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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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エーテルの時代の幕開け12:快進撃の光と影――器の限界

疑念の声――傲慢な否定


レメディアルチーム「リヴォルト」の初戦勝利は、学園内に大きな衝撃を与えた。


しかし――


大方の見方は、変わらなかった。


「まぐれだ」


エリート・ティアの生徒たちが、食堂で話し合っていた。


「相手が悪かっただけだ」


「アイアンゴーレムは、所詮エリート第三席だからな」


「本当の強者に当たれば、簡単に負けるさ」


別の生徒が、冷笑しながら言った。


「次の試合では、化けの皮が剥がれるだろう」


上位ティアの生徒たちは、傲慢な自信を崩さず、レメディアルの勝利を一笑に付した。


彼らにとって、ティアは絶対だった。


レメディアルが、エリートに勝つなど、あってはならないことだった。


だから、それは偶然に違いない。


まぐれに違いない。


そう信じることで、彼らは自分たちの優越感を守ろうとしていた。


しかし――


一部の観察眼の鋭い生徒たちは、違った見方をしていた。


「いや、あれは偶然じゃない」


アデプト・ティアの一人の生徒が、真剣な表情で言った。


「あの支援魔法の精度を見たか?」


「あれは、計算され尽くした連携だ」


「ただのまぐれで、あんなことができるはずがない」


別の生徒も頷いた。


「それに、あのアシェルという少女……」


「彼女は、何か特別な力を持っているんじゃないか?」


しかし、そんな声は少数派だった。


大多数の生徒たちは、依然として、レメディアルを見下していた。


## 次なる試練――シルフィードの壁


秋季カップ二回戦。


大会二日目の午後。


リヴォルトの次なる対戦相手が、発表された。


ファウンデーション・ティアの中でも特に連携力に定評のあるチーム「シルフィード」。


その名前を聞いた瞬間、観客席がざわめいた。


「シルフィード……!」


「あの三姉妹のチームか……」


「これは、厳しいぞ……」


シルフィード――それは、風魔法を得意とする三姉妹で構成されたチームだった。


長女、セリーナ・ウィンドブレイド。二十歳。


次女、ミランダ・ウィンドブレイド。十八歳。


三女、フィオナ・ウィンドブレイド。十六歳。


彼女たちは、生まれた時から一緒に訓練を積んできた。


その連携は、まさに完璧だった。


メンバーは、俊敏な動きを得意とする風魔法使いの三姉妹。


個々のマナ量は、決して高くなかった。


三人とも、ファウンデーション・ティアの中位程度の魔力しか持っていない。


しかし――


血の繋がりによる完璧な連携と、三位一体の攻撃魔法は、並のエリート・ティアチームをも凌駕すると噂されていた。


彼女たちの戦術は、シンプルだが極めて効果的だった。


長女セリーナが、防御と結界を担当する。


次女ミランダが、広範囲への牽制魔法で相手の動きを封じる。


そして三女フィオナが、一点集中の強力な攻撃魔法で、相手を仕留める。


この三段構えの戦術は、これまで数多くの強豪チームを打ち破ってきた。


「今度こそ終わりだな」


観客席で、一人の生徒が言った。


「三対一の連携魔法に、あのバラバラの落ちこぼれチームが勝てるわけない」


試合前の観客席は、リヴォルトの惨敗を予測する声で満ちていた。


「レメディアルの連勝も、ここまでか」


「まあ、よく頑張った方だろう」


「二回戦まで来ただけでも、奇跡だ」


観客たちは、既にリヴォルトの敗北を確信していた。


## 試合前夜――静かな決意


試合前夜。


レメディアル寮の談話室は、静かだが濃密な緊張感に包まれていた。


談話室の古びたテーブルの中央には、明日の対戦相手「シルフィード」の分析資料が広げられていた。


それは、カインが一晩かけて作成した、詳細な資料だった。


羊皮紙に、びっしりと文字と図が書き込まれている。


シルフィードの過去の試合記録。


使用した魔法のリスト。


連携のパターン。


弱点の分析。


すべてが、そこに記されていた。


「……彼女たちの連携は完璧だ」


カインが、フードの奥から苦々しい声で呟いた。


彼は、対戦相手の過去の試合記録を、夜を徹して分析していたのだ。


その目には、深いクマができていた。


しかし、その瞳は、鋭く輝いていた。


