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大規模グリムハウンド討伐作戦!俺、チームリーダーになります。

重複の内容あり、修正予定

翌朝、クラルは冒険者ギルドを訪れ、魔獣討伐任務の詳細について説明を受けることになった。


「クラル・ヴァイス様ですね」


受付の女性が丁寧に応対した。「Aランク冒険者として、今回の大規模討伐作戦にご参加いただき、ありがとうございます」


「大規模討伐作戦...ですか?」


クラルは少し驚いた。これまで聞かされていたのは「6週間の魔獣討伐任務」という簡単な説明だけだった。


「はい。詳細をご説明いたします」


受付嬢は厚いファイルを取り出した。「こちらへどうぞ」


説明室に案内されたクラルは、そこで初めて任務の全貌を知ることになった。


「今回の任務は『グリムハウンド大量発生事件』の解決です」


ギルドマスターのバルドリック・アイアンビアードが重々しく説明を始めた。彼は元Sランク冒険者で、現在はグランベルクの冒険者ギルドを統括している。


「グリムハウンド...ですか?」


「はい。狼型の魔獣で、通常は森の奥深くに小規模な群れで生息しています」


バルドリックは地図を広げて示した。「しかし、3週間前から異常な大量発生が確認されています」


「グリムハウンドは単体では中程度の脅威ですが...」


バルドリックは続けた。「群れを成すと非常に危険になります。現在、グランベルク周辺に約300体が確認されています」


「300体...」


クラルは息を呑んだ。それは想像を超える規模だった。


「しかも、彼らは知能が高く、組織的な行動を取ります。既に近隣の村々に被害が出始めています」


地図には赤いマークが複数記されており、それぞれが被害報告の場所を示していた。


「このままでは、グランベルク自体も危険にさらされる可能性があります」


「そこで、6週間にわたる大規模討伐作戦を実施することになりました」


バルドリックは作戦書を開いた。「高ランク冒険者が低ランクの冒険者たちを率いて、組織的にグリムハウンドを掃討します」


「私の役割は?」


「Aランク冒険者として、チームリーダーを務めていただきます」


バルドリックは説明した。「初期メンバーとして、B〜Dランクの冒険者5名を指揮してください」


「ただし、この任務には特殊な側面があります」


バルドリックの表情が真剣になった。「6週間の間に、メンバーは流動的に変化します」


「どういう意味ですか?」


「負傷者が出れば交代、成長が著しい者は他のチームに移動、新人の加入もあります」


確かに、6週間という長期間では様々な変化が起こりうる。


「つまり、固定メンバーでの作戦ではないということですね」


「その通りです。リーダーとして、常に変化するチーム構成に対応していただく必要があります」


「それでは、初期メンバーをご紹介します」


会議室に5名の冒険者が入ってきた。


マーカス・ソードブレイカー(Bランク・戦士)

30代前半の屈強な男性。大剣使いで、前衛を得意とする。


エルザ・ウィンドシューター(Bランク・弓手)

20代後半の女性。精密射撃を得意とし、長距離支援が専門。


トビアス・ヒールハンド(Cランク・僧侶)

40代の男性。回復魔法と支援魔法を使える貴重な存在。


リナ・シャドウステップ(Cランク・盗賊)

20代前半の小柄な女性。偵察と罠解除が得意。


ベン・アプレンティス(Dランク・戦士)

