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欠陥言霊術師の物語  作者: 何某さん(Pixiv:シュナじろう)
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欠陥言霊術師、帰宅する


 どれくらいたっただろうか。

 神官さんもわたしにずっと付きっ切りでいてくれて、正直ありがたかったのはありがたかったけど……どうすればいいのか。それが全く分からなかった。

 ここはひとつ、神官さんに相談してみるか。そう思い、再び神官さんに向けて念話を送った

『私、どうすればいいんでしょう』

「えっと……そう、ですね……とりあえず、ステータスプレートの都合上、身分を隠すことはできませんが……名前と年齢、職業以外は隠すことができますから、備考欄は隠してしまうのがいいでしょう。いまさらご実家に戻る、というのも何か違うでしょうし……」

『やっぱりそう思いますか……?』

「はい」

 私もそう思う。いまさら戻ったところで、問題しか起こらなさそうな気がする。ステータスプレートを見れば私が実の娘であることは信じてもらえそうだけど、一度は事件の直接的な原因となった身だ。いまさらしゃしゃり出ていい立場でもないだろう。

 それを考えるとあまり目立ちすぎるのも問題か。

 孤児院として、どんな未来を歩んでもいいように、一応一通りの仕事につけるような訓練は受けていた。

 その中には当然、護身術をはじめとする戦術も含まれている。

 私自身、体を動かすというか、そういった行為が苦手というわけでもないし、孤児に対する風当たりが強いこの世の中、冒険者というのが一番気楽に生きて、なおかつ活躍できるようになれば、孤児院にこれまで世話になった分、お金を還元できたりできてよさそうだと思ったのだけど……。

 どうやら、それは許されなくなってしまったようだ。

 有名になれば、確実に実家は私に目を付けるだろう。冒険者の名声は国を超えるのだから。

 そして、そうなれば私を見つけようと必ず捜索の手を出すはずだ。その先に何が待ち受けるのかはわからないが……まぁ、厄介ごとしか控えてないのは確かだろう。

 稼ぎはほしいが気楽なままでいたい私としては、そんなのはごめんだ。

 だから、騒ぎになりそうな冒険者は……とりあえず、登録はするけど保留だ。

 登録は絶対だ。だって、いざというときの日銭を稼ぐのに、もっとも手軽なのは冒険者になって草原やら森やらでひたすら草むしり(ただし薬草)をすることなのだから。依頼の報酬でお金をもらえて、余った薬草でさらに儲け。これを手軽と言わず何と言おう。まぁ、非効率的だけど、食いつないではいけるのでいいだろう。私、言霊あるから武器必要じゃないし。

 となると……あとは商売しかない。

 物を仕入れて……いや、この際だ。言霊をフル活用して、物を作って売るのもいいかもしれない。交渉術もあるし、威圧系のスキルのおかげで比較的商売もうまくいきそうだ。まぁ、どっちかというと交渉とはいいがたくなってしまうかもだけど。自動発動系のスキルなのだから仕方がない。

 なにはともあれ、亜空間住居もあることだし、商売人として起業するなら、まずは各地を転々とする、移動店舗的なものでもやってみようかと思っている。まぁ、それなりに人手は必要だろうけど。

『とりあえず、商業ギルドと冒険者ギルドに登録してみます』

「はぁ……えっと、どちらにするおつもりでしょうか」

『メインは商業です。あまり荒事に手を出したくはないですから。でも、売るものまだ決めてないですから、まずは日銭を稼ぐために冒険者としての活動をしていこうかと』

「なるほど……確かに、商いごとであればスキルに目を付けられる可能性は少しでも減らせますね。商売に最低限必要なのは絶対に商品を売り切るんだっていう、熱意ですから」

『極論言いますね』

「違いますか?」

『根本的には、あってる。そう思います』

「でしょう?」

 神官さんは柔和な笑みを浮かべながら、私の相談に乗ってくれる。

 やっぱり、こういう職業についている人は親身になって話を聞いてくれるから、ありがたい。不安だった心が、この人と話しながら考えていると、あっという間に答えまでたどり着けてしまった。


「さて……いきなり別室に案内してしまい、申し訳ありませんでした。しかし……話の内容が内容ですので、推測上の話とはいえ人前でできる話ではありませんでしたから。ご理解いただければと思います」

『いえ。助かったのは事実です。それに、私がいるのは孤児院。本名が違うというのは考えれば、よくある話。どうかしてました』

「あぁ、そういえばそうでしたね」

 ちなみに私に名付けられた『ルナ』という名前は、首から下げられていたネームタグにそう書かれていたからそう名付けた、と前に孤児院の職員の一人が言っていた。

 身分の差を問わず、孤児院に子供を捨てる時にはよくあることだと言っていたっけ。

「では……長々と話してしまいましたが、成人の儀式は無事に終わりましたね。ルナ様、貴方の人生が輝かしいものでありますよう、私共一同、心からお祈りいたします。本日はお疲れさまでした。どうか、お気をつけてお帰りください」

