4話
「千晴の答えを聞いてもいいか?」
「私は…
悠真といて自分の知らないことを体験できたから楽しかったわ、でもそれだけ…
あとは何にも思わなかったわ、私は悠真を好きにはならなかった。
私にとっては悠真と過ごす日々はお遊びでしかなかったわ。だから悠真との関係も今日までね、所詮悠真も私には勝てなかったのよ。そんなやつに興味ないわ、もっといい人がいるはずだもの。それに簡単に私の演技に騙されて馬鹿みたい!
じゃあね当て馬さん!」
「あぁ…そうか俺はお遊びだったんだな….
最低だな!千晴がそんな人だとは思わなかった。
俺と楽しく出掛けた日も……嘘だったんだな。
もう信じられねーよ……
顔も見たくない……
じゃあな…」
私は悠真が屋上から出るのをずっと目で追って、出たのを確認してからうずくまって静かに泣いた…
悠真が屋上を出る時、振り返っていたら危なかったな…
涙が溢れていたんだもの、悠真が振り返らなくてよかった……
あぁ…嫌われてしまった…私の好きな人
私が初めて恋をして、愛した人…
さようなら…私の恋心
さようなら…悠真
次はもっと早くに出会いたいな……
私はひとしきり屋上で泣いたあと、保健室に行き先生に挨拶をした。
「今まで、ありがとうございました…」
「鬼月君には…言わなくていいの?」
「はい…
悠真の人生に私は必要ありません、
もうすぐこの世から消える人間なんて覚えていても損をするだけですよ……」
「……そう。貴方がそういうなら仕方ないわ…
私は…何も言えない…」
「先生にはいろいろ相談乗ってもらったりして本当にお世話になりました。
もし悠真が来ても内緒にしてくださいね…」
「………ほらそろそろ、他の人にも挨拶に行ったほうがいいわよ、時間がなくなるわよ」
「本当にありがとうございました」
「もう、行きなさい…」
保健室の先生に挨拶したら担任の先生に挨拶しに行った。
「先生、お世話になりました」
「鬼月には、言ったのか?」
「いいえ、言ってません。なので先生、言わないでいただけませんか?
悠真には秘密でお願いします」
「わかった、言わないでいてやるよ」
「ありがとうございます、それでは失礼します」
「おう…」
私は担任の先生にも挨拶に行き、最後に校長先生に退学届を提出した。
学校に置いてある荷物も少しずつ家に持ち帰っていたので、今日学校から持ち帰ってきたので最後の荷物だった…
もう学校に私のものは何もない……
次の日になり、私は悠真との思い出の品と日記を入れた鞄を持って病院に向かった。
病室に入り、悠真との思い出の品をベットの周りに飾り、学校の方を見つめて呟いた…
「今日から、入院か…
悠真は学校に行っているのかな?」
私は、あとは死ぬのを待つだけ……
悠真が幸せになれますように……
最後は酷いこと言ってごめんね………
私は心の中でそっと呟いた――
悠真side
俺は千晴に放課後、屋上で待つように言われた時は幸せだった……
でも千晴が来てから話し合いをした後に屋上を出た時は、涙が出そうなくらい悲しかった……
千晴があんなことを思っていたなんて信じたくなくて、でも千晴の口から言われた言葉だったから本当なんだろうな……
まさか千晴が楽しそうにしている姿が演技だとは思わなかった…
本当に喜んでいると思っていた…
でも不思議なことに、千晴にあんなことを言われたのにまだ千晴のことが好きみたいだ……
振られてから1週間が経ち、俺らが別れたと噂されていたのも落ち着いてきた…
ただ千晴が来ない…どうしたのだろうか……
何かあったのか?……
いいや今更、千晴のことを考えたって意味がない….
明日は来るよな?
千晴が次の日になっても来なかった。
次の日どころか、その次の日も、またその次の日も来なかった…
担任は何も言わないし、何がどうなっているんだ?
よし、担任に聞いてみよう…
放課後になり、俺は廊下に出た担任に話しかけた。
「先生、狐白さんはどうしてずっとお休みなんですか?」
「あぁ…あいつはもう学校には来ないぞ。退学しちまったからな」
「えっ?どうゆうことですか?」
「どうにもこうにも退学をした。それだけだ…
詳しい話が聞きたいなら保健室に行くことだな…
あいつはよく保健室に行っていたからな…」
「保健室ですね…ありがとうございます!」
俺は保健室まで急足で歩いた。
そんな俺の耳には先生の言葉は届かなかった――
「俺にできるのは、これぐらいしかねー……」
コンコン
「失礼します、先生はいますか?」
「はいはい、今日はどうしたの?」
「あの…狐白さんがどうしてこないのか知りませんか?」
「あぁ…狐白さんね…
あの子は学校を辞めてしまったわよ」
「はい、それは担任の先生から聞きました、なぜ辞めてしまったんですか?」
「うーん、私は口止めされているのよね。
でも…言わないとは言ってないしね…
言ってあげてもいいわ…
ただ貴方にとっての狐白さんは何?」
「俺にとって……
大切な人…
俺には…千晴が必要です。
千晴がいないと俺は生きている意味を見出せない。
他の誰でもなく千晴がいい。
俺は生涯、千晴しか好きになりませんし、愛せません。
それほどまでに俺の中では千晴の存在が大きいです」
「そう、ただ今から独り言を言うけど貴方には耐えられるかしら?」
「お願いします」
「狐白さんは原因不明の病気でね…
あと2週間も生きられないわ」
「え…そんな…」
「今はね、ここから見える大きな病院があるでしょう?あそこで入院しているわ…
本当はねもう少し長く生きられたのよ、ただよっぽど鬼月君と過ごす日々が楽しかったのでしょうね…
病院から言われた時点で入院をしたらあと3ヶ月は生きる事ができたのに、入院をしなかったから1ヶ月半しか生きる事ができないんですって…
そして、今はそれを言われてから1ヶ月と少しが経ったから、もう2週間も生きられないわ…」
「な、なんで千晴は……
入院をしなかったんですか?」
「それは、最初にも言ったでしょう?
鬼月君と過ごす日々が楽しかった…って
その時点で入院をしてしまえば鬼月君とは一生会えないわ…
なら少ない命でもいい、残りの少ない時間を好きな人の隣にいられるのなら……
狐白さんはそう思ったんですって…」
「でも、俺は振られました…
千晴は俺には病気のことを話してくれませんでした…….」
「それは、誰でも言いたくわないわよ。
自分が死ぬからそれまで一緒にいてくれだなんてね…
それに狐白さんは最後に、鬼月君の人生に私は必要ないって言ってたわよ。
貴方はまだ先の人生がある、その中でたまには私を思い出してこんな奴と付き合ってたなって思い出話にして欲しいって……
最後に、屋上での事はごめんなさいとずっと謝っていたわよ…
貴方には言えないけど、本当は全部逆だったってね…」
「なんだよ…
それ…
勝手すぎるだろ…
人に勝負を仕掛けておいて、勝手に心を奪って勝ち逃げかよ…
俺は、思い出話になんかできない…
これから先、千晴しか…
愛せない」