ローマ帝国、ニホニアを属領にすることを決意!
統領はプリプリしていた。もう怒っていた。
恩着せがましいちょび髭にも怒っているし、先に新兵器を寄越してくれなかった大日本帝国にも怒っていた。
「なんや!ワイの方がピンチなんやぞ!なんで先に髭を助けてワイを助けんのや!そんなにイタリアは頼りないか!あんたら、それでも同盟国か!」
ローマ市は確かに陥落はした。アルノ線だって抜かれる所だった。だがイタリアの益荒男たちは未だ頑張っていたのだ。
「そんな兵器もっとるんなら、もう少し早くよこさんかい!」
逆恨みだとは統領だって思ってはいる。あの新兵器が無ければ、今頃は自分は、逆さづりになっていたかもしれない。何故だ確信が持てる。
「あのボケ国王の奴もそうや!負けが込むと裏切りよる!」
流石に殺しはしなかったが、幽閉同然の扱いをしている国王にも彼は怒っている。ローマ奪還の際、尻に帆を掛けて逃げたのも男らしくない。
「なにが、「流石統領、ワシは前からアンタを男と見取ったで」や!パルメザンチーズの中から首だして言われても嬉しかないわい!何で潔く死ねんのや!バドリオ見習わんかい!あのドアホはキッチリトマトに埋まって死んだんやぞ!、、、、殺したんワイやが、、、」
崩壊する連合軍に見捨てられ、ローマから脱出しようとした、国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世は、同じく逃げようとしたピエトロ・バドリオと一緒に、逃亡途中を見つかり、車ごと粉チーズの山に追突して捕まっている。
バドリオの方はムッソリーニの前に引きずり出され、命乞いをした挙句、トマトに頭まで埋まって処刑されたが、流石に国王を殺す訳ぬはいかない。
ムッソリーニとしてはペコリーニで押しつぶすか、ウジに腹を食い破られるまでカース・マルツゥを詰め込んでやりたいが、いまだ連合国残党がイタリア国内で蠢く中で、これ以上、政情不安の種を蒔くわけにはいかないのだ。
その変わりと言っては何だが。連合国の水先案内まで買って出た、シシリーマフィアの連中は地の果てまで追い詰めてオリーブオイル漬けにしている。
後、ラッキールチアーノはアンラッキーに変えてやった。彼もシチリアレモンで死ねて幸運だろう。
「マフィア共覚えとれよ!お前ら皆、ミートソースに漬けたる!家族もや!一人も逃がさへんぞ!」
広域暴力団黒シャツ組の親分は、イタリア全土からマフィアを根絶するつもりだ。ここら辺は統領も浪速の男である。血には血を、血の復讐はイタリア全土で行われる。
チーズとトマトとバジルの雨を受け、オリーブオイルで戦車が滑りながら崖から転落し、ワインの海でアメリカ陸軍第7軍が、溺れながら崩壊する様を見たイタリア国民は、この政策を手の平を返して歓迎している。
彼らは、捕虜になった米英軍が、鼻を摘まみながら、腐ったトマトと酸っぱくなったワインの海を清掃するのを石を投げながら見物し、同胞であるイタリア軍に制止されている
「負けんでよかった。こいつ等容赦がなさすぎるわ、、我が国民ながら呆れる。やっぱりワイが居ないとこの国は駄目や!ワイは変えるでこの国を!」
怒りながらも統領は決意を新たにしていた。
この様に、統領色々な事に怒っているのだが、怒りの矛先は、恩着せがましいちょび髭に一番向いている。
総統からすれば「テメェが情けないから助けてやったんだろうが!我が軍が居なかったら三日と持たなかった癖に喚くなパスタ!」
と言いたいだろうが、統領からすれば、そもこの戦争ブチかまして、自分の構想をワヤにしたのはヒトラーの方である。ギリシャとかアフリカとかは感謝してるが、それでもあの髭が無茶するから自分はローマから逃げ出す羽目になったと思っている。
「ああもう!何が同盟の好であるから、新兵器を譲渡するや!お前のもんやないやろが!お前の講釈なんぞ聞きたくないわ!日本のもんやろこれ!嘘こくなや!」
統領の脳裏には、ノルマンディーから米英連合を海に突き落とした次の週。
ベルリンまで連行された自分は、長々としたヒトラーの新兵器講釈と自慢話(どうやってタブレットを使っての必殺作戦を思いついたとか、米軍がアイスに埋もれて死ぬのを生で見てスカッとしたとか、直ぐに筆髭も同じ目に合わせるとか)聞かされた上。
「遺憾ながら操作は限定してあるが実に効果的だ!統領もこれで頑張ってくれたまえ!」
と言われて譲渡式を写真にまで取られて新兵器を渡されたのだ。
「あのボケェ!人が知らんと思ってけつかる!操作を限定!何様や!日本大使が後で完品くれたわ!お前ら日本人にケツの毛まで毟られとんのや!」
ちょび髭が良い気になってられるのも今だけだ。統領は分かっている。あのいけ好かなない長講釈に付き合わされた直ぐ後、ドイツ日本大使である大島から。
「総統はああ言われておりますが、これ我が国の譲渡した兵器でして。統領に誤解を与えてはと思いまして、正規品をお持ちしました。総統はねぇ、、、ほらあれでしょ、、、我が国は貴国を信頼しておりますので、そこんところ誤解無きよう願います。戦後に関しては、、、、ほら、統領もお判りでしょう?」
と、言葉を濁して言われている。自分でも、このタブレットを弄って分かったが、正規品にはJPと管理者の所に表示される。あの髭、分からないと思って弄り回していたのだ。
こんな訳の分からない兵器だ、大島の物の言いようから考えるに日本側から停止出来る様になっているに決まっている。それを恩着せがましくも、、、、
「なーにが操作説明や!なーにが統領には難しいかと思いますがや!物づくりの国を舐めんな!イタリアは先進国や!殺しの道具ばかり作っとるお前の所と一緒にすな!」
ふーふーと一人執務室で怒っていた統領は息を整えた。
怒りすぎた。自分は食事中だったのだ。いま食べている物があまりにあまりであるから、怒りが再燃してしまった。
落ち付こう。イタリアの男は食事とシエスタは落ち着いて取るものだ。
「美味いには美味いんや。でもこれはないやろ、これの何処がミラノ風や、、、パスタもおかしいで、、、ノビノビの麺にケチャップって、、、あかん、、、怒りが、、、」
イタリア再統一で国土が食い物だらけの今、復興指揮に忙しい統領は、タブレットで食事を出すのが日課になっていた。この日は偶々、日本式イタリア料理と言うのを見かけて。
「ほーん、日本にもイタリア料理があるんかい。物は試しや、食うてみよ」
と思ったのが間違いだった。
「戦争が終わったら、必ず日本に料理人を送り付けたる!こんなん許されんで!ワインはイタリア産だから許すとして、イタリアンハンバーグってなんや!トマト使うとればイタリアを名乗れると思っとんのか!魚が無い!我が国は海産物の国やぞ!」
「一個師団、いや料理人の軍集団を送り付けてでも日本にイタリア料理を覚え込ませたる」
統領はそう戦後の事に思いをはせるのであった。