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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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エーテルの時代の幕開け30:持ち帰った絶望と希望

決死の脱出――追跡者たちの影


地下迷宮からの帰還は、行きとは比較にならないほど緊迫していた。


ケンシンの一撃によって破壊された制御盤は、即座に学園全域に最高レベルの警報を発令したのだ。


ウゥゥゥゥ――


警報音が、地下全体に響き渡った。


その音は、けたたましかった。


まるで、世界の終わりを告げるかのように。


遠くから、無数のゴーレムの駆動音が聞こえてきた。


ザッ、ザッ、ザッ。


金属の足音。


それが、何十、何百と重なり合っていた。


そして、警備兵たちの怒号も聞こえてきた。


「侵入者だ!」


「捕らえろ!」


「逃がすな!」


その声が、津波のように迫ってきた。


「急げ!こっちじゃ!」


ケンシンが、先頭を走りながら叫んだ。


一行は、崩れかけた地下水路を、決死の覚悟で疾走していた。


足元の水が、激しく跳ね上がった。


冷たい水が、顔にかかった。


しかし、そんなことは気にしていられなかった。


ただ、走るしかなかった。


背後から、赤い光が迫ってきていた。


それは、ゴーレムの眼光だった。


その光が、彼らの影を長く、そして不気味に揺らしていた。


「くそっ!追いついてきやがる!」


タケルが、殿を務めていた。


彼は、振り返りながら走っていた。


そして、追ってくるゴーレムを迎え撃った。


「チェスト!」


タケルの気合が響いた。


木刀が、ゴーレムの頭部を捉えた。


ゴウッ!


