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飽食戦線  作者: ボンジャー
21/26

丘の上のお菓子の家

1945年9月 


収穫の秋。それは今の合衆国に縁遠い言葉だ。


 数千キロに及ぶ陸路を封鎖すると言う、驚天動地の所業をやってのけた大日本帝国が、次に狙ったのは港湾設備の破壊、そして国内輸送路の破壊だ。


 大陸横断鉄道の沿線は次々の破壊され、橋と言う橋が爆撃(氷撃と言うべきか?)され、港湾と言う港湾には季節外れの冷たい氷菓が降ってくる。


 合衆国だとて無能ではない。無能で名実ともに世界一の国家にはなれない。


 あらん限りの飛行機で空輸を維持し、破壊された設備の迅速な復旧に努めんと奔走する。


 だが駄目だ。


 飛行機は五機に一機は謎の墜落(甘味でベトベトになって落ちてくるのだから、謎も何も無いが)、昼夜問わず落ちてくる氷菓の前に工兵隊は疲弊していく。


 しかし、止めを刺すと言うほどの攻撃はない。


 大日本帝国は待っているのだ。獲物が動けなくなるのを。


 巨人は失血している。


 藻掻き、喘ぎ、自分をこんな目に合わせた枢軸を呪いながら苦痛の悲鳴を上げている。


 巨人の上げる断末魔の悲鳴は凄まじい。


 悲鳴は最後の抵抗として現れた。 

 

 自由と民主主義を愛する国とはとても思えない所業だが。


 潜水艦に乗せた最後の核がヘルゴラント沖、そして小笠原近海で炸裂したのだ。


 自爆である。


 死なば諸共とて、死での旅路に出航した船は、不幸にも捕捉され大輪の仇花を海上に散らせた。


 これを見た枢軸国の反応は?恐怖?憤怒?恐慌?


 違う。嘲笑だ。


 

1945年11月


 ドイツ国内から動きたがらない総統に配慮し、当てつけの様に、復興進むドレスデンで行われた首脳会談では、合衆国の降伏受け入れ拒否と分割案が話会われた。


 会談の場には内々に南米諸国、そしてカナダの秘密特使すら含まれていた。


 四肢を捥がれ、口に菓子をめい一杯詰め込まれた巨人を誰が恐れる?


 ターキーか何かか?感謝祭のご馳走にしては悪趣味だ。


 尚且つ枢軸は破格の条件を出してきた。


 「降伏すれば領土の要求も賠償の要求もしない。条件は一つ、我々のモノを買え」


 説明せずともお判りであろう?


 これより旧連合国は破格の安さで提供される食料品を国内に流通させろと言うのだ。


 どんな非道な要求をされるかと思えばこれだ。


 怖い魔女の家に招かれたらお菓子の家だった。


 恐怖に懊悩しながら会談に臨んだ特使は拍子抜けし、諦めの気持ちと共に降伏文書にサインする事に同意した。


 ヘンゼルとグレーテルは、死にゆく巨人の懐から逃げる決断をしたのだ。


 先に待っているのはオーブンであるが。


 皆薄々は分かっている。これでも皆一国の代表なのだ。だが知恵も勇気もあるが国力はない国家にどうしろと?


 「「オーストラリアの様に二番目の南極になるのか?それとも既にオーブンの中で良い匂いを出している巨人の様になるのか?」」


 目の前では大英帝国と言う名の元主人だって、こんがり焼けて皿に並んで、SSがかぶり遂いている。


 「「嫌だ!そんなの!」」である。


 そして、可愛い兄弟たちに、よーくグレービーソースを掛けた魔女たちは、釜の中で暴れる巨人の悲鳴を聞きながら食器を出し始めた。


 「本当にグレートプレーンズ以東は、我が国の分担でよろしいのか?」


 三人の魔女の一人である総統は、手元にあるタブレットをチラチラ見ながら、大日本帝国宰相である東条に問いかけた。


 映るのは崩壊しつつある米国のリアルタイムの映像と、連邦準備銀行にある金塊の試算である。目が$マークになっている。


 「結構です。ですがお忘れなく」


 東条英機はそんな総統に釘をさす。


 「分かっております。貴国の要求通り難民は受け入れましょう。ですが後の生死は問われ無いでしょうな?」


 「ユダヤ系、先住民、黒人、それと我が国に忠誠を誓った者は除いてですがな。我が国は米国に愛着を持たない臣民が必要なのです」


 「ユダヤ人ならご希望に叶うでしょうな。奴らは国家に忠誠など持ちませんから」


 そんなゴミ受け入れて馬鹿か?そう言う内心を隠しながら総統は涼し気に答えた。火葬する燃料代も馬鹿には成らんからなと言いたげだ。ああ今はアルコールで代用してたかとも思っている。


 「チョット待ってえや!ワイらの取り分がないやないか!」


 そんな二人の魔女(ウィッチと言う言葉は男も含む )の会話に口を挟んだのは誰言おう我らが統領である。


 「ワイらも頑張ったんでっせ!取り分が無いのはおかしいやないか!」


 「既に決まった事ですよ、統領。外相から聞いて居られないので」


 此奴黙ってろ!誰だ呼んだの!と言う顔の総統だが、仕方がない。日独伊三国同盟は健在なのだ。


 「ワイは聞いてへん!これで帰ったら国民がだまっとらん!」

 

