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floor.14 部活動問題ダンジョンの終わり

 早乙女先生の思念体と長谷川先生が向き合う形になる。


 なんとなく俺はここにいていいのか分からない気持ちになるが、そこはさすがの俺、厚顔無恥にその場所を全く動かない。


 だってわざわざ動くの面倒くさいだもん……。


「早乙女先生……大丈夫ですか?」


 最初に声をかけたのは長谷川先生だった。


 思念体はこちらから声掛けをしないと起動しないようで、紅麗亜の時も俺が一言声掛けをするとはっとしたように話し始めた。


 今回の早乙女先生もそのパターンのようで、はっとしてあたりを見渡す。


「あれ? ここは? ……あれ、如月君に康ちゃん?」


 長谷川先生は、名前を長谷川康太(こうた)であり、人によっては康ちゃんと呼んでいる。


 学校でも先生の中ではいじられキャラ的な立ち位置なので、まあしょうがない。


 早乙女先生は一通り周りを見回した後、ふうっと悟ったようなため息を漏らす。


「そっか……私、ダンジョンコアになってたんだ」


「状況把握が自然すぎる……。なんで誰も疑問に思わずに納得しちゃうんだこれ」


「紅麗亜の時もそうだったんで、なんかもうこんなもんです」


「彼女らにとってダンジョンコアになるって日常茶飯事なの? 始業式とか終業式とかみたいに年に数回はあるイベントみたいなものなの?」


 長谷川先生は早乙女先生の状況把握能力の高さにただ戸惑っていた。


 俺も全面的に同意である。


 つまり、どういうことだってばよ……?


俺と長谷川先生が戸惑っている間に、早乙女先生は長谷川先生に向かい合う形で地面に座った。


「ごめんなさい、かなり、迷惑をかけてしまいましたね…」


「いえ、そんなことは…」


「いえ、わかります。このダンジョンからいろいろなものが外に影響を与えてしまったことも、よくわかります」


 長谷川先生は押し黙る。それほど大きな被害は出ていないだろうが、それでも夢破れた高校球児のモンスターを生み出した罪は大きい。彼だって頑張れば甲子園を目指せたはずなのに…!


 いや生み出し出した被害ってそこじゃねえだろ。


 俺は自身の思いやりの強さに感動を覚えながらも、二人の話の続きを聞く。


「先生、見ましたよ。レッドシールを机に貼られてましたよね


「え? 康ちゃん、ご存知なんですか?」


「はい、実は僕も部活動問題に課題意識は持ってまして…」


「そうだったんですね…。いつも楽しそうに部活をやられているので、てっきりそういった話には興味がないのかと思っていました…」


「自分自身は顧問が大好きですし、そこが生きがいだと思っているぐらいですが…。それでも、多くの人が無理やり顧問として駆り出される現状は間違っていると思っていました。そのシステムは、誰も得をしないな、と思って過ごしていました」


 そう、机の上に赤い丸印のシールを貼っているというなんの変哲も無い行為。


 ただ、学校という文脈では、それは部活動問題に私は興味があります、ということを示すサインになる。


 公に声を上げて反論しづらい空気感。


 部活至上主義。


 高い教育効果を叫ぶ人々。


 そういった無言の圧力が、小さく、しかし合理的に見える声をたやすくかき消す世界観。


 それが、職員室だ。


 そして、その課題を認識して向き合おうとする人たちが目の前にあいまみえているわけだ。


「意外です……」


「まあ、僕も普段の感じじゃそういうこと言いづらいので言ってないですけど、気になっていますよ」


「もっと早く声をかけてくださいよー……」


 早乙女先生がしょぼんとしてしまっている。


「申し訳ないです、そもそもレッドシールのこととか気付いてなかったので……。たまたまダンジョンに入ろうとするときに目に入っただけで、普段生活してたらあまり気付かなかったと思います」


