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飽食戦線  作者: ボンジャー
17/26

お米食うな!

 京浜第2区埋立地、其処には今次大戦で捕虜となった英米系の連合国軍捕虜が収容されている。


 邪知暴虐の帝国に取っ捕まった哀れな犠牲者たちは、ここで過酷な労働に振り分けられ、帝国の世界征服の一翼を強制的に担わされている。


 そんな捕虜達であるが、一致団結して苦難に耐えているかと言えばさにあらず。特に、1944年後半から出た大量の新規入居者は深刻な対立すら起こしているのだ。


 はて?対立する要因なんかあるか?皆平等に大日本帝国に粗略に扱われているのだろう?一銭五厘で招集されたエンペラーの赤子と同じく?


 そう誰もが思うだろう。


 粗末な食事、粗末な住居、乱暴な看守、痩せて衰え、酷い目に会っている。ビルマの奥地を進撃していた日本軍の様にと、思うだろう。


 だが状況は変わった。


 枢軸は今の所連戦連勝、それもこれも食料で全てを飲み込む新兵器のお陰だ。


 ご存じでは有るだろうが、平衡世界人たちは帝国を飢餓の地獄から救う為にこれを提供した。


 枢軸の皆さまが悪用して飽食地獄を作っているだけだ。


 であるので、当然、国内の食料事情改善には初めに使っている。これが正しい使い方。


 決して、糖蜜で都市を沈めたり、揚げ物で人の国の宰相を押しつぶしたりするのが正しい使い方ではない。

 

 因みに、筆髭はちょび髭に捕捉され、笑い転げるちょび髭の手により、ウォッカ、キャビア、サーロの準に襲われベトベトになって死んだ。


 捕虜達も勿論この恩恵(と言うと語弊がある。殺されかけた兵器に恩を貰うは変だろう)を受けている。食料だけは豊富にあるのだ。


 労働の方もましになった。大陸が枢軸の魔の手に落ち、支那派遣軍始め、多くの兵士が社会に戻ってきているからだ。(南方に送られた将兵などボロボロのボロリンチョで、軍に残していても意味がないとの判断もある)


 それが何故対立につながる?


 少しまって欲しい。順を追っては話そう。


 無尽蔵の食料の恩恵を受けた大日本帝国臣民は、天皇陛下万歳と、配給された食料に貪りついたのであるが、少し経つと問題があると政府、特に陸軍が気づいた。


 米である。


 こいつ等、米ばかり馬鹿みたいに食うのだ。


 日本人大好きなお米、それも平衡世界人たちがチョイスした未来のお米だ。


 「う、美味い!嘘!この銀シャリ、米で米が食える!お代わり!」


 この時代の米はハッキリ言って不味い。本来、米が美味しくなったのは戦後の高度経済成長期を過ぎた頃であるからだ。


 始めは「一杯食べて大きくなれよ!良い兵士は食から!どっさり食べて大きな体になりませう」

 

 と思っていた陸軍も米の消費を計算して驚く。


 「五倍は食べている、、、、、」


 豊富に食料はあるのに国民は米ばかり食ってるのだ。


 この時代、食の中心は矢張り米。少ないオカズで米を腹いっぱい詰め込むのがトレンドである。


 そこに上手い米と、食の進む牛缶やら塩じゃけやらの保存食が豊富にある。


 「幸せだ~!幸せの繰り返しだよ~!」


 と庶民が餓鬼みたいになるのも無理はない。


 そも食のレパートリーが庶民には少ない。都市部ではカリー、ビフテキ、カツレツ、シチュウ、等の洋食も一応あるがご家庭ではなかなか作れないし作らない。


 大日本帝国と言う名の農業国家の大部分を占める小作農になるともっと少ない。食べてるのは佃煮とか、季節の煮しめとか、漬物位で、一種類の塩辛い食い物で米を頬張っている。


 嗚呼悲しいかな貧乏帝国、急に豊になった所で、染み付いた貧乏臭さは簡単には取れないのだ。


 今次大戦前からこの様な状況に戦いを挑んでいるのは、実は軍であった。明治の頃から兵士の身体能力向上の為、苦心に苦心を重ねている。今次大戦で全てワヤに成り掛けたが。


 戦況は有利に進み。今後は世界に覇を唱える帝国に成ろうと、、、成れればいいなぁ、、、成りたいなぁ、、良いじゃん!それ位思ったって!している国が之ではいけない。


 「栄養は均等に!米ばかり食べない!肉食え!魚食え!牛乳飲め!カルシュウム!鉄分!ビタミン!」


 とても一年前まで国民を飢餓地獄に放り込んでいた組織とは思えないが、正気を取り戻したのか陸軍は運動を始める。まあ、余裕が出て来たと言う事だろう。


 一応訳がある。


 サイパン島で出た大量の捕虜に鹵獲した無傷の艦船、これに積まれていた、装備と食料に驚愕したのだ。


 自分らの様にズルをしている訳ではないのに、肉、卵、アイスクリーム、パンにバターと補給船は満載していた。


 それに捕虜の体格の良い事!海兵隊の皆さまデカい!160センチ60キロが平均の我が軍とはわけが違う!


