この素晴らしき飽食の世界
第二次世界大戦の終結には諸説ある。
ある者は、魔女狩りを躍起になって行っていた合衆国軍民が、増え続ける魔女の軍団に火刑に処された時点で合衆国の組織的抵抗は潰えた物と見なし、それを持って第二次大戦は終了したと考えている。
またある学者などは、ホワイトハウスがマカロニチーズに塗れて黄色くなった時点を主張し、ドイツ系の学者連は、1946年五月下旬にドイツが発表した「今日の戦果に」大統領と記された時点を持って合衆国は消滅したと論じている。
アメリカ合衆国最後の大統領であるハリー・S・トルーマンの無残な死は、殊更壮絶であった。
最後最後まで合衆国大統領であろうと奮戦した彼は、立てこもったバンカーごとアップルパイに埋もれて死に、同じく奮戦していた軍民間の高官達と共に、上陸したドイツ軍に掘り出せれて晒される羽目になった。
蒋介石、毛沢東、チャーチル、筆ひげ、そして合衆国大統領。
今次対戦の主役たちは死んだ。
食い物に埋もれて。
ベトベトニになり、ギトギトになり。甘く、辛く、しょっぱく味付けされ死んだ。
その無残な死は、新しい支配者に逆らうものは身分の格差なく、どの様な目に合うのか歴史に記す役目を負うことになったのだ。
話を戻そう。
異論諸説は種々あるが公式に第二次大戦の終結が宣言されたのは、1946年7月に大日本帝国軍がカリフォルニアに上陸し、同地の編入宣言と同時に行われた終結宣言と考えられている。
1946年7月9日
長い歩兵の隊列を見守る人々の顔は様々であった。
サンフラシスコの町は、数か月の際限のない魔女狩りと、本気になった魔女の大反撃の合わせ技で腐臭に塗れる町となっていたからだ。
大日本帝国に忠誠を誓う魔女たちは、やけくそとばかりに塩の大地を超えて西海岸に殺到した。
殺到といってもそう数はいない。ほんの6万程だ。
強制収容されていた日系人と、裏切り者の名を受けて戦う事を覚悟した人々である。
十万を超えていた筈の日系人収容者を含めると少なく感じる。つまりそういう事だ。
「先手必勝殺られる前に殺れ」「血には血を」「チェスト!ロサンゼルス!」「米国人殺すべし慈悲はない!」「イヤー!テンノーヘーカボンザーイ!」
魔女たちは主人たる帝国によく似た思考をしていたし、容赦と言う思考をするには酷い目に会いすぎた。
全て大日本帝国のせいだが。
目につく者すべてに甘いか酒臭い噴水を上げさせて進撃する魔女たちは、唯でさえ混乱していた西海岸を世紀末に放り込み、数か月でポストアポカリプスに持っていったのだ。
そしてこれである。
安堵、恐怖、歓喜、諦め、諦観、
その顔を見ればこの数か月何があったかは分かると言うものだ。
安堵は、比較的良識を残した人々。
恐怖は、隣人が内から連続爆発するのを散々見たか幸か不幸か生き残った者。
歓喜は、もう行くとこまでアクセルを踏んだモヒカンもどき。
その他は、恐怖する感情も麻痺したのだろう。
抵抗する者?
いま日本兵にグッと睨まれ破裂した。
新時代の支配者たる日本本土からやってきた者たちは、強制改造された改造人間なのだ。悪の帝国は、ナチスドイツとは別ベクトルで種族改良に着手する事にしたのだから。
「向こうが人種だの血統だの役にも立たぬ頓智気を言い出すならこっちはハイテク化だ!」
「国民総強化!もうメンドクサイ操作とはオサラバ!一人一台脳内電話!管理簡単!安全安心!大丈夫!軍で散々実験した!国を信じて!嫌?非国民!」
大日本帝国が米国制圧に随分と時間を掛けていたのは、この国民大改造の混乱を収める為の時間が掛かったからと言う部分もある。
太平洋を全て支配する大帝国。今までの大日本帝国では逆立ちした所で無理な所業だが、国民を全て一元管理できるならそれも可能だ。内務省など飛び上がって賛成した。
管理したがり人間にとって夢の世界が来たのだから。各種法整備をしている者は死にそうになっているが、、、
凄い時代が来る。
日本人とその恩恵に預かれる人間は永遠に飢餓と決別し、徹底管理された社会からは犯罪は消え、、、無理だろうが少なくはなり、電脳化は言語の垣根を超え大日本帝国人を奴隷の完璧な主人に変えていく。
新しい世界だ。世界は一つになる、少なくとも大東亜共栄圏では。
はて?たしか東条英機は統制派の首魁では?これでは皇道派になっていないか?北一輝がこの現状を見たら泣いて喜びそうだ。
大日本帝国 帝都 総理官邸にて
「そこんところ感想は?東条さーん」
大日本帝国の天国にして、その他の国の地獄を作った平衡世界人は独裁者に能天気に質問した。
「感想も何も。これしかない。そもお前たちの提言だろうこの事態は」
独裁者はすげなく答えた。彼だってここまで事が大事になるとは思っていなかったのだ。楽に流れるのが人とはいえ、国民が諸手を上げて改造人間になる事を賛成するとは。
「えー、人の所為にするんですか?成原どうよ、この人の言い分?」
「賛成したのはご先祖様だからねぇ。僕たちは提案したけだよ。東条さんだって随分と電脳化を利用して権力強化してるんだし人の事は言えないと思うなぁ」
1944年の頃が嘘の様に東条英機は伝説の宰相になろうとしている。誰も彼には勝てない。嫌々ながらも行った電脳化は上位権限を持つ東条にとって最大の武器なのだ。
全てを把握しているならどんな悪だくみも無駄である。自分を追い落とそうする手合いは全て黙らせる事が可能なのだ。
「少し静かにできんのか?全て国の御上の為だ。この際主義主張など置いて置く。帝国は名実ともに大日本帝国になったのだからそれで良い。それよりもどうするのだこれから?帝国は勝った。完膚なきまでに。米英は死に世界は枢軸の物。ドイツだとて何時でも殺せる。お前たちの目的は全て果たしたと思うのだが?」
能天気にしている平衡世界人に東条は逆に質問した。帝国の問題は消えてしまった。これ以上は彼らがなす事は無い。
内心では「じゃあ帰ります」と言って欲しくはない東条である。
「あれ?東条さん実は寂しい?そうだよねー。色々あったもんね。ねぇ寂しい?正直になろうよ」
「違う!お前らが全てを放って帰ると言い出し兼ねないのが心配なのだ!お前らが全ての技術を持って帰ったら帝国はおしまいだからだ!寂しい訳ではない!」
まったくこいつらどこまでもチャランポランで、、、とても年上には思えない。違う世界とは言え、未来ではこんな奴ばかりなのか、、、、
幾度目かの諦観を覚えつつ。東条はつい本音を口にした。何だかんだと言って、長い付き合いは彼の口を軽くしていた。
「なーんだそんなこと?心配しなさんな!この田中、最後まで責任を持ちますよ!自慢じゃありませんが、拾った動物は最後までお世話してます!」
「国家を犬猫と一緒にするな!」
どうやら投げ出す事は無いようだが、大帝国もこいつらの前では犬猫同然か、、、
悪の大帝国の独裁者はなんだかとっても空しくなった。
「しかし未来でも捨て猫は居るものなのだな」
「いえ、家のミーちゃんは捨てバイオキメラです。今年で156歳になります」