ゴーレムが、倒れた。


そして、通路を塞いだ。


しかし――


すぐに、次のゴーレムが現れた。


そして、さらに次。


キリがなかった。


「タケル、あまり無理するな!」


ケンシンが、叫んだ。


「わいが後ろを見る!おはんは前を走れ!」


ケンシンとタケルが、交代で殿を務めながら走った。


カインは、地図を片手に、最短の脱出経路を叫び続けた。


「次の角を右だ!」


「その先の分かれ道は、左!」


カインの声だけが、頼りだった。


地図がなければ、迷宮から出ることはできなかった。


そして、アシェルは――


彼女は、その胸の中に、一つの小さな記録クリスタルを、まるで自らの心臓であるかのように、固く、固く抱きしめていた。


それは、ただのデータ記憶媒体ではなかった。


それは――


数百の魂の叫びが、怨嗟が、そして絶望が刻み込まれた、あまりにも重い、歴史の証拠あかしであった。


このクリスタルを、守らなければならない。


これが、すべてだった。


これがなければ、ここに来た意味がない。


アシェルは、クリスタルを胸に抱きながら、必死に走った。


息が、切れていた。


足が、重かった。


しかし――


止まるわけには、いかなかった。


「もうすぐだ!」


カインが、叫んだ。


「あと少しで、地上への出口だ!」


その言葉に、一行は最後の力を振り絞った。


## 夜明け前の脱出――地獄からの生還


夜が、白み始めていた。


東の空が、わずかに明るくなっていた。


夜明けが、近づいていた。


一行は、ついに――


古い植物園の、あの朽ちた井戸にたどり着いた。


「ここだ!」


カインが、叫んだ。


井戸の底から、梯子が伸びていた。


「早く登れ!」


ケンシンが、皆を促した。


アシェルが、最初に登り始めた。


その手は、震えていた。


疲労で、力が入らなかった。


しかし――


それでも、登り続けた。


次に、リアンが登った。


そして、カイン。


タケル。


最後に、ケンシンが登った。


背後からは、まだゴーレムの足音が聞こえていた。


しかし、もうすぐ――


地上だった。


アシェルが、地上に這い出た。


その瞬間――


湿った土の匂いが、鼻をついた。


冷たい朝の空気が、頬を撫でた。


そして、遥か東の空に見える、微かな夜明けの光。


その光は、美しかった。


温かかった。


生きている、という実感があった。


一行は、全員、地上に這い出た。


そして――


その場に、倒れ込んだ。


疲労で、もう動けなかった。


彼らは、文字通り、地獄から生還したのだ。


しばらく、誰も言葉を発する者はいなかった。


ただ、荒い息を吐くだけだった。


そして――


互いの顔に刻まれた疲労と、瞳の奥に宿る暗い炎を見つめ合い、言葉にならない想いを共有するだけだった。


「……行こう」


ケンシンが、ゆっくりと立ち上がった。


「アジトに、戻るぞ」


その言葉に、皆が頷いた。


そして、力を振り絞って立ち上がった。


アジトへと、向かった。


## 待ちわびた再会――安堵と不安


アジトである古い管理棟に戻ると、そこではリアンを始めとする解放戦線のメンバーたちが、徹夜で彼らの帰還を待ち続けていた。


部屋の中には、十数人のメンバーがいた。


誰も、眠っていなかった。


皆、不安そうな顔をしていた。


アシェルたちが、無事に帰ってくるか。


それだけを、心配していた。


扉が、開いた。


ギィィ……


軋む音が響いた。


そして――


アシェルたちが、入ってきた。


「アシェル!」


リアンが、涙を浮かべて駆け寄ってきた。


「みんな!」


「よかった……無事だったのね……!」


リアンの声は、震えていた。


安堵と、喜びで。


しかし――


だが、帰還したメンバーたちの、まるで魂が抜け落ちたかのような表情を見て、彼女は言葉を失った。


アシェルのマントは、泥に汚れていた。


ケンシンの道着は、裂けていた。


タケルの顔には、新しい傷ができていた。


カインは、完全に疲労困憊していた。


しかし――


彼らが負った傷は、そんな表面的なものではなかった。


彼らの目を見れば、分かった。


その目には――


何か、恐ろしいものを見てきた者の、目があった。


深い悲しみ。


そして、激しい怒り。


それらが、混ざり合っていた。


「……どうしたの?」


リアンが、心配そうに尋ねた。


