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第八話 中間テストが青春と波乱をもたらしている件

 高校の正門を通った先に二人はいた。

 ショートボブの少女は胸の前で小さく手を振り、内巻きロングの乙女は頭の上で大きく手を振る。


「かれぴ、おはようちゃん!」


「遍くん、おはようございますっ」


「おはよう。あと神崎、お願いだから変な呼び名は控えてくれ……」


 なんなら大袈裟な身振り手振りも控えてもらいたい。

 どちらも周りの生徒からの視線が痛いので。

 

 まぁでも神崎が胸の前で手を振るものなら、ぶつかって弾んでしまいそうだな。俺の心も。


 朝だと言うのに二人して話は弾んでいた。

 それもそのはず。今朝から廊下に成績が張り出されているからだ。

 朝早く集まったのも三人で確認したいと神崎が提案したからである。

 

「ふむふむ、あむちゃんは勝てる自信おありなのかね」


 階段を上りながら、神崎はウザキャラで問う。

 当然、俺が三位である前提で話は進む。


「あります。陰キャぼっちは暇なんです。勉強する時間だけはありましたから」


 白石が俺みたいな自虐を言っていた。

 俺みたいになっちゃいけないからね?


「恐るべき陰キャ魂……! でも陰キャなら遍くんも負けてないはず。あれ、遍くん、おーい、目線をわざと外すのやめましょうね!」


「はは。勉強はお前たちが俺の分もやってくれてるし、安心してゲームしたよ」


「ほぇ〜さすがって、ん!? 一瞬カッコいいこと言ってるかと勘違いしちゃったし! ただの言い訳仙人め!」


「遍くん、勉強教えて欲しかったらいつでも教えますから……」


「是非とも教えて欲しい」


 嗚呼、願わくば家庭教師としてつきっきりで教えてもらいたい。

 

「その時はわたしも呼んでね!」


「呼ばない。俺のオアシスを壊されてたまるものか!」


 二階に着くと、テスト結果を確認する者が廊下にポツポツといた。

 

「ど〜れどれ。王者の風格ってやつを見せつけてやりますかな!」

 

「陰キャの努力、見せつけます……!」


 ドキドキの二人を横目に、俺は重い足を引きずっていた。

 学年は総勢二百人あまり。俺の成績はせいぜい七十位が関の山だろう。

 期待の膨らまない俺はせめて白石に軍配が上がれと切に願う。

 

 果たして神崎と白石、どちらが勝ったのか──

 

「あちゃ〜」


「まさかのまさかです……!」


 俺は自身が八十一位という中途半端な結果だったのを見なかったことにし、世紀の対決へ目をやった。


「って同率一位だと……!?」


 千点満点中、九百二十点、神崎文乃、そして白石あむ──


「あむちゃん、アベレージ九十越えを取るなんて流石(・・)だ〜!」


「いえ、神崎さんがいつもこれくらいの点数を出してる凄さを実感しました。流石(・・)なのは神崎さんです」


「てへっ。そうとも言うね〜照れる照れる」


 熱い握手を交わす二人をぼーっと見守る俺。

 俺ってなんで生きてるんだろうな〜と思っていると、神崎にめちゃくちゃ笑われる。


「ぷはっ! 遍くんってば平均な成績すぎて流石(・・)だな〜!」


「あの、さっきと流石(・・)のニュアンスが違うような気がするんですが」


 とはいえ努力不足なので何を言われても仕方がない。


「いえ、結果だけじゃないです。遍くんが頑張ったなら賞賛に値すると思います」


 白石が優しく微笑んでくれるのが身を刺すように痛い。

 

「はいはいっ、あむちゃんの無自覚遍くん殺しはそこまでにしてっと。三位の遍くんは同率一位のわたしたちの言うことをなんでも(・・・・)聞かなくてはならないのだよっ」

 

「煮るやり焼くなり好きしてくれ。何をするかは決めてあるのか?」


 神崎も白石もうんうんと頷く。


「あ、あのっ、私はデートしたいです!」


 先手は白石だった。

 声が少しうわずった白石は伏し目がちになる。

 しかし俺の反応が気になるのかチラチラ見てくるのが可愛かった。


「おう、しよう。詳しくは後日な」


 白石は今にもぴょんぴょんと跳ねるほど喜んでいた。

 対する神崎はハーイハーイ!と手をあげている。

 お前は授業参観で頑張る小学生かっつうの。


「わたしの要求は死ぬまでずっと続くけど覚悟はできてるかい? 遍くん」


 思わずうげ……と声が出そうだった。


「なんだ奴隷にでもなれってか。基本的人権を侵害しない程度で頼むぞ」


 いくら俺でもぎりぎり人権はあるんだからな!