「長女セリーナは、防御と結界魔法を担当する」


カインは、資料を指差しながら説明した。


「彼女が展開する風の障壁『エアロ・ウォール』は、通常の物理攻撃を完全に無効化する」


「さらに、魔法攻撃に対しても、高い防御力を持つ」


「次女ミランダは、広範囲への牽制魔法を担当する」


「彼女の『ウィンド・ブレード』は、無数の風の刃を生成し、広範囲を攻撃する」


「これによって、敵は自由に動くことができなくなる」


「そして三女のフィオナが、一点集中の強力な攻撃魔法を担当する」


「彼女の『ゲイル・ランス』は、風を圧縮して作った槍で、貫通力が極めて高い」


「エリート・ティアの重装鎧さえも、一撃で貫く」


カインは、深くため息をついた。


「この三人の役割分担は、鉄壁だ」


「我々が個々で挑んでも、まず勝機はない」


カインの分析に、他のメンバーたちは顔を曇らせた。


リアンは、不安そうに自分の杖を握りしめていた。


他の生徒たちも、皆、緊張した表情をしていた。


個々の能力で劣る上に、相手は完璧な連携を誇る。


絶対的な戦力差。


それが、現実だった。


談話室に、重苦しい沈黙が流れた。


暖炉の火が、パチパチと音を立てている。


その音だけが、静寂を破っていた。


「……でも」


その沈黙を破ったのは、リアンだった。


彼女は、顔を上げ、仲間たちを見回した。


「私たちにだって、連携がある」


リアンの声は、震えていたが、確固たる決意が込められていた。


「アシェルが繋いでくれる、私たちの絆が」


リアンは、力強く拳を握りしめた。


その目には、希望の光が宿っていた。


その言葉に、アシェルは静かに頷いた。


彼女の灰色の瞳には、昨日の勝利で得た確かな自信が宿っていた。


「そうだね、リアン」


アシェルは、柔らかく微笑んだ。


「私たちの戦い方をしよう」


「相手が血の繋がりなら、私たちは、心の繋がりで戦う」


アシェルは、テーブルの上から、一枚の羊皮紙を取り出した。


それは、真っ白な羊皮紙だった。


そして、彼女は、その上にペンを走らせ始めた。


線を引く。


円を描く。


矢印を書く。


徐々に、その羊皮紙の上に、複雑な図が現れていった。


それは――作戦図だった。


シルフィード三姉妹の鉄壁の連携を打ち破るための、あまりにも独創的で、そして無謀とも思える作戦図。


メンバーたちは、その作戦図を見て、息を呑んだ。


「これは……」


カインが、驚きの声を上げた。


「一点突破……?」


「ええ」


アシェルは頷いた。


「彼女たちの連携は完璧。だから、正面から挑んでも勝てない」


「でも、完璧なものには、必ず綻びがある」


「その綻びを見つけて、そこを突く」


「それが、私たちの唯一の勝機」


アシェルの声は、静かだったが、確信に満ちていた。


メンバーたちは、その作戦図を見つめた。


そして――


徐々に、その顔に希望の色が戻っていった。


「……できる、かもしれない」


一人の生徒が、小さく呟いた。


「いや、できる」


別の生徒が、力強く言った。


「私たちなら、できる」


談話室の空気が、変わった。


重苦しい緊張から、静かな決意へ。


彼らは、もう諦めていなかった。


勝つために、戦う。


その覚悟を、固めていた。


## 開戦、そして見えざる指揮者――エーテルの共鳴


翌日。


大会二日目の午後。


第七訓練リングは、異様な熱気に包まれていた。


昨日よりも、遥かに多くの観客が詰めかけていた。


レメディアルの快進撃が本物か否かを見届けようと、多くの人々が集まっていたのだ。


観客席は、ほぼ満席だった。


通路にも、立ち見の観客が溢れている。


皆、期待と好奇心に満ちた目で、リングを見つめていた。


リングの中央には、既に両チームが入場していた。


シルフィードの三姉妹は、白と青を基調とした、風のような軽やかなユニフォームを着ていた。


長女セリーナは、長い金髪を後ろで一つに結び、凛とした表情をしていた。


次女ミランダは、セミロングの金髪を風になびかせ、自信に満ちた笑みを浮かべていた。


三女フィオナは、短い金髪をしており、まだ幼さの残る顔立ちをしていた。


三人とも、手に杖を持ち、戦闘態勢を整えていた。


一方、リヴォルトのメンバーたちは、昨日と同じ藍色のユニフォームを着ていた。


その胸には、双葉の紋章が輝いていた。


彼らの表情は、緊張していたが、同時に決意に満ちていた。


「さあ、始めなさい!」


審判の合図と共に、試合が始まった。


ピィィィッ!


