高学年リレー
シュンは足が速い。
毎年リレー選手に選ばれる。
去年も選ばれた。その前も、その前も。
1年生からずっと……。
「そして、今年が最後か」
6年生でこの小学校を卒業する。
だから、最後は何が何でも勝ちたいのだ。
低学年リレーが終わり、高学年リレーとなった。
初めは女子の対戦。
赤組、赤、黄色の色の選手。
白組、青、白の色の選手。
全部で4チームだ。
ここで、ゆずの放送がかかり、スタート。
「がんばれー!」
赤、白、両組からの声援がうるさい。
「はい、4チーム一斉にスタートしました!先頭は赤チーム、猛烈な速さです‼」
ノリノリな栄生の実況。
思わず、見ていたシュンは笑みを浮かべた。
「お、黄色チーム、青チームを抜かしました‼2位になりました」
声を上のほうに持っていく感じで棒読み感がなくなっている。
──が。
「ただいまの順位は、一位赤チーム、2位黄色チーム、3位白チーム…すみません、3位青チーム、4位白チームです。白チームがんばれ‼」
青と白を間違えてしまったのだ。
「がんばれ‼」
まだ栄生の実況が続く。
そして、アンカーに渡った。
「バトンがアンカーに渡されました。あと一周です。がんばれ‼」
一周をリレー選手は走りきり…ゴールへ。
女子の結果は、1位赤、2位黄色、3位青、4位白だった。
次は男子のリレー。
シュンは白組のため、女子の方で負けたので、ここで巻き返す義務を背負っている。
また、放送本部にいる栄生も祈るようにシュンを見つめた。
去年、同じクラスだったシュンの実力を栄生は知っている。
「白組…勝って…」
そう願いながら、実況を再び初めた。
シュンは3番めに走る。
4人目がアンカーだ。アンカーの足を引っ張らないように走らなければ。
「選手、そろってスタートをきりました!」
栄生の実況、そして声援の声。
2番手がシュンの元に、走り寄ってくる。
「早く!」
シュンはゆるく走りながら後ろに手をのばした。
「……!」
しかし、バトンはこなかった。
「!?」
2番手が渡す瞬間、突如に立ち止まったのだ。
「なっ!」
「ごめん!」
2番手がまた走り寄ってくる。
早く、早く。バトンを。
じゃないと、一位はとれない。2位の選手がシュンをぬかした。
(ここで…巻き返さないと…俺のせいになるだろ‼)
心の中で、強く念じる。
2番手はまだ、追いつかない。そこで。
「何やってんのー渡しなよー!」
晃の野次がとんだ。
はっとして、2番手がシュンとの差を追い詰める。
「早くっ!」
「はいっ!」
シュンはバトンをさっと受け取った。
途端に走る速さを早める。
先頭は赤。速くしないと。
(…でも、走れば、俺の勝ち‼)
シュンは速い。
一瞬で一位を抜かした。
そのまま、走りきり…アンカーへ。
結果、白組が一位をとったのだった。
「は…すごかった」
栄生はリコと共に更衣室へ向かう。
「ね。最後のリレー、ドキドキした」
「うん。危なかったよ、白。シュンの元にバトンが遅かったら…って考えると」
「でも、結局引き分けだったね」
「まあね」
リレーは女子と男子の結果を合わせると引き分けだった。
「でも、白は勝ったよ!」
「総合的にね!嬉しい」
白組は赤組に勝った。
それは、運送能力が優れていた人が多かったのか、団長の結束がよかったのか…それは分からない。
「…あのさ」
栄生の前に沙羅がきた。
「何?」
「認めるわ」
「何を」
沙羅は言いづらそうに少し、言い淀む。
「…その、棒読みじゃないっていうことを」
「ああそれ。ありがとう」
「別人のような明るい声だったわ…びっくりした」
「それ褒めてんの?別人って…」
あきれて、栄生は苦笑する。
「本当だよ。あの声だけだったら栄生だと分からない」
「…それで?」
「放送係は栄生が適任だったね。認める」
「沙羅も、頑張ったね」
「なっ…?」
まさか褒められるとは思わなかった沙羅の顔が赤くなった。
「絵も上手いよ。リコを外したのはあれだったけど…その後、リコにも描かせてあげてたでしょ?それに、スローガンの言葉もかっこいいし」
「あ、あれは…晃が考えてくれたのよ!」
「でも、晃にお願いしたのは沙羅、でしょ?頼む人の選び方、上手いね」
「…そんぐらい、簡単だから。あんたの放送よりも‼」
沙羅は耳まで赤くした、飛び出していった。
意外と素直な人だ、と栄生は思う。
「…ふふ」
運動会のことを思い出すと、自然と笑顔があふれてくる栄生であった。
第一章完結っ‼
みなさん、読んでくれてありがとうございました‼
もちろん、まだまだ続きますよ。