ティーパーティーしようよ!
「なんだこの計画は!もう一遍やり直し!」
市ヶ谷 陸軍省陸軍参謀本部の一角に怒号が響く。
其の怒号は、詳しく述べるならば、そこから右に坂を上った銀杏並木のある当たり、そこに急遽建設された一応電機と電話は通った掘っ建て小屋からであるが。
怒号の主の名は辻正信と言った。
志那戦線終結により、一大命題であった援蔣ルート遮断は煙の様に消え、大本営ごり押しのインパール作戦事ウ号作戦も驚天動地の新兵器投入によりダッカを射程圏に捕らえた今、扱い難い事この上ないこの男は本土に叩き返されていた。
それを拾ったのが東条英機首相肝いりの特務機関である。
名をガ号機関と付けられたこの機関であるが、ありとあらゆる所に横紙破りをかます厄介者として、ここ数か月悪名を轟かせている。
それが許されるのは偏に、支那を下した東条内閣の力である、東条英機はどの様にしたのかは分からないが、恐れ多くも天皇陛下の信任をも大いに得、独裁者の道を走り抜けようとしている。
掣肘する者たち?誰が居ると言うのだ?誰が国民の殆どが、どうやって裏をかくか必死の総力戦体制を自転車操業できると言うのだ?
東条に勝ちたければ、東京と大阪のスラム街に燻っている日雇い労働者ををチョコレートとパインアップルとコンデンスミルクで窒息させる必要がある。
止めろと言うのに、この戦時に旅行にでる大馬鹿者共が圧迫する鉄道流通から食料輸送を取り除く奇跡が誰に出来よう?
飛騨の山奥の電気も通ってない寒村に、米俵と新巻鮭とコンビーフ缶を山ほど送り付ける事が、近衛に出来るか?岡田に?若槻に?平沼に?できやしないだろう。
東条英機と彼が率いる特務機関には出来るのだ。
勿論それは彼の背後に居る未来人の連合国に取って迷惑千番なお節介のせいであるが。
「だーかーら!なんだこのクサヤ爆弾とは!味方まで巻き込むだろうが!第一クサヤなんてもの食い物ではない!あれは元から兵器だ!兵器!兵を殺すつもりか!」
話を戻そう。お気づきかと思うが、未来人の善意を東条英機とそのブレーンたちは大東亜戦争勝利の為の兵器として活用してる。
重慶を襲った糖蜜津波、延安を窒息させた一味唐辛子の嵐、支那全土の匪賊支配地域を枯死させた、しょっつる豪雨はその成果だ。
字面は馬鹿馬鹿しいが威力は凄まじい。特に東北系ブレーンの考えだした塩系の奴は。
周囲数百キロの水源から土壌まで汚染し人の生きてはいけない土地に変えるが、毒ガスや生物兵器とは違うので侵攻可能、飢えて渇いてのたうつ敵の目の前で、キリリと冷えたサイダーをグビリとやりながら降伏を迫るのだ。
逆らうならやり直し、逃げるなら醤油でも味噌でも豚骨でもお好みの雨が追っかける。
味方の筈であった広大な大陸が牙を剥くのであるから、支那人は白旗を上げたのも無理からぬ事だろう。
後は首輪を付けるだけ、不毛の荒野を耕すだの回復などさせはしない。好きなだけ食わせてやるし飲ませてやるから我らの為に資源を掘るんだだよ!
何時かは寝首を掻いてやると思っていた汪兆銘もこれには怯えている。日本が手を引けば飢えて死ぬのだ。
大陸はこれで良い。ソ連すら上手く行けば殺せる可能性すら出て来た。
現在、支那戦線に戦力を取られるだけ取られて、猫さえ跨ぐ鶏ガラの様になっている、満ソ国境の戦力は回復中であるし、ソ連に全く気付かれる事無く大工作を行っているのだ。ことあればソ連極東軍は地獄を見る事になるだろう。
ビルマインド戦線も同じく、その進撃は緩やかであるが青い気吐息だった数か月前が嘘のようだ。
チャンドラ・ボース率いるインド国民軍は早期のダッカ突入とカルカッタ解放を要求しているが今は戦力の回復と、これまで散々手こずらせてくれたイギリス軍に、熱ーい紅茶をご馳走してやる時である。
「イギリス軍は立場が完全に逆転したように、インド死守の構えで一歩も引かず抵抗してくる。であるならば徹底的にすり減らしインド支配も覚束ない程ガタガタにしてやる」乗りに乗る牟田口廉也はそう述べる程だ
だが太平洋となると勝手が違う。食い物でどうやって戦艦を沈める?雲霞の如く襲い来る艦載機をクサヤ爆弾では撃墜は出来ない。
時は1944年5月後半 米国の大攻勢は近づきつつある。
ビルマ戦線 チッタゴン
「頭を上げるな!死にたいのか!」
英軍大尉チャールズは塹壕に籠りながら迂闊に頭を上げた部下を叱咤する。
ドン!ものすごい音を立て塹壕の周りには次々と大きな物体が着弾する。
(こんな物で死んだら英国軍人の恥だ!)
チャールズ大尉がそう思うのも無理はない。いま正に彼が防衛する飛行場に降り注いでいる物は、、、
「そこ!食ってる場合か!食うな!毒かもしれんだろうが!」
「ふぃません!朝から食ってないもんで!でもいけますよこれ、大尉もどうです?死ぬ前位故郷の味を楽しんでも罰は当たりませんよ」
「ばかぁ!それでも軍人か貴様!」
もごもご言ってる部下に怒鳴りつける大尉。そう降って来るものそれは、、、
「でも美味いんですよこのスコーン、、、ああ紅茶が欲しい」
スコーンである。一抱えもある熱々のスコーンがすこーんと勢いよく飛行場に降り注いでくる。
何処から観測している物かダックインしているM3戦車は集中砲火?を受けスコーンの山に埋もれてしまった。逃げた戦車兵がスコーンに潰されて、付け合わせのジャムになったのが見えたので夢でも幻でもない。
一時間は続いたスコーンの雨は防御陣地を埋め尽くし、運の悪い塹壕はスコーンに埋め尽くされ英・印兵士はスコーン死していく。
笑いごとではない死んでいる。圧死、窒息、脳挫傷、焼き立てスコーンで顔面大やけど、笑えない全然笑えない、こんな死に方は嫌だ!
そして甘い死の雨が終わったかと思えば日本軍はやってきた。
火炎放射器と思しきボンベ背負った兵士が多数見える。
「なんだあいつ等?私達をスコーンと一緒に焼いて食うのか?ふざけやがって!総員何してる!反撃しろ」
悪夢のような事態にあってもそこは栄えある英国軍人たちである。
生き残った者達はあらん限りの火器を投じ防御戦闘を開始する。
とどうであろう。火炎放射兵と思しき兵は有効射程の遥か手前で何かを散布仕出したではないか?
「まさか!総員装面!ガスだ!」
あいつ等毒ガスを使うつもりか!そうだ!スコーンで戦争できるか!
変な話であるが大尉は何だかホッとした。
(そうだよ戦争と言う物はこう言う者だ。ああ安心した。相手は一応真面目だ。これでウナギのゼリー寄せやキドニーパイであいつ等が襲ってきたら俺は気が狂うところだった)
彼の塹壕をアッサムティーのセカンドフラッシュが飲み込んだのは、この数秒後の事である。
市ヶ谷 ガ号特務機関仮庁舎
「ビルマ戦線から報告が上がっています」
「読んで見ろ」
「効果大を認。敵軍に精神錯乱を起こすもの多数。継続して使用を行う物なり」