冒険者適性Aランク でも俺、、、
朝霧が立ち込める麦畑で、クラルは膝をついて土を掘り返していた。二十歳を迎えたばかりの青年の手は既に農夫のそれで、硬いタコに覆われている。しかし、その細い指先は他の村人たちのように無骨ではなく、どこか繊細な印象を与えていた。
「また根腐れか」
呟きながら、クラルは病んだ麦の根を慎重に取り除く。村の誰もが首を傾げる植物の病気も、彼にとってはいつものことだった。土の色、匂い、湿り気、そして根の状態を総合的に判断すれば、原因など明らかだった。
この腐敗臭...昔嗅いだものと似ている
ふと、クラルの脳裏に幼い頃の記憶が蘇った。あの頃は今のような清潔な環境ではなかった。汚れた食器に盛られた得体の知れない食べ物、表面に青いカビの浮いたパン、異臭を放つ肉の切れ端。それらを口にしなければ生きていけない日々。
「クラル!また君の畑だけ収穫量が多いじゃないか」
振り返ると、村長のバルドスが感心したような表情で立っていた。六十を過ぎた老人の顔には深い皺が刻まれているが、その目は相変わらず鋭い。
「運が良かっただけです」クラルは立ち上がり、土で汚れた手を服で拭いながら答えた。「それより、東の畑の件はどうなりましたか?」
「ああ、あれか。君の言う通り、排水を改善したら見事に回復した。本当に、君がいてくれて助かるよ」
バルドスの言葉に、クラルは表面的な笑みを浮かべた。内心では、毎回この同じやり取りにうんざりしていた。彼の助言は的確で、村の農業を支えている。だが、それがどうしたというのだろう。
この村で一生を終えるのか
ふと、そんな思いが頭をよぎる。クラルは慌ててその考えを振り払った。村の人々は良い人ばかりだし、今の生活は昔に比べれば天国のようなものだ。不満を抱くなど贅沢な話だ。
「それにしても、君ほど農業に向いている若者は珍しい。将来はきっと村一番の農夫になるだろう」
バルドスの期待に満ちた言葉が、クラルの胸に重くのしかかった。
「...ありがとうございます」
その夜、クラルは一人で夕食の支度をしていた。質素だが清潔な食事。野菜のスープに黒パン、それに村で分けてもらったチーズ。どれも新鮮で、安全なものばかりだった。
昔とは大違いだ
スプーンを口に運びながら、彼は過去を思い返していた。
両親が生きていた頃、クラルの家は村の最下層に位置していた。父親は病弱で働けず、母親は他所から来た身元の怪しい女だった。村の人々は表向きは優しかったが、内心では一家を疎んじていた。
食事といえば、他の家庭の残飯や、腐りかけた野菜の切れ端が大部分を占めていた。時には明らかに腐敗した肉を煮込んで食べることもあった。幼いクラルは何度も腹を壊したが、それでも食べ続けるしかなかった。
両親が相次いで病死した後、状況はさらに悪化した。十二歳のクラルは、生きるために手段を選ばなくなった。
森で小動物を罠にかけ、生でかじることもあった。食べられそうな植物があれば何でも口にした。毒草と知らずに食べて苦しんだことも一度や二度ではない。しかし、不思議なことに彼は死ななかった。
今では、他の人なら腹を壊すような食べ物でも平気で消化できる。村の人々は「体が丈夫だ」と褒めてくれるが、真実は違う。単に、毒に慣れてしまっただけなのだ。
それから数日後、いつものように畑仕事に励んでいたクラルの元に、見慣れない一団が現れた。立派な馬に跨り、艶やかな革の鎧を身に纏った三人の男女。その装備の質の高さは、一目で分かるほどだった。
「すまない、この辺りに宿はないか?」
先頭の男性が声をかけてきた。年齢は三十代前半といったところで、背中には見事な装飾の施された剣を背負っている。その隣には魔法使いらしき女性と、弓を持った若い男性が控えていた。