10代後半の青年。まだ経験は浅いが、成長意欲が旺盛。


「バランスの取れた編成ですね」


クラルは満足した。前衛、後衛、支援、偵察と、必要な役割が揃っている。


「ただし、このメンバー構成は1週目のみです」


バルドリックが釘を刺した。「2週目以降は、状況に応じて変更される可能性があります」


「了解しました。柔軟に対応します」


「作戦は3段階に分かれています」


バルドリックは詳細を説明した。


第1段階(1〜2週目):偵察と小規模戦闘

グリムハウンドの生態調査と、小規模な群れの排除


第2段階(3〜4週目):中規模討伐作戦

中程度の群れを組織的に討伐


第3段階(5〜6週目):大規模決戦

主力群との最終決戦


「各段階で求められるスキルが違うため、メンバー構成も最適化されます」


「報酬についてですが...」


バルドリックは契約書を示した。「基本報酬として金貨50枚、成果に応じてボーナスが追加されます」


「十分な金額ですね」


「ただし、チームメンバーの安全確保が最優先です」


バルドリックは強調した。「無謷な犠牲は避けてください」


契約を済ませた後、クラルは初期メンバーたちとの顔合わせを行った。


「改めまして、チームリーダーのクラル・ヴァイスです」


「よろしくお願いします」


メンバーたちが礼儀正しく挨拶した。


「まず、皆さんの得意分野と経験について教えてください」


マーカス:「前衛での突撃戦が得意です。魔獣との戦闘経験も豊富です」


エルザ:「長距離射撃で支援します。風の魔法も少し使えます」


トビアス:「回復が専門ですが、防御魔法や光の攻撃魔法も扱えます」


リナ:「隠密行動と情報収集が得意です。毒も扱えます」


ベン:「まだ未熟ですが、一生懸命頑張ります」


「それでは、基本方針を決めましょう」


クラルは地図を広げた。「まず第1段階では、安全を最優先に偵察と小規模戦闘を行います」


「具体的にはどのように?」


マーカスが尋ねた。


「リナさんの偵察能力を活用し、敵の位置と規模を正確に把握してから行動します」


「慎重な作戦ですね」


エルザが頷いた。


「経験の浅いベンさんもいますし、まずはチームワークを築くことが重要です」


「皆さんの装備状態はいかがですか?」


クラルが確認すると、全員が基本的な装備は整えていた。


「ただし、長期戦用の消耗品は不足気味です」


トビアスが報告した。


「それでは、出発前に補給を行いましょう」


クラルは決断した。「チーム予算で必要な物品を購入します」


「明日から第1段階開始です」


クラルは全員を見回した。「最初の2週間で、お互いの能力と連携を確認しましょう」


「了解しました」


全員が力強く答えた。


「最後に一つ」


クラルは付け加えた。「このチーム構成は流動的です。メンバーが変わることを前提に、誰とでも連携できる柔軟性を身につけましょう」


「なるほど、確かに重要ですね」


マーカスが納得した表情を見せた。


その夜、クラルは一人で作戦の詳細を検討していた。


「グリムハウンド300体...かなりの規模だ」


しかし、組織的な作戦と経験豊富なメンバーがいれば、決して不可能な任務ではない。


「問題は、メンバーの流動性にどう対応するかだ」


固定チームでの長期作戦と違い、常に新しいメンバーとの連携を考える必要がある。


「これまでは一人での冒険が多かった」


クラルは自分の成長を実感していた。「しかし、護衛任務でチームワークの重要性を学んだ」


頭領から学んだ技術に加え、人を率いる経験も積むことができる。この任務は、新たな成長の機会でもあった。


「明日から6週間、全力で任務に取り組もう」


翌朝、クラルは新しいチームメンバーたちと共にグランベルクの門を出た。


「グリムハウンド討伐作戦、開始です」


6週間にわたる長期任務が始まった。変化するメンバー構成、300体の魔獣、そして組織的な作戦指揮。すべてがクラルにとって新しい挑戦だった。


早朝、クラルのチームはグランベルクの東門から出発した。


「天気も良好、作戦開始には最適ですね」


エルザが弓を担ぎながら言った。確かに、雲一つない青空が広がっている。


「まずは北東の森林地帯から偵察を開始します」


クラルは地図を確認しながら指示を出した。「リナさん、先行偵察をお願いします」