 がなり立てる統領。五月蠅い事この上ない。


 「黙れ!役立たず!我が国のテコ入れがなかったら三日で負けた癖に!」


 「何やと!おいコラ!ちょび髭!おのれの所も似たようなもんやろうが!日本が居たから勝ったようなもんやないか!おのれの所の軍だけでモスクワ落とせたんか!」


 統領の(総統目線では)図々しい物言いにカチンときた総統は遂言葉を荒げてしまう。それを買う統領も統領だが二人とも疲れているのだろう。


 タブレットの翻訳機能を通した会話な物で、通訳も随行も居ない密室での会談が仇となった形だ。


 「まあまあ、お二人とも。此処では建設的に、我々は新しい枠組みを作る為に集まったのですから。」

 

 「失礼、貴国がそういうのでしたら」

 

 「悪ぅ思わんてな東条はん。この髭があんまり憎たらしい事言いやがるさかいに、、、」


 「統領」

 

 「すんまへんな」


 東条のとりなしでその場は収まった。力関係が如実に出ている。二人とも日本に臍を曲げられたら困るのだ。


 その後会談はスムーズに進んだ。


 イタリアはアメリカを諦める事を条件にアフリカの優先権(旧ドイツ領を除き)を手に入れご満悦、ドイツは五月蠅いのを黙らせて、本命である日本とのタブレット使用料減額交渉に入る事ができた。


 途中、統領が


 「忘れてた!イタリア系は返せ!ガス室に突っ込んだら承知せえへんぞ!マフィアはワイが直々にアーティチョークと一緒に漬けるんや!」


 と暴れる場面もあったが順調と言える。


 そして。


 「ではこれまでと言う事で。貴国とは長く友好的な関係でありたい物ですな。枢軸は永遠に繁栄せねばなりません」


 「日本国民一同。総統閣下と同じ気持ちで有ります。末永く友邦として協力していきましょう」


 三人の独裁者は仲良く?握手を交わしてその場は閉会となった。


 ニューオーダーの始まりとなる歴史的な瞬間だ。



 




 「美味い事いきましたな。東条はん」


 「ですな統領」


 総統が去った後、ちゃっかり戻って来た統領は残っていた東条に話掛けた。


 統領だってアメリカが維持出来るだなんて思っていない。そんな物抱え込んだ所でとんでもない不良債権だ。


 あの場はごねて、アフリカさえ独り占めにしようとしているドイツに、日本と組んで一芝居打ったのだ。


 内々に大東亜共栄圏入りが決まっているイタリアにとって、大々的に日本と経済協力できるならアフリカの利権で大満足である。出来過ぎる程の。


 「で、いつあのクソ髭殺すんや?ワイの生きてる内に殺してや?ワイはあのアホンダラのオリーブ漬けを見ながら酒が飲みたいんや」


 奪えるだけドイツから奪ってから追い出す、そして殺す。


 統領の狂気を忘れて貰っては困る。彼はローマ帝国を復興させたいのだ。


 「直ぐには無理です。ですがそう遠くはないでしょう。ドイツ経済が持たんでしょうから」


 「確かに、あれは無理や。奪うもん無くなったらあれは死ぬ、マグロと同じや」


 統領は呆れた様に言った。あれの何処が社会主義や、蛮族経済のまちがいやないか、とも。


 大東亜共栄圏は広がるのだ。ユーラシアをインド洋を超え何れは大西洋全体に。

 

 平衡世界の超技術があればそれは叶う。


 「楽しみやなその時が。あのアホづら、そん時どんな顔しよるやろ」


 「統領もお人が悪い」


 「あんさん程でもないわ。でも軍人出のあんさんが、よーここまで思いつきはったな?」


 「良い顧問がおりましてな」


 「羨ましいこって」


 よもや平衡世界人から未来情報を貰ってますとは言えない東条は、はぐらかした。


 「それでな、話は変わるんやが、あんさんに会ったら言おうと思っとった事があったんや。、、、、ワイなぁ、日本式イタリア料理っちゅうモンを食いましてなぁ」


 「はぁ、突然ですな」


 悪だくみは和やかに終わろうとしていた。統領の眉間に青筋が立っている事に東条英機は気付かなかったが。


 1945年11月 世界は新たな時代に突入した。


 猶遅れる事二月後、イタリア料理人第一軍団レギオンが日本目指して出発した事を報告したい。


 果たして大日本帝国(と日本料理)は、この先の変化の時代を変わらずに生き残っていけるのだろうか?

 


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幾らルクルス(古代ローマの美食家)以来の伝統があるイタリア料理人といえども、何の料理でも畳化する日本人相手では苦戦は必至でしょうw
[一言] 信じて送り出した料理人軍団がUMAMIにドハマりしてなんでもトマト使うようになった件について 〜ごめんなさい、グルタミン酸には逆らえないの〜 …NTRものワンチャンある!?(無い)
[一言] 総統はケチャップのパスタが許せんようだな。ではミラノ風ドリア(日本発祥スイス人フランス料理人発明)を喰らえ! 逆に本国でカルパッチョに生魚使うことになりそう。
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