第1章落ちこぼれ、天才につき⑤
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ほんの僅かながら戦闘が。ほんの僅かですが。
隊長の強さを表現できているかな・・・不安です。
では、お楽しみいただけたら幸いです。
卒業試験から一ヶ月が経った。私、簪ユウカは父と同じ道を歩むべく所属を決めた隊舎へと向かっていた。この前のような遅刻ギリギリとならぬよう、今日は時間に余裕を持って家を出た。
「どんな人達がいるんだろう。雅楽代先生は行ってからのお楽しみだぁ、しか言わないし」
最寄りから電車を乗り継ぎ三十分。隊舎のある葛飾地区に到着した。この場所はいわゆる下町だが、その空気を残しつつ商業施設も建てられているため田舎町というほど寂れていない。加えて鉄道・バスと言った交通網も整備されており、護国光輪隊の本隊でもある日輪隊隊舎を構えている千代田地区まで電車で二、三十分で着く。常人とはかけ離れた身体能力を持つ代行者ならばむしろ走った方が早いくらいだ。
「えぇと・・・ここから隊舎までは車の迎えが来てくれるんだよね。しかも隊長直々にって話だし。幾斗瀬隊長・・・どんな人なんだろう」
一週間前、雅楽代先生から初出勤の連絡があった。朝十時に葛飾支部の亀有と言う駅で待ち合わせとのこと。しかも隊長である幾斗瀬さん直々に迎えに来ると言う。隊長とは暇なのだろうか。
雅楽代先生はもちろん、母でさえも幾斗瀬隊長のことを尋ねても笑って誤魔化された。今年で十七になるが、娘の私から見ても母の容姿は二十代前半にしか見えない若作り。父が昏睡状態になってからと言うもの、昔の同僚だった隊員達が母を口説いているがそれも笑ってごまかしてきた。まさにそれと同じ顔をされては聞くだけ無駄だった。
駅まで待つことしばしば。この下町には似つかわしくない轟音にも似たエンジン音を轟かせながら一台の高級車がこちらに向かってくるのが見えた。まさかゼロが七個も着く、テレビの中でしか見たことのない車の主が待ち合わせ相手なのだろうか、いやそんなはずはない。だって父さんはあんな車買うほど稼いでいなかったもん!
現実逃避していると制服の内ポケットーーー初日は制服で来るようにと指示があったーーーにしまっていた携帯が振動して着信を伝えてきた。知らない番号からだったが時間的に考えれば待ち合わせの相手なのは間違いないだろう。私は恐る恐る電話に出た。
「は、はい・・・簪ですが。どちら様でしょうか?」
『突然すまないな。俺は幾斗瀬士言うものだが、ナオマサから聞いていると思うが迎えにきた。もう駅にはついているか?』
「っあ、はい。幾斗瀬隊長はどちらにーーーってもしかして・・・超高級車の前にいらっしゃいますか?」
『ん、確かにそうだが・・・おぉーいたいた。うん、綺麗な黒髪じゃないか』
あぁ、嫌な予感が当たってしまった。車の前で手を振っている人が幾斗瀬隊長その人のようだ。
私以上に濃く、夜空を思わせる黒髪に所々に金が混じっていおり、それが空に浮かぶ星のようだ。サングラスを頭にずらして初めて見えた容姿は整った鼻立、切れ長の瞳、精悍な顔立ちをしているが母と同じくかそれ以上に化け物じめて若作りだった。
「さて、改めて、初めまして(・・・・・)。俺が星輪隊隊長の幾斗瀬士だ。よくうちに来てくれたな。歓迎するぞ、簪ユウカ」
柔和な笑顔で差し出された幾斗瀬隊長の手を握り返してしっかりと握手を交わした。そして彼に促されて彼の愛車に乗り込んだところで、幾斗瀬隊長の携帯と街中に響き渡るほどの警報音がほぼ同時に鳴った。それは異形の怪物、【アスラ】の出現を報せる警報だ。