「だいじょうぶい! もっと単純で簡単だよ!」


 そう言って少し言葉をため、俺が先を急かそうとしたところで告げられる。


「──わたしのこと文乃って呼んで欲しい」


 窓から一陣の風が吹いた。

 ふわりと亜麻色の髪が文乃の顔を覆うが、彼女は気にせず俺を見つめたままだ。

 いつものふざけた感じがないからか、思わずドキッとしてしまう。

 髪が元の場所に整列されると、文乃はにこっと微笑んで声に出さず喋った。

 その口の動きは「ほら、呼んでみて」と言っているようで──


「────文乃」


 告白でもない、ただ呼び捨てするだけ。

 なのに心臓は鼓動をエスカレートさせる。


「はい、よくできました!」


 そのまま抱きしめようと近づいてくるので身をねじって回避する。


「おいおい! 通行人もそこそこいるのにしてくんなって!」

 

「つまりは二人きりだったらしてくれると? ニヤニヤ」


「誰がニヤニヤと声に発する変人とぎゅーするかっ!」


 ここで傍観する白石が一言。


「なんだか負けた気分です……」


 何となく白石が言っていることが分かった気がした。

 しかし傍観していたのは一人だけじゃなかったのだった。


「へぇ、神崎さん、僕が下の名前で呼ぼうとしたら嫌がったくせにそいつはいいんだね。へぇ」


 俺は突然の乱入者を知らなかった。

 ワックスで整えられた茶髪が似合う爽やか系イケメン。

 彼は俺の存在など無いがごとく、間に入って文乃と向き合う。

 その結果、よくわからん男なんぞの背中が視界に広がった。


 俺には男子の背中を凝視する性癖は生憎ない。

 ということでお友達さんと会話楽しんでな、と立ち去ろうとしたが──

 

「近藤君、今さら何か用なの? もう関わることはないと思ってたんだけどな〜」


 俺や白石に向けられたことのない棘。


 あー近藤と言えばあの浮気くずサッカー部で、文乃の元元カレだっけか。

 立ち去るのはやめるかと思い、俺は壁にもたれかかることにした。

 近藤のことは興味本位で気になるし、それにお世辞にもいい雰囲気とは言えないしな。

 白石も近寄ってきて一緒に様子をうかがう。

 

「用ならあるよ。君、僕の連絡先消してるでしょ。それか無視してるよね。連絡しても未読のままだからさ」


「連絡先なら消したよ。それがどうかしたの?」


 学年でも有名な美男美女が険悪な空気ということもあり、察知した生徒がコソコソじろじろと見始める。


「あのさ、いや……、今は衆目も集めてるし、話せないかな。今日の昼休みとか空いてるかい?」


「今ここで話せない話なんだ? なら昼休み技術室に来て。あそこなら人いないし」


「うん、了解、助かるよ」


 そう言って爽やかなスマイルのままその場を立ち去る近藤。

 すれ違いざま、通行の邪魔でもないのに、彼は俺だけに聞こえる声で囁いた。


「陰キャが。邪魔なんだよ」


 白石も聞こえたのか、ぞっとしたような顔で固まる。

 彼が教室へ入っていくと同時に、文乃がぺこりと頭を下げた。


「いやぁ、別れたのにわたしのこと大好きっぽくて困るなぁ」


 冗談なのか事実なのかは分からなかった。


「文乃、技術室を選んだのって──」


 技術室は美術室の隣であり、聞き耳を立てれば盗聴できてしまう。


「ふふん、さ~どうでしょうな~。昼休みをどう過ごすかは遍くんたちに任せるよっ」


 チャイムが鳴り、朝のホームルームが始まろうとしていた。


「じゃあ、わたしはここらへんで! どろん!」


「俺たちも教室行くか」


「ですね」


 立ち去る文乃は元気がなさそうに見えた。

 なんだか雲行きが怪しくなってきたな……。

 今カレでもない俺は、文乃の元元カレのことがなぜか気になっていた。

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