「了解しました」


リナは身軽な動きで先頭に出た。彼女の隠密技術は確実で、10メートル先を歩いていても気配をほとんど感じさせない。


「グリムハウンドの痕跡を発見しました」


出発から2時間後、リナが報告に戻ってきた。


「どの程度の規模でしょうか?」


「足跡から判断して、5〜7体程度の小規模群れです」


「第1段階にはちょうど良い相手ですね」


マーカスが大剣を確認しながら言った。


「ただし、慎重に行きましょう」


クラルは釘を刺した。「ベンさんにとっては初めての魔獣戦闘です」


午後、チームは最初のグリムハウンドの群れと遭遇した。


「5体確認」


リナの報告通り、小規模な群れだった。グリムハウンドは通常の狼よりも一回り大きく、暗灰色の毛に覆われている。最も特徴的なのは、赤く光る瞳だった。


「フォーメーション・アルファで行きます」


クラルの指示で、チームは戦闘態勢を取った。マーカスとクラルが前衛、エルザとトビアスが後衛、リナが側面支援、ベンは後方で待機。


「行きます!」


最初の戦闘は、思った以上にスムーズに進んだ。


「マーカスさん、左の2体をお願いします」


「了解!」


マーカスの大剣が唸りを上げてグリムハウンドを薙ぎ払った。一方、クラルは新しいショートソードの軽快さを活かし、素早い連続攻撃で右側の敵を制圧した。


「後方から矢の支援!」


エルザの正確な射撃が、前衛の負担を大幅に軽減する。


「回復魔法、準備完了」


トビアスも的確な支援を行い、チーム全体の安全を確保していた。


「やはり軽量化の効果は大きいですね」


戦闘後、クラルは自分の動きを分析していた。ショートソードの軽さにより、これまで以上に機敏な動きが可能になっている。


「頭領から学んだ技術も、軽量武器との組み合わせで新しい可能性が見えてきました」


重心制御の原理を軽量武器に応用することで、従来とは異なる戦闘スタイルが確立できそうだった。


「ベンさん、初めての魔獣戦闘はいかがでしたか?」


「思っていたより...組織的に動くんですね」


ベンは感心していた。「連携の重要性がよく分かりました」


「良い経験になりましたね」


クラルは満足した。新人の成長を見守ることも、リーダーの重要な役割だった。


第1週が終わる頃、チームは着実に成果を上げていた。


「小規模群れを12群、計約70体のグリムハウンドを討伐しました」


リナが活動報告をまとめた。


「負傷者もなく、順調な滑り出しですね」


トビアスも満足そうだった。


「ただし、これは序の口です」


クラルは気を引き締めた。「来週からは中規模群れとの戦闘が予想されます」


1週目の終わり、予想通りメンバー変更の通知が届いた。


「ベンさんが他のチームに移動することになりました」


ギルドからの連絡だった。


「え?僕が?」


ベンは驚いていた。


「君の成長が著しいため、より高度な訓練を受けるチームに配属されることになったんだ」


クラルは説明した。「これは昇進のようなものです」


ベンの代わりに加入したのは、意外な人物だった。


「ユーリ・フロストハート、Cランク魔法使いです」


20代前半の女性で、氷系魔法を得意とする。


「よろしくお願いします」


「こちらこそ。魔法使いが加わることで、戦術の幅が広がります」


クラルは歓迎した。


「新しいフォーメーションを考える必要がありますね」


マーカスが提案した。


「ユーリさんの氷魔法を活用した戦術を組み込みましょう」


クラルは新しい戦術を検討した。氷魔法による敵の動きの封じ、範囲攻撃による群れの制圧。可能性は大きく広がった。


「それでは、第1段階の後半戦を開始します」


新メンバーを加えたチームで、2週目の作戦が始まった。


「今週は中規模群れとの戦闘も予想されます」


クラルは地図を指差した。「より慎重かつ大胆に行動しましょう」


「アイス・バインド!」


ユーリの魔法が複数のグリムハウンドの足を氷で固めた。


「今です!」


動きを封じられた敵に対し、前衛陣が一斉攻撃を仕掛ける。新しい戦術は見事に功を奏した。


「素晴らしい連携ですね」


エルザが感心した。


2週目の中頃、ついに15体規模の中規模群れと遭遇した。


「これまでで最大規模ですね」


リナが偵察から戻って報告した。