「はい。ありがとうございました。私からも、”イレインさんが今後いい生活を送れる”ように祈ってます」

「…………ありがとうございます。でも、驚きました。あなた、普通に話せるのですね」

『はい。でも……口で直接滑らかな言葉遣いを使うと、『言霊・真』が発動しちゃいますので……』

「それは……なるほど。確かに、あなたのチョーカーには『そのタイプ』の矯正に適した制限がかけられてるようでした……。驚きの事実ですね、固有スキルの『言霊・真』が自動発動だったなんて……」

『いえ。それだけじゃないです。『才能』だった場合でも、高レベルのスキル『言霊・真』は常時発動みたいです』

「そうですか……わかりました。このことについては神殿を通して、新事実として世界に発布しましょう。少々、捨てておくには重い事実でしたから」

 それはそうだろう。現に、初めて事態を把握した孤児院の職員は当時顔面蒼白で、チョーカーに手を触れるのももどかしいというほど慌てた様子で急いで私に『行動の抑制』をかけていた。

 普通に話しているだけでそこらに害をもたらすスキルを持つ者など、放置しておく方がどうかしている。

 私は運がよかった。『スキルが知りたい』とある日そう口にした途端、それの答えが脳裏に翻った。ただそれだけで済んだのだから。

 まぁ、経験則でいえば、自動発動タイプの固有スキルと言えど、レベルがまったくないわけではない。見えないだけで、自身の成長とともに一緒に成長しているのは確かだったと私は感じている。だって、最初こそ不発に終わることもあったけど、許可を得ての練習の時は年齢を重ねるにつれてその正確性を増していって、十二歳頃で気づいたら完全に言ったことがそのまま現実になるようになってたんだから。

 いわば、固有スキルの『見えないレベル』は体になじみきるまでを示したもの、または能動スキルの場合はスキルの技量の高さだと私は思っている。

『じゃあ、私はこの辺でお暇しますね』

「はい。貴重な情報を、どうもありがとうございました」

『お礼はいらないですよ。次に当たった人の周囲で被害がでる。それだけで大変です』

「そうですか。では改めて。本日はお越しいただきありがとうございました」

『はい……気が向いたら、お祈りとか、しに来ます』

「はい、お待ちしております。では、お疲れさまでした」

「ん…………」

 そろそろ昼もいい時間になってきたのでもう切り上げるかとあいさつをすれば、深々とお辞儀をするイレインさん。

 彼女に見送られながら、私は神殿を後にした。


 表に出ると、待ち構えていたかのように私に駆け寄ってくる、私の大切な義兄妹達。といっても、日数的には私が一番年下なんだけど。

「ルナ!」

「ルー姉っ!」

「大丈夫だった!?」

 ついでに言えば自慢じゃないけど、孤児院内ではちょっとした姉貴分として扱われているため、同世代の子たちからもこう呼ばれる。

 同年代の子に姉と言われるのはちょっと戸惑うところもあるんだけど……。みんなにも、心配させちゃったな……。

 務めて優しい顔を作って、皆に語り掛ける。

「ん……大丈夫。ちょっと、気がかりだったから……。でも、相談、してきたから、問題ない」

「そっか……ならよかった……」

「なにか儀式に失敗でもあったのかって、心配してたんだ……」

「うん……本当に無事に終わったみたいでよかった」

「あはは……」

 本当に無事といえるかどうかはちょっと疑問だけど……まぁ、本当に、当面の心配は無用という意味では、多分無事といえるのだろう。

「今朝、セレネさんが成人祝いに今日のお昼ご飯は豪勢にしてくれるっていってたぜ!」

「楽しみだね~」

「あぁ! そうだ、ステータスプレートもらったけど、ルー姉ほど詳しくないんだな。なんか損した気分」

「そーそー。せめてレベルくらいは出ててほしかったよ。自分はさぁ、冒険者向けのスキルだったじゃん? 特に短剣と弓術っていう相反するスキルだったからさ。レベルのバランスを考えながらどっちかに傾倒しない冒険者生活やっていきたかったんだよな。まぁ、弓矢はどっちかっていうとかねかかりそうだからやだけど」

「おいおい、それは無茶だと思うぞ」

「ん。おおよそ同感」

 経理担当のルッカスの言に、私もコクコク、と同意の意を示す。

 確かに剣は弓と違う。そりゃそうだ。いちいち刃を入れ替えるなんてことできるわけないし。弓に対する矢のように、これがないと扱えないというものが剣にはない。しいて言えば刃を納めるさやくらいか。