 刀折れ矢尽きるた兵士ではなく、ほぼ無傷の兵士を大量に捕虜に、それも本土に受け入れたのは初めてである。


 視察に来た東条も「あっ、これ真面にやっても勝てないわ」と思うくらいだから、子供と大人程、体格の差がある。


 「いかん!これではイカン!どうしょう?」


 政府も軍も頭を悩ませる。


 いや、それなら素直に、国民の家の前に、ハンバーガーの山でも詰めよとお思いだろうが、それは出来ない。東条だって考えている。


 「ここで若しチャランポランな平衡世界人が帰ると言い出したらどうなる?」


 みーんな平衡世界人頼りで一粒の米も作ってません!では、いざと言ったとき皆飢え死にだ。


 一年付き合って、どうも田中や成原の思考が分かってきた東条には危なっかしくて油断ができない。


 「他国は無限の食いもので、自給能力を取り上げても、我が国はそれではダメだ。もし奴らが臍を曲げても、生き残れる様にせんとな」


 全てが飢え死にした世界で一人立つ位で無ければいけない。東条英機は考えている。


 だから最低限、満州、台湾、朝鮮、本土、の自給能力は維持する。


 国民も馬鹿みたいな贅沢はさせない、、、、今でも十分馬鹿みたい、、馬鹿だが、、良いの!今は戦時!


 戦争が終わったら元に戻す。それが政府の基本方針だ。


 だから銃後の国民に与えるのは今まで食べていた物だけ。


 その縛りで国民の食生活を改善しなければいけない。


 難しい問題だ。だってお米美味しいんだもの。


 政府が思いつく配給品はこの時代に合わせて塩辛いものばかり、本土に生鮮食料があっても。国民はお米に会う物ばかり作って米を掻き込む。


 「なんかないか?良い案は?副食、、、、梅干し、、、納豆、、、卵焼き、、、肉豆腐、、、サンマ、、塩サバ、、、天ぷら、、、テキ、、ウナギ、、、駄目だ!全てが米と共に立ち上がってくる!」


 結論!米に支配される瑞穂の国の住人には無理!


 ではどうする?


 「敵に聞こう!」


 そう言う事になった。


 捕虜なら幾らでもいるのだ。彼らも慣れない日本食で苦労ししている。彼らに素材だけ渡して自分で作って貰い、それを観察し、後フィードバックしよう。


 別に敵性言禁止だとか洋食排斥だとか軍は言ってないのである。勝手に何処かのマスコミと勘違い知識人とお調子者が噴き上がっているだけだ。


 利用できるし面倒なので止めなかっただけ。海軍だって陸軍だって英語学習にはそれなりに力を入れているので拒否感はない。


 長くなったがここからが本題。


 何故に捕虜たちに深刻な対立が発生しているかの話である。この様な日本の方針により、自炊する事になった彼らの好みの対立である


 一言で言うとお国対立。デカいアメリカ合衆国、それもまだ交通事情が完璧とは言えない時代である。であるので州ごとに特色ある食文化と言う物がある。


 肉一つとっても、、、それが問題だが、、、そうだ。


 


 「豚だよ!豚!こんなに生きの良い肉があるんだ!丸焼き!それが一番!」


 ノースカロライナ出身の軍曹が吠える。


 「またやってる。飽きないねどいつも、、、、」


 それを見ていた、ニューヨーカーである伍長は呟きながら冷えたビールを飲み込んだ。麒麟とか言うのだが意外といける。


 



 「今度から自炊してもらう。好きな食材を言ってくれ。何でもいいぞ」


 東京収容所の捕虜たちは鼻白んだのは此処一月前の事だ。


 「こいつ等遂に、食い物の世話まで投げやがった。お前らなぁ!捕虜の管理位ちゃんとしろよ!」


 これで暴動が起きないのは訳がある。此処に来て暫くの事、血気にはやるのが、労務作業中に逃げようとした所、口と鼻から噴水を出して昏倒したからだ。それも集団で。


 「逃げても良いぞ。ああなるから。暴れてもだ。それ以外は自由」


 戦争序盤に捕まってた古株が言うには「信じられない程、ここは自由になった」そうだが、それはそうだ。

 