「申し訳ございませんが、この村には宿屋はありません」クラルは丁寧に答えた。「最寄りの町まで行かれた方が...」
「そうか、困ったな」剣士の男は困ったような表情を見せた。「実は馬が疲れていて、今日はもう進めそうにない」
クラルは彼らの装備をさりげなく観察していた。剣の柄頭に刻まれた紋章、魔法使いの女性が持つ杖の宝石、弓使いの男性のクイーバーに収められた矢の羽根。どれも村では見たことのない上質なものばかりだった。
冒険者か
彼らの正体を推測したクラルの心は、俄然活気づいた。外の世界で活躍する人々。彼が密かに憧れていた存在だった。
村を見回すと、他の家々からは断られたのか、困ったような表情を浮かべている。皆、生活に余裕がなく、見知らぬ旅人を泊めるだけの余裕がないのだ。
「あの、もしよろしければ...」
クラルは一瞬躊躇したが、思い切って声をかけた。
「私の小屋でよろしければ、一晩お泊まりいただけますが」
三人は顔を見合わせた。クラルの住む小屋は村の外れにあり、決して立派とは言えない。だが、背に腹は代えられないといった様子で、剣士の男が頷いた。
「すまない、助かる。君の名前は?」
「クラルです。この村で農夫をしております」
「俺はガレス、こちらはエリナとトム。王都の冒険者ギルド『五戒の剣』に所属している」
やはり冒険者か
クラルの予想は的中した。心の奥で小さな興奮が渦巻いているのを感じながら、彼は三人を自分の小屋へと案内した。
クラルの小屋は確かに質素だったが、清潔に保たれていた。一人暮らしにしては整理整頓が行き届いており、本棚には農業関連の書物が並んでいる。
「君、一人暮らしか?」エリナが尋ねた。二十代後半と思われる魔法使いの女性は、知的な印象を与える。
「はい。両親は病気で亡くなりまして」クラルは淡々と答えた。「でも、村の皆さんが良くしてくださるので、不自由はありません」
嘘だ
彼の内心では、別の声が響いていた。両親が死んだ後の数年間は、まさに地獄だった。今の生活があるのは、ひとえに彼自身の努力と、そして異常なまでの生命力のおかげだった。
「そうか...すまない」ガレスが申し訳なさそうに言った。
「いえいえ、お気になさらず」
クラルは慣れた様子で夕食の支度を始めた。決して豪華ではないが、野菜たっぷりのスープと黒パン、それに自家製のチーズを用意する。食材は乏しいが、調理の腕は確かなものだった。
調理中、彼は無意識のうちに野菜の状態を確認していた。少し痛みかけたトマトがあったが、腐敗した部分を取り除けば問題ない。昔なら、そのまま食べていただろう。
「美味しいな、これ」トムが感心したように言った。「君、料理も上手いんだな」
「一人暮らしが長いもので」クラルは謙遜した。
それに、割と何でも食べられるようになったからな
「それより、冒険者のお仕事というのはどのようなものなのでしょうか?」
三人は顔を見合わせ、微笑んだ。そして、外の世界の話を始めた。
「基本的には魔獣の討伐や、商隊の護衛が多いな」ガレスが説明する。「ギルドから依頼を受けて、それをこなしていく。ランクが上がれば、より危険で報酬の高い仕事も回ってくる」
「ランク、ですか?」
「ああ、冒険者にはランクがあるんだ。SからFまでの六段階で、個人のステータスに基づいて決まる」エリナが補足した。「体力、攻撃力、防御力、魔法力、速度、幸運の六項目をそれぞれA〜F で評価される」
クラルは興味深そうに頷いた。ステータスという概念は村にはないものだったが、何となく理解できた。
「俺たちは三人ともBランクだ」トムが胸を張った。「まあ、まだまだ上があるけどな」