 しかし全くもって維持費がかからないかといえばそうでもない。剣は刃物。そして刃はものを切れば当然消耗する。そうして切れ味が落ちてしまえば手入れをする必要もあるだろう。

 剣は剣で、維持費がかかる。

「げぇ……ルー姉も反対か……」

「……片方、メイン。残り、必要最小限。両方、出費、多くなりそう」

「うぅ……やっぱそうかぁ……。砥石とか油とか磨き布とか、消耗品結構必要そうだもんなぁ……はぁ。ま、ひとまず今日はもうちっと考える。んで、明日お祝い金もらってからどっちにするか考える」

「うん、それがいいね。私は……ルー姉について行くかな。商業ギルドに登録するつもりでいるんでしょ? 私の鼻はごまかせないよ? お金の匂いが漂い始めてるんだから!」

「ん……?」

 今度はリリーが私に問いかけてくる。というか、お金の匂いが漂い始めてるってどんな意味よ?

 まぁ、方針として間違ってはいないけど。さっき方針を転換したばかりでほとんど誰にも言ってないはずなのになぜ気づいたし。さすがは固有の守銭奴スキル持ち(命名:私。実際にはそんなスキルはないと確認済み)。とかく、彼女は冒険者には向いていない。戦術として使えるようなスキルも、才能としては恵まれていない。孤児院で身につけた、最低限の護身術が通常スキルで見についている程度だ。だから、ついてこようとしているなら止めはしないけど、初っ端からついてこないように言いつけておかないとね。

「冒険者ギルドで、ある程度、資金集めてからね」

「え? そ、そうなの!?」

「ん……一応、成人祝い、自立準備金、もらえるけど……商いごと、するなら、孤児院、負担かかる」

 そう。一応私達の孤児院は、私達が内職で稼いだ分を、成人祝いとして渡してくれるのだ。無論、内職をしていた当時も、きちんともらっていたが、何割かはやはり差し引かれていた。その分が、戻ってくるというわけだ。

 無論、孤児院という業態の運営資金源はそれだけじゃない。運営元によりことなるものの、自治体からの支援金、神殿からの支援金、独立していった先達からの好意などなど、多方面にわたっている。特に、私達の孤児院は資金源的には恵まれている方だ。

 でも、世の中そう甘くないのも事実で、特に孤児に対する風当たりが強いこの世の中、社会に出てからどうお金に困らないようにするかがポイントになってくるのは間違いない。

 それを少しでも緩和するためにと、私達の孤児院は仕事を始める際にはその仕事に応じた準備金を渡してくれる。

 一応、ある程度時間が経ってからはもう完全に手切りとなり、準備金が支給されなくなるのだけど。

 そしてそれはもちろん、商人になりたいといえば、条件付きでそれなりの助力はしてもらえるということ。

 けどそれは逆に怠惰の理由にもなる。その辺の対策は孤児院側もきっちりとしているから大丈夫らしいのだけれど、でも私はできればそういった理由も含めて、できれば孤児院側にはあまり負担になるようなことはしたくないのだ。

 その点、冒険者になるという選択肢は、孤児院側は生存率的意味合いであまり喜ばしい顔をされないが、軌道に乗れば割と早く完全に自立できることから、孤児たちの間では割と人気のある職だったりする。

 むろん、戦術として使えるスキルを生まれた時に授かっていなければ、全力阻止される、らしいけど。これは私の孤児院の先達が語っていたことだ。

「そっかぁ……残念だな……。すぐに始めるなら、一緒にやりたいなって思ってたんだけど……」

「気持ち、助かる。けど、やっぱり自分、稼いだ、お金、使いたいから……」

「そう……わかった。じゃ、私は私で、なんとかやってみるかぁ」

「ん……がんばれ。先達も、一から、開業、苦労したらしいから」

「うん……ルー姉が商人始めるまでは、先輩達のところに厄介になってみるよ」

「あはは、結局はルー姉について行く気なんだね、リリー」

「もちろん。いっつも思うんだ、ルー姉はかすかにお金のにおいがするって」

「いつも通り、意味が分からない……」

 お金の臭いって、何……? そんなに銅の匂い、する?

 自分自身に対して少々鼻を利かせながら、ちょっと首をかしげざるを得なかったのは、私だけではないはずだ。と、思いたい。



ステータスプレート

 魔法金属(魔力を蓄える性質を持つ金属)に対して特殊な術式を刻み込んだカード上の金属板。

 成人の儀式において、子供用のチョーカーに刻まれたその人の持つスキルの情報が転写されることで、初めてその機能が有効となる。

 個人のスキル情報が封じられている関係上、個人情報の塊であり、身分証明書の一つでもある。

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