第三話 「僕たちと新婚生活」
第三話
「僕たちと新婚生活」
それから半年後、紆余曲折はあったが僕たちは何とか結婚をした。
亜希子はうつではあったが、その当時の医者の判断では「あと半年くらいで治るでしょう」と言う見解だったので、「結婚すること」と「結婚生活を送っていくこと」には、特に問題を感じていなかった。
「医者に行っているのだから、そのうち治るだろう。医者もそう言っているし」と思っていた。
しかし、亜希子のように「重度のうつ」は「寛解」はするけど、「完治」はほぼしない。と、僕個人としては思っている。
「完治」は字の通り「完全に治る」状態。
それに対して、「寛解」は「普通に生活できる程度」から「クスリを服用していれば普通に生活できる」という状態までを言うので、かなり範囲が広い。
うつも初期症状であれば「完治した」と言って良い状態になることは多いが、「重度」になるとなかなか難しい。
僕たちは結婚して1LDKのアパートに引っ越しをした。
1部屋は倉庫部屋にして、ダイニングキッチンは料理などをするところ。
リビングは寝食も含めてほとんど二人でいるところだ。
「ただいま」
「お帰りなさい。料理作って待っていたわ」
新婚当初、亜希子は必要以上に頑張っていた。
僕はまだ「彼女が必要以上に頑張っている」という事実には気づいていなかった。
家に妻が居るのだから、洗濯は終わっていて・掃除も軽くしてあり、帰ってきたらご飯が出来ていても、それは全く普通のことだと思っていた。
動けないうつ病患者にとってそれを「毎日やる」と言うことは、非常にきつい仕事なのだ。
でも、彼女が病気だと言うことは頭では解っているので、「洗濯が出来ていない」とか「料理が出来ていない」とかで怒りが湧いてくることは全くないし、「無理はしなくて良いよ」とも言っているので、やってくれたことに関して感謝は言っていました。
亜希子の料理はとてもおいしい。
舌も敏感で、お店で食べた料理をアパートで再現することをよくやっていた。
「ここでちょっとだけこれを入れるの」
なんて言いながら、見事に再現するのだ。
幸せだった。
街の会合で「新婚おめでとうございます。何か一言!」と言われたので、
「しあわせです!」
みんなの前で堂々と答えるくらい幸せでした。
名古屋に行ったときにデパートでカレー特集をやっていて、
「クミン・ターメリック・カルダモン・etc.いろいろなスパイスを組みあせて毎回違うカレーを作るのがインドのカレーなんですよ。レトルトのカレーには体に良くない物が含まれていますから、簡単ですから自分で作った方が良いでえすよ」
なんて店員の営業トークに乗せられて、色々なスパイスを買った。
そして日曜日には色々調合してカレーを作るのが二人の趣味になった。
スパイスの他にも、コーヒー・ヨーグルト・100%野菜ジュース・リンゴやニンジンの摺りおろし、色々試した。
結婚してからはゲームがあまり出来なくなった。常に一緒に居ることを要求されるからだ。
ゲームが嫌いな妻は「一緒にゲーム」は全然はまらなかった。
個人的にはMMORPGを夫婦でパーティ組んで冒険するのが夢だった。
昔やっていたMMORPGで、よく一緒にパーティを組んでいたドワーフの夫婦が居て、僕も結婚したら夫婦でゲームしたいって思ってた。
多分これから先も一生叶わない夢なんだろうなぁ。
亜希子は食がとても細く、本当にちょっとしか食べなくてびっくりした。
特に白飯はマジで仏様にあげるくらいの量しか食べなくて、病気を治す為にももっと食べさせなくてはダメだって思った。
「お酒は体重で呑める」と聞いた事はないだろうか?
実際その通りで、体重に比例してアルコールの分解量も増えるし、効きにくくなる。
クスリもそれと同じで、体重が少ないとクスリが効きすぎてしまう。
だから見た目には痩せ気味の方が綺麗なのだが、せめて標準的な体重までには増やさないといけないなぁと、漠然と感じていた。
二人とも美味しいものを食べる事が好きで、和食・中華・フレンチ・イタリアン・インドネシア・タイ・韓国色々食べ歩いた。
その甲斐があって、美味しいものは食べるようになりました。