「Sランクの冒険者ともなると、ドラゴンすら単独で倒せるという話だ」ガレスが付け加えた。「もっとも、そんな化け物じみた奴らは片手で数えるほどしかいないがな」
ドラゴン
クラルの目が輝いた。伝説の中でしか聞いたことのない存在。それを実際に倒す人間がいるなんて。
「でも、危険な仕事でしょう?」クラルは心配そうに尋ねた。
「まあな」ガレスが苦笑いした。「でも、それがいいんだ。村で安穏と暮らすより、ずっと生きてる実感がある」
「王都はどのような場所なのですか?」
「賑やかな街だよ」エリナが目を輝かせた。「色んな種族の人々が住んでいて、毎日が刺激的だ。魔法の研究所もあるし、職人の工房もある」
「職人の工房?」
「ああ、鍛冶屋や錬金術師、魔道具師なんかがいる」トムが説明した。「冒険者の装備を作ったり、修理したりしてくれるんだ」
クラルはガレスたちの装備を見回した。確かに、村の鍛冶屋では作れないような精巧なものばかりだ。
「腕の良い職人は、冒険者以上に稼ぐって話だ」ガレスが付け加えた。「特に、オリジナルの魔道具を作れる奴なんかは引く手あまただな」
その言葉が、クラルの心の奥深くに響いた。職人。それは彼が考えたこともない道だった。
その夜、クラルはなかなか眠りにつけなかった。三人の冒険者は床に敷いた毛布の上で静かに寝息を立てている。月明かりが小屋の中をほのかに照らしていた。
クラルの頭の中は、今日聞いた話でいっぱいだった。王都の賑わい、様々な種族が行き交う街並み、危険だが刺激的な冒険者の生活、そして職人という新たな可能性。何もかもが新鮮で、魅力的だった。
彼は静かに起き上がり、窓辺に歩み寄った。外には見慣れた麦畑が広がっている。月光に照らされた穂が風に揺れる様は美しかったが、今の彼には単調に見えた。
このまま一生、この景色を見続けるのか
心の奥で燻っていた不満が、はっきりとした形になった。村の人々は良い人ばかりだし、今の生活は昔に比べれば天国のようなものだ。だが、それだけで人生を終えていいのだろうか。
クラルは自分の手を見つめた。農作業で鍛えられた手だが、まだ他の可能性を秘めているような気がした。今日、ガレスたちの装備を見たとき、彼は直感的にその構造や材質を理解できた。なぜかは分からないが、それらがどのように作られ、どのような特性を持つのかが手に取るように分かったのだ。
もしかすると...
漠然とした期待が胸の中で膨らんだ。しかし、彼は慎重だった。簡単に村を出るなどという話はできない。まずは、もっと情報を集める必要があった。
翌朝、三人の冒険者は早々に出発の準備を整えた。
「本当に助かった、クラル」ガレスが感謝を込めて言った。「お礼として、これを受け取ってくれ」
彼が差し出したのは、銀貨が数枚入った小さな袋だった。村で見る銅貨とは比較にならない価値がある。
「そんな、とても受け取れません」クラルは慌てて首を振った。
「遠慮するな。君がいなければ、俺たちは野宿するところだった」エリナが微笑んだ。「それに、もし何かあったら、王都のギルドを訪ねてくれ。
「王都に...」クラルは呟いた。
「ああ、君は冒険者に向いているかもしれない」トムが冗談めかして言った。「頭が良さそうだし、体つきもなかなかだ。それに、何となく生命力が強そうだ」
その言葉に、クラルは苦笑いした。確かに彼の生命力は異常だった。毒を食べても死なず、怪我をしても治りが早い。それは過酷な幼少期を生き抜いた証でもあった。
三人は笑いながら馬に跨った。そして、朝靄の中を王都の方向へと消えていった。
クラルは彼らの姿が見えなくなるまで見送った。手の中には、銀貨の入った袋がある。その重みが、現実感を与えていた。
