第二話 「僕と亜希子ちゃん」
第二話
「僕と亜希子ちゃん」
元々甘い物も好きな僕は、色々なお取り寄せグルメを買ったりしてお家デートを楽しんだ。
僕が住んでいたアパートは7帖くらいの部屋とバス・トイレ・洗面が一つになったユニットバスとミニキッチンが付いた1DKだ。
部屋が狭いのでベッドは二段ベッドの上だけのパイプベッド、いわゆるロフトベッドってヤツを置いていて、ベッドの下には机と椅子とデスクトップパソコンと衣装ケースがセットされている。
ベッドが上に退かせられるので、その分生活スペースが確保できて、物だらけの狭い部屋でも、何とか二人寝泊まりできるぞ。
ベッドの横にはTVボードとTVが二台(ビデオ用とゲーム用だ!)。
TVボードの中にはビデオ・たくさんのゲーム機(当時アーケードゲームの基盤も何枚か持っていた)・レーザーディスク、男の子の夢がいっぱい詰まっているぞ!
本棚にはマンガがギッシリだ。
そんな部屋で秋の時間を過ごした。
紅茶のブレンド茶葉に『レディグレイ』と言う香りのティーバッグがあり、僕はこの紅茶に『ゆずハチミツ』を溶かして飲むのが好きなんだ。
ほどなく亜希子ちゃんもレディグレイにはまって、ケーキを食べながら紅茶を飲んだ。
彼女はそれまでブラックコーヒーしか飲まず、彼女の中に紅茶と言う選択肢は無かったが、以来紅茶も飲むようになった。
僕の部屋には燃焼式のガスストーブがあったから、ストーブの上でお餅を焼いたり、ケーキを軽く焼いたりして食べた。
そんな些細なことでも二人で居るだけでとても楽しい時間なんだ。
音楽隊の人たちにも僕たちの関係は秘密だった。不倫だから。
僕は学生時代を名古屋で過ごしていて、その後2年ほど就職もしていたので、今住んでいる地元は無案内だが、名古屋なら色々案内できる自信がある。
だからちょいちょい車で名古屋に行った。
彼女とデートじゃなくても毎週のように名古屋に通って連れと夜遅くまで遊んでいた。片道100キロ以上ある場所だが、僕にとっては通い慣れた道だ。
当時【パステル】というケーキ屋さんで【なめらかプリン】というトロットロなプリンが新発売されて「新食感だ! 画期的だ!」と話題騒然だったプリンが売り出された事を知って、お土産に買って帰り、二人で初めて食べた時はもの凄い衝撃だった。
「何? これ!? 凄くトロトロで美味しい。口に入れた瞬間溶けちゃう」
「めちゃめちゃ美味いね。また買ってくるね」
今はコンビニでも普通に売っているとろける系のプリンだけど、当時は名古屋まで買いに行かないと手に入らない物だったんです。
そしてこっそり二人共通の物が欲しかったから同じデザインで色違いの時計をペアで買った。
彼女は旦那さんと暮らしていたアパートを抜けて実家暮らしだったので、気軽に会うことは出来なかった。だから買ってきた物を渡すためにちょっとだけ会ったりぐらいしか出来なかったのだ。
誰もがそうだとは思うが、付き合い立ての頃は毎日がとても楽しいものだ。
毎晩電話した。
彼女は実家でTVもない部屋に引きこもっていて、布団に入って電話してくる。毎晩1時間2時間は電話していた。
この頃の僕はただただ楽しかった。
でも亜希子ちゃんはそうじゃなかった。
前述した通り彼女は重度のうつだったので、電話する1時間だけ頑張って起きていたのだ。