彼らは、私を完全に信頼している。


提供した情報も、疑われることはなかった。


彼らは、近日中に中央マナ炉への襲撃を実行する予定。


その時、罠を発動させれば――


全員を、捕らえることができる。


**以上**


---


その報告書を読んだ学園長は、満足そうに微笑んだ。


「素晴らしい……」


「サイラス君は、期待以上だ……」


物語は、敵が味方となり、味方が敵となる、より複雑なサスペンスへと突入していく。


解放戦線の中に潜り込んだ「毒」。


その毒が、いつ、どのようにして彼らの絆を蝕んでいくのか。


運命の歯車は、また一つ、破滅へと向かって、静かに回転を始めていた。


罠は、張られた。


そして、獲物は――


まだ、それに気づいていない。

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