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19 画材屋さん

 待ちに待った土曜日。お気に入りのワンピースを着て、バスが来るのを待った。

 早くバスが来てほしいような、このままずっと待っていたいような、フクザツな気持ち。

 何度も案内表示板の時刻表を指でなぞって、時間が合っているかたしかめる。

 バスのなかで待ち合わせなんて、なんだかフシギ。


 やがて、停留所に向かってくるバスが見えてきて、思わずピンと背すじをのばす。

 プシューと、バスの扉が目の前で開いた。


「吉野入口、吉野入口です」


 運転手さんのアナウンスを聞きながらステップをあがると、いつもの座に神山くんが座っているのがみえた。


 普段とちがう帽子に、黒一色のシャツとズボン。

 首元には、キラッと光るネックレスが下がっている。

 目が合うと、神山くんは「おう」と言ってぶっきらぼうに手をあげてくれた。


「神山くん、いつもと雰囲気ちがうね。すごく似合ってる」

「そりゃ、せっかく出かけるからな」


 それって、私のためにおしゃれをしてきてくれたってこと? 

 神山くんも、今日を楽しみにしてくれていたのかな。


「あんたの服も、いいじゃん」

 神山くんはクスッと笑う。

「あ、ありがとう」


 神山くんに褒められた! それだけで、なぜか胸がドキドキしちゃう。


 バスから降りると、神山くんは大きく伸びをした。

 駅前は、土曜日とあっていつもより賑わっている。

 いつもはまっすぐ学校に行くけど、今日は神山くんと並んで商店街へ向かった。

 こうして、一緒にバスの外を歩くのははじめてだから変な感じ。


「このまま店に行ってもいいけど、あんた買い物とかないの?」


 神山くんは足を止めて、私をふり返った。


「たとえば画材とかさ。ここの商店街、画材店も入ってるんだぜ」


 ぴくっ! つい反応しちゃう。画材店は、私の大好きな場所だから。


「でも、画材はほとんど捨てちゃったの」

「それなら、余計ちょうどいいじゃん」

「でも」

「いいから行こうぜ」


 くるりと背を向け、神山くんは迷いのない足取りで商店街を進んでいく。

 そのままついていくと、ちょっと古めかしいお店が見えてきた。


 店内をのぞいてみる。ほのかなオレンジの電灯に照らされて、ずらりと画材が並んでいた。


「わあ、すごい!」


 気がつくと、私はお店のなかに飛び込んでいた。

 デッサン用の鉛筆に、練り消しゴム。スケッチブックに、木製のパレット。

 きれいな額縁に120色の色鉛筆、たくさんの絵筆に、ペン先、インク瓶!

 神山くんからはなれて、私は店内を泳ぐように歩きまわった。


 新品の画材を手にとるだけで、わくわくしちゃう。


 このペンを使ったら、いったいどんな絵が描けるだろう?

 あの色、すごくきれい。画用紙に塗ったら映えるだろうなあ。


 胸の奥から熱くなって、妄想が止まらない。


「ははっ」

 はっとしてふり返ると、神山くんがうれしそうに笑っていた。


「あんた、ほんとに絵を描くのが好きなんだな」


 ドクン、と心臓が高鳴る。


「うん……好き」


 そう言って、手にしていたスケッチブックを棚にもどした。


「ん? 買わねえの?」

「見るだけにしとく。私には絵を描く資格がないから」


 神山くんは、肩をすくめる。


「それ、自分で決めつけてるだけなんじゃないの?」

「そんなことは……」


 言葉をさえぎるように、神山くんの手が伸びてきた。

 そのまま、私が棚に戻したスケッチブックを取る。

、神山くん?」


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