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見習いヤンキー小松君

作者: 狐猫

茨城のヤンキー小松!

可哀想な彼の生活をご覧あれ

「俺は茨城のヤンキーの小松っス。新米ヤンキーです!」

 

 唐突な自己紹介申し訳ないですが、やはり最初は挨拶が肝心だと教わっているので許してください。そう教えられているんで、染み付いたものは中々抜けないものなのです。

 不思議に思った方もいるのではないでしょうか。「茨城のヤンキーの小松。新米ヤンキー」というところ。もっと簡単に表せるだろうと。そう「茨城の新米ヤンキー小松」と表せば簡単なのにわざわざ「の」を連続で使用するのはおかしいと。

 それに気が付いた人は流石っス。これもしっかりと理由があります。

 俺は現在18歳で高校卒業してるんすけど、そのまま就職してます。そして、その会社の名前が

 

「株式会社茨城のヤンキー」

 

 なのですよ。驚いた方も多いと思われます。俺も最初は驚きました。高校の就職課の先生から勧められた会社がこの「株式会社茨城のヤンキー」なんすから。当時は戸惑いましたよ。

 

 高校時代

「小松お前この会社あってんじゃね。行けよ」

「どれっすか。え、先生何すかこのふざけた名前は」

「株式会社茨城のヤンキーだよ」

「意味わからんすけど」

「見た通りで、イベント屋兼ヤンキー派遣会社兼何でも屋だぞ」

「見た通りではないです。ヤンキー万事屋じゃないすか。需要あんスかそれ」

「実績は高い。毎年この高校から1人差し出s…いや、紹介しなくてはいけなくて」

「先生!?差し出すって言いましたよね!?」

「名前は紹介してあるからとりあえず行ってきて」

「なにやってんスか!ちょ、詳しく説明を」

「我々学校のために生贄になれ」

「俺をみかじめ料にしないでくださいよ!」

 

 現実

 とまぁこんな具合でこの会社に見学に来て、意外と気に入ったので就職してしまったんスよ。社長の「狐猫」という人に良くしてもらったんで、気に入りました。先輩達も見た目は怖いんですけど仲間には優しいっス。今日も出勤のため土浦市の会社に向かっている途中っス。我々ヤンキーの移動手段はバイクです。改造して音をうるさくした1級品を先輩方は乗り回しているんです。俺もそうなりたいんですが、新米ヤンキーには先輩を立てないといけないのと、規則で1年目は「原付」と決まっているのです。なので、今日も俺の愛車原付で出勤というわけです。今は途中のコンビニでコーヒーを飲んで優雅な朝活をしています。

 

「美味いっス」

 

「ワンワン!ワンワン!」

「ブッ!…熱っ!!」

 

 コーヒーに口をつけた途端傍にいた犬に吠えられてしまいました。お陰でアツアツのコーヒーを吹き出し、見事顔やら手にかかってしまいました。ツイていないっス。

 

「熱い!」

「おっと。あんちゃん。ごめんなウチの犬が」

「あ、大丈夫っス」

「やっぱりヤンキーは強いんだっぺな。普通怒られるんだけどな。ガハハハッ」

「体の強さが取り柄みたいなもんですから」

「おめぇやるな!じゃぁな!人さまには迷惑かけないように暴れろよ!」

「はい!」

 

 壁を設けずにガンガン話しかけてくるあたり田舎っぽいような気がします。さて、コーヒーを飲み終わったので会社へ向かいます。田舎なのでスピード違反はバレません。

 原付のリミッター解除をすることなく、純正のままの原付で30km/hの速さで爆走してます。風が心地よいです本当に。容赦なく車は抜かしていきますが。

 通勤ラッシュではあるが、田舎なのであまり車通りがあるとは思えない。水郷公園を過ぎて霞ヶ浦を横手に走りながら会社へと急いでいます。

 

 

「よし、ついた」

 

 会社の駐車場にはバイクがずらりと並んでいます。そして、全てナンバープレートは茨城のナンバーになっています。愛国心ならぬ、愛茨城心。先輩達流石です。

 俺は事務所の扉を開けました。そこにはガラの悪い方たちが沢山います。

 