「慎重に行きましょう」


クラルは作戦を練った。「ユーリさんの範囲魔法で群れを分断し、各個撃破します」


「フリーズ・エリア!」


ユーリの大規模魔法が群れの中央部を凍らせ、15体の群れを5体ずつに分割した。


「フォーメーション・ベータ!」


クラルの指示で、チームは3つのサブユニットに分かれ、分割された敵群を同時攻撃した。


「これが組織戦術の威力か...」


マーカスが感嘆の声を上げた。


2週目が終わる頃、第1段階の目標は完全に達成されていた。


「小中規模群れ合計28群、約150体のグリムハウンドを討伐」


最終報告は上々の結果だった。


「負傷者ゼロ、チーム連携も確立」


トビアスが付け加えた。


「第2段階への準備も整いました」


「来週から第2段階が始まります」


クラルはチームメンバーを見回した。「より大規模で困難な戦闘が予想されます」


「メンバー構成も変更されるでしょうか?」


エルザが尋ねた。


「おそらく。より専門的なスキルを持つメンバーが追加される可能性があります」


この2週間で、クラルは明らかにリーダーとしてのスキルを向上させていた。


「個人の戦闘技術だけでなく、チーム全体を統率する能力」


これは、これまでの冒険では得られなかった新しい経験だった。


「メンバーそれぞれの特性を活かし、全体として最大の効果を生み出す」


頭領が孤独に強さを追求した結果破滅したのとは対照的に、クラルは仲間と共に成長している。


「軽量武器と重心制御技術の組み合わせ」


クラルは自分の戦闘スタイルの進化も実感していた。「これまでにない機動性と連続攻撃能力を獲得できました」


さらに、チーム戦術との組み合わせにより、個人技術が組織力として増幅されている。


「いよいよ本格的な討伐戦が始まりますね」


ユーリが言った。


「はい。しかし、これまでの経験があれば必ず成功できます」


クラルは自信を持って答えた。


チーム連携、個人技術の向上、そして流動的メンバー構成への対応能力。すべてが第2段階への準備として整っていた。


第1段階完了後、チームは一旦グランベルクに戻って補給を行った。


「装備の消耗は最小限ですね」


軽量装備の選択が功を奏していた。


「医療用品の補充と、第2段階用の特殊装備の調達を行いましょう」


クラルは効率的に準備を進めた。


「明日から第2段階開始です」


クラルはチームメンバーに告げた。「より大きな群れ、より困難な戦闘が待っています」


「でも、私たちならできます」


マーカスが力強く答えた。


「ええ、必ず成功させましょう」


クラルも決意を新たにした。


第1段階での経験は、チーム全体の能力を大幅に向上させていた。個人技術の成長、チーム連携の確立、そしてリーダーシップの発展。すべてが第2段階での成功に向けた礎となっていた。


グリムハウンド討伐作戦は順調に進行し、クラル・ヴァイスの新たな成長段階が確実に形作られつつあった。


第2段階が開始された時、予想通りメンバー構成に変化があった。


「今回は7名体制になります」


ギルドマスターのバルドリックが説明した。「より大規模な群れに対処するため、戦力を増強します」


新たに加わったのは以下のメンバーだった


ガレス・シールドベアラー(Bランク・重装戦士)

40代の屈強な男性。大盾と戦斧を使用する防御の専門家。


アリス・ホーリーライト(Cランク・回復術師)

25歳の美しい女性。聖職者系の回復魔法を得意とし、グランベルクでも男性冒険者たちの間で非常に人気が高かった。


アリス・ホーリーライトは、グランベルクの冒険者ギルドでも屈指の美女として知られていた。


「アリスさんが来るって本当ですか?」


チーム編成の発表時、多くの男性冒険者たちが羨望の眼差しを向けていた。


彼女の人気の理由は複数あった。まず、その美貌。絹のような金髪と澄んだ青い瞳、そして優雅な立ち居振る舞いは、まさに聖女のような印象を与えていた。


「アリスさんの微笑みを見ただけで、傷が治ったような気分になる」


ギルドでよく聞かれる冗談だったが、あながち間違いでもなかった。


さらに、彼女の献身的な性格も人気の理由だった。負傷した仲間への手厚い看護、常に他人を気遣う優しさ、そして決して見返りを求めない奉仕の精神。これらすべてが、多くの男性冒険者たちの心を捉えていた。


