floor.6 赤くて丸いシールの悩み
「レッドシールキャンペーンか……」
俺は小さくつぶやく。
「え? 何か言った?」
「いや、何でもない。だいたいこの人の悩みの方向性は分かった」
「え、本当? 何々、どういう感じ? 彼氏に振られたとか?」
「ちげえよ。まあ、ダンジョンに入ってみたらわかるだろ」
「え、ずるいなー、教えてほしいなー」
「まあ機会があったらな。というか紅麗亜、悪いが放送室に行って全校生徒に避難を呼びかけた後、お前はとりあえず逃げておいてくれないか? モンスターがダンジョンから吐き出されると分かった以上、出来る限り多くの人は逃がさないといけない」
「……あの黒歴史を思い出さずに済むならそうしたい……」
「そうか、決まりだな。俺の永久の悪夢は自慢じゃないか相当強かったから、おそらく一人でも問題ない」
「ん、分かった。じゃあ私はほかの子たちを避難させてくるよ」
「悪い、頼む」
「オッケー、灯夜も生きて帰ってきてね」
そういって紅麗亜は右手でこぶしを握って左胸に叩きあてる。
「いやそれは心臓をささげよのポーズだから。ほぼ間違いなく自由の翼を得て俺天界に旅立っちゃうから」
「あ、間違えたこっちか」
紅麗亜は急いで右手の位置を変え、俺の方に握った拳を突き出して中指を立てて上に向けた。
「いやそれ完全にファックユーのポーズだから。さっきより露骨に殺しにかかってるから。もはや婉曲的な表現でもなんでもなくなってるから」
「ま、それだけツッコミの切れ味が冴えわたってれば大丈夫だね」
「武器の切れ味とかならまだしもツッコミの切れ味で生存確率が測れるってどこのバラエティ番組だよ。一発屋にはならないで済みそうでよかったわ」
「ん。ま、死ぬなよ」
紅麗亜はぽんと小さな拳を俺の胸にやさしくつけてきた。
「わたしとジムに通う約束したんだからさ」
「そうだったな。俺、この戦いが終わったら紅麗亜とジムに通うんだ……」
「死亡フラグは不用意に建設しないでもらっていいですか? 姉歯一級建築士かな?」
紅麗亜は呆れたんだか何だか分からないようなため息をついて、「じゃ、私は生徒を避難させてくるから」と足早に教室を後にした。
とりあえず紅麗亜に任せておけば避難の方は大丈夫だろう。
俺がダンジョンに入っている間はモンスターの出現が止まるといいんだが……。
そう思いながら俺は渦巻く銀河へと手を伸ばし、そして飲み込まれていった。