floor.10 職員室にて
そこには一人の教師がいた。
「長谷川先生……?」
「え……?」
そういって長谷川先生は青ざめた表情をこちらに向けてくる。
そして俺の方を見るとパーっと明るい顔になって
「如月! ドアを開けてくれてありがとう! いったんそっちに行く!」
早口で話したかと思えば長谷川先生が俺の方に向かってかけてくるので、俺はドアから少し離れて長谷川先生が外に出られるルートを確保した。
そして長谷川先生は外に飛び出してきたと思ったら瞬時に職員室のドアを閉めた。
「どうしたんですか、長谷川先生」
俺が聞くのが早いか、職員室のドアの向こう側からドンドンという音が聞こえてくる。
しかも、ドアのすぐそばから聞こえてくる。
まるでドアの向こう側に何者かがいるかのようだ。
「先生、これって……」
「ああ、そうだよ。この向こうにいるんだ……」
「太鼓の達人が……」
「だったらカッカッとかも聞こえてこないとおかしいだろォ! 違う! 完全に扉を叩いてくる音だったよね!?」
「すみません、ちょっとリズム感が良かったものでてっきりおにでもプレイしてるのかと思って」
「それだけ平和的ならよかったんけどな……。違うんだよ、この先にいるんだよ、マジで恐ろしいモンスターが……」
「そうなんですね」
「驚きが少なくて逆にビビってるよ。なんでそんな冷静なの君」
「いや、ここに来る前に一個ダンジョン攻略してて、ダンジョンマスターみたいなのがダンジョンの深奥にいたので、ここにもいるのかなと思ってたので」
「お、おう、そうか……言ってることが全くわけわからないが話が早い。この先にヤバいモンスターがいて、早乙女先生が奥にいるんだが、助けに行けないんだ……」
「そういうことですね。先生は何かモンスターに対抗できるすべは持っていますか?」
「いや、ないよ」
「……まあ、黒歴史がある人しかやっぱり無理ですよね……」
「え? なんだって?」
「なんでもないです。俺はたまたまそのすべがあるので、ちょっと奥のダンジョンマスターを倒してきていいですか?」
「如月……大丈夫なのか?」
「大丈夫です、永久の悪夢を信じてください」
「如月……頭大丈夫なのか?」
「さっきとほぼ同じセリフのはずなのにやけに言葉の響きが冷たいよぉ……。あとそんな距離を取らないでもらっていいですか先生、痛いやつじゃないです俺」
「そ、そうか、お前がそんなキャラだとは知らなかったんだ。普段の副生徒会長としての顔は偽りだったんだな……」
「いや、むしろあれが本物なんで。変な勘違いはしないでもらって大丈夫です」
「そ、そうか……分かった、もし大丈夫そうなら、申し訳ないがいったんこの場はお願いしていいだろうか?」
「任せてください。ただ、ダンジョンマスターを倒したら迎えに来るので、早乙女先生の悩みに向き合うのは長谷川先生がやってもらっていいですか?」
「え? なんだそれ?」
「ダンジョンの最終解放をする際は、ダンジョンを作り出した人の悩みを対話とかで氷解させる必要があるんですよ。今回の場合、早乙女先生の悩みを氷解させたり、解消させるきっかけを作らないといけません。そこは長谷川先生にやってもらっていいですか?」
「……もちろんだ。ここまで来たのも早乙女先生を助けるためだ。悩みの相談に乗るぐらいいくらでもやってやる」
「頼もしいです。ではちょっと行ってきます」
そういって俺は職員室のドアを開けた。
ドアを叩くような音はもう聞こえなくなっていたので、定位置に戻っているのだろう。
さて、打倒ダンジョンマスターといこうか。