「彼女と一緒にパーティを組めるなんて、宝くじに当たったようなものだ」


マーカスが羨ましそうに呟いた。


「確かに、彼女の回復魔法は一級品ですし、何より安心感がありますね」


エルザも同意した。女性である彼女から見ても、アリスの魅力は理解できるものだった。


「第2段階では、20〜30体規模の群れを主な対象とします」


クラルは新しいチームに作戦を説明した。「これまでより格段に危険度が上がります」


「了解しました」


ガレスが力強く答えた。「防御は任せてください」


「回復は私にお任せください」


アリスも穏やかな笑顔で応じた。その声には特有の癒しの響きがあり、聞いているだけで心が落ち着いた。


第2段階開始から3日目、チームは25体の大群と遭遇した。


「これまでで最大規模ですね」


リナが偵察から戻って報告した。「しかも、統制が取れています」


「分散戦術で行きます」


クラルは作戦を指示した。「ユーリさんの氷魔法で群れを分割し、各サブチームで対処します」


「フリーズ・ウォール!」


ユーリの大規模魔法が氷の壁を作り、群れを分割した。しかし、グリムハウンドたちの反応は予想以上に組織的だった。


「彼らが学習している...」


マーカスが驚いた。「戦術を理解して対応してきています」


戦闘が激化する中、アリスの回復魔法は絶大な効果を発揮していた。


「ヒーリング・ライト!」


彼女の魔法で傷を治された仲間たちは、まるで生まれ変わったような活力を取り戻していた。


「全員、最大警戒で!」


クラルの指示で、チームは激しい戦闘を展開した。ガレスの堅牢な防御、アリスの的確な回復支援、そして既存メンバーの連携により、何とか25体の群れを制圧することができた。


「やりましたね」


エルザが安堵の表情を見せた。


「皆さん、お疲れ様でした」


アリスが一人一人に回復魔法をかけていく。その優しい手つきと温かな魔法の光に、男性メンバーたちは改めて彼女の魅力を実感していた。


戦闘の消耗を考慮し、クラルは偵察任務を分担することにした。


「リナさんとアリスさんで、広域偵察を行ってください」


「了解しました」


「私、偵察は初めてですが...大丈夫でしょうか?」


アリスが不安そうに尋ねた。


「大丈夫です。リナさんが一緒ですし、危険があればすぐに戻ってきてください」


翌日の午後、予定が変更され、アリスが単独偵察に出ることになった。


「リナさんが体調不良で...私一人で西の森林地帯を調査してきます」


「一人では危険です。別の日に...」


クラルが止めようとしたが、アリスは首を振った。


「大丈夫です。回復魔法もありますし、隠れるのは得意なんです」


彼女の申し出を断り切れず、クラルは渋々承諾した。


「絶対に無理をしないでください。何かあれば、すぐに戻ってきてください」


「はい、約束します」


アリスは優しく微笑んで出発した。


しかし、日が暮れてもアリスは戻ってこなかった。


「おかしいですね...」


リナが心配そうに言った。「アリスさんは約束を破る人ではありません」


「何かトラブルに巻き込まれた可能性があります」


クラルは不安を募らせた。「明朝、捜索に向かいましょう」


翌朝早く、チームはアリスの捜索を開始した。


「最後に向かった西の森林地帯から調べましょう」


「足跡がここまで続いています」


リナがアリスの痕跡を追った。


「この先で途切れている...」


森の奥深くで、チームは不吉な光景を目撃した。


「血の匂いがします」


ガレスが顔をしかめた。


「向こうに何かあります」


エルザが指差した先には、散乱した装備品があった。アリスが使っていた聖職者の杖と、彼女の特徴的な白いローブが血に染まって落ちていた。


さらに奥に進むと、チームは言葉を失う光景に遭遇した。


「これは...」


20体近いグリムハウンドの群れが、何かを貪り食っている最中だった。そして、その光景を目にした瞬間、全員が理解した。


「アリスさん...」


ユーリが青ざめて呟いた。


グリムハウンドたちが気づいて散らばると、その惨状がより鮮明になった。美しいアリスの面影は、もはやどこにも残っていなかった。


あれほど多くの男性冒険者たちの憧れだった美貌は、無残にも損なわれていた。頭部だけは比較的硬いため辛うじて判別可能だったが、あの美しい青い瞳は空洞となり、優しい微笑みを浮かべていた唇も失われていた。


金髪だけが、血に染まりながらも彼女の身元を示す最後の証拠として残っていた。


「くそっ...」


マーカスが拳を握りしめた。あれほど多くの仲間に愛されていた彼女が、このような最期を迎えるとは。


「この群れがアリスさんを...」


クラルの声には怒りが込められていた。


「全員、戦闘準備!」


チームは即座に戦闘態勢を取った。しかし、相手は20体の大群。しかも、人肉を食した彼らはより凶暴になっているように見えた。


「アリスさんの敵を討つ!」


ガレスが咆哮と共に突撃した。


クラルも新しいショートソードを構え、頭領から学んだ技術を駆使して次々とグリムハウンドを斬り倒していく。怒りが技術を研ぎ澄まし、これまで以上の戦闘力を発揮していた。