「―――トシゾウか。あぁ、わかっている。警報が鳴っているからな。場所は?いや、いい。ここからすぐだ。俺が直接対処するからトシゾウ達は隊舎でそのまま待機。新人もいることだしちょうどいいだろう?」
幾斗瀬さんが誰かと電話している間も警報はけたたましく鳴っている。
―――アスラ出現警報!アスラ出現警報!場所は亀有駅南口!住民の皆様は近くの建物に急ぎ避難してください!繰り返します!アスラが出現しました!住民の皆様はーーー
「あぁ?危ない?おいおいトシゾウ君、俺を誰だと思っているんだい?隊長だよ?八人しかいない隊長の一人だよ?得物はちゃんとあるから問題ないよ?」
会話の成り行きが怪しくなってきた。幾斗瀬隊長が対処に当たるのはいいとしてもその場に私も同席させるつもりらしい。これでも今日から代行者になるのだから是非もないのだが如何せん武器がないが、交戦するのは幾斗瀬隊長なら私は手ぶらでもいいだろう。だが電話主は幾斗瀬隊長が単独で対処することに異を唱えているようだ。
「相変わらず心配性だな、トシゾウ君は。大丈夫だ、何の問題もない。ちゃんと街に被害が出ないように手加減するから!」
なるほど。そっちの心配だったか。さすが隊長、それなりに本気を出したら街を壊しかねないというわけか。私、そんな人のそばにいて問題ないのだろうか。
「安心しろ。お前の安全は保証する。もちろん住民の安全もな。さぁ、のんびり話している時間もない。アスラはーーーほら、目の前だ」
粘土のような不気味なで真っ白な肌。異様に伸びた手足、顔は両頬に亀裂が走っており仮面のようになっている。また身体からは異常な温度になっているためか湯気が立ち上がっていた。これがつい先ほどまで人だった化け物、【アスラ】だ。
「まだ成り立てのフェーズ1か。まぁこれならすぐに終わるか」
そう呟くと、幾斗瀬隊長は車の助手席に乱雑に置いていた羽織りに袖を通してトランクから鞘に収められた一振りの刀を取り出して腰に挿す。大きく息を吸い込んで、
「護国光輪隊だ!これよりアスラの対処を行う!さっさと建物に入って!はいそこの少年!これは見世物じゃないからすぐに建物に入って!中からでも動画撮れるでしょ!」
士が真面目に不真面目に警告すると、駅前にいた住民達はむしろ騒ぎ出した。
「おぉーーー士ちゃんじゃないか!頼んだぜぇ!この街の英雄!星輪隊隊長さまぁ!」
「士ちゃん!早いとこ終わらせてね!昼のドラマの再放送に間に合わなくなっちゃうから!」
口々に幾斗瀬隊長を応援する声がそこかしこから飛び交っている。当の本人はやれやれと頭を振りながら腰の刀に手を置いた。これが護国光輪隊。これが代行者。人々の希望となる最後の光。
「さっさと終わらせるか。簪、お前はそこで観ているといい」
そう言うと幾斗瀬隊長はゆったりとした足取りでアスラの前へと立った。悠然とした敵の前に立つその姿は自信に満ち溢れていた。まるで敵ではなく路傍の石を跳ね除けるだけ程度の簡単なことだと言わんばかりだ。そしてまだ刀は抜いていない。
―――星片収斂
すぅと小さく呼吸したかと思うと、幾斗瀬隊長の身体が白銀に輝き収束してその身に取り込まれた。一瞬のことだったが確かに彼の身体は目を奪うような美しい光を纏った。
―――十全絶技 伍ノ型 八色雷公 初撃 大雷
幾斗瀬隊長の身体が霞のようにかき消えたかと思うとアスラの影と重なり、一瞬で離れた。カチリと刀を納める音がした。
アスラの首が、ポトリと、落ちた。そしてアスラはさらさらと塵となってこの世から消え失せた。
「さて、終わったぞ。みんな、好きにしていいぞ!」
宣言するや否や大喝采が沸き起こった。アスラが出現するというのはすなわち深刻な事態であり、そこに住み人々は嵐が過ぎ去るのを待つかの如く家にこもって震えのだが、ここの住民は違った。今