「何があったの……?」


しかし――


誰も、すぐには答えなかった。


答えられなかった。


どう説明すればいいのか、分からなかった。


## 絶望の共有――映し出される真実


アシェルは、ゆっくりと、震える手で、胸に抱いていた記録クリスタルを取り出した。


そのクリスタルは、小さかった。


しかし、その重さは――


計り知れなかった。


アシェルは、テーブルの上に置かれていた、旧式の魔導映写機に、それをセットした。


その映写機は、古かった。


しかし、まだ動いた。


「……見て」


アシェルの声は、か細く、ひび割れていた。


「……これが、この学園の、本当の姿だ」


アシェルが、映写機のスイッチを入れた。


カチッ。


機械が、動き始めた。


ウィーンという音が響いた。


蝋燭の光だけが灯る薄暗い部屋の壁に、制御室で記録したデータが、静かに映し出されていった。


最初に映ったのは――


カプセルの広間だった。


無数のカプセルが、壁一面に埋め込まれている光景。


その中に、人間が閉じ込められている光景。


メンバーたちは、息を呑んだ。


「これは……何……?」


誰かが、震える声で尋ねた。


しかし、誰も答えなかった。


映像は、続いた。


カプセルに近づいた映像。


ガラスの向こうに、人間の顔が見える。


その顔は――


生気がなかった。


まるで、死んでいるかのように。


しかし、生きていた。


生きたまま、閉じ込められていた。


そして――


データが、映し出された。


【生体ユニット No. 734:エミリナ・ライトウィング】


学籍番号: R-089-C


配属ティア: レメディアル


施設収容日: グランベルク暦 千二百三十五年 四月十日


公的記録: 「王立研究所へ特別就職」


処理ステータス: 「消耗品」として継続利用中


一人一人の名と、「公的記録」として偽装された嘘の経歴。


そして、「消耗品」という、あまりにも非情なステータス表示。


最初は、囁き声だった。


「……嘘……でしょ……?」


誰かが、小さく呟いた。


「エミリナ先輩……?」


別の誰かが、信じられないという声で言った。


「彼女は、王立研究所に就職したはずじゃ……」


映像は、さらに続いた。


次々と、カプセルが映し出された。


次々と、名前が表示された。


【生体ユニット No. 652:マルコス・グリーンフィールド】


【生体ユニット No. 581:アンナ・ベルモント】


【生体ユニット No. 479:ディラン・ストーンウェル】


知っている名前が、次々と現れた。


やがて、その囁きは、嗚咽へと変わった。


「トーマス……!」


一人の男子生徒が、叫んだ。


「あいつ、俺の親友だったんだ!」


「卒業式の日に、『故郷に帰って親孝行する』って、あんなに嬉しそうな顔で……!」


その生徒は、泣き崩れた。


「マリア……!」


女子生徒が、叫んだ。


「いつも、私の下手な魔法の練習に、付き合ってくれた……!」


彼女も、泣き始めた。


壁に映し出された犠牲者たちのリストは、彼らにとって、見ず知らずの人々の名前ではなかった。


それは――


共にレメディアルの教室で学び、共に涙し、共に笑い合った、かつての仲間たち、先輩たちの名前だったのだ。


部屋は、絶望と、深い悲しみに包まれた。


泣き声が、部屋中に響いた。


誰もが、泣いていた。


信じられなかった。


信じたくなかった。


しかし――


それは、真実だった。


## 燃え上がる怒りと大義の覚醒――魂の咆哮


どれほどの時間が経っただろうか。


部屋は、嗚咽で満たされていた。


皆、泣いていた。


絶望していた。


しかし――


静寂を破ったのは、SATUMAのタケルだった。


「……ふざけんじゃねえ……」


タケルの声が、低く響いた。


その声は、怒りに満ちていた。


彼は、立ち上がった。


そして、壁に向かった。


「ふざけんじゃねえ……」


タケルは、壁を、拳で殴りつけた。


ドンッ!


激しい音が響いた。


壁が、揺れた。


「ふざけんじゃねえぞ、あのクソッタレどもがァァァ!!」


タケルの叫びが、部屋中に響き渡った。


それは、悲しみを超えた、純粋な、そして燃え上がるような怒りの咆哮だった。


「仲間を……!」


タケルは、もう一度壁を殴った。


ドンッ!


「俺たちの仲間を、ただの電池にしやがって……!」


ドンッ!


