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子供向けのお話シリーズ

3匹のくまさん

作者: 日浦海里

遠い遠いどこかの国の

深い深い森の奥に

鮮やかな赤毛のくまさんと

涼やかな青毛のくまさんがいました



2匹のくまさんは

いつもいつも喧嘩ばかり

少しも仲良く出来ませんでした


どうしてかって?

それはね

好きなものが違うから


赤い毛をしたくまさんは

熱くて辛いカレーが大好き

青い毛をしたくまさんは

冷たくさっぱりのパスタが大好き


「そんな味のないパスタ

 ちっとも美味しくなんかないよ」

と、赤毛のくまさん


「そんな辛いだけのカレーなんて

 お腹と舌が痛くなるだけだよ」

と、青毛のくまさん


好きな遊びも違います

赤い毛をしたくまさんは

身体が暖まる運動が大好き

青い毛をしたくまさんは

静かに本を読むのが大好き


「走って回っているだけじゃ

 疲れるだけで楽しくないよ」

と、青毛のくまさん


「座って読んでいるだけなんて

 退屈なだけで楽しくないよ」

と、赤毛のくまさん


喧嘩ばかりの2匹でしたが

それでも2匹は一緒でした


青毛のくまさんは

赤毛のくまさんのように

上手に動くことが出来なかったし

赤毛のくまさんは

青毛のくまさんのように

たくさんの字を読むことが出来ません


自分に出来ないことが出来る

そんな相手のことが、いつも気になったのです


ある日のこと

森の木陰で本を読んでいた青毛のくまさんに

誰かが声をかけました


「こんにちは、青毛のくまさん」


青毛のくまさんは声をした方を見てみますが

誰も、何も見つかりません

不思議な気持ちになりながら

もう一度本を読み始めると

また誰かの声がします


「こっちだよ」


青毛のくまさんは声のする方を振り向きますが

やっぱり何も見えません

青毛のくまさんは少し怖くなったので

自分も声をかけてみることにしました

返事が無ければ

声が聞こえたのは気のせいだろうし

返事があれば

声のする場所がちゃんとわかる

そう考えたからです


「僕を呼ぶのはだぁれ?

 どこにいるの?」


「ここだよ」


返事はすぐに返ってきました


しかも、すぐそばで!!


青毛のくまさんはびっくり

声をした場所には

何も見えなかったからです


「幽霊!?」


青毛のくまさんは、

怖くなって逃げ出したくなりました

だけど、聞こえてきたのは楽しそうな笑い声


「幽霊なんかじゃないよ

 よく見てみて」


青毛のくまさんは怖くなったことを少し忘れて

笑い声のする方をよく見てみました

すると...


そこには緑色の毛をしたくまさんが立っていました

森に生える木の色をそのまま毛の色にしたような

優しい優しい色でした


青毛のくまさんは驚いたことも忘れてしまって

その優しい緑色を見つめていました


「こんにちは、青毛のくまさん」


緑毛のくまさんがもう一度挨拶しました


「こ、こ、こんにちは、緑毛のくまさん」


青毛のくまさんは挨拶を忘れてしまっていたことを思い出して

慌てて挨拶をしました


「森に溶けてしまうぐらいに綺麗な碧色だね」


青毛のくまさんは言いました


「海の中にいる気持ちになれるぐらいに素敵な碧色だね」


緑毛のくまさんも言いました


2匹はすぐに仲良くなりました

緑毛のくまさんは、

青毛のくまさんが知らない場所や、知らないことを

たくさん知っていました

青毛のくまさんも、

緑毛のくまさんが知らない場所や、知らないことを

たくさん教えてあげました


そうして、楽しい時間を過ごしていると

そこに赤毛のくまさんがやって来ました


赤毛のくまさんは、

青毛のくまさんが楽しそうに笑っているのを見て

不思議に思いました


「青毛のくまさん、

 どうしてそんなに楽しそうなの?

