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同居人  作者: 不動坊多喜


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22/25

同居人(22)七七日①

  七七日(なななぬか)


 次の日の昼休み、俺は意を決して増田君に聞いた。

「松ちゃんは、どうしてるの?」

 松ちゃんこと松島君は、小学校時代のゲーム仲間だ。彼の姿が見えないのは、どうも寂しい。ただ、今までは自分のことで手一杯、彼のことを気にする余裕がなかった。

 増田君は、困ったように顔をゆがめた。

「う……ん。まぁ、今でも一緒にゲームするけどねぇ……」

 語尾を濁す。

 じっと見つめると、はあっと大きくため息をついた。

「最近、学校に来てないんだ」

「えっ」

 人ごとに思えなくて、問いただす。

「何時から?」

「うーん。歩夢が来なくなってしばらくしてからかなぁ」

「それ、最近じゃないだろ」

「うぅん。そだね」

 母さんが口をはさんだ。

「もしかして、高山にいじめられたからかい」

 増田君は、首を傾げた。

「多分……。いや、でもぉ、分からない」

「分からないって?」

「だってぇ、歩夢はいじめのせいじゃないんだろう? 松ちゃんだって、どうだかぁ」

 増田君の話では、行事の時は学校に来るらしい。修学旅行は参加したし、体育祭も来ていたという。

「それにぃ、いじめを苦にしてたら、もっと、こう、思い悩んで暗いと思うんだけどぉ」

「落ち込んでないの?」

「そうは見えない」

 埒が明かないと思った俺は、放課後、増田君と一緒に尋ねる約束をした。


 自転車の荷台に括りつけられた段ボール箱を見て、増田君は笑った。

「シューを連れてくのぉ?」

「舞がいなかったんだよ」

 母さんが付け足した。

「それに、シューに会った人はみんな幸せになってるからね」

「確かにぃ」

 増田君は、また笑った。俺も笑った。


 松島君は、笑顔で俺たちを迎えてくれた。

「お久」

「ぶり」

 合言葉みたいで可笑しい。三人で笑いあうと、昔を思い出す。

 松島君も、やっぱりシューを見て喜んだ。

 掌に乗せ、さかんに指先で耳元や喉元をかいてやっている。

 それから、静かに話し始めた。

「学校へ行かなきゃって思って、夜、準備するんだ。でも、朝起きたらおなかが痛くて、トイレに入ったら動けなくって……」

「あ、俺も同じだった」

 思わず目が合う。松島君は笑っているのに、目は泣きそうだった。

「行くのやめようって決めたら、痛くなくなって。これって、やっぱり怠けかなあ」

『どうなんだ』と、母さんに問いかける。が、返事はない。

 そのあとはゲーム三昧で昼夜逆転(これも、俺と同じだ)、今は、学習支援センターという所へ通っているらしい。

「勉強してるんだぁ」

「してないよ。卓球したりドラム教えてもらったり。まあ、朝、起きてどこかへ出かける練習だよ」

 ちくっと、言葉が胸を刺す。

 俺は、毎朝無理やり起こされて学校に引っ張り出されているうちに、だんだんリズムが正しくなって、今は日中起きていることも平気になった。

 そうか、練習なんだ。

 答えるように、母さんがささやく。

『起立性調節障害とか、本当に起きられない人もいるけど、たいていは習慣だよ』

「今も行きたい気持ちはあるんだよ。でも、勉強はさっぱり分からないし、それなのに、もう残り半年ないし、……」

 ずん、と言葉が胸に沈む。

「高校は、行くのぉ?」

「行きたいなあ。でも、行けないだろうなあ」

 いきなり、母さんがしゃべり始める。

「少子化で定員割れする学校もあるから、全日制でも入れるところはあると思う。もっとも、そういう学校は荒れていることが多いから、あまりお勧めはできない。

でも、通信高校とか定時制とか私立のサポート校とか、他にも道はたくさんある。

ただ、私立はこの辺りにないし、お金もかかるし。

通信高校はスクーリングの日だけ登校すればいいから楽だけど、レポートが大変だって言う人もいる。家で一人で勉強しなきゃならないから、勉強のできない人にはしんどいのかもしれない。

定時制は地域にもよるけど、このあたりの学校は個別に対応してくれるし、頑張れば三年で卒業できるコースもあるし。ただ、昼間働くことを奨励されるから、それができるなら一番いいと思うよ」

 二人は、ポカンとした表情で俺を見ている。そりゃそうだ。俺も驚いている。

「歩夢、すごい、よく知ってる」

「先生みたいだぁ」

「ま、まあ、母さんが先生だったから……」

 これで誤魔化せるのが不思議だけど、二人は母さんの存在を知らないから仕方ない。

 松島君はちょっと笑って、それから言った。

「それで、歩夢はどうするの?」

「えっ? 何が?」

「高校。どの道を選ぶか、もう決めてるの?」

「いや……。まだ、何も」

 そうだ。他人事じゃないんだ。

 言葉が重みを増してのしかかってくる。



 土曜日、俺は自転車で走る。が、今日の行き先は病院ではない。

 目的は、トイレ。「三週目頃、子猫用のトイレを用意する」と本にあったのだ。

 近所の量販店も、すっかり常連、顔なじみだ。バイトのお姉さんが微笑んで迎えてくれる。

 ペットコーナーにはいろいろな商品が並んでいる。

 CMでよく見るキャットフードや猫用おやつはもちろん、首輪、爪とぎのような実用品から猫じゃらしのおもちゃ、猫用のファニチャーまで。ネコブームは本当らしい。

 トイレだが、それもピンからキリまであった。蓋の付いた個室になったものが目を引いたが、高い。砂も買わなくてはいけないから、持ち合わせでは足りない。

 所詮トイレと割り切り、一番安い、平たいものを選ぶ。

 砂もいろいろあったが、おしっこで固まる消臭タイプのもので一番安いのを買った。

 段ボール箱に商品を詰め、自転車の荷台にくくりつける。

 そういえば、相談室の榎本先生と、シューが動き回るようになったらキャリーバッグを買って学校に行くと約束したはずだ。母さんもすっかり忘れていたようだ。

『ごめんなさい。バッグを買うお金がありません。て、素直に言えば許してくれるんじゃないかな』

 珍しく母さんが下手に出るので、俺は強気に出た。

『どうかなあ。できない約束はしちゃいけません、て母さんいつも言ってたよね』

 怒ったようにグルグルうなり声を立てる。獣かよ。

『まあ、まだそんなに活発じゃないから、段ボール箱でも大丈夫なんじゃない』

 言いつつ、箱から脱出する日は近いと確信していた。それまでに、買わねば。



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