第1章落ちこぼれ、天才につき⑥
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未だにタイトルをどうしようかと悩む日々でございます。
説明回。そろそろ動きを出していきたいところ。
車を走らせること二十分。目的地である星輪隊の隊舎に到着した。そこは何というか、とても古い建物だった。建物は四階建て。一階は丸々ガレージとなっており、幾斗瀬隊長の愛車や星斂隊用の大型輸送車も停められている。二階が事務所となっていて三階はまるごと隊員用の居住スペースとなっている。四階は屋上で主に鍛錬をする場所となっている。そう車の中で説明された。
だが悲しいかな、築年数はおよそ二十年以上経過していると思われるほど古い。外壁は所々禿げている上に苔や蔦が生えている。隣に立つ幾斗瀬隊長には申し訳ないが、とても新設された隊の拠点とは思えない。
「俺達みたいな寄せ集めの弱小集団に新しく拠点を建ててくれる程、上は優しくないんだよ。まぁそのかわり見てくれは悪いがその分中はそれなりに立派だぞ。さぁ、行くぞ」
ギギギと嫌な音を立てながら幾斗瀬隊長は扉を開けた。私はその後に続いた。
その中は確かに先ほどの言葉の通り確かに外見とは裏腹に最新設備の塊だった。事務所は最新設備の宝庫だ。PCは全て最新型でアスラ出現を感知するシステムはこの国の全を司る光王スメラミコト五世が住む千代田地区を守護する日輪隊のそれと同性能か若しくはそれ以上に思えた。
「幾斗瀬隊長。アスラ討伐、お疲れ様でした。君が簪ユウカ君だね?話は聞いているよ。とても優秀なんだってね」
私達が二階に上がると、作業をしていた隊員の一人が声をかけたきた。
オールバックの髪型に鋭い眼光に引き締まった顔立ちをしている立ち上がっているとその身長は幾斗瀬隊長より頭一つ大きい。そして何より目立つのは右の眉頭から左頬にかけてある一筋の刀傷。
「紹介しよう。彼が星輪隊副隊長の東堂トシゾウ君だ。仕事はできるし実力も文句なしだが小言が多いのがたまに傷だ。ちなみに既婚者だ」
「隊長、俺の小言の半分は隊長に対してです。もう半分は紅葉谷ですが。それにしれっと個人情報を漏らすやめていただけますか?殴りますよ?」
「怖い怖い。さすが鬼の東堂だ。簪も気をつけろよ?トシゾウ君は怒ると怖いからな」
鬼の東堂。その呼び名には聞き覚えがある。五年程前まで火輪隊の副隊長を務めていた代行者で、対アスラ用武装【帝釈刀】を振るい、数多くの首にその鋒を突き刺してきた。アスラに対する容赦の無さと鬼気迫る表情で稲妻の如き速度でアスラを刺し穿つ事から付いたあだ名が鬼の東堂。だがある日を境に姿を消して音沙汰なかったがまさか星輪隊に移籍していたとは思わなかった。
「改めて自己紹介を。俺は東堂トシゾウ。今はここ、星輪隊で副隊長をしている。隊長は見ての通り適当だし、二人いる隊長代理のうち一人は仕事はしないしクソがつくほどの騒がしいが、その分どこよりも賑やかな場所だ。そして、皆君と同じだ。だから安心するといい」
そういうと東堂副隊長は笑みを浮かべながら握手を求めた。それは鬼と評される人とは思えない程に優しい笑みだった。
「か、簪ユウカです。よろしくお願いします!」
幾斗瀬隊長も笑顔でその様子を見守っていた。わずかに訪れた静寂だがそれを突き破るかのように若い女性の声が響いた。
「おぉーーーついに我が隊にも女の子が来たんですね!?よろしく新人ちゃん!私は紅葉谷イロハです!これからよろしくね!」
長い髪をポニーテルでまとめた元気な女性。歳のころは私とさして変わらないだろう。天真爛漫とは彼女のためにあるような言葉と思えるほど活気にあふれた少女。しかしその肉体は豊満と言うに十分値し、黙っていれば美女、街を歩けば思わず目を奪われる胸元でそれを強調するかのようにシャツのはだけさせている。隊服であるコートと腰には刀を挿していることから哨戒帰りなのだろうか。
「んーー年齢は私の方がお姉さんなのに胸部装甲は・・・私と同じくらいとは。新人ちゃん、中々やりますね」
じろじろと値踏みするような視線を私の胸に集中させてくるうら若い乙女のセクハラ親父。手をニョキニョキワキワキと動かしながら獲物を見つけた肉食獣のようにジリジリと近づいてくる姿に恐怖を覚えて思わず私は後ずさった。そんな犯罪者に容赦なく拳骨が振り下ろされた。
「紅葉谷・・・てめぇまた堂々と寝坊とはいい度胸だな?そろそろぶち殺されたいか?今日は新人隊員が来るから絶対に遅れるなとあれほど言ったよな?なのになんでてめぇは堂々と寝坊しているんだ?」
「あ・・・トシゾウさん。そ、それはですね・・・ちょっと昨日ワクドキで寝つきが悪くてですね・・・」
「よしわかった。屋上へ来い。今日という今日は許さん。その性根、叩き直してやる」
「落ち着けトシゾウ君。簪の前だぞ?お前の鍛錬はいずれお披露目するとして、まずは全員を紹介したい。カズタケはいるか?」
「はい、度会なら少し哨戒に出ています。どっかの誰かの当番だったんですが時間に来なかったので代わりに行ってもらいました」
「あははのは・・・」
頰を掻きながら笑ってごまかす紅葉谷先輩。ジロリと東堂副隊長に睨みつけられて黙って直立不動の姿勢をとった。
「ただ今戻りました。幾斗瀬隊長、東堂副隊長」
