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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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エーテルの時代の幕開け26:最初の作戦――闇への潜入準備

秘密のアジト――植物園の管理棟


秋季カップ決勝での告発劇から三日。


学園の表舞台では、バルトール侵爵の「断罪」という見せかけの正義に、多くの生徒たちが沸き立っていた。


「バルトールは、悪だった」


「学園長が、正義を示してくれた」


生徒たちは、そう信じていた。


しかし――


その裏側で、本当の戦いを始めようとする者たちがいた。


彼らのアジトは、学園の南西、今は使われなくなった古い植物園の管理棟だった。


その場所は、学園の端にあった。


普段、誰も近づかない場所。


忘れ去られた場所。


ガラスの割れた温室が、そこにあった。


かつては、様々な植物が育てられていた。


しかし、今は――


蔓が、建物全体を覆っていた。


窓ガラスは、ほとんど割れていた。


扉は、錆びついていた。


その温室の奥に、管理棟があった。


古い石造りの建物。


二階建てで、小さな建物。


壁には、ひびが入っていた。


屋根の一部は、崩れかけていた。


蔓に覆われたその建物は、学園の監視の目から逃れるには格好の隠れ家だった。


夜。


月が、雲に隠れていた。


暗闇が、植物園を包んでいた。


その暗闇の中を、数人の人影が移動していた。


彼らは、慎重に、音を立てないように歩いていた。


やがて、管理棟に到着した。


扉を、静かに開けた。


中は、暗かった。


しかし、奥の部屋から――


わずかな光が漏れていた。


彼らは、その部屋へと向かった。


部屋の中央では、古い木製のテーブルを囲み、数名の男女が顔を突き合わせていた。


部屋を照らすのは、一本の頼りない蝋燭の炎だけ。


その揺らめく光が、集まった者たちの真剣な表情を、影と光で浮かび上がらせていた。


集まっていたのは――


アシェル、リアン、カイン、ケンシン、タケル、エリアーデ。


そして、他のエーテル解放戦線のメンバーたち。


合計で、十数名だった。


彼らは、皆、緊張していた。


今夜は、重要な会議が行われる。


最初の本格的な、作戦会議。


## 知恵の結集――設計図と分析


「……これが、私が禁書庫から持ち出した、学園創設期の動力施設の設計図だ」


声の主は、カインだった。


彼は、フードを目深に被っていた。


その顔は、ほとんど見えなかった。


しかし、その瞳には、かつての虚無感はなく、参謀としての鋭い知性が宿っていた。


カインは、テーブルの上に数枚の、黄ばんで脆くなった羊皮紙を広げた。


その羊皮紙は、非常に古かった。


何百年も前のものだった。


端が破れており、慎重に扱わなければならなかった。


そこには、複雑な図面が描かれていた。


建物の配置図。


地下施設の設計図。


配管の図面。


すべてが、詳細に記されていた。


「これは……学園の創設期のもの?」


アシェルが、驚いた様子で尋ねた。


「ああ」


カインは、頷いた。


「禁書庫の、最も奥深くに保管されていた」


「誰も見ないような場所に」


カインは、この数日間、禁書庫に籠もっていた。


夜中に忍び込み、様々な資料を調べていた。


そして、ついに――


この設計図を見つけた。


「そして、こちらがバルトール侵爵の書斎から『拝借』してきた、現在の警備システムの配置図よ」


そう言って、別の書類を重ねたのは、薬学者のドクター・エリアーデだった。


罪悪感と贖罪の念に駆られる彼女は、解放戦線の最も有能な情報源となっていた。


エリアーデが広げた書類は、比較的新しかった。


そこには、学園の警備システムが詳細に記されていた。


警備員の配置。


監視カメラの位置。


魔法センサーの配置。


すべてが、記録されていた。


「これは……どうやって?」


リアンが、驚いて尋ねた。


「バルトールの書斎に、忍び込んだの」


エリアーデの声は、静かだった。


「彼が死んだ後、彼の屋敷は無人になった」


「だから、忍び込んで、これを盗んできた」


エリアーデは、罪を償うために、危険を冒していた。


バルトールの屋敷に忍び込むのは、非常に危険だった。


もし見つかれば、捕まっていた。


しかし、彼女は――


それでも、行動した。


ここは、秘密結社「エーテル解放戦線」の、最初の本格的な作戦会議の場であった。


## 集いし者たちの誓い――覚悟の確認


「改めて、皆に問う」


会議の口火を切ったのは、アシェルだった。


彼女の声は、静かだった。


しかし、その一言一句に、リーダーとしての覚悟が滲んでいた。


アシェルは、立ち上がった。


そして、仲間たち一人一人の顔を見つめた。


蝋燭の光が、彼女の顔を照らしていた。


その顔には――


強い決意が浮かんでいた。


「私たちがこれからやろうとしていることは、学園への、そしてこの国の秩序への、明確な反逆行為だ」


アシェルの声は、真剣だった。


「見つかれば、ただでは済まない」


「投獄されるか、処刑されるか」