「絶対に、許さねえ……!」


タケルの拳から、血が流れていた。


しかし、彼は気にしていなかった。


ただ、怒りを――


ぶつけていた。


その怒りは、伝染した。


嗚咽していた生徒たちが、次々と顔を上げた。


その瞳には、もはや涙はなかった。


代わりに、タケルと同じ、激しい怒りの炎が燃え盛っていた。


「そうだ……!」


カインが、立ち上がった。


そして、フードを脱ぎ捨てた。


その顔には、火傷の痕があった。


それが、怒りによって赤く染まっていた。


「これは、もはや看過できない!」


カインの声は、力強かった。


「これは、人間の尊厳に対する、許されざる冒涜だ!」


カインの声に、皆が頷いた。


そうだ。


これは、許されない。


絶対に、許してはいけない。


そして、アシェルが、静かに立ち上がった。


彼女の瞳は、まるで嵐の前の海のように、静かだった。


しかし、その奥には――


底知れないほどの力が、渦巻いていた。


「……これは、エミリナ先輩だけの話じゃない」


アシェルの声が、部屋の隅々にまで、染み渡るように響いた。


「トーマス先輩だけの話でもない」


アシェルは、皆を見回した。


「これは、私たちの未来の姿だ」


その一言に、全員が息を呑んだ。


私たちの、未来。


その意味を、皆が理解した。


「このまま、このシステムを放置すれば、いずれ、私たちも、ここにいる誰もが、あのカプセルの中で、静かに生命を搾り取られていくだけの運命が待っている」


アシェルの声は、真剣だった。


「私たちは、家畜じゃない!」


「消耗品じゃない!」


「私たちは、心を持った、人間だ!」


アシェルの声が、力強く響いた。


彼女は、持ち帰ったもう一つの「証拠」を取り出した。


それは――


カプセルの中で眠るエミリナ先輩の、虚ろな顔を魔法写真で写した一枚だった。


その写真は、痛々しかった。


エミリナ先輩の顔が、そこにあった。


かつて、あんなに美しかった顔が――


今は、痩せこけて、生気がなかった。


「この戦いは、もはや、ティア制度への不満や、個人的な恨みのための戦いではない!」


アシェルは、その写真を、高く掲げた。


「これは、私たち自身の尊厳を賭けて、この非道なシステムを、必ず破壊するための戦いだ!」


「全てのレメディアルの生徒のために!」


「いや、この学園で虐げられている、全ての弱者のために!」


アシェルの声が、部屋中に響き渡った。


その声は――


皆の心を、揺さぶった。


アシェルが掲げた、その一枚の写真。


それは、今後の戦いの、何よりも強力な武器となった。


それは、単なる証拠ではなかった。


それは――


解放戦線のメンバーが、個人的な理由からではなく、全レメディアル生徒、ひいては全弱者のための、絶対的な大義のために戦うのだという、揺るぎない覚悟を固めさせる、魂の旗印となったのだ。


「戦おう!」


誰かが、叫んだ。


「俺たちで、この世界を変えよう!」


別の誰かが、叫んだ。


「もう、誰も犠牲にさせない!」


また別の誰かが、叫んだ。


部屋中が、熱気に包まれた。


もう、誰も泣いていなかった。


皆、怒っていた。


そして――


戦う決意を、固めていた。


## 新たな誓い――魂の盃


その夜。


解放戦線のメンバーは、管理棟の屋上に集まった。


屋上は、広かった。


そこから、学園都市の夜景が見えた。


眼下には、何事もなかったかのように、美しく輝く学園都市の夜景が広がっていた。


街灯の光。


建物の窓から漏れる光。


すべてが、美しく輝いていた。


だが、彼らはもう知っていた。


あの光の一つ一つが、仲間たちの犠牲の上で灯っているという、恐ろしい真実を。


その美しい光が――


今は、おぞましく見えた。


ケンシンが、故郷の芋焼酎が入った大きな盃を、中央に置いた。


その盃は、古かった。


SATUMAから、持ってきたものだった。


「……盃を交わそう」


ケンシンの声は、厳粛だった。


「こいから始まる戦は、生半可な覚悟では生き残れん」


「死ぬかもしれん」


ケンシンは、皆を見回した。


「じゃっどん、同じ大義ば胸に抱く仲間として、この盃で、魂の誓いを立てようじゃなかか」


その言葉に、皆が頷いた。


ケンシンが、盃に芋焼酎を注いだ。


その匂いが、広がった。


強い酒の匂い。


アシェルを始め、メンバー一人一人が、その盃を順に回し飲みしていった。


最初は、ケンシンが飲んだ。


一気に、飲み干した。


次に、タケル。


そして、カイン。


リアンも、震える手で盃を受け取った。


彼女は、酒を飲んだことがなかった。


しかし――


今日は、飲まなければならなかった。


リアンは、盃を口につけた。


そして、飲んだ。


苦かった。


喉が、焼けるようだった。


しかし――


それでも、飲み干した。


次々と、盃が回されていった。


皆が、飲み干していった。


それは、もはや子供ではない、自らの意志で、歴史の奔流に身を投じることを決意した、戦士たちの儀式だった。


最後に、盃を飲み干したアシェルが、夜空に向かって、静かに、しかし力強く、宣言した。


「私たちは、必ず勝つ」


アシェルの声が、夜空に響いた。


「そして、夜明けを取り戻す」


「全ての、忘れられた者たちの声のために」


その言葉に、皆が拳を突き上げた。


「おおおお!」


声が、夜空に響き渡った。


彼らの背後で、学園の巨大な時計塔が、午前零時を告げる鐘を鳴らしていた。


ゴーン、ゴーン、ゴーン。


重い、鐘の音。


それは――


新しい一日、そして、新しい戦いの始まりを告げる、重い、重い鐘の音だった。


物語は、小さな希望の灯火が、巨大な闇を焼き尽くすための、業火となる、新たなステージへと進んでいく。


革命は、始まった。


そして、その革命は――


もう、誰にも止められない。


月が、静かに夜空を照らしていた。


その光は、冷たく、しかし――美しかった。


まるで、彼らの戦いを見守っているかのように。


運命の歯車は、最後の回転を続けていた。


そして、やがて――


すべてが、決まる。

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