さぶすくらいぶ
結論から言おうソ連は崩壊した。交渉も降伏も許されずソ連と言う国家は消滅したのだ。
1945年2月12日の事である
必死の抵抗は?最後まで戦った赤衛軍は?スターリンは何処に?降伏させない?無限湧きするパルチザンをどうするんだ?残党だっているんだろ?統治は?
世界の誰しもがそう思うが、枢軸はそうではない。特にドイツは。
モスクワに再度迫ったドイツのやり口は徹底的だ。
巻き狩りと形容できるだろう。
酒の雨で追い立てて纏めて消毒!
彼らは殺したのだ全てを。
それが今の彼らには出来る。
進撃はルーチンワークだ。アルコールの洪水で全てを消毒するドイツに敵はいない。
火砲が、戦車が、飛行機が、人員諸共に押し流され窒息し、壊れ死んで行く。
村を消毒し、町を洗い流しても問題ない。飢えることのない軍隊なのだから。ガソリンは流石にいるが。
小銃は?「要らない!」
火砲は?「要らない!」
戦車は?「要らない!」
飛行機は?「少しの間空を飛べれば良い!一機でも相手の頭上に辿り着ければ勝てる!」
戦争なのかこれは?「駆除だ!何度も言っている!」
必死に搔き集めた戦車が戦線ごと無くなる。塹壕戦が酒の海で沈む。後に残るは累々たる屍のみ。
目には見えないフェムトの砂がルーシを覆い、全て死神の手の内にある
「アルコール消毒最高!火葬も出来るから楽ちん!」
モスクワは燃えた。最後のタッチ操作をしたのは勿論総統だ。
居並ぶナチス高官の万雷の拍手と、悔しそうな顔を隠せない国防軍将官の、渋々の拍手を受け死刑は執行された。
「ああ麗しの生存圏よ!土地は清く!資源は豊か!逆らう者は全て死んだ!千年帝国万歳!」
誰が止める事ができよう、この狂気を!逆らったら死ぬのだ!ソーセージとザワークラフトに埋もれて!
ベルリン 狼の巣
「ピンポンパンポーン!試用期間終了のお知らせ」
止まった。
突如タブレットから発せられる音声によって。
アウトバーンを疾走していた狂気は、カーブを曲がれずライン川に突っ込んで、そのまま流されようとしている。
「「どうなってんだよこれ!」」
バシバシとタブレットを叩く総統。周りではナチ高官もハーケンクロイツが刻印された「国民タブレット」をバシバシしている。
調子に乗ったナチスは、一家に一台をスローガンに、サービス内容を限定した民間モデルを、国民に配布しようとしている。いまナチ高官が叩いているのは先行量産党幹部モデルだ。
因みに「何時でも読める党機関紙購読サービス」「コーヒー飲み放題」「今日の親衛隊」「お天気情報」「クラシック(ワーグナー専門)聞き放題」「党推薦お料理百選、貴方もこれで鋼鉄の母だ!」「保養地割引券」「総統演説名場面」「ラジオ」「チェス」「電話機能」等が民間モデルで。
党幹部モデルは其処に「テレビ電話」「外国映画(無断、特にディズニー)見放題」「マップ」「モーゼルワイン飲み放題(週1回)「世界の高級料理を自宅で食べよう(週一回)」「クラシック(限定無し)」「世界の退廃芸術」「ファッション誌」」「お部屋で簡単健康診断」「世界のボードゲーム」が入っている。
だから動いてくれなければ困る。本当に困る。これまで苦労に苦労(他国への略奪行為)を強いて来たのだ、ここいらで国民にご褒美を上げなければいけない。
つい先日も戦勝パレードとして、七色のハーケンクロイツ光輝き、党歌を鳴らすタブレットを掲げて、フランデンブルク門を行進したばかりである。
「何あれ?スゲー!」「総統は一家に一台あれくれるって!」「毎朝、世界のコーヒーをタダで飲める!」「家にも電話が!」「機械式ゲーム?凄い未来だ!」「ドイツの技術は世界一!世界に冠たるドイツ!」
国民は期待に胸を膨らませている。凄い未来が我が家に!戦争して本当に良かった!
