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欠陥言霊術師の物語  作者: 何某さん(Pixiv:シュナじろう)
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欠陥言霊術、出自を悟る


 案内された先の部屋で、改めて私はステータスプレートの情報を開示するように求められる。

 ステータスプレートは他者に開示することができ、その場合はおおよそ二通りの方法で開示できる。俗に非公開(クローズド)公開(オープン)に分けられ、非公開(クローズド)の場合はステータスプレートにその情報が表示される。

 表示しきれない部分は指で上下になぞれば、表示された文字が動いて、表示しきれなかった部分が現れるという仕組みになっている。周囲の視線が憚られる場合には有効だけど、見やすさという点では公開(オープン)に劣る。

 公開(オープン)の場合は虚空にステータスプレートに保存された情報が投影される。表示しきれないほどスキルを授かっていたというケースはこれまでに一例もなかったのでそう言った場合にどうなるかは不明だけど、それでもすべてを『一枚の板』で見きれるというのはそれだけで理解に時間をかけずに済む。


 私のステータスプレートに刻まれた情報は、こんな感じだった。


ルーナルティア・アークレイド

年齢:16

職業:なし(適職:商業関連、戦闘関連)

備考:アークレイド公爵家長女

魔力量 186250

スキル一覧

※●付随スキルや◎派生スキルは表記がなければ発動タイプは親スキルに依存する。

※発動タイプはそのスキルにのみ有効。

固有スキル:その人の固有のスキル。固有能力、超能力とも呼ばれる。才能スキルと違いレベルはないが、一部スキルは扱いこなすのに練習は必要。使いこなせればすべてのスキルが才能スキルでいう最大レベルと同じほぼ効力を有する。

▼亜空間住居 Lv.--(能動/一部自動)

┣●時空魔法 Lv.--(能動)

┃┗◎結界魔法 Lv.--(能動)

┗●付加魔法 Lv.--(能動)

▼言霊・真 Lv.--(自動)

┣●自然魔法 Lv.--(能動)

┃┣●火魔法 Lv.--(能動) ●水魔法 Lv.--(能動)

┃┣●風魔法 Lv.--(能動) ●土魔法 Lv.--(能動)

┃┣●雷魔法 Lv.--(能動) ●引力魔法 Lv.--(能動)

┃┗●時空魔法(能動)

┣●回生魔法 Lv.--(能動)

┃┣●蘇生魔法 Lv.--(能動)

┃┃┗●回復魔法 Lv.--(能動)

┃┗●治療魔法 Lv.--(能動)

┣●浄化魔法 Lv.--(能動)

┣●精神魔法 Lv.--(能動)

┃┗◎読心術 Lv.0/--

┃ (制限有 MaxLv.0.999:結界魔法による封印)

┣◎詠唱省略 Lv.--

┗●強迫強制 Lv.--

 ┗●強制契約 Lv.--(能動)

  ┗●契約術・群 Lv.--(能動)

才能スキル:その人に適性のある才能。固有スキルと違い、レベルがある。すべてのスキルはレベルが最大値に近いほど効力を発揮する。レベルはスキルごとに上限値が異なり、最大レベル同士のスキルによる競合では固有スキルが優位になる。

威圧 Lv.6.201(能動/MaxLv.10)

┣◎威圧抵抗 Lv.6.331(自動)

┗◎対抗威圧 Lv.7.343(自動)

交渉術 Lv.6.538(能動/MaxLv.30)

┣◎空言 Lv.4.119(MaxLv.30)

┣◎熱血 Lv.3.503( MaxLv.30)

┗◎冷血 Lv.6.675 (MaxLv.30)

念話 Lv.20.000(MaxLv.25) 能動


 これらの中で、ちょっと踏み込んだ知識と言えるのは、付随スキルと派生スキル、そして最大レベルについてだろうか。

 付随スキルというのは、固有スキルや才能スキルを授かった時に、親スキルとして持っていた方がよいスキル

のことである。これがあるとないでは、スキルの性能や成長性に大きな差が出ることもあるとか、ないとか。

 対して派生スキルというのは、その名の通り特定のスキルから派生したスキルのことだ。

 これらは、例えば才能スキルとして授かったスキルの付随スキルであれば才能スキルに分類されるし、固有スキルの派生スキルであれば、同じく固有スキルとして当人に宿ることになる。