「フリーズ・ランス!」


ユーリの氷の槍が複数のグリムハウンドを貫いた。


「一匹残らず殲滅する」


クラルの指示は冷酷だった。通常なら逃げる敵は深追いしないが、今回は違った。


20分間の激戦の末、グリムハウンドの群れは完全に殲滅された。


戦闘後、チームはアリスの遺体を丁寧に集めた。


「せめて、きちんと弔ってあげましょう」


トビアスが宗教的な儀式を執り行った。アリスも聖職者だったため、特に丁寧な儀式となった。


「アリス・ホーリーライト...安らかに眠ってください」


全員が黙祷を捧げた。


グランベルクに戻った時、アリスの死の知らせはギルド全体に大きな衝撃を与えた。


「アリスさんが...嘘だろう?」


「あんなに美しくて優しい人が...」


多くの男性冒険者たちが、彼女の死を悲しんだ。ギルドのホールには、彼女を偲ぶ花が山のように積まれた。


「これが冒険者の現実か...」


エルザが震え声で呟いた。


「彼女は優秀なCランク冒険者でした」


クラルも重い現実を受け入れていた。「それでも、一瞬の油断が命取りになる」


「多くの人に愛されていた彼女が...」


ガレスも悔しそうに呟いた。


アリスの死を受けて、クラルは作戦を根本的に見直した。


「単独行動は禁止します」


「偵察も必ず2名以上のペアで行います」


「安全確保を最優先とします」


その夜、クラルは一人で考えていた。


「多くの人に愛されていた仲間を失った...」


アリスの人気の高さが、彼女の死をより一層痛ましいものにしていた。


「しかし、だからこそ残されたメンバーを必ず守らなければならない」


リーダーとしての責任が、これまで以上に重くのしかかっていた。


翌日、チームは悲しみを乗り越えて任務を継続した。


「アリスさんの分まで、必ず任務を完遂します」


クラルの言葉に、全員が頷いた。


6名となったチームは、より結束を固めて第2段階の作戦を続行する。多くの人に愛されていたアリスの死は痛ましい悲劇だったが、それは同時にチーム全体をより強固にする結果ももたらしていた。


