第十六話 五人で海に行くことになった件
「初めましてです、悠希ちゃん、千夜ちゃん」
太陽の下、白石が恥ずかしそうに自己紹介をした。
俺と文乃はそれを微笑ましく見守る。
今日は文乃発案の「チーム遍、ドキドキ! 海フェスティバル! ポロリもあるかも!」の日である。
この頭の悪そうな名称はともかく、内容自体は俺もワクワクしている。
つまりは、俺に関わるメンツを集めて海で行われるイベントに参加したり、みんなで遊ぼうという旨だ。
ぜひポロリは控えて頂きたいものだ。
決してワンチャンポロリに期待してあるわけではない。決して。
バス停に集まり、顔合わせが始まった。
コミュ障気味の白石が頑張っているのは実に微笑ましい。
「初めまして、宮野千夜って言います。兄貴から白石さんの話は聞いています……! それはもうたんまりと」
「遍くんはわたしのことをなんて言ってたんです?」
「確かですねぇ」
千夜はコホンと咳をしてから、俺の声真似をし始める。
『白石はな~妹の中の妹だ。願わくば千夜と交換したい。白石さえいれば癒されるし、それにゲームで千夜に負けることもなさそうだしな、一家に一人ぜひ欲しい! とのことでした」
「妹……ですか。そうですよね、遍くんには神崎さんがいますし……。ですが癒しになれるよう頑張りたいと思います!」
落ち込んだ白石だったが胸の前でぐっと拳を握る。
千夜が「多分ゲームであたしに負けるのが嫌なだけな気が……」と言っていたが、白石の耳には届いていないようだった。
次に白石と悠希のファーストコンタクト。
ここで意外だったのは白石の頬が赤く染まっていたことだった。
「……単刀直入に言います。わたし、悠希ちゃんの顔が好きです!」
「あ、ありがとうございます。白石さんによく思ってもらえて僕、嬉しいです」
悠希は礼儀正しくお辞儀した。
それに続いて白石もぺこりと頭を下げる。
お互いに顔を上げる瞬間が同じで、二人とも照れ隠しで笑う。
これは……百合の予感……!
白石がとられてしまいそうで心配だ。
そんな邪な心配をしていると、察したように文乃がほっぺたをつねってきた。
「って、いてぇ!」
「ふん! 遍くんがあむちゃんにご執心だったのが悪いんだし~!」
どうやら脳内を見透かされていたらしい。
そんな光景を見て千夜が一言。
「兄貴もイチャイチャするようになったんだね。あたし、嬉しいよ……」
「そうは言っても遍くんはね、二人きりの時はもっと──」
俺は急いで文乃の口を手で覆う。
今日は楽しみにしていたが、前言撤回。
今まで以上に文乃の言動に気を付ける必要があるようだ。
楽しみは二の次。
先ずは俺の体裁とイメージを守らなくては。
ようやくバスが着き、俺はふがふがともがく文乃を解放するのだった。
◇
「夏だ、海だ、青春だ~~~~!」
「人が多いですね……」
「兄貴、あとで写真撮ってね。SNSにあげるから」
「僕、初めて友達と海に来ました……!」
海を見て四者四葉のセリフ。
ちなみに俺は白石と同じく、人が多くて嫌だなぁと思っていた。
浜辺にはバーベキュー施設が簡易的に作られていたり、イベント用の舞台が設置されている。
それに加えて道路側には多くの出店が並んでおり、まさにフェスティバっていた。
俺たちは更衣室に分かれ、早速水着に着替える。
女子陣ははしゃぎながら話に花を咲かせているであろうが、俺はというと男一人で着替えていた。
俺は胸に大きな傷がある。
決して目にして気分のいいものではない。
だからこそ上着を着用するのは義務だ。
遊びに来た人々の気持ちは害するつもりはないし、何より彼女たちと楽しいひと時を味わうために。
一足早く外で待つか……と思ったが、俺は思わず足を止める。
俺の目線の先、ちょうど更衣室に入ってきた男に見覚えがあった。
三年前、俺の胸に傷ができる原因となったあの事件。
その首謀者にして、文乃をひどく傷つけた張本人。
文乃いわく、名は櫻井敬志と言ったか。
身長は俺よりも高く、金に染めた髪はパーマがかかっている。
髪型も身長も違うが、俺の本能と記憶が教えてくれる。
紛れもなく、あいつなのだと。
彼は嘘くさい笑みを振りまいて同い年であろう男子と話している。
俺とすれ違うも、気付いている素振りはない。
面倒なことにならなければいいが……。
俺は嫌な妄想を払いのけ、四人が待つ場所へむかうことにした。