 暴れても逃げても内から弾けるのであれば大人しくするしかない。


 本当に自由だ此処は。一日の労務が終わればお終い。後はご自由に。


 門は開けれられ、出入り自由。町をぶらつく奴もいる。


 少しでも暴れればボンと行けるのであればそれも出来る。


 いくら馬鹿でも、看守の銃を奪おうとして、穴と言う穴からオートミールを吹き出して死んだ奴を見れば諦めも付く。


 管理もおざなり、朝来て労務所の募集を張り出し、そこに集まったのをトラック(妙に美味そうな匂いの排気を出す車だ)に乗せて連れて行く。


 仕事終わったら戻して後は自由。それでも以外と皆仕事をしている。


 給料は軍票で払われるのだが、それで酒や菓子などが買えるからだ。


 そんなおざなりの管理も遂に自炊命令まできた。


 鼻白んだ捕虜達であるが。食材のリクエストが全て通ると俄然やる気が出てくる。


 皆、懐かしい味を再現しようと張り切りだす。パイやケーキを近くの日本人に売ってタバコ代を稼ぐ奴まででる。


 その内、どう日本軍と話を付けたか朝市まで立つ事になり、東京捕虜収容所の休日は買い物客で賑わうまでになる。


 「あれだな動物園だ。俺たちは喋る動物、少しでも危害を加えたら弾けるんだから安全なモンだ」


 飲み切った。次は朝日にするか、、独り言を言っていた伍長は次のビールに取りか掛かる。


 「丸焼きだ?そこは解せよ!ビネガーとコショウを効かせて食うんだ!飛ぶぞ!」


 まだやってる。


 「おい!黙って聞いてれば豚だ?テキサスの男はそんなもん食わん!ブリスケットだ!それ以外認めんぞ!」


 議論は白熱している。どいつも食いものになると五月蠅い。軍人だったら同じ物を食え!と伍長は思うが口には出さない。ご当地愛は大きいのだ、先日はソースで大いに揉め、トマトソースは薄いか濃いかで殴り会っている。これだからテキサスの田舎者は。


 「それで言うと我がニューヨークは平和だ」

  

  マスタードタップリのホットドックをパクリとやる。美味い。


 「これが一番」

 

 ジャツプにもこれが受けるのか、彼のホットドックスタンドは小金を貯められる程繁盛している。


 「おう伍長さんよ!それは聞き捨てならねぇな!」


 なんだよ!また此奴らだ!飯位自由に食わせろ!酒臭い息で伍長に絡んできたのはシカゴ出身の水兵、ご当地愛に溢れた厄介者で、、、ライバルでもある。


 「これがホットドック?ピクルスも無しに?おまけに豚肉?もしもーし、貧相なモンで俺の客取らないでくれます~」


 おう、その喧嘩買った!ホットドックの元祖は家なんだよ!パクリ野郎め!


 伍長が、このマフィア崩れに飛び掛かるとドタンバタンと始まる乱闘。


 周りで集まる野次馬たち。争いは駆け付けた憲兵が引きはがすまで続いた。


 笑い事ではあるが、意外と食いも関係は厄介だ。

 

 先日もピザにパイナップルをトッピングしたアイルランド系と、イタリア系がピザを侮辱するなと喧嘩しているし、ステーキの焼き方一つで険悪になった将校もいる。


 娯楽が少ない収容所である。幾らでも拘れるなら皆拘る。


 クラムチャウダーに入れるのはホンビノスかカキかで揉め、パイの具はアップルかピーチで揉め、コーヒーの濃さでドイツ系とイタリア系とスペイン系が揉める。


 揉めないのは厨房出入り禁止を食らった英国兵だけだろう。だってマーマイトトーストを出すんだもの。


 平和な物である。とてもいま殺し合いをしている国に居るとは思えない平和さだ。


 目を反らしていると言う。何だかわからぬ方法で自分たちを管理し、そして祖国を滅ぼそうと画策している悪の帝国に捕虜になっているのだ。


 そう遠くない内に祖国は酷い事になる。


 そして負ければ自分たちと同じく動物園の展示物だ。それが怖い。


 だから目を反らす、祖国の味で喧嘩し恐怖をまぎらわせる。


 合衆国の苦難の時は近い。






 ????


 「目標!アメリカ本土!放て!」



 


 

 


 


 

 


 


 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 風船爆弾かな? でも砂みたいな細かい物なら、気球使って直接ジェット気流にばら撒いちゃえば、それだけで全世界覆えるんじゃないかなぁ
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