 そして最大レベルについてだが――これは、その人に対するそのスキルの適性と成長速度、と言い換えることもできる。

 わかりやすく言えば、平均水準といえる成長速度で成長しきった状態をLv.100とした時に、どの程度の速さで完熟できるかを意味する。

 例えば最大レベルが50の才能スキルであれば、その人は他の人よりも2倍近い速さで、そのスキルについて成長することができるということだ。

 最大レベルが低い=成長性がないというわけではなく、むしろその逆、成長速度が速い上に成長限界も他の人より秀でていることすらある、ということにも注意が必要である。


 さてと。

 肝心のステータスだけど、最後に確認したときとあんまり変わっていないね。そりゃそうだ。つい一昨日、確認したばかりなんだから。

 そして、いつ見ても反則的なスキルを授かったものだと思う。

 『言霊・真』の効果で、私は疑似的な『解析』関連のスキル持ちにもなっていた。『言霊・真』はほぼ万能だ。欠点はいろいろ、致命的な弱点もあるけど、汎用性に富む、優良スキルだとわたしは思う。というより、誰が見てもそう思うだろう。不幸だったのは、『言霊・真』がほとんどのケースにおいて『才能スキル』として授けられる、というものだったこと。『言霊・真』は、固有スキルとしては存在しない。そういわれるほどに、才能スキルとして授かる傾向が強かったのだ。これが原因で、固有スキルとして授かったこのスキルも『能動発動』と思い込まれていたことだった。

 実際には高位レベルの『言霊・真』は能動発動から自動発動に切り替わる。つまり、使い慣れ過ぎて無自覚に使ってしまうようになってしまう。その頃になると、もうスキルの制御などお手の物だろうから、気にされることもなかったのかもしれない。

 困ったのが、私が授かったそれが固有スキルだったことだ。固有スキルは問答無用で、才能スキルよりも強力だ。いい意味でも悪い意味でも、才能スキルでは追いつけない。そして、それには『能動発動から自動発動に切り替わる』ことも含まれている。『言霊・真』を固有スキルとして授かったものは、生まれたその時から、その口で直接言ったことがすぐに実現してしまうという運命が、約束されてしまっているのである。

 それ故、私自身がそこにいるだけで大災害を招きかねない、要注意スキル保有者と判明してしまった。

 それが原因で、今の私――『念話』を使用しなければ片言でしかしゃべれない『ルナ』ができてしまったわけだけど――まぁ、そんなこと今はどうでもいいか。

 はてさて、確か私がその時確認したときには、『自分のスキルを知りたい』って発言してた。だからその時は名前までは出てこなかった。それに、孤児だったけど、孤児院の職員はいい人ばかりで、親がほしいと思ったことはあったし、出自についてちょっとだけ悩むこともあったけど、本当にちょっとだけで、それほど気にすることもなかった。それこそスキルを使ってまで調べようと思ったことはなかった。だって、私は……孤児院で育った、『ルナ』だから。

 あそこの孤児院こそが私の家。私にとっての家族はあそこにいる人たち。物心ついたころからそうだった。だから、気にしたこともなかった。

 けど、それがここで仇となってくるとは思ってもみなかった。

「さて……ステータスプレートにはあなたの本名と、ご実家の情報が刻まれているようですが……お心当たりはありますか?」

『いえ…………。私、孤児院で育てられてましたから……』

「あら……念話ですか……。まぁ、今はそのような些事は捨て置きましょう」

 この人神官にしてはやけに軽い。なんというか、こういうところではきちんと言葉を口に出しましょうって言いそうなものだと思うんだけど。

 まぁ、こっちはそれで助かるからいいんだけど。下手にしゃべると何が『出る』かわかったものじゃないし。私の場合、本当に『出る』から冗談じゃなくなる。だから、基本的に片言でもしゃべるのは長年の付き合いで私が何を言いたいのか、阿吽の呼吸で分かってくれる人たちの前でだけと決めている。

「それはそうとて、やはり、知らないのですね……。まぁ、それはそうでしょうね。あの話が本当なら……。実は、私はあなたのご実家の件について、知っていることがあります」

「……へ? 私の、実家?」

 いや、実家……って、あの実家だよね。思わず声に出して言っちゃったけど。

「はい。知っているというよりは推測にはなりますが……十中八九当たっている、確定事項に近い推測です。そうですね……その話は、世間ではアークレイド大騒動として語られていますね」

「アークレイド大騒動?」

 なんか、はた迷惑そうな響きだ。あれか、お偉いさんのお坊ちゃまがなにか市井でもめ事でも引き起こした挙句、私達平民に罪を擦り付けたっていう、良くある話だろうか。

 私みたいな孤児院育ちにとって、貴族関連の騒動というのは、お偉いさんが孤児院に来て妾候補を連れ去っていく、みたいなのしか縁がない。というか、過去に私も何回か実害を被ったっけ。おのれ、思い出したらイライラしてきた。今度来たら去勢してやる。