「哨戒ご苦労だった、カズタケ。あともう何度言ったかわからないが余程のことがない限りは敬称はつけるなと何度言ったらわかってくれるんだ?」
「それは出来かねますと、何度言ったらわかっていただけるんですか?幾斗瀬様とお呼びしたいところを仕方なしに隊長で妥協しているのです。これ以上は妥協できません」
堅苦しい人だなと言うのが第一印象だ。ざんばら髪で中肉中背。三白眼で若干猫背なのが根暗な雰囲気を増長させている。話す声も先ほどの紅葉谷さんとは対照的でボソボソと小さくかろうじて聞き取れるレベルだ。
「私は度会カズタケと申します。どうぞ宜しく」
「っあ、はい。こちらこそ。簪ユウカと言います。宜しくお願いします」
度会さんは握手ではなくお辞儀だったので私もそれで返した。
「よし。これで隊員全員の紹介は済んだな!では早速だが簪、今日から晴れて星輪隊の一員になったわけだが、なぜ俺が君をスカウトしたのか話そう」
「そもそも、俺達星輪隊は皆外気収斂がまともにできない、所謂落ちこぼれの集まりだ。だがそれがイコール本当に落ちこぼれというわけではない。今まさにそうだと思うが、普通に出来ていたのにある日突然出来なくなったからだ。それは本来ならありえないことだ。外気収斂とは無意識に行なっている呼吸の延長なんだからな」
確かに幾斗瀬隊長の言うように、私はある日突然外気収斂が出来なくなった。マナを取り込んでいるつもりでも全く体に染み込んでこないのだ。だからまともな身体強化する出来ず、五輪絶技の技を放とうとしてもろくな威力が出ない。それ故に私は落ちこぼれ認定されたのだが、それがここにいる全員同じだと言う。
「その理由は明確だ。簪、お前の身体がマナというただの残滓からより高次元のモノ、星の生み出した精霊の力を取り込んでしまったからだ。それが原因でお前の身体はただの代行者と比べても一つステージが上がっている。だからいくらマナを取り込んでも力が湧いてこないんだ」
幾斗瀬隊長の話のほとんどは理解できなかった。マナが残滓?星が生んだ精霊?この二年間聞いたことのない単語ばかりだ。
「普通に考えて外気収斂で身体強化した者とただの人が戦って戦闘になると思うか?ならないだろう?一ヶ月前の卒業試験がいい例だ。仮にも相手は隊長代理。本当にお前が落ちこぼれならあれは戦闘ではなくただの私刑だよ」
「た、確かにそうですね・・・」
「いいか。お前はすぐにでも出動してアスラを倒すなりして実績を上げて同期の天才達を見返してやりたいと思っているかもしれないが焦ることはない。手紙にも書いたが、お前は紛れもなく天才だ。五格の連中、神々廻ミモザでさえいずれ追い越すだろう。だからまずは一ヶ月、鍛錬に励め」
「鍛錬ですか?それは実戦とは違うのですか?」
「あぁ、鍛錬だ。これは星輪隊の誰も通る道で、言うなれば恒例行事の一つでもあるがな。例外なく最初は皆この鍛錬から始める。この期間に基礎と自分に合った型を見つける。それから初めて現場での実戦だ。まぁ実際にアスラと戦うこの段階では、他所でいう第一位階相当の実力にはなっているだろう」
この話が本当なら異常事態だ。わずか一ヶ月程度の鍛錬で第一位階相当ーーー単独でフェーズ2のアスラを討伐できるーーーの実力を身に付けることができるなら、そのノウハウは星輪隊だけで秘匿していい話ではない。
「だからお前は・・・いや、この隊は精鋭集団なんだよ。精霊の力を取り込むことができるのはほんの一握りの才能ある奴にしかできないことなんだ。それが自在にできるからこそ短期間で力を得ることができる。その才能が簪、お前にはある」
ただ話を聞いていただけで鳥肌が立ってきた。興奮のあまり頰がつり上がっているのがわかる。それに気付いた幾斗瀬隊長は満足そうに頷いて、
「これからお前が身に付ける技の名を教えておく。その名は【星片収斂(せいかしゅうれん】、振るう剣技の名を【十全絶技】だ)
「星片収斂・・・十全絶技・・・」
言葉を頭だけでなく身体にも刻むように、私は言葉を反芻させた。ここから私は駆け上がってみせる。そして必ず、ミモザと肩を並べて見せる。私は決意しt。
「よし!細かい話はこれで終わり!なら早速訓練と行こうか!イロハ!わかっているな?今年はお前が担当だ。しっかり面倒を見てやれ」
「了解しました士さん!ではユウカ(・・・)ちゃん、早速行こうか!」
グラマラスなお姉さんに手を取られて私は半ば引きずられるような形で連行される。わけがわからずにいると幾斗瀬隊長が絶望を口にした。
「これから一ヶ月山ごりだ。大丈夫、イロハが全部教えてくれる。こう見えてイロハはお前と同じくらいの天才だし教えるのも上手い、はずだ。安心して一ヶ月励んでこい」
「や、山ごりですか!?そんなのするって聞いていませんけど!?というか紅葉谷さん、引っ張らないでください!もしかして今からですか!?」
「もちろん今からだ。何せ一ヶ月しかないからな。時間は有限だ。イロハ、行ってこい!頼んだぞ」
「ラジャーです!さぁユウカちゃん!私と一緒に楽しいサバイバル生活をたのしもうではないか!」
わけがわからず、私はそのまま紅葉谷さんに手を引かれ、支給されている移動者に詰め込まれて連行された。私の入隊初日は風雲急を告げる地獄の一ヶ月間の始まりとなった。
あとがき
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