「クソ!動け!動けって言ってるの!動いてお願い!」
必死にタブレットを操作する総統に、板は無常な文字を画面に表示し、再度音声は流れ出す。
「この度は、大日本帝国が運営するサービスをご利用いただき、真に有り難うございます。本サービスはいかがでしたか?今後のご利用の為にはサブスクライブの継続が必要です。詳細はお近くの帝国大使館まで」
「チクショーめ!直ぐに日本大使を呼べ!」
総統の怒号が狼の巣に響き渡った。
帝都 東京 首相官邸
「で、ドイツはなんと?」
東条英機は、結果は分かっているとでも言いたげな顔で、同席する東郷外相に質問した。
「泣きついてきました。いやぁー凄い剣幕でしたよ向こうの大使。あれは相当、本国から言われてますね。」
楽しくてしょうがない。そんな顔の東郷外相は答えた。
「我が国の要求は丸呑みするそうです。始めは何のかんのと言ってましたが、では回収しますか、と聞いたら顔面蒼白、、、くくく、、、ざまぁみろ。前から気に食わなかったんですよアイツ」
「だろうな。で他の友邦はどうだ?」
笑いが漏れていた東郷外相は、笑いを引っ込め(頬がひくひくしているが)て報告した。
「皆さん大歓迎だそうで。分かってはいましたが、例の板をドイツはイタリア以外に配ってません。我が国がドイツより格段に低い金額で提供すると言ったら二つ返事でしたよ」
大日本帝国は、ドイツに詐欺染みた行動を取った裏で、枢軸陣営の引きはがしに掛かっている。
イタリアが内々に大東亜共栄圏への参加を言って来ている他、フィンランド、ルーマニア、ハンガリー、等北欧、中欧の国々もドイツの支配から距離を取ろうと画策している。
無限の食料、異次元の技術、その二つをチラつかせられた上、何時でも蛇口を止めれる国になびかない奴は少ない。
ドイツが軍事力で脅しても無駄。脅して来たら元栓を閉めてやる。それで実力にでるなら、お望み通り、国を食い物で埋め尽くしてやるまでだ。
オビ川以東の旧ソ連領は大日本帝国の物となる。崩壊したソ連の難民はドイツに押し付け、自分たちは綺麗な土地に傀儡国を建てる。大日本帝国は計画している。
「来月にもユダヤ人の移送は始まります。ポーランド人も貰いましょうか?彼ら恨んでますからなドイツを、良い壁になってくれるでしょう。亡命政府とはストックホルム経由で話を付けられます」
オビ川以東の土地はモザイクとなるだろう。しっかりと首輪が付いたドイツ憎しの国家連合によって。
日本は恨まれない。恨む奴はボン!だ。
ごく簡単な難民管理。食わせるだけ食わせて列車に乗せてドイツかシベリアに送るだけ。
逆らうならグッと睨んでボン!。
ボン!ボン!ボン!綺麗な虹が空に掛かる。
「そうしてくれ。」
東条は言葉少なげに答えた。心此処にあらずと言った感じの東条。さっきから東郷の報告を受けながらもタブレットを操作している。
「どうかされましたか?」
「嫌なに、対米戦についてな」
そうである。ユーラシアも欧州も御上の元にひれ伏す中、頑強に抵抗する国家が存在する。
抵抗、、、そんなレベルで考えられるほど、一年未満で戦況を一変した。
戦後の世界支配。夢の様だが、それも手が届く範囲にある。
「欲しいですなぁ米国。半分、いや三分の一でも欲しい。あそこに我が国の国民を入植させて、、、ふふ、、痴人の妄想でしかなかった事ですが、、どうですか首相?」
東郷外相は夢見る様に語った。
夢ではない。できる帝国には出来るのだ。それが彼の口を軽くしていた。
「これからの米国の出方によるとしか言えんよ。」
「さいですか」
そっけない独裁者(もう逆らえる者はいない。議会も掌を返している。国民も比喩ではなく踊り狂っている)の言葉に東郷外相は大人しく引き下がり、その場を退出した。
「首相も若いね。あの板をポチポチと、俺にはどうにも操作が難しい。しかし、あの人そんなにコンニャクが好物だったけ?やたらコンニャク料理を調べてたが?」
帰りの車内でふと思った東郷外相は、「今度料亭でコンニャクの総振る舞いでも企画するか」と呑気に思った。それは1945年4月の始めの事である。