「おはようございます!」

 

 ちゃんと挨拶はするっス。朝礼前なので全員終結しているのです。見た目は基本的に金髪でピアス。これが制服みたいなものです。無論俺も金髪ピアスです。社長の意向です。これの方が面白いからだそうです。イベント会社なんだから面白くしないといけないという訳のわからん意思でこうなっています。あの社長何考えてるんだかわからない。当人は全くヤンキーの見た目はしていないのに、なぜかここのヤンキー達を率いています。ちなみにほとんどが学生時代もヤンキーで、そのままスキルを活かしてヤンキーを続けています。社長は元ヤンかどうか知りません。

 

「社長が出てきたぞ!並べお前ら!」

 

 朝礼が始まります。幹部の声かけと共にヤンキー達は整列します。

 

「狐猫社長!おはようございます!」

「オハヨウゴザース!!!」

「うむ。みんなおはよう。顔をあげたまえ」

「ハイ!!」

 

 軍隊かここは。おはようございますの言葉誰1人ズレてないですよ。

 

「じゃぁ今日も一日ね。頑張ってね。仕事しようね」

「ハイ!!」

「じゃぁ岡田。いつものよろしくね」

「かしこまり…マシタ!!」

 

 岡田は幹部の人の名前です。ここから岡田の声に合わせて復唱します。

 

「いきます。今日も元気にいらっしゃいませ」

「イラッシャイマセ!!!」


 ここ小売店じゃないじゃん。

 

「お疲れ様でした!!」

「オツカレサマシタ!!!!」

 

 それ業務終わりの挨拶じゃん。

 

「裏切ったらどうなるかわかってんのか!!」

「ワカッテンノカ!!!」

 

 いや、ヤクザじゃん。

 

「タバコは!!」

「吸わない!!!」

 

 超健康的じゃん。

 いつも思うけど何この朝礼の挨拶。復唱する内容おかしいんっスよ。社長何も思わずニコニコしてるの怖いんですけども。

 

「よし!社長。終わりました」

「うむ。ありがとう。岡田」

「ハイ!!!」

「あ、業務連絡しとくね。小松崎のことだけど」

 

 急に空気がピリついた。小松崎とはこの会社茨城のヤンキーにおける成績ナンバー1の人です。もはや社長の次に偉いと言っても過言ではありません。いつも忙しいので顔はまだ見たことありません。

 

「国内業務を終えたから、海外出張に行ってもらった。茨城空港からベネズエラに行っている」

「そもそも1日に飛ぶ飛行機が少ないあの空港に、ベネズエラ行きなんてあるんすか!」

 

 ヤンキーの1人がごもっともなことを言っています。確かに茨城空港は離着陸する飛行機が1日で多い場所ではありません。誰でも知っています。

 

「私が空港の人に声をかけといたらベネズエラ直行便ができてた」

「さすが社長!」

 

 何者なんすかあなた。

 

「てことで、小松。空港側に貸しができたからね。今度茨城空港に1か月くらい派遣するからね。働いてきてね」

「え、ハイ!!」

「願わくば飛行機操縦できるようになってきてね」

「ん、え、ハイ!!」

 

 なんで俺なんスか!何の前触れもなく1か月の出張決まってましたよ。しかも1人ってどういうことですか。しかも1か月で飛行機操縦できるようにって何させられるんすか空港で。怖いっスよ。てか、無理だろ。今日もツイてないっス。

 

「まぁ小松崎は依頼でベネズエラ行ってるから。把握よろしくね。はい。解散」

「ハイ!!!」

 

 解散の合図の後一斉に動き始めました。俺だけ絶望してます。

 茨城空港に強制派遣されることが確定し、日程も言われてません。キツイっス。

 絶望しても仕方ないので普通に働きます。

 

「小松ぅぅぅ!!どこじゃぁ!」

「目の前っス。岡田さん」

「なんだここにいたのか」

 

 俺を呼ぶ声量は屋外で出すレベルでしたよ。てか、目の前でしたよ。大丈夫っすかこの人。

 