それから数日間、クラルは普段通りに農作業を続けた。しかし、心の中では決意が固まりつつあった。
「クラル、明日は東の畑の種まきを頼む」バルドスが声をかけてきた。
「はい、分かりました」
表面的には何も変わらないクラルだったが、内心では既に決断を下していた。村を出る、と。
説得などしても無駄だ
彼は村での自分の立場をよく理解していた。農業の指導者的存在であり、村の将来を担う若者と期待されている。そんな彼が村を出たいなどと言えば、猛反対されるのは目に見えていた。
それなら最初から何も言わない方がいい
クラルは冷静に状況を分析した。感情的な説得よりも、既成事実を作る方が効率的だと判断したのだ。
その夜、準備をしながらクラルは幼い頃の記憶を辿っていた。両親が死んだ後、彼は森で様々な植物を口にした。中には明らかに毒草もあった。
最初に食べたのは、紫色の美しい実をつける木の実だった。他の子供なら確実に死んでいただろう。クラルも激しい腹痛と発熱に襲われたが、なんとか生き延びた。
その後も、赤いキノコ、苦い根っこ、刺のある葉っぱ。何でも口にした。時には小動物の死骸を生で食べることもあった。腐敗が進んでいても、背に腹は代えられなかった。
あの頃の経験が、今の俺を作ったのかもしれない
毒への耐性、生命力、そして何よりも生き抜く執念。それらは過酷な環境で培われたものだった。
クラルは農作業で使っていた自作の鉄の棒を手に取った。刃はついていないが、重さとバランスが丁度良い。邪魔の木の枝や小ぶりの木を叩き折ったり、狩りでの打撃武器としても使っていた。何かと役に立ちそうと思い持っていくことにした。
翌朝、クラルは誰にも告げることなく村を後にした。朝霧に紛れて、王都へ続く街道に向かう。振り返ることはなかった。
街道に出ると、王都行きの馬車が通りかかった。クラルはこの場所に馬車が来ることを知っていた。
「王都まで乗せてもらえませんか?」
「料金は銀貨二枚だが、構わないか?」御者が尋ねた。
クラルは迷わず銀貨を手渡した。ガレスからもらった銀貨の大部分だったが、後悔はなかった。
馬車に揺られながら、クラルは窓の外を眺めた。見慣れた田園風景が次第に遠ざかっていく。心の中で、小さな興奮が渦巻いていた。
新しい人生の始まりだ
陽が高く昇る頃、馬車は王都バルデリアの城壁が見える場所まで来ていた。石造りの巨大な城壁と、その向こうにそびえる王城。クラルが想像していた以上に壮大な光景だった。
「着いたぞ、若いの」御者が声をかけた。
「ありがとうございました」
クラルは馬車を降り、城門へと向かった。門の前では衛兵が通行人をチェックしている。緊張しながら順番を待っていると、彼の番がやってきた。
「初めてか?」衛兵が尋ねた。
「はい」
「目的は?」
一瞬、クラルは言葉に詰まった。冒険者になるつもりはあったが、本当の目標は別にあった。
「...仕事を探しに」
「そうか。なら、まずは中央広場の周辺を回ってみることだな。色々な店や工房がある」
「ありがとうございます」
クラルは深々と頭を下げ、王都の中へと足を踏み入れた。石畳の道、高い建物、行き交う人々。全てが新鮮で、心が躍った。
中央広場は想像以上に賑やかだった。商人たちが声高に商品を売り、様々な種族の人々が行き交っている。その一角に、立派な石造りの建物があった。入り口には『冒険者ギルド 五戒の剣』と刻まれた看板が掲げられている。
ここがガレスたちがいた場所か
クラルは建物を見上げた。ここから先が、本当の意味での新しい人生だった。
まずは冒険者登録をして、それから考えよう
彼は深呼吸し、ギルドの扉に手をかけた。重い木の扉がゆっくりと開かれ、中からは活気ある声が聞こえてくる。