「そうなんですね……。でも、ひとまず同じことに関心がある人がいるのが分かってよかったです」


 早乙女先生はにこりと天使のような微笑みを浮かべる。


「いえいえ。とはいえ、二人いるだけではまだ声をあげづらいところですよね」


 うーんと長谷川先生は腕を組んで考え事をする。


 部活動問題に関心がある二人か。


 面白い二人がくっついたな。


 せっかくだから、学生サイドからも一人出しておくか。


「俺、部活問題とか、教員忙しすぎ問題に興味があって実際にコツコツ活動してる生徒なら知ってますよ」


「え? それマジか?」


「はい、宮崎大輔ってのがいて」


「ああ、イッテQに出てる吉本の芸人のね?」


「それ宮川大輔です。宮崎大輔そんな祭り男的な感じじゃないんで、どっちかと言うと祭りがあってももろともせず家で筋トレとかやってるタイプなんで」


「それはそれでちょっとリア充感があって凄いな。祭りいかないのとか普通負け組のあれなのにやってるの筋トレなの? 絶対モテそうなんですけど」


「長谷川先生よりはワンチャンモテます」


「お前は学校生活で学業はいいからとりあえず年上への礼儀と気遣いを学べな?」


「宮崎大輔君がどうしたの?」


 早乙女先生がボケとツッコミの応酬を止めようと、脱線していた話を元に戻す。


「あ、そうでした、宮崎大輔ですけど、Teacher Aideっていう先生をサポートしようみたいな学生団体に入ってるんですよ。というかこの辺の支部の代表ですね」


「ほー、そうなんだ。その団体はちょっと知らなかったな」


「そいつも先生の働きすぎ問題とか色々興味があって活動してるみたいで。なんか先生の職員室の業務を洗い出して、手伝えるのは手伝いたいなとか言ってましたよ」


「なるほどねえ、そこまで突っ込んでフォローしてもらうと色々問題があるかもしれないけど、やろうとしてることとか面白いな」


「ですよね。だから早乙女先生と長谷川先生はつながっておいてもいいと思いますよ」


「確かに。また話してみようかな」


「ですね、俺もいっしょに行っていいですか?」


「もちろん」


「わかりました、大輔も特に断る理由はないと思うので繋げますよ、と言っても、先生方の方が忙しいと思うので、先生で予定を合わせてもらって日程の候補いくつか連絡もらっていいですか?」


「わかった。またそれについては今度連絡するわ」


「お願いします」


 俺はへこっと頭を下げて依頼をする。


 さて、同じ課題感へ向き合うパートナーが見つかったりすると、紅麗亜の時はダンジョンが崩壊していったが、今回はどうかな?


 思って俺が周りを見るが早いか、あたりの景色に白い亀裂のようなものが入り始める。


 そして、その亀裂は一気に広がっていき、あたり一面を覆うようにひびが入っていく。


 次の瞬間、パリンと何かが弾ける音がして、ダンジョンが崩壊した。




ーーーーー




 あの後、学校全体を覆っていたダンジョンは崩壊し、ひとまず俺たちの学校は解放されることになった。


 しかし、世界各地で同時多発的に発生したダンジョン生成は今も拡大を続けていた。


 俺がやったようにダンジョンを攻略して崩壊させる、ということも行われていたが、そのスピードでは到底間に合わないような速度感で次々にダンジョンが形成されていた。


 確かに、悩みの大小を問わず悩める乙女が全員ダンジョンコアになる可能性を秘めているとすれば、世界各地で同時多発的にダンジョンコアが生成されるのもうなづける。


 ちなみに、ダンジョンの生成数はぶっちぎりで日本がトップだった。


 おいおい、自殺大国日本の特性がもろに出てるぞこれ……。


 若年層の自殺率が先進国の中では伸びてきている日本の闇の特性がこんなところにも発現してるじゃねえか……。


 俺はダンジョンを攻略した後、家に帰ってスマホでニュースを見ながらそんなことを想っていた。


「大丈夫かよこれ……」


 俺は世界の終わりを感じてとりあえずアイスのやけ食いをした。


 まあどうせ俺たち死ぬんだしもう何くっても大丈夫だよね!


 マジハーゲンダッツうめえ。


 俺がむさぼるようにハーゲンダッツを食べていると、スマホが鳴った。


 電話が来ている。LINEではなく電話。


「珍しいな。しかも知らん番号か……無視しよ」


 至極当たり前の反応を俺がしていると、何度も執拗に電話が鳴り響く。


 迷惑電話にしてもここまでかけ続けてくると軽蔑を通り越してその努力に敬意を感じるレベルだ。


 かれこれ30回はコールし直してきてる。


 いや俺も無視しすぎだろそれ。居留守ってレベルじゃねえぞ。


 いい加減でないとヤバいなという感じなので、俺は携帯を取った。


「……はい」


「突然のお電話申し訳ありません、わたくし、臨時ダンジョン対策本部の村田宗次と申します。如月灯夜様のお電話でよろしかったでしょうか?」


「……はい、そうですけど」


「ありがとうございます。現在、ダンジョン攻略に知見がある方を集めて、ダンジョン対策本部を組織して国家の非常事態にあたっております。如月様のお力をぜひ貸していただければと思い連絡差し上げました」


「……面倒くさそうなので止めてもいいですか?」


 その瞬間、俺がいる部屋のドアがバッと開け放たれる。


「構いませんが、その際は勝手に連行しますね?」


 にこやかに、額に巨大な切り傷の入った細身の男は言い放った。


 俺のスマホからもそっくりそのまま同じ声が聞こえてくる。


「不法侵入がすごい」


「非常事態なので」


「あ、それでいい感じですか?」


「問題ありませんよ」


「あ、はい」


 国家って怖いなあ……。


 俺はなすすべもなかったので村田宗次という男についていくことになった。


 こうして俺は、のちに世界中のダンジョン攻略者を組織し、ダンジョン解放を成し遂げるチーム、Dungeon Knightsのメンバーになる道を歩まされ始めた。歩み始めたんじゃないよ、され始めたんだよこれ。強制力すごいから。


 ほんと国家って怖いですね(小並感)。

一章完結までお付き合いいただきありがとうございました!

申し訳ないです、思いのほかブックマークを伸ばせなかったので、キリのいいことのタイミングで一回完結として、また出直してきます。

お読みいただきありがとうございました!

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