なりたい職業は?
机の上に紙を配られる。
その紙を見た瞬間、栄生はため息を付いた。
(あ…ないよ…)
題は将来の夢。
将来の夢を決めて、なりたい職業を調べてポスターにするのだ。
「……──」
はっきり言って栄生は将来の夢がない。
分からない。
算数を解くのは大好き。なら学者?
文章書くのも得意。それなら作家?
理科はまあ、好き。じゃあ物理学者?宇宙飛行士?
社会は…歴史は好きだから、歴史学者?
他は苦手なことばかりなので、却下。
父親は技術屋や、営業サラリーマンなどと転職をしていた。
母親は建築家をやりながら社内デザイナーもしていた。
でも、両親の仕事に憧れは、ない。
いいなと思う職業もあるが、大変そうなので書けない。
小学生らしくない…と言われたらそうだ。
夢がないというのは絶望的だ、と言われればそうなる。
栄生の考えとしては。
「まずは勉強ややることをこなしてから考える‼」
だった。
これから先経験を積んでいけばやりたいことが増えていく──そう思っているのだ。
そうかもしれない。
だが、今、将来の夢を書け、と言われている以上書かなければならない。
再び栄生はため息をつく。
「…どうしよう」
日光移動教室の前にこの課題を終わらせるという難題があったのだった。
「何?決まんないの?」
そこへ、席が近い晃がチラリと栄生のプリントを見てきた。
「…!見るな!」
「なんで決まんないの?夢あるんじゃないの?」
ストレートに問い詰められ、栄生は答える余地がない。
「…おれは漫画家にしたよ」
「へ…意外」
栄生は素直に、意外と思った。
晃ならスポーツ系とか…あとちょっとは勉強が得意な方だから理系の方とか。
なのに、漫画家って。
「スポーツ系じゃないの?」
「無理。実力的に無理」
「なら、理系とか…」
「それってどういう系??」
「科学者とか、宇宙飛行士とか」
「いいね、それも…でもやっぱりこれにしておこ」
晃は再びプリントに書き込み始めた。
それを見て、いいな、と栄生は思う。
夢があっていいな、と。
「栄生、夢ないの?」
「…あるよっ!」
「なら書けよ」
即座に返答された。意外とキツい。
「あるんじゃないの?栄生だったらラノベ系かと思ったけど」
「はい?」
「他にも、先生とか。どうせそっち系だよな?」
「うーん…」
栄生は返答ができない。どうしていいか分からないからだ。
「じゃ、親の職業でも書けば?」
「……──考えてみる」
栄生の親は…そこで思い当たった。
デザイナーもいいなと。
本気で”夢”として考えていない。が、いいかもしれないと。
栄生は…夢の欄にデザイナーと書いた。
もちろん、これが絶対叶えたい夢ではない、ということを前提に。