第十七話 五人で海を満喫している件
「遍く~ん! どうかな!」
更衣室の外、俺は文乃の水着姿に見とれてしまった。
淡い黄色の水着は文乃の豊満なボディを引き立てている。
例えるなら菜の花畑に咲く一輪の赤いバラ。
周りの通行人も思わず二度見するくらいに可憐だった。
「うん、なんだ、その、よく似合ってる」
「ほ~う? 惚れ直してしまったと、つまりはそういうことなんだね~!」
「そこまでは言ってないが……」
「遍くん、わたしの胸にご執心なのもいいけどさ! みんなの水着も褒めてあげてねん」
「おいっ! まるで俺がスケベかのように吹聴するのはやめるんだ。悠希も白石もピュアだから信じちゃうだろうが」
その証拠に白石が鋭く俺を睨んでいた。
あの、断じて胸なんて見てませんからね?
水着のサイズが合ってるか気遣って少しその付近は凝視しましたけれども。
白石も純白の水着姿が似合ってて可愛いよ~など言える空気ではなくなってしまった。
「む。遍くんのすけこまし。えっち……」
「白石に嫌われたらもう終わりだ……」
そして、白石に触発されたように悠希が口をとんがらせる。
ちなみに悠希は初々しいスクール水着だ。
「なるほど……。お兄さんもやはり雄の本能が勝ってしまったようですね。ショックです」
そう言ってから悪そうに笑った。
さては面白がっているな……?
「悠希のやつ、俺をからかって……。以前はもっと純粋でまじめだったのに、今ではまるでうちの愚妹のようだ」
おそらく千夜と仲良くなるうちに、悠希も悪い影響も受けてしまったのだろう。
とはいえ、学校で有名な千夜の活躍もあって、悠希へのいじめは鳴りを潜めたという。
その点では俺としても千夜に感謝すべきだが──
「愚妹……? ふぅん、そんなこと言っていいんだ。はい、みなさん! うちの兄貴が深夜一時になると何をしだすか知ってますか~?」
「おい!」
俺は千夜の頭にチョップをお見舞いした。
前言撤回、感謝どころか痛い目にあったほうがいい。まじで。
何を言い出そうとしてるんだ、こいつは。
痛いぃと嘆く千夜を尻目に、何のことかわからなくて不思議がる白石が印象的だ。
深夜一時に何をするかって……? そりゃあ……瞑想でしょ?
◇
「悠希、楽しいか?」
白石に海水をかける文乃を見ながら、俺は質問した。
「はいっ。もちろんです。お兄さんのお友達はいい人ばかりで、またみんなで集まれたらなって思ってます」
「そうか。ならよかったよ」
ショートヘアーが似合う悠希はにっこりと笑った。
太陽にも負けないくらいの眩しい笑顔だ。
「お兄さんのおかげで友達は増えて、いじめもなくなりました。本当にありがとうございます。僕の居場所を作ってくれて」
ぺこりと頭を下げる悠希。
くるぶしまで浸かる海に一粒の涙が落ちる。
抱きしめるのもはばかられるし、いったいどうするべきか。
と思っていると千夜が駆け寄ってきた。
「悠希~どうしたのっ。さては兄貴が変なこと言ったんだ~?」
「ぐすん。お兄さんが、お兄さんが……」
「なにしたの! 兄貴!」
「誤解だ。悠希は悲しんでたんじゃなくて、感謝して泣いて──」
弁解に徹していると、いつもの二人組も集結する。
「ま~ったく。遍くんはすぐ女の子を泣かすんだから……わたしも幾度となく……ぴえん」
そう言って文乃は目元をぬぐう仕草をした。
実に嘘くさい。
俺が誤解を解くために全貌を伝えようとするも──
「いい訳無用! 泣かせたなら、泣かせてみよう、遍くん」
「はい? 何を言って──」
瞬間、文乃が俺に飛びつき抱きしめるのだった。
「おい──」
浅い海に俺と文乃は倒れこんだ。
砂浜は柔らかく、涼やかな海水は心地よい。
砂浜よりも柔らかいものが密着していたが、俺の身体が無秩序に反応してしまいそうなので気を紛らわす。
「遍くんはわたしたちの餌食になるのだよ。ふっふっふ~。みんなっ出動~! 遍くんが泣くまで水をかけまくるんだ~」
文乃が退却するとともに、俺は海水をこれでもかとかけられる。
集中攻撃を食らうなか、文乃の甲高い笑い声が響き渡った。
「はっはっは~。わが軍は最強なのだよ~ 」
しかし俺もやられてばかりではいない。
「……やったな? 男の力を見せてやる」
開戦もとい海戦の狼煙が上がった。
俺はざぶんと巨大な水しぶきを上げる。
水しぶきは四人を覆いつくし、悲鳴と歓喜が入り混じったような声が耳に届く。
「ふん。俺に喧嘩を売るからこうなる。おとなしく砂のお城でも作るんだな」
俺の攻撃によって髪型が崩れに崩れた四人。
それぞれの目つきが野犬のごとく鋭い。
あれ? 俺もしかして殺される?
「兄貴~女の子は髪型が命なの。せ~っかく可愛い感じにしてきたのに!」
ぷんぷんと怒るが、そんなこと俺が知る由もない。
海なんだからヘアスタイルが崩れて当然だろ……としか思えなかった。
こういうところがモテない原因ですね、はい。
「女心というものは難しい……」
「は~仕方ない。それでこそ遍くんだし」
文乃は前髪を直しながらつぶやいた。
「ですね。女心を分かってしまったら、もっとハーレムになってしまいます。それだけは阻止しなくては」
「お兄さんは正義感は強いのに肝心なところが抜けてるんですね。ですが僕はそういうところも好きですよ」
「はにゃ!?」
変な声を上げたのは千夜だった。
白石も目を真ん丸にして固まっている。
「悠希、あんた、今、兄貴のこと、好きって……」
「え? 僕は好きですよ。みなさんもお好きではないんですか? 」
「悠希ちゃんったら大胆! けど遍くんはこのわ・た・し・と付き合ってるから!」
「もちろん知っています。 ただ人として好きってことですよ」
悠希は軽くウインクした。
「ありがとう?」
「そ、それなら、私も好きです! 大好きです! 人として」
「お、おう。ありがとう、白石。って何だこの流れは」
突如できた告白ムードに文乃も便乗する。
「わたしは人としても、異性としても大好きだから! ま、知ってると思うけど~っ」
知っているというか、基本的に三時間に一度は言われている気がする。
まぁ何度言われても嬉しいんですけどね。
視線はおのずと千夜に集まる。
なぜなら、この流れで未だ告白していないのは千夜だけだからだ。
「えっ、え~! これあたしも言わなきゃなの? さっきまで兄貴を泣かせるって話だったのに、なんでこんなことに……」
人一倍顔を赤らめた千夜。
以前こいつがブラコンなのは確認済み。
とはいえ、反応が本当にプロポーズするかのような気がするのは気のせいか?
「あたしも兄貴のことは割と、意外と、好きというか、まぁそんな感じだからっ」
そして一連の流れは終焉した。
悪くはない気分だ。何なら気分上々。
人生でも短時間でこれほど告白されるのは今日くらいだろう。
柄にもなく照れていた俺はこちらを見つめる二つの視線に気付けなかった。
金髪の青年、そして栗色のロングヘアーが似合うモデル級の美女に。