「シルフィード」の三姉妹は、即座に、練習通りの完璧な陣形を展開した。


三人が、三角形の陣形を作る。


長女セリーナが、一歩前に出た。


そして、杖を掲げた。


「エアロ・ウォール!」


セリーナの杖の先端から、強烈な風が吹き出した。


その風は、瞬時に壁のような形を作り、セリーナの前方に展開された。


それは、透明な壁だったが、その存在は明確に感じられた。


空気が、圧縮されている。


その密度は、通常の空気の何十倍もある。


物理攻撃は、この壁を通過できない。


魔法攻撃も、大幅に威力を減衰させられる。


完璧な防御だった。


次女ミランダが、その両脇で動いた。


彼女は、両手を広げ、詠唱を始めた。


「ウィンド・ブレード!」


ミランダの周囲に、無数の風の刃が生成された。


それは、透明な刃だったが、その切れ味は本物の刃以上だった。


空気中の水分が、その刃に触れて凍りつき、小さな氷の結晶となって舞い散った。


そして、その無数の刃が、リヴォルトの陣営へと飛んでいった。


ヒュン、ヒュン、ヒュン――


鋭い音を立てて、風の刃が空を切り裂く。


リヴォルトのメンバーたちは、咄嗟にその刃を避けた。


しかし、刃の数があまりにも多い。


完全に避けることは不可能だった。


数発の刃が、メンバーたちの服を裂き、浅い傷をつけた。


「フィオナ!いつでも行けるわよ!」


セリーナが、妹に呼びかけた。


「わかった、お姉様!」


三女フィオナが、必殺の風魔法の詠唱を開始した。


「ゲイル・ランス!」


フィオナの杖の先端に、風が集まり始めた。


最初は、小さな渦だった。


しかし、それは徐々に大きくなり、やがて槍の形を成していった。


その槍は、圧縮された風でできており、その先端は鋭く尖っていた。


まるで、本物の鋼鉄の槍のように。


風が収束し、その槍の穂先が、リヴォルトの陣営へと向けられた。


観客席から、感嘆のため息が漏れた。


「すごい連携だ……」


「まるで一人の人間が、三つの魔法を同時に使っているようだ」


「あれでは、レメディアルの連中は近づくことさえできないぞ」


観客たちは、シルフィードの完璧な連携に、圧倒されていた。


しかし――


アシェルは、冷静だった。


彼女の意識は、もはや目の前の敵だけには向いていなかった。


その意識は、まるで指揮者のように、自らのチームメンバー一人一人の内なるエーテルの流れへと、繊細に、そして深く、接続されていた。


アシェルは、目を閉じた。


そして、自分の意識を、チーム全体に広げた。


彼女には、見えていた。


カインのエーテルの流れ。


それは、冷静で、分析的な波動だった。


リアンのエーテルの流れ。


それは、温かく、支援的な波動だった。


他のメンバーたちのエーテルの流れ。


それぞれが、異なる色を持ち、異なる波動を発していた。


そして、アシェルは、それらすべてを繋いだ。


自分のエーテルを、糸のように伸ばし、メンバーたち一人一人に接続する。


すると――


チーム全体が、一つの生命体のように機能し始めた。


(カイン……今だ)


アシェルの、声にならない想いが、エーテルの波動となってカインへと伝わった。


それは、言葉ではなかった。


しかし、カインには、その意味が理解できた。


まるで、テレパシーのように。


(あなたの目で、彼女たちの連携の「綻び」を見つけて)