「いらっしゃい!新人さんかい?」
受付嬢の明るい声が、クラルを迎え入れた。彼女は二十代前半の快活そうな女性で、冒険者たちに慣れた様子で接している。
「はい、冒険者登録をしたくて参りました」
「了解!まずは適性検査からね。こちらへどうぞ」
受付嬢に案内されて、クラルは奥の部屋へと向かった。そこには魔法的な装置が設置されており、ステータスを測定できるようになっていた。
「じゃあ、この台の上に手を置いて」
言われた通りにすると、装置が淡い光を放った。しばらくして、紙にステータスが印字される。
「えっと...体力A、攻撃力B、防御力C、魔法力F、速度B、幸運E...」
受付嬢の声のトーンが変わった。
「これって...Aランク相当じゃない!」
周囲にいた冒険者たちも振り返った。新人でAランクというのは、確かに珍しい。
「Aランクですか」クラルは冷静に受け止めた。幼い頃から生き延びてきた自分なら、これくらいは当然かもしれない。
毒への耐性も測定されてるのかな
内心でそんなことを考えながら、彼は次の展開を待った。
「ちょっと待ってて、ギルドマスターを呼んでくるから!」
受付嬢は慌てて奥へと走っていった。残されたクラルは、周囲の冒険者たちの視線を感じながら、静かに待っていた。
始まったな
心の奥で、小さく笑みを浮かべた。農村の生活に終止符を打ち、新たな道を歩み始めた青年の物語が、今、動き出そうとしていた。彼の真の目標である鍛冶屋への道は、まだ誰にも明かされていない。
しばらくして、受付嬢と共に一人の中年男性が現れた。がっしりとした体格で、顔には幾つもの傷跡が刻まれている。元冒険者であることは一目瞭然だった。
「君がAランクの新人か」男性は鋭い目でクラルを見つめた。「俺はアルバート・グレイソン、このギルドのマスターだ」
「クラルと申します」
クラルは丁寧に頭を下げた。内心では、アルバートの体格や傷跡から彼の経歴を分析していた。右肩の傷は刃物によるもの、左腕の火傷跡は魔法攻撃、歩き方から見て右足に古傷がある。相当な修羅場をくぐってきた人物だ。
「新人でAランクというのは珍しい。どこで鍛えた?」
「村で農作業を」クラルは素直に答えた。
アルバートは眉をひそめた。「農作業でAランクのステータス?そんなことがあるものか」
「両親を亡くしてから、生きるために必死でした」
クラルの言葉には嘘がなかった。ただし、全てを語っているわけでもない。
「...なるほど」とアルバートは何かを理解したような表情を見せた。
クラルは受付カウンターで冒険者証の発行手続きを済ませた。
銅製のプレートには『クラル・ヴァイス Aランク』と刻まれている。手にした瞬間、周囲の冒険者たちからざわめきが起こった。
「新人でAランクって、マジかよ」
「あいつ、何者だ?」
「見た目は華奢なのに…」
クラルは表情を変えることなく、内心で状況を分析していた。
注目を集めすぎた。これは計算外だ
受付嬢のマリアが申し訳なさそうに声をかけてきた。
「あの、クラルさん。みんな興味を持ってるみたいですが、初回の依頼はどうされますか?Aランクなら高額報酬の案件もありますよ」
「依頼ですか」クラルは少し考えるような素振りを見せた。実際には、既に答えは決まっている。「申し訳ないのですが、しばらくは様子を見させていただきたく」
「え?でも、Aランクの方が依頼を受けないなんて…」
マリアの困惑は理解できた。ギルドにとって、Aランク冒険者は貴重な戦力だ。その戦力が稼働しないのは、組織全体の損失を意味する。
「一年以内には必ず」クラルは丁寧に頭を下げた。「まだ王都の生活に慣れておらず、準備が必要なのです」
嘘ではない。ただし、全てを語ってもいない。