漫画家という夢
(こいつも迷っているのか)
将来の夢を。
何にすればいいか、何をやりたいか、何を書きたいか、ということを。
栄生を見た時そう思った。
プリントに何も書いていない、そう一字も。
いつもスラスラと文章を連ねて超スピードで書く栄生が。
(意外だった)
夢があると思っていた。
何かなりたい職業があって、そこに一生懸命に向かっているのだと思ってた。
そう勝手に思っていた。
自分も迷っている。
だけど、プリントには思い当たった「漫画家」と書いた。
スポーツ系はちょっと得意なだけで、プロへ目指すには無理すぎる。
他にみんなが書いていた大きすぎる夢の医者や建築家は除外した。
「何?決まんないの?」
ただ聞いてみただけだ。気になったから。
「…!見るな!」
恥ずかしそうに目をそらされた。
なぜ、そんな反応をするのだろう。他の女子はしないのに。
「なんで決まんないの?夢あるんじゃないの?」
あるはずだ。こんだけ、いつも輝いていたのだから。
何をやっても成功しそうなのだから。
「…おれは漫画家にしたよ」
これだってテキトーに書いただけだ。
それでも、参考になればいいと思って言ってみた。
そうしたら。
「へ…意外」
そう返された。
何が意外なのか。自分にどんな感情を抱いているのか、気になる。
「スポーツ系じゃないの?」
「無理。実力的に無理」
即答。
あたりまえだ、現実は厳しいのだから。
「なら理系とか…」
晃はほんの少し目を見張った。
もちろん、気づかれない程度に。
「それってどういう系??」
だってそんなに得意ではないはず。なのに、なぜ。
「科学者とか、宇宙飛行士とか」
無理だ。心のなかでそう思いながら、晃は憧れる。
できるならやりたい。やりたい。けれど…無理だろう。
「いいね、それも…でもやっぱりこれにしておこ」
無理なのだから。
そう思い、晃はプリントに目をやる。
漫画家の欄に書き込みをし始めた。
「栄生、夢ないの?」
聞いてみた。本当にないのか確かめるために。
「…あるよっ!」
負けじと返された。
(でも、書いてないじゃん)
なら、やはり迷っているのか。
「なら書けよ」
栄生は痛いところをつつかれたとばかりに顔をしかめる。
晃はかわいそうかな、と思い、アドバイスをすることにした。
「あるんじゃないの?栄生だったらラノベ系かと思ったけど」
素直に、そう思うから。
だって、いつも書くのが楽しそうに、本当に楽しそうに書いているから。
「はい?」
予想外だというように、栄生が目をみはる。
「他にも先生とか。どうせそっち系だよな?」
自分ではできない路線系のほうだろう、きっと。
「うーん…」
意外にも栄生は黙った。
(まだ、悩んでいるのか)
なぜ、悩むのか。夢がありあまっていそうなのに。
それだけの才能があるのに。
「じゃ、親の職業でも書けば?」
せめてものアドバイス。
これしか、晃から言うことはない。
これで、栄生が書いてくれれば。
「……──考えてみる」
栄生は少し考えた後、「デザイナー」と書いていた。
気付かれないようにチラチラと見ていた晃は驚く。
(どっちかの親がデザイナーなのか……?)
そんなことは聞けない。
プライベートだし、まさか友達だという程仲が良くないから。
ただのクラスメイト。そして、さらに異性だ。
(ま、でもやろうと思えばできると思うけど)
栄生だったらデザイナーだってできるだろう。
そう思って、晃は自分の紙に向かった。
晃視点の物語でした。