カインは、マナ暴走のトラウマから魔法を行使することはできなかった。


あの事故以来、彼は魔法を使おうとすると、激しい恐怖に襲われた。


手が震え、呼吸が乱れ、意識が遠のく。


だから、彼はもう魔法を使えない。


しかし――


その代償として、彼は他者のマナの流れを、常人には見えぬほどの精密さで見抜く、特異な分析能力を得ていた。


カインは、目を凝らした。


そして、シルフィードの三姉妹を見つめた。


彼の目には、通常の人間には見えないものが見えていた。


マナの流れ。


それは、色のついた光のように、彼の視界に映った。


セリーナのマナは、青い光。


ミランダのマナは、緑の光。


フィオナのマナは、白い光。


それらの光が、三人の間を行き来している。


まるで、三人が一本の糸で繋がれているかのように。


そして――


カインは、それを見つけた。


「……見えた」


カインの瞳が、フードの下で鋭く光った。


「……三人のマナの流れが交差する一点……」


カインは、その点を、じっと見つめた。


「セリーナの右肩」


「ミランダの左足」


「そしてフィオナの杖の先端……」


「あの三点を同時に攻撃すれば、ほんの一瞬だけ、連携が乱れるはずだ!」


その情報が、エーテルの波動となって、アシェルに伝わった。


アシェルは、その情報を受け取り、即座に次の指示を送った。


## 絆のオーケストラ――完璧な連携の崩壊


(リアン……!エルザ!)


アシェルのエーテルが、今度は後衛の二人に流れた。


リアンは、その流れを感じた。


それは、温かく、力強い流れだった。


まるで、温泉に浸かっているかのような。


「ええ、分かってる!」


リアンは、アシェルから流れ込む、温かく力強いエーテルの奔流を感じていた。


彼女の小さな杖の先に、これまでにないほど凝縮されたマナの光が宿った。


それは、まるで小さな星のように輝いていた。


リアンは、深呼吸をした。


そして、杖を構えた。


「私の役目は、敵を倒すことじゃない」


リアンの声は、静かだったが、決意に満ちていた。


「仲間のために、道を切り開くこと!」


彼女が放ったのは、昨日と同じ「スロウ」の魔法だった。


しかし、その狙いは、昨日とは違った。


昨日は、敵全体を狙った。


しかし、今日は――


カインが見抜いた、長女セリーナの右肩、ただ一点のみを狙った。


「スロウ!」


リアンの杖から、淡い光が放たれた。


その光は、一直線に、セリーナの右肩へと飛んでいった。


同時に、チームのもう一人の攻撃手であるエルザが動いた。


エルザ――それは、貧しさから正規の教育を受けられなかったが、弓の扱いは天性のものを持つ少女だった。


彼女は、幼い頃から、家族を養うために狩りをしていた。


森で獣を狩り、それを売って生活していた。


だから、彼女の弓の腕前は、プロの狩人にも匹敵した。


エルザは、弓を構えた。


そして、矢をつがえた。


その矢には、アシェルの強化エーテルが込められていた。


矢が、淡く光っている。


エルザは、狙いを定めた。


次女ミランダの左足。


そこを、正確に狙う。


「はっ!」


エルザは、矢を放った。


ヒュン!


矢は、音を立てて空を切り裂いた。


その軌道は、完璧だった。


次女ミランダの左足を、寸分の狂いもなく捉えていた。


そして、アシェル自身が動いた。


彼女は、仲間たちにエーテルを「譲渡」しながらも、自らも最小限のマナで魔法を生成した。


「ライト・アロー!」


アシェルの指先から、光の矢が放たれた。


それは、小さな矢だった。


しかし、その精度は完璧だった。


光の矢は、三女フィオナが構える杖の先端を、正確に狙っていた。


三つの攻撃が、ほぼ同時に、寸分の狂いもなく、三姉妹の連携の要に着弾した。


まず、リアンのスロウが、セリーナの右肩に当たった。


「なっ……!?」


セリーナは、驚きの声を上げた。


右肩が、突然重くなった。


まるで、巨大な岩を載せられたかのように。


彼女は、バランスを崩しかけた。


そして、その瞬間――


風の障壁が、一瞬だけ揺らいだ。


次に、エルザの矢が、ミランダの左足に当たった。


「きゃっ!」


ミランダは、痛みに顔をゆがめた。


矢は、彼女の靴を貫き、足に浅い傷をつけた。


彼女は、足元がふらついた。


そして、その瞬間――


風の刃の軌道が、僅かに乱れた。


最後に、アシェルの光の矢が、フィオナの杖の先端に当たった。


ガツン!


