不動さんと初めてのデートです!
(美琴視点)
ある日の夜のことです。わたしはムースさんの帰りを待っていました。
夕ご飯を食べ終えたあと、彼女は突然に不動さんに会いに行くと言い出したのです。
今日は遅いので明日にしたらどうかと説得してみたのですけれど、いつもはわたしの意見を尊重してくれるはずのムースさんがどういうわけか何かに動かされるかのように、わたしの言葉に聞く耳を貸してはくれずに外へ飛び出してしまったのです。
外は星が瞬くほどに晴れていますから雨に濡れる心配はありませんけれど、あまりに遅くなるようでしたら心配です。
一応、彼女に念を送ってみたのですが反応はありません。
あまりに心配しすぎてもかえって彼女に悪いと考えたものですから、わたしは気を紛らわせる意味でもテレビを見て待っていました。
しばらくして、ようやくムースさんが帰宅しました。
急いで帰ってきたのか息が切れています。
わたしは彼女が落ち着くようにと沸かした紅茶をカップに注いで差し出してから、彼女が話し出すのを待っていました。
ムースさんは熱々の紅茶を一気に飲んで、真剣な眼差しでわたしを見ます。
その表情にわたしは唾を飲み込みます。
彼女はこれから何を話すつもりなのでしょうか。
期待と不安が半分ずつの気持ちを抱いていますと、彼女はこんなことを言いました。
「美琴様。明日お洋服を買いに行きましょう」
「いいですよ。ムースさんも新しいお洋服が欲しいのではと思っていたものですから」
「いいえ。わたくしではありません。あなたと不動様とのデート用の服を買いに行くのです」
「デート用、ですか?」
「あなたと不動さんはデートをするのですわ」
ムースさんの言葉を何度も反芻して、やっと彼女の言葉の意味が読み取れました。
ムースさんはわたしと不動さんの仲を少しでも進展させたくて仕方がないようなのです。
素敵なお友達を持つことができてわたしも大変うれしいのですけれど、いざデートとなりますと緊張します。
「少し予行演習ができるといいのですけれど」
「それでしたら、わたくしがお相手を務めさせていただきますわ」
ムースさんは少しだけ胸をそらして嬉しそうに言いました。
翌日はデパートで素敵な白いワンピースとお洒落な黒い革靴を購入しました。
彼女も絶賛してくれたお洋服ですから、きっと不動さんも気に入るに違いありません。
☆
デート当日。
最初はわたしが主導しようと張り切っていたのですけれど、いつの間にか不動さんのペースに飲まれてしまいました。
遊園地について一緒にアトラクションを回りたかったのですけれど、残念ながら彼は大きすぎる体格のせいでほとんどの遊具に乗ることはできませんでした。
わたしだけ楽しむのはちょっぴり申し訳なさがあったのですけれど、そんなことは気にすることはないと言ってくれたおかげで思う存分遊ぶことができました。
まるで子供みたいにたくさん遊んで、最高に充実した時間を過ごすことができました。
お昼になって、不動さんがおにぎりがたくさん入った重箱を出してくれて、大好きなおにぎりを好きなだけ食べることができて、夢のようです。
いつもは自分でも作るのですけれど、不動さんの作るおにぎりはわたしよりもずっとおいしくて、心の中で敗北感を覚えてしまいました。
おにぎりを食べているときに無意識に「大好き」と口にしてしまったのですけれど、彼は気づいているでしょうか。
本当はもっとちゃんとした形で告白した方がいいのかもしれないのですけれど。
これが今のわたしにできる精一杯の告白です。
不動さん。
わたしはいつか、何年先になるかはわかりませんけれど、あなたへ想いを伝えてみせます。
ですから不動さんもいつまでも強くカッコイイスター流の鬼神様でいてほしいです。
おしまい。