 一体誰と話しているの?」


赤毛のくまさんが言いました


「緑毛のくまさんだよ

 友達になったんだ」


青毛のくまさんは得意気に言いました


「緑毛のくまさん?」


そう言われても、赤毛のくまさんには青毛のくまさんしか見えません

赤毛のくまさんが不思議そうに首をかしげているのを見て

青毛のくまさんは楽しくなりました


「よく見てごらん

 僕らの森の色のように

 素敵な色をしたくまさんがいるから」


赤毛のくまさんは、

青毛のくまさんが教えてくれた場所を

しっかりと目を凝らして見つめました

すると...


いました!!

そこには森の色のような優しい碧の毛色をしたくまさんが

こちらを向いて笑っています


優しい笑顔に

赤毛のくまさんもいつの間にか笑顔になっていました


「こんにちは、赤毛のくまさん」


緑毛のくまさんが挨拶をしました


「こんにちは、緑毛のくまさん」


赤毛のくまさんも挨拶をしました


「葉っぱの布団みたいな優しい緑色だね」


赤毛のくまさんは言いました


「夕焼け空みたいに暖かな赤色だね」


緑毛のくまさんも言いました


赤毛のくまさんも、

緑毛のくまさんとすぐに仲良しになりました


緑毛のくまさんは

赤毛のくまさんの知らない遊びや、知らない道具を

たくさん知っていました

赤毛のくまさんも

緑毛のくまさんの知らない遊びや、知らない道具を

たくさん教えてあげました


それを見ていた青毛のくまさんは

自分だけ仲間外れになったようで

少しだけ、本当に少しだけ拗ねた気持ちになりましたが、

それよりも驚きの気持ちの方が一杯で

拗ねていた気持ちなんてすぐに忘れてしまいました


いつも遊んでばかりだと思っていた赤毛のくまさんが

自分の知らないことをたくさん知っているなんて

思っていなかったからです


青毛のくまさんは

本を読んで、

道具を何に使うのかは知っていました

でも、実際にどうやって使うのか

何に気を付ければいいのかなんて

本だけでは分からなかったのです


青毛のくまさんは

赤毛のくまさんのように

遊んだり体を動かすことも大事なんだな

と、思いました


青毛のくまさんが2匹をじっと見ていると

突然、緑毛のくまさんが手を合わせました


「そうだ!

 赤毛のくまさんも、青毛のくまさんも知らない遊び

 今からやってみない?」


赤毛のくまさんはそれを聞いて

始めは喜んだ顔をしましたが

青毛のくまさんの顔を見た後、

すぐに悲しそうな顔になりました


「とても素敵だと思うけど

 また今度にしようよ

 もうすぐ日も暮れちゃうよ」


赤毛のくまさんは空を見上げて静かに言いました


「夕焼け空の方がいいんだよ

 それに、すぐに終わる遊びだし

 二人も絶対気に入るよ」


緑毛のくまさんは

赤毛のくまさんの悲しそうな顔に気付かないかのように

明るい声で答えます


「いいよ、やろう!」


青毛のくまさんが、大きな声で言いました

赤毛のくまさんは、驚きました

青毛のくまさんは身体を動かす遊びが大嫌いだと思っていたからです


「どうすればいいの?」


青毛のくまさんが聞きます


「簡単だよ」


緑毛のくまさんは、青毛のくまさんの手を握りました

青毛のくまさんの手に

柔らかく、温かな感触が伝わってきました


「こうやって手を繋いだら、

 ぐるぐる回るんだ」


緑毛のくまさんは

青毛のくまさんと2匹で円を描くように

ぐるぐると回り始めました


1回、2回、3回...


回る度に段々早くなってきて

青毛のくまさんは目が回ってきてしまいました


目が回ってしまったからでしょうか

なんだか、周りが溶けてしまっているかのように

いろんな景色が混ざって見えました


「凄い!

 二人が森に溶けていっちゃう」


突然、2匹を見ていた赤毛のくまさんが

大きな声で言いました


周りの景色が溶けたように見えたのは

自分が溶けてしまっているからなのかな?