「それでも、共に来てくれるか?」


その問いは、重かった。


誰もが、その意味を理解していた。


これは、命を賭けた戦いだった。


失敗すれば、死ぬ。


沈黙が、しばらく続いた。


誰もが、自分の心に問いかけていた。


本当に、これでいいのか。


命を賭ける価値があるのか。


そして――


その問いに、最初に答えたのはリアンだった。


リアンは、立ち上がった。


病み上がりとは思えぬ力強い視線で、アシェルを見つめ返した。


「当たり前じゃない」


リアンの声は、力強かった。


「あなたが、私の命を救ってくれた」


「今度は、私があなたを、そしてみんなを支える番よ」


その言葉に、アシェルは深く感動した。


リアンが、こんなに強くなっていた。


次に、カインが口を開いた。


「……俺は、逃げ続けた過去を清算したい」


カインは、フードの下で呟いた。


「俺の知識が、誰かを救うために使えるのなら、どんな危険も厭わない」


カインもまた、変わっていた。


過去に囚われていた彼が――


ついに、前を向き始めていた。


そして、部屋の隅で腕を組み、壁に寄りかかっていたケンシンが、静かに口を開いた。


「義の戦に、理由はいらん」


ケンシンの言葉は、短かった。


しかし、その場にいる誰よりも重かった。


彼の声には――


武人としての、揺るぎない信念が込められていた。


隣では、タケルが「チェストォ!」と小さく、しかし力強く拳を握りしめていた。


SATUMAは、理屈ではなく魂で、この戦いの正当性を理解していた。


彼らは、ティアも、生まれも、過去も違う、ただの寄せ集めだった。


しかし、その心は、一つの目標に向かって――


確かな熱を帯びていた。


計画を練り上げる、組織的な活動の始まりを告げる、熱。


それが、この部屋を満たしていた。


## 作戦の詳細――中央マナ炉への道


「よし。では、作戦を詰める」


アシェルは、参謀であるカインに視線を送った。


カインは、頷いた。


そして、テーブルに広げられた二つの設計図を指し示しながら、分析結果を語り始めた。


「問題は、動力施設『中央マナ炉』の、正確な位置だ」


カインの声は、低く、そして真剣だった。


「創設期の設計図によれば、それは学園の本校舎の直下に存在するはず」


カインは、古い設計図の一部を指差した。


そこには、「中央マナ炉」と記された場所があった。


本校舎の地下、深くに。


「しかし……」


カインは、今度は新しい警備配置図を指した。


「……現在の警備網は、明らかに、本校舎とは別の場所……この、南西の旧工房地区の地下を、異常なほど厳重に固めている」


旧工房地区――


それは、学園の南西にある、今は使われていない古い工房の跡地だった。


かつては、様々な魔法道具が作られていた。


しかし、今は――


廃墟となっていた。


そして、その地下が――


異常なほど、厳重に警備されていた。


「つまり?」


ケンシンが、尋ねた。


カインは、深く息を吸った。


そして、静かに言った。


「おそらく、学園は公式の動力施設をダミーとし、本当の『心臓部』を、別の場所に隠している」


「そして、その場所こそが、『生体電池』の……」


カインの言葉が、途切れた。


しかし、その意味は――


誰もが理解した。


生体電池――


それは、人間を電池として使うシステムだった。


人間の命を、エネルギーに変換する。


非人道的な、恐ろしいシステム。


部屋の空気が、凍りついた。


誰もが、その恐ろしさに、言葉を失った。


「潜入経路はどうする?」


アシェルが、沈黙を破って本題を切り出した。


エリアーデが、別の地図を広げた。


それは、古い地下水路の地図だった。


学園の地下には、複雑な水路が張り巡らされていた。


それは、学園創設時に作られたものだった。


雨水を排水するための、水路。


しかし、今は――


ほとんど使われていなかった。


「警備システムの脆弱性から見て、ここが唯一の可能性よ」


エリアーデは、地図上のある場所を指差した。


「学園創設時に作られ、今はほとんど使われていない、旧工房地区へと続く古い水路」


「警備用の魔力センサーの配置が、ここだけ手薄になっているわ」


その場所は、学園の東側にあった。


古い井戸の下。


そこから、地下水路に入ることができる。


そして、その水路は――


旧工房地区の地下へと続いている。


「物理的な障害は?」


ケンシンが、実践的な質問をした。


「いくつかあるはずだ」


カインが、答えた。


「古い鉄格子、崩れかけた通路、そして……おそらくは、自動防衛ゴーレムも配置されているだろう」


ゴーレム――


それは、魔法で動く人形だった。


人間の命令に従い、侵入者を攻撃する。


非常に強力で、危険だった。


「その役目は、わいらが引き受ける」


タケルが、腰の木刀の柄を叩いた。


「鉄格子だろうがゴーレムだろうが、チェストの一声で粉砕してくれるわ」


タケルの声は、自信に満ちていた。


SATUMAの戦闘能力は、群を抜いていた。


彼らなら、どんな障害も突破できる。


SATUMAが物理的な障害の突破役となることが、自然と決まった。


## 心臓としての役割――アシェルの導き


「だが、最大の問題は、地下に入ってからだ」


エリアーデが、懸念を口にした。


