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宮沢賢治「永訣の朝」に対する勝手な考察

作者: 吉田ルネ


 みなさん、ごぞんじ「永訣の朝」。

 宮沢賢治が妹の死を嘆いて作った詩です。


「あめゆじゅとてちてけんじゃ」

 その中の一節。としが賢治に向かって言ったことばですね。

「雨雪取ってきて、賢治」

 一般的にそう訳されます。取ってきてちょうだい。という訳もありますけれど。


 昔から違和感があったんですね。

 賢治って呼び捨てにする? おにいさんを。

 「取ってきて」って命令みたいに言う?


 ないと思います。

 まだまだ封建制、男尊女卑が強い時代。ましてや田舎。

 そんな口の利き方は絶対にないと思うんです。


 わたしの母の実家の話をしましょう。

 母の実家は、宮沢賢治の生家とそう遠くありません。城下盛岡と県南地域の中間あたり。同じエリアです。訛りも文化もほぼ一緒。

もう少し南に行くと、訛りも文化もぐっと仙台よりになります。結婚式やお葬式の作法なんかぜんぜん違ったりします。


 母の実家も賢治の実家と同じように、宿場町で手広く商売をしていました。

 家は今でいう「町屋」という造りで、街道に面した店舗、その奥が居間、台所、そして裏庭。表から裏へまっすぐに土間が続いています。くつを脱がずに裏へ行けるんですね。


 裏庭には物置、蚕の小屋。おふろとトイレ(昔は外にあった)。さらに向こうに畑。

 いろんな業者さんがそこを出入りしていました。


そして居間の真ん中に長火鉢があって、いつもお客さんがそこでお茶を飲んでいたり、業者さんが一休みしたりしていました。


 長火鉢は銭形平次に出てくるやつですね。木製で長方形の火鉢。五徳の上には鉄瓶。縁で煙管をカンカンっとたたくやつ。

 そういえば、銭形平次の原作者、野村胡堂は母と同郷です。


 似たような環境と言いたかったんです。


 で、家族のことです。「にいさん」と呼ばれるのは惣領(長男、跡継ぎ)だけです。あとの兄妹は名前で呼んでいましたよ。愛称ですね。○○さん。○○ちゃん。賢治なら賢さん、または賢ちゃん。


 宮沢賢治は長男なので「おにいさん、にいさん」と呼ばれたはずです。

 呼び捨てにするのは、親と年上の男の人でした。女の人は年上でも○○さん、○○ちゃんと呼んでいました。


 当時は7人兄弟、8人兄弟がざら。「おにいさん」がたくさんいたからですね。

 それに昔は本家があり、その周辺に分家がいくつもあるから、「おにいさん」はさらに増えます。

 「おにいさん」と呼んだら、何人も振りかえる状態です。困りますよね。

 たまたま名前がかぶると屋号をつけます。歌舞伎の「成田屋」とか「音羽屋」ですね。

 ○○屋の賢さん。□□屋の賢さん。

 分家は本家に気を遣って、似たような名前を避けていたかもしれません。


 ちなみに田舎の地区名は屋号だったりします。大きな杉の木が立っていたから「一本杉」とか川が合流する場所だから「川又」とか。


 そんなわけで、妹が兄を呼び捨てにすることはなかったと思います。

 違和感の原因です。


 たぶん「けんじゃ」が「賢治」に訳されたからだと思います。

 どうがんばっても「けんじ」が「けんじゃ」にはならないなぁ。むりやり「賢治や」という呼びかけにできるかもしれませんが、やっぱり呼び捨てはないなぁ。


 それでふと思いついたんです。

 「けれじゃ」じゃない?


 「けれ」または「けで」

 文脈によって言いかたは変わりますが、意味は同じです。

 英語のan appleが「アンアップル」じゃなくて「アナップル」になるみたいなことです。言いやすいように変わるんですね。

語尾につけると「してちょうだい」「してください」というおねがいの意味になります。


 取ってきてけで→取ってきてちょうだい

 偉そうじゃなくなりますね。


 「じゃ」はあまり意味がないかな。語尾につけることばです。

 行ってくるじゃ→行ってくるよ

 見てるじゃ→見てるよ

 関西弁の「や」みたいなかんじ?

 宝石箱や→宝石箱だじゃ

 あれ? 「だじゃ」になった。動詞と名詞のちがいかな?

 国語学者じゃないので、そこまで説明できません。ごめんなさい。


 あめゆじゅとてちてけんじゃ。

  →雨雪取ってきてちょうだい。


 病床の妹が兄に甘えて言ったことばとしては、しっくりきませんかね。


 以上、素人の勝手な考察でした。ただの思いつきです。ツッコまないでください。


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