 ちなみにお偉いさん云々はこの国が今は完全な中央集権制で、爵位とかそういう制度は撤廃されているからだ。貴族にあたるのが国や地方の行政の中枢に携わる要職についている人たちである。

 っと、話がそれちゃった。でも、それ以外だと、本当にそういった『よくある』階級社会特有の騒動しか聞かなくなる。

 だからそんなようなものなのだろう、と高をくくっていた。

 でも、現実はそう甘くはないようだ。

「昔……といっても、あなたが生まれて間もないころでしたが。隣国の、アークレイドという名の公爵家で、二人目の子供が生まれた時のことです。世間でささやかれているうわさが正しければ、このときの子供が、今のあなたということになります」

「……ほんとに?」

「世間の噂がどうかといったのはともかくとして、現にあなたのステータスプレートには当事者の一人であったという証拠が示されています。それにアークレイド郷が新しくお子を作った、という話も聞きませんから……あなたが渦中の人物ということに違いはないでしょう」

「……はぁ……」

 ちょっとため息をつきたくなる。

 だからといって私が私でなくなるわけでもないのに、否定されたような気分がして、しかも否定されるのが正しいと言われたような気がして、ちょっとがっかりしたからだ。

 そんな私の心境を知ってか知らずか、神官さんの話は続く。

 『子供用のチョーカー』は、即日中というわけではないが生まれてすぐにつけられる。そして、生まれた子供のスキルはその直後から周辺にいる人たちによって管理のために開示されるという。

 その二人目の子供や、もうもう一人の子供のスキルも当然、立ち会った人達に開示され、当然親にも開示された。

 そして――二人目の子供のスキルが強力だったことが、悪い方向へと一族を導いていった。

 アークレイド一族の中で、次期当主として私を立てることにするか、もう一人の子供を次期当主候補とすべきか。その二つで分かれたらしい。

 二人目の子供が私である、というのが真であるとすれば当然だろう。私のスキルは、言葉一つで人を簡単に傀儡にできるスキルだ。それだけに、もう一人の子供を当主に立てたところで、先行き不安となるのは目に見えている。

 家の中でどちらにすべきか議論となり、やがてそれは派閥として分かたれて――そして、事件は起こった。

 もう一人の子供――すなわち、最初に授かった子供の可愛さに先走った公爵家夫人は、当時まだ離乳期だった私を捨てるという暴挙に出た。

 ただ、子供の一人でもいなくなれば当然騒動になる。特に、二人目の子供を捨てずに、なおかつもう最初の子供を次期当主としてたてると主張していた父親は怒り狂って母親を追放。私を探すべく、各方面へ使いを出したが――ついぞ今まで見つかることはなかったという。

 うわさによれば、その捨てられた子は母親の血を強く受け継いだのか、まるで絹糸のようにきめ細やかな銀色の髪を持つ、女児だったという。

 まぁ、当たり前といえば当たり前か。

 話に聞くアークレイド公爵家は、公爵家と言えど隣国の『中央付近』だ。そして母親は珍しい時空魔法の使い手だったらしく、二人目の子供を公爵家の手がすぐには届かない『他国』に送るのもそれほど苦ではない。孤児院に無事に拾われたのは、神の慈悲なのかそれともわずかに残っていた母親の良心によるものだったのか。

 とにかく、最後の方は公爵夫人のスキルをもとにした『推測』なのであくまでも想像でしかないが、そうして『生まれた』のが私という人物なのだろう、と神官は言う。

「あちらの王国にも私どもと同じ系列の神殿は各地にありますし、なにより記録によれば求められた『教導用チョーカー』はその家では二つ目だったとのこと。この神殿にも捜索依頼とともにことのあらましは伝えられましたし、何かの間違いがあっては困るとチョーカーを引き渡した神殿に確認を取った、という記録も確かに残っていましたからね……。私はそのころはまだ子供で、神官見習いですらありませんでしたが、神官になって、書物の整理をする機会も出てきた時に当時の資料が出てきまして……」

 今はもう、捜索依頼は取り消されてしまっているものの、記録という形で確かに、そういうことがあったのだということだけは事実として残っていた。また、万が一にでも見つかることがあったら報告はしてほしいという通知はいまだに有効なため、実家には報告しないといけないということも知らされる。どうあっても、厄介ごとが来る可能性はあるようだ。

「まぁ、それらの事情から、貴方のステータスプレートに刻まれた名前……。それはあなたの真名で間違いはないのでしょうね」

 なにがあっても、『子供用のチョーカー』と、それから引き継がれるステータスプレートの情報には嘘が利かないのだから。

 そう言われてしまっては、もう何も言えない。

 途方もない事実に、私はただ、茫然とするしかなかった。



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