「先輩今日の俺の仕事はなんでスか」

「まずトイレ掃除」

「え、ハイ!」

 

 トイレ掃除の為にあんな声量で呼んでたんですか。

 とりあえず下っ端は下っ端らしい仕事。トイレ掃除頑張るっス。後輩が入ってくるまで俺が一番下っ端なので頑張ります。

 俺はヤンキーにしては几帳面。超丁寧にトイレ掃除を終えて岡田さんの所に戻りました。

 

「岡田さん。トイレ掃除終わりました」

「おう、お疲れ!」

 

 岡田さんは何かを食べています。聞くまでも無く食べているものはわかります。茨城の名物干し芋です。これを茨城県民は見間違えるわけありません。ただ、なんで干し芋を持っているのでしょうか。誰かが差し入れで持ってきたのか、お客さんからのもらい物なのかは不明です。どちらにしろ俺も食べたいです。干し芋は好物です。

 

「岡田さん。干し芋どうしたんっスか」

「来るときに買ってきた」

「へぇ。どこで買ったんスか」

「土浦駅」

「あぁぁぁなるほどっス。そういえば売ってましたね」

「食うか」

「ハイ!頂きます!」

 

 そう。俺たちの最寄り駅土浦駅にはなんと干し芋が売店で売っているのです。他県の人は驚くかもしれませんが、これが茨城なのです。

 俺たちはこれが見慣れた光景なのでいいですが、初めて見た人は「田舎だな」と思うかもしれません。それは否定しないっス。

 だって田舎ですもの。岡田さんは石岡の人なのですが、昨日たまたまバイクを会社に置いていたので珍しく電車で出勤したとのことです。県外の人には何もわからない説明です!

 この説明は勉強になるっス!

 

「あぁこの後水郷公園に仕事だからな」

「ハイ!了解シマシタ!!!」

 

 お互いにむしゃむしゃしながら今日の日程を確認しました。

 無事に食べ終えて水郷公園へ移動します。

 岡田さんはバイクに、俺は原付に乗って移動します。

 

「準備できたか」

「ハイ!」

「よし行くぞ。着いて来いよ」

「了解シマシタ!!」

 

 その言葉を発したが最後

 

「ちょいちょいちょい!岡田さん!速い!原付じゃ追い付かないですから!あぁ!置いてかれた!」

 

 即刻置いてかれました。1度も後ろ向かなかったので置いていく前提だったと思われます。着いて来いと言っていたのは何だったのでしょう。俺も一生懸命走ります。ですが、こういう時に限って全部の信号で引っかかりました。ただでさえスピードでないのに大きな時間ロスです。でも、頑張ります!

 かなり時間がかかりましたが無事に水郷公園に着きました。駐車場に岡田さんがいるはずなので探しています。

 

「小松~」

 

 声は前方からしました。どうやら岡田さんは水郷公園の事務所近くにいるようです。先輩を待たせてしまったので急いで原付から降りて向かいます。

 

「スンマセン!遅くなりました!」

「はい、行くよ」

「ハイ!」

 

 俺たちは事務所に入っていった。

 

「コンチハ!!茨城のヤンキーです!」

「デス!」

 

 ただ会社名を言っただけなのに道場破りみたいになるのどうにかしたいです。

 

「あ、お待ちしていました」

「株式会社茨城のヤンキーの岡田と小松です」

「管理人の高橋です。早速ですが仕事をお願いします」

「了解しました。では、早速取り掛かります」

 

 ちなみに今回の仕事はテニスコートの防風ネットの撤去です。張り替えるために今貼ってあるものを撤去するとのことっス。

 直ぐに取り掛かりました。防風ネットは滅茶苦茶重いですが作業は単純作業なのでまだ楽です。喋る余裕はありそうなので社長について聞いてみます。

 

「あの、岡田さん。社長って何者なんスか」

「ん?社長?俺も詳しくは知らん」

「謎が多いというか」

「あの人は謎が多いな。ただ、京都の「組」と関わりはあるらしい」

 