青毛のくまさんは、

頭の中までぐるぐる回って

何がなんだかわからなくなってしまいました


どれくらい回ったかわからなくなった頃

青毛のくまさんはいつの間にか座り込んでいました

溶けてしまったように見えた周りの景色も

今はもう元通りです

それでも、まだぐるぐるが残っているのか

なんとなく森の木が歪んで見えてしまいました


「凄い!凄い!

 二人がどんどん消えていって

 でも、止まった途端、また出てきて!

 魔法使いみたい」


赤毛のくまさんは余程びっくりしたのか

飛び跳ねて喜んでいました


「赤毛のくまさんにも出来るんだよ

 やってみる?」


緑毛のくまさんが、誘うと

赤毛のくまさんは何度もうなずきました


そうして、今度は赤毛のくまさんが

緑毛のくまさんとぐるぐる回り始めました


初めはただ2匹が回っているだけだったのが

どんどん色が変わり始めて

やがて、土の中に溶け始めました


青毛のくまさんはびっくり


「凄い!

 二人が土の中に溶けていく!!」


赤毛のくまさんが大きな声で言っていたのはこの事だったのです

青毛のくまさんは、頭がぐるぐるになっていたことも忘れて大喜び

何度もその場で飛び跳ねてしまいました


そして、2匹の姿が溶けていなくなってしまったと思ったその時、

緑毛のくまさんと赤毛のくまさんが目の前に出てきました


青毛のくまさんはまたびっくり


赤毛のくまさんは大喜び


「僕も消えたの?

 魔法が使えた?

 やった!!」


喜んだ赤毛のくまさんを見て、

緑毛のくまさんも嬉しそうです


「みんなで手を繋いでも出来る?」


赤毛のくまさんが聞きます


「僕と赤毛のくまさん、青毛のくまさんの3人でなら

 もっと凄いことが出来るよ

 お日様の中に溶けちゃうかな?」


緑毛のくまさんは笑って言いました


「そっか、色だね?!」


青毛のくまさんはぽんと手を叩いて言いました


「色?」


赤毛のくまさんには何のことだかわかりません


「色は混ぜると違う色に変わるんだ

 僕の青色と緑毛のくまさんの緑色なら深い森の色

 君の赤色と緑毛のくまさんなら土の色

 周りの景色と同じ色に変わるから

 溶けたように見えたんだ

 最初に、森の木の色と同じ色した緑毛のくまさんを

 僕も君も見つけられなかったのと同じだよ」


青毛のくまさんは

きらきらと目を輝かせて話しました

色が混ざると違う色に変わることも

同じ色だと周りの景色に溶けてしまったように見えることも

どっちと凄いことですが

凄いことを知っている青毛のくまさんはもっと凄い

と、赤毛のくまさんは思いました

赤毛のくまさんには魔法のような出来事を

青毛のくまさんは知っているのです


僕も本を読めば、

緑毛のくまさんや青毛のくまさんような

魔法の使い方が分かるかな?

赤毛のくまさんは思いました


緑毛のくまさんは笑顔で何度もうなずきました


「じゃあ、青毛のくまさんと僕が

 手を繋いで回ったらどうなるのかな?」


赤毛のくまさんが聞くと、

青毛のくまさんは驚いた顔で緑毛のくまさんを見ました


緑毛のくまさんはわらったまま、2匹をじっと見ているだけです


「じゃあ、やってみようか」


青毛のくまさんは、赤毛のくまさんと手を繋ぎました

赤毛のくまさんは少し驚いた顔をしましたが

でも、すぐに笑顔になっていました


2匹がぐるぐる回り始めると

やがて2匹は夕焼け色の空に溶けていきました


それはまるで空を飛んでいるような気分でした




その日から、赤毛のくまさんと青毛のくまさんは

すっかり仲良しになって

一緒に遊んだり、本を読んだりするようになりました


え?

緑毛のくまさんは?

もちろん一緒に遊んでいますよ

そうして時々3人で

手を繋いで回るのです


いつまでも、輝くような仲良しでいられるように、ってね

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[良い点] 好きなものが違くても 手を取合えば新しい発見がある 認め合う事の大切さ 大人こそ読むべきですな。 [気になる点] 緑のくまさん は いつも 赤と青のくまさんを見て やきもき してたの…
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