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第二十話 因縁の相手とビーチバレーでケリをつけた件

「遍くん、ちとキツイね~」


「だな」


 スコアは二十四対二十八。


 俺たちは四点差で負けている。

 とはいえかなり善戦しているのも確かだ。

 幸いにも、櫻井や連れの男子二人は運動神経がいい訳ではない。

 むしろ運動不足が否めない身のこなしであり、千夜や白石でも充分に戦えている。


 問題は──


「きゃっ」


 藤堂先輩の放ったサーブが白石の腕をはじいた。

 結果、白石はしりもちをついてしまう。


「あぅ、ごめんなさいです」


「いや仕方ない。多分俺でさえレシーブできてなかっただろうからな」


 問題は──バレー経験者の藤堂先輩だ。

 先輩は特に千夜や白石を狙ってスパイクやサーブを打つ。

 弱点を執拗に攻めてくるのは勝利の鉄則。

 頼りない男子陣を尻目に、先輩は多くの得点源となっていた。


「う~~む。厄介だね、あの女」


 これには文乃でさえ舌を巻くほど。

 おそらく運動神経で言えば文乃に軍配が上がるだろうが、ことバレーにおいては今のところ・・・・・先輩のほうが手ごわい。

 

「兄貴、なんとかしないとじり貧だよ……」


「なんとか、か……。できなくはないんだが」


 以前の球技大会、俺は自身より実力を有する近藤に勝利した。

 その時は正攻法ではなく、相手の感情を揺さぶることで有利に進めた。

 今回も同様に、心理戦で優位に持ち込むのも手ではあるのだが──


 文乃が見透かしたように笑う。


「遍くんが言いたいこと分かっちゃったかも。つまりここで正々堂々、実力で勝たないと、過去を払拭できないって言いたいんだよね。球技大会決勝とは違って、結果と同時に過程も大切だから……」


「さすがというか、エスパーなのか疑うレベルの推理だな。もっとも、同じ状況だからこそ考えも同じというわけか」


 文乃は理解している。

 櫻井敬志、藤堂麻衣による呪縛から解き放たれるには、小細工なしで打ち破る必要があるのだと。

 そうでないと殻は破けない。

 トラウマという過去はへばりついたままになってしまう。

 謝罪されるのと同じくらい大切な要素なのだ。


 俺たちが話し込んでいると、先輩が余裕綽々と声をかけてくるのだった。


「たしかに君の彼女さんは凄いけど、わたしには及ばないみたいだね。ざーんねん」


「先輩、それは試合を最後まで通さないとわかりませんよ」


「んー? それは遍くんが活躍するってことかな」


「いえ、俺は全力を出し切ってますから、これ以上の活躍は見込めませんね」


 先輩には大きな見誤りがある。

 それは神崎文乃という人間はこの程度・・・・ではないということ。

 

 俺はスポーツ飲料を飲み干し、静かにポジションに着くのだった。



 しかしこれといった活躍もなく、気づけばスコアは二十七対三十。

 あと一点取られれば俺たちは敗北を喫してしまう。

 まさに絶体絶命だ。


「いやぁおもしれぇ。宮野、お前が最初にサーブミスしたのが悪かったんじゃねぇのか? 」


 観衆にぎりぎり聞こえない声で櫻井は罵った。

 

「 そうだな。次でお前たちが勝てばその言い分も分かる」


「その言い方だとまだ勝つつもりかよ。無理無理。ま、せいぜい負けて別れる前に楽しんでおくんだな」


 俺は彼の侮蔑に返答せず、突拍子もない質問をする。


「櫻井、この試合が始まって何分ほど経過したと思う?」


「ん? そりゃ一時間くらいだろ。それがどうかしたのかよ」


「そうだな、実際にはおそらくもう少したってると思う」


「それがなんなんだよ」


「実際のバレーはこの倍はスピーディーに行われる。藤堂先輩なんかは経験者だからこそ分かるはず」


「そうだね。まぁイベントだし、こんなものかなって感じだけど……。開催者もこの炎天下で熱中症にならないようこまめな水分確保を促していたし」


「それに加え、俺たちが得点毎に会話に興じているからこそ、試合はリズムが遅い。まさに今この瞬間がいい例だ」


 俺は試合開始からずっと一つの懸念があった。

 そして実際に文乃のプレーを見て杞憂ではないと理解した。

 

 それは「文乃の体調が万全ではない」ということ。

 というのもコイツはイカ焼き二人前、そして焼きそば一人前をぺろっと平らげている。

 そんな満腹な状況下、ビーチバレーで本領発揮できるはずがない。

 消火には二時間以上かかるのが一般的であり、実際に最初は動きが鈍かった。

 だからこそ試合を長引かせ、できるだけ文乃が活躍できる体調を目指したのだ。

 

 やはり物分かりがいい文乃は恥ずかしそうに笑う。

 俺たち以外は何が言いたいか分からずぽかんとしていた。

 俺は文乃を優しく撫ぜ、ボールを託す。


「さて、ここから全てサーブを決めて欲しい。それくらい文乃なら余裕だろ? 」


「 遍く~ん、普通そこは、俺が愛しの文乃のためにここから全てサーブ決めてくるよ……ってかっこつけるところなんだけどなぁ」


「俺がそんな主人公らしいこという訳ないだろ。俺は凡人、お前は完璧超人なんだ。適材適所っていうだろ? それに、最後の最後でサーブの順番が文乃に回ってくるよう調整した。俺が打つとルール的に違反になるんだよ」


「む~知ってるけど~」


 俺と文乃しか分からない会話。

 白石がぽつりと呟く。


「よく分からないですけど、神崎さんなら本当に決めてしまいそうですね……」


 白石も文乃のことを何となく理解してきたようだな。


 久しぶりに回ってきたサーブ権にウキウキの文乃。

 コートの外で元気よく飛び跳ねている。


 文乃が活躍できる環境は整えた。 

 他力本願だが、バレーはチーム戦。

 あちらが藤堂先輩に頼るなら、俺は文乃に頼る。

 フットサルの試合とは違い、今度は正真正銘、(神崎文乃の)実力で勝ってみせる。


「さーて、完璧な彼氏くんがわたしのことを完璧に理解して、完璧な舞台をつくってくれた。わたしのウルトラスーパーサーブをお見舞いしてやろうかね〜」


 そして、文乃は空を舞った。

 大きく体をしならせた綺麗なジャンプサーブ。

 しかも無回転の弾道。


 その強烈な一発は先輩の腕をはじき、湧き上がる歓声とともにスコアボードが更新される。

 思わず藤堂先輩が口を開いた。

 

「ジャンプフローターサーブで無回転って、さすがにまぐれだよね……?」


 その後、無慈悲に繰り出される無回転サーブが、機械的に得点を重ねていくのだった。

 


 

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