光の矢が、杖を弾いた。


「あっ!」


フィオナは、杖が弾かれて、バランスを崩した。


そして、その瞬間――


詠唱中の「ゲイル・ランス」が、制御を失って暴発した。


ドガァァァン!


風の槍が、明後日の方向へと飛んでいき、リングの壁に激突した。


壁に、深い穴が開いた。


ほんの一瞬。


瞬きほどの、僅かな綻び。


しかし、その一瞬こそが、リヴォルトが待ち望んでいた、唯一の好機だった。


## 規格外の連携術――一点突破


「タケルさん!ケンシンさん!今です!」


観客席の隅で、SATUMAのメンバーが、興奮して叫んでいた。


西郷タケルは、拳を握りしめ、身を乗り出していた。


「見たか!」


タケルの声は、興奮で震えていた。


「あれがアシェルが言うちょった、『一点突破』じゃ!」


ケンシンも、珍しく、わずかに目を見開いていた。


彼は、アシェルの成長を、そして戦術の見事さを、認めていた。


(――いけっ!)


アシェルは、残る全ての力を、チームの切り込み隊長である、寡黙な青年へと注ぎ込んだ。


その青年の名は、ガレス。


彼は、かつて事故でマナの流れに障害を負った、元ファウンデーション・ティアの生徒だった。


訓練中の事故で、彼の体内のマナ経路が損傷した。


そのため、彼はもう魔法を使えなかった。


ティアは、ファウンデーションからレメディアルへと降格された。


しかし――


魔法は使えないが、その突進力だけは、エリート・ティアの戦士をも凌駕していた。


ガレスは、身長百八十センチ、体重九十キロの、筋肉質の青年だった。


その身体は、鍛え上げられており、まるで岩のように硬かった。


アシェルから流れ込む膨大なエーテルを受け、彼の全身が淡い光に包まれた。


それは、神々しいほどの光だった。


ガレスは、その力を感じた。


全身が、力で満たされている。


筋肉が、膨れ上がる。


心臓が、激しく鼓動する。


これほどの力を感じたのは、事故以来、初めてだった。


「うおおおおおおおおっ!!」


彼は、雄叫びと共に、風の障壁の綻びへと、まるで砲弾のように突っ込んだ。


ドシン、ドシン、ドシン!


彼の足音が、リングを揺らした。


その速度は、信じられないほど速かった。


十メートルの距離を、一秒で駆け抜ける。


「しまっ……!」


セリーナは、慌てて障壁を再構築しようとした。


彼女は、杖を振り、再び風を集めようとした。


しかし――


間に合わなかった。


ガレスは、既に障壁の綻びに到達していた。


そして――


ガァン!


ガレスの拳が、風の障壁を粉砕した。


障壁が、ガラスのように砕け散った。


風が、四方八方に飛び散った。


「きゃあ!」


セリーナは、その衝撃で後方に吹き飛ばされた。


ミランダとフィオナも、バランスを崩した。


鉄壁と謳われたシルフィードの連携は、内側から、あまりにも鮮やかに、そして無慈悲に、崩壊させられたのだ。


その後は、一方的だった。


連携を失ったシルフィードは、もはやただのバラバラな三人の魔法使いに過ぎなかった。


リヴォルトのメンバーたちは、完璧な連携で、三姉妹を圧倒した。


五分後――


「……そこまで!」


審判が、試合終了の笛を吹いた。


「勝者、チーム『リヴォルト』!」


## 静かなる勝利、響き渡る賞賛――新たなる伝説


審判の宣言に、競技場は一瞬の沈黙に包まれた。


観客たちは、皆、呆然としていた。


そして――


その沈黙を破ったのは、今度こそ本物の、熱狂的な賞賛と歓声だった。


「うおおおおおお!」


「信じられない……!」


「あの鉄壁のシルフィードが、敗れた……!」


「レメディアルが……二連勝だと……!」


観客たちは、総立ちになって、拍手と歓声を送った。


「あれは一体、どんな戦術なんだ……!?」


「完璧すぎる……!」


「リーダーは誰だ?」


「あの支援に徹していた……」


「いや、アシェルという娘か!」


アシェルの名前が、観客たちの口から、次々と語られた。


もはや、彼女は無名の存在ではなかった。


彼女の名は、学園中に知れ渡り始めていた。


勝利を収めたリヴォルトのメンバーたちは、リングの中央で、互いの肩を支え合いながら、荒い息をついていた。


皆、疲れ果てていた。


しかし、その顔には、満足感と喜びが浮かんでいた。


アシェルは、力の代償でふらつきながらも、仲間たちの顔に浮かぶ、信じられないといった表情と、そして溢れんばかりの喜びを見て、静かに微笑んだ。


(……勝てた)