 これは驚きです。まさか京都のヤクザと仲が良いとは、見かけによらず中々怖い面があるっぽいです。見た目は全然怖くないのに裏ではかなり怖いとは、社長カッコいいっス。

「京都の組なんて超怖いじゃないですか!」

「あぁ。たしかその組の名前は和ませ組だったかな」

「ん!?和ませ組ですか」

 

 超京都っぽい組の名前が出てきました。てか、全然怖くないじゃないですか。「和ませ」って京都みたいな感じはしますけども、何する組織なんでしょう。気になります。

 まさか、お茶屋開いて活動資金集めて悪いことしてるとか。考えすぎっすね!よくできた考察ですが、そんな馬鹿なことは無いです。

 

「抹茶で京都を牛耳っているらしいぞ」

「あぁ、俺の勝手な考察あってたんスか」

 

 世の中には変な名前の会社やら組は多いのでしょうか。俺の周りに変な人達が集まるだけでしょうか。昔から変な人達集めがちなのでハプニングには慣れてます。

 何はともあれ社長は結局不思議な人であることには変わりません。とっとと仕事を終わらせます。防風ネット本当に重いですが、ヤンキーパワーで持ち上げてます。

 どうにか半分は終えたので事務所で休憩させてもらうことに。会社の携帯に各班の勤務状況が記されています。暇なので見てみます。

 

 1班 映画のヤンキー役で出演のため東京へ

 2班 警察の詐欺防止講演会ヤンキー役で水戸へ

 3班 和ませ組直営お茶屋の店番

 4班 研修で新宿歌舞伎町へ

 

 何でもやってるなこの会社。ヤンキーがお茶屋の店番は人来ないっスよ。嫌ですよいかつい声で接客されるお茶屋なんて。そして、新宿歌舞伎町での研修って絶対よくない研修じゃないですか。何してんスか本当に。

 

「ウーー!」

 

 警察の音です。何かあったのでしょうか。見た目的によく職質されるので嫌な印象です。会社名言ったらすぐに開放してくれるのでいいっスけど。

 

「当て逃げだってよ」

 

 近くにいたお客さんがそんなことを言っていました。ここら辺は田んぼばっかなので、大型車ではないはずです。観光地のあまり無い茨城において、観光客が事故をした可能性は絶対ないので案外早く見つかるはずっス。

 

「小松ぅぅぅ!どこだぁぁ!」

「岡田さん目の前っス」

「あぁいたか。よし、続きやるぞ」

 

 また屋外で呼ぶ声量で呼ばれたっス。

 ここからは何も面白いことがおきないので仕事終わりまで飛ばしますっス。

 

「よし、終わったな。小松先帰ってろ」

「え、先にですか」

「終わったことを会社に報告して来い。俺はここの人と話してくる」

「ハイ!!」

 

 てことで、業務終了です。最初はこんなことしかしませんけども、いずれは大きな仕事も任されるっス。それまで頑張ります。

 愛車の原付にまたがり、エンジンをかけます。駐車場をあとにして会社へと戻ります。

 田んぼを横目に帰っていますが前方に嫌なものが見えます。警察です。まぁ悪いことはしていないので安心っス。会社名言えばなぜか解放されますし。

 

「はーい。お兄さん止まって」

「何すか」

「免許証見せてね」


 俺は免許証を見せました。すると急展開。

 

「当て逃げはお前かーー!」

「へ!?」

「見つけたぞぉのこのこと戻ってきやがって。逮捕だぁ」

「いや、ちょ、人違いですよ」

「被害者は犯人の特徴を金髪ピアスで原付に乗ってるやつ。名前は多分小松だと言っていた」

「俺じゃん!いや、なんで当て逃げされて名前わかるんすか!おかしいでしょ!」

 

 ここで救世主っス。うるさいバイクの音。岡田さんのもので間違いないです。助けてもらいましょう。

 

「あ!あそこに上司がいます。いいところに来てくれました岡田さん!ちょいちょいちょい!あ~無視して置いてかれた!」

 

 こちらを見向きもせずに猛スピードで走り去りました。

 

「嘘ついたなぁ。よし、パトカーに乘れ」

「いや、人違いっスよ。うわぁ。ツイてないっスよぉぉぉぉ」

 

 

 頑張れ小松

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