第2段階の掃討作戦が進行するにつれ、予想外の変化が起こり始めた。


「グリムハウンドの行動パターンが明らかに変わっています」


リナが偵察から戻って報告した。「以前より警戒心が強く、しかも攻撃性が増している感じです」


「数が減ったからでしょうか?」


ユーリが尋ねた。


「おそらく」クラルは地図を見つめながら答えた。「我々の掃討作戦により、彼らの生存本能が刺激されたのかもしれません」


確かに、これまでの作戦で約150体のグリムハウンドを討伐していた。全体の約半数が減少したことで、残った個体たちの行動が極端に変化したのだ。


「また行方不明者が出ました」


3日後、ギルドマスターのバルドリックが深刻な表情で報告した。


「今度はBランク冒険者のチーム、5名全員です」


「5名全員が...」


クラルは衝撃を受けた。アリス一人の死でも大きな痛手だったのに、今度は5名もの冒険者が姿を消した。


「これで今週だけで3つのチームが消息を絶ちました」


バルドリックの声には疲労が滲んでいた。「総計15名の冒険者が行方不明です」


行方不明となった冒険者たちの捜索は続けられたが、発見されるのは無残な遺体の一部だけだった。


「また見つかりました...」


捜索チームが持ち帰るのは、いつも同じような報告だった。バラバラに引き裂かれた装備品、血に染まった地面、そして判別困難なほど損傷した遺体の断片。


「グリムハウンドたちの攻撃方法が組織的になっています」


捜索を担当したCランク冒険者が青ざめて報告した。「まるで計画的に罠を仕掛けているかのようです」


状況の悪化を受けて、ついに重大な決定が下された。


「グリムハウンド掃討作戦を一時停止します」


緊急会議でバルドリックが宣言した。


「現在の戦術では、被害が大きすぎます」


会議室には、各チームのリーダーたちが集まっていた。クラルも含め、全員が疲弊しきった表情を浮かべている。


「新たな戦術を検討する必要があります」


「そこで、作戦の根本的な見直しを行います」


バルドリックは新しい方針を説明した。


「範囲攻撃が可能な高位魔法使いを緊急募集します」


「高位魔法使い...ですか」


クラルが確認した。


「はい。B〜Aランクの魔法使いを、王国全土から招集します」


これまでの個別戦闘ではなく、大規模な魔法攻撃によってグリムハウンドを一掃する作戦への転換だった。


しかし、この方針転換は冒険者たちにとって厳しい現実をもたらした。


「報酬についてですが...」


バルドリックは申し訳なさそうに続けた。「これまでの半分以下になります」


「半分以下...」


クラルは計算した。当初約束されていた金貨50枚が、金貨20枚程度に減額される計算だった。


「魔法使いの招集費用と、作戦変更に伴う経費増大のためです」


さらに深刻な事態が発生した。


「グランベルク王国は一時的に国境を封鎖します」


王国からの公式発表が行われた。


「魔法使い以外の新規入国を制限し、既に国内にいる高ランク冒険者の出国も禁止します」


これは実質的な戒厳令に近い措置だった。


「高ランク冒険者の皆様には、特別任務があります」


王国の役人が説明した。


「招集される魔法使いたちの護衛を担当していただきます」


「護衛...ですか」


クラルが尋ねた。


「はい。高位魔法使いは貴重な存在です。彼らの安全確保が最優先となります」


「つまり、我々は国から出ることができないということですね」


マーカスが確認した。


「残念ながら、そうなります」


役人は頷いた。「グリムハウンド問題が解決するまで、高ランク冒険者は王国の重要資産として管理されます」


クラルは複雑な心境だった。自由な冒険者から、実質的に王国の雇用兵へと立場が変わってしまった。


「これは予想外の展開ですね」


エルザが困惑していた。


「報酬も大幅に減額されましたし...」


ガレスも不満を漏らした。


「しかし、状況を考えれば仕方ないでしょう」


ユーリが現実的な判断を示した。「グリムハウンド問題を解決しなければ、この地域全体が危険にさらされます」


「皆さんはどうしますか?」


クラルはチームメンバーに意見を求めた。


「一緒に残って、新しい任務を続けますか?それとも...」


しかし、国境封鎖により、実質的に選択肢はなかった。


「残るしかありませんね」


マーカスが苦笑いした。


数日後、王国全土から招集された高位魔法使いたちがグランベルクに到着し始めた。


「これは...壮観ですね」


クラルは感嘆の声を上げた。Aランクの魔法使いが10名、Bランクが30名。これほど多くの高位魔法使いが一箇所に集まることは稀だった。


「それぞれに護衛が必要になります」


バルドリックが説明した。「クラルさんには、特にAランク魔法使いの護衛をお願いします」


「Aランク魔法使いの護衛...」


これまでとは全く異なる任務だった。戦闘が主体ではなく、VIPの安全確保が最優先となる。


「相手はどのような方でしょうか?」


「エリアナ・ストームコーラー、雷系魔法の専門家です」


バルドリックは資料を見ながら答えた。「非常に強力ですが...少し気難しい方だと聞いています」


グランベルクでの新しい生活は、制約だらけだった。


宿泊は指定された施設のみ、外出も許可制、そして常に任務を優先しなければならない。


「自由な冒険者から、雇われ兵士になってしまいましたね」


リナが寂しそうに呟いた。


「でも、やるしかありません」


クラルは決意を固めた。「この状況を乗り越えれば、また自由な冒険に戻れるはずです」


「問題は、この状況がいつまで続くかです」


トビアスが心配そうに言った。


「魔法による大規模掃討作戦も、すぐに成功するとは限りません」


確かに、グリムハウンドたちが学習し、進化している以上、魔法攻撃に対しても何らかの対策を講じてくる可能性があった。


「とりあえず、明日からAランク魔法使いの護衛任務が始まります」


クラルはチームメンバーに告げた。


「これまでとは全く違う任務ですが、全力で取り組みましょう」


その夜、クラルは一人で考えていた。


「4ヶ月後には村長が迎えに来る予定だった...」


しかし、国境封鎖により、その約束も果たせなくなってしまった。


「この状況がいつまで続くのか...」


グリムハウンド問題の解決が長期化すれば、クラルの人生設計も大きく狂ってしまう。しかし、今は目の前の任務に集中するしかなかった。


翌朝、クラルは新しい任務に向かった。


護衛対象のエリアナ・ストームコーラーは、確かに気難しそうな女性だった。しかし、その魔法の威力は圧倒的で、グリムハウンド問題解決の鍵を握る存在でもあった。


「よろしくお願いします」


クラルの挨拶に、エリアナは冷たく頷いただけだった。

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