アシェルは、心の中で呟いた。


(私たちの力で……)


彼らの勝利は、決してまぐれなどではなかった。


それは、一人一人の「欠点」を、互いの「長所」で補い合い、そしてアシェルという「心臓」が、その全てを一つの生命体として機能させた、緻密な戦略と、深い絆の結晶だったのだ。


観客席では、ケンシンが満足そうに、しかしどこか厳しい表情で呟いていた。


「……フン」


ケンシンは、腕を組んだまま言った。


「まだまだ形だけじゃ」


「じゃっどん、心意気だけは、一流ちゅうこっちゃな」


ケンシンは、アシェルの成長を認めていた。


しかし、同時に、まだ未熟さも残っていることも理解していた。


彼女は、強くなった。


しかし、まだ、本当の強者には遠い。


そして――


彼女の前には、さらなる試練が待っている。


## 学園長の複雑な表情――実験の進展


そして、北塔の観測室では、学園長が、かつてないほど複雑な表情で、スクリーンに表示された戦闘データを見つめていた。


スクリーンには、無数のグラフと数値が表示されていた。


アシェルのエーテル波形。


チームメンバーたちのマナ波形。


それらの相関関係。


そして、戦闘中のエネルギーの流れ。


すべてが、詳細に記録されていた。


学園長は、そのデータを、じっと見つめていた。


その目には、驚きと、そして――興奮が宿っていた。


「……面白い」


学園長の声は、低く、そして感嘆に満ちていた。


「実に面白い」


「個々のエーテルを外部から調整し、連携を強制的に最適化する、か」


学園長は、データの一部を拡大した。


そこには、アシェルのエーテルが、チームメンバーたちに流れ込み、そして彼らのマナを増幅させている様子が、グラフとして表示されていた。


「我々の『中央マナ炉』計画に通じる、実に興味深い現象だ」


中央マナ炉計画――それは、王国が極秘に進めている、巨大プロジェクトだった。


無尽蔵のマナを生成する、巨大な魔導炉を建設する計画。


その鍵となるのは、マナを効率的に吸収し、変換し、そして分配する技術。


そして、アシェルの能力は、まさにそれを個人レベルで実現していた。


「……情報統括官」


学園長は、統括官に向き直った。


「はい」


情報統括官は、即座に応答した。


「次の対戦相手は、さらに厄介な者をぶつけろ」


学園長の声は、冷たく、そして命令的だった。


「あの娘の、『器』の限界を、とくと見極めてやる必要がある」


「はい、学園長閣下」


情報統括官は、深く頭を下げた。


そして、魔導端末を操作し始めた。


次の対戦相手の選定。


それは、アシェルをさらに追い詰めるための、慎重な選択だった。


## 光と影の狭間――深まる陰謀


レメディアルの快進撃は続いていた。


しかし、その光が強まれば強まるほど、学園が落とす影もまた、より深く、より濃くなっていった。


観客たちは、リヴォルトを称賛していた。


しかし、その裏で――


学園の上層部は、冷徹に実験を進めていた。


バルトール侵爵は、自分の屋敷で、学園長からの指示を受けていた。


「次は、もっと強い相手を……」


「そして、もっとアシェルを追い詰めるような状況を……」


侵爵は、邪悪な笑みを浮かべながら、自分の駒を動かす準備をしていた。


サイラスは、一人、自分の部屋で、何かを企んでいた。


彼の机の上には、学園の見取り図と、生徒たちのリストが広げられていた。


「……もうすぐだ」


サイラスは、小さく呟いた。


「もうすぐ、俺の計画が動き出す」


様々な思惑が、アシェルの周りで渦巻いていた。


しかし、アシェル自身は、まだそれに気づいていなかった。


彼女は、ただ――


仲間と共に、勝ち続けることだけを考えていた。


月が、学園を照らしていた。


その光は、美しかった。


しかし、その影は、深く、暗く、そして――危険だった。


物語は、さらなる試練へと、その歩みを進めていく。

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