「地下は広大で、複雑な迷路になっている」


「一度迷えば、二度と出られない可能性もある」


「地図もない暗闇の中を、どうやって進む?」


その質問は、重要だった。


地下は、誰も知らない場所だった。


地図もない。


明かりもない。


完全な暗闇の中を、どうやって進むのか。


その時、アシェルが一歩前に出た。


「……私が行う」


アシェルの声は、静かだった。


しかし、その声には――


確信が込められていた。


彼女は、自らの胸に手を当てた。


「私には、分かる」


「生命の、エーテルの気配が」


アシェルの能力――


それは、エーテルを感じ取ることだった。


生命のエーテル。


魔法のエーテル。


すべてのエーテルを、感じ取ることができた。


「もし、カインの言う通り、そこに囚われている人々がいるのなら……」


アシェルは、目を閉じた。


「その人たちの、苦しみの声が、私を導いてくれるはずだ」


その言葉に、仲間たちは頷いた。


アシェルが施設内部のエーテルを探知し、一行を誘導する。


それは、彼女にしかできない、極めて重要な役割だった。


こうして、解放戦線の最初のチームミッションにおける、それぞれの役割が定まった。


カインが頭脳として、道を予測する。


エリアーデが知識で、罠を見抜く。


ケンシンとタケルが剣として、障害を破壊する。


そして、アシェルが心臓として、一行の進むべき方角を指し示す。


彼らは、一人一人が不完全な「落ちこぼれ」だったかもしれない。


だが、それぞれの専門知識と能力を持ち寄った時、彼らはどんなエリートチームにも劣らない、一つの完璧な組織として機能し始めていた。


## 決行前夜の誓い――明日への覚悟


作戦決行の前夜。


アジトには、言いようのない緊張感が漂っていた。


明日、自分たちの運命が、そして学園の未来が、決まる。


会議は、終わった。


しかし、誰も帰ろうとしなかった。


皆、その場に留まっていた。


それぞれの思いを抱きながら。


リアンは、部屋の隅で、膝をついて祈りを捧げていた。


彼女は、信仰深かった。


神に、祈っていた。


皆が無事に帰ってくるように、と。


「……怖いか、リアン?」


アシェルが、隣に座り、そっと声をかけた。


リアンは、後方での待機と、万が一の際の外部との連絡役を担うことになっていた。


彼女は、戦闘には参加しない。


しかし、それでも――


重要な役割だった。


「……怖いわ」


リアンは、正直に答えた。


彼女の声は、震えていた。


「でも、それ以上に、みんなを信じてる」


リアンは、アシェルを見つめた。


その目には、涙が浮かんでいた。


「アシェルが、みんなが無事に帰ってくるって、信じてる」


その言葉に、アシェルは優しく微笑んだ。


「ありがとう、リアン」


「必ず、帰ってくるから」


カインは、別の場所で、震える手で魔導書をめくっていた。


彼は、何度も何度も、計算を確認していた。


作戦の成功率。


危険性。


すべてを、計算していた。


しかし――


それでも、不安だった。


「……全てのパターンを予測した」


カインは、小さく呟いた。


「考えうる限りの、全ての危険性を」


「それでも……不安だ」


「俺の計算が、みんなを死なせてしまうかもしれない」


その声は、震えていた。


カインは、責任の重さに押しつぶされそうだった。


「あんたの頭脳は、学園一じゃ」


静かに、しかし力強く、ケンシンが言った。


彼は、カインの隣に座った。


そして、カインの肩に手を置いた。


「自分ば信じろ」


「そんで、わいらを信じろ」


その言葉に、カインは顔を上げた。


ケンシンの目を見た。


その目には――


絶対的な信頼があった。


カインは、わずかに頷いた。


アシェルは、窓の外の闇を見つめていた。


月が、雲の間から顔を出していた。


その光は、優しかった。


しかし、その影は――


深く、暗かった。


明日、自分たちは、この学園の最も深い闇へと、足を踏み入れる。


生きて帰れる保証など、どこにもない。


だが――


もう迷いはなかった。


「行こう」


アシェルは、仲間たちを見回した。


その目は、力強かった。


「真実を、私たちの手で、暴きに行こう」


その瞳には、恐怖も不安もなかった。


ただ、仲間との、そして自らの大義への、絶対的な信頼だけが、静かな炎のように燃えていた。


仲間たちは、皆、頷いた。


そして――


誓った。


必ず、成功させる。


必ず、真実を暴く。


必ず、この世界を変える。


その誓いは、揺るぎなかった。


物語は、小さな希望の灯火が、巨大な闇へと挑む、新たなステージへと進んでいく。


明日、運命の日が来る。


エーテル解放戦線の、最初の作戦が始まる。


そして、その作戦が――


学園全体を、そして王国全体を揺るがす、巨大な動乱の始まりとなる。


月が、静かに空を照らしていた。


その光は、冷たく、そして――美しかった。


まるで、彼らの決意を祝福するかのように。


運命の歯車は、最後の回転を始めていた。


そして、その歯車が止まる時――


世界は、変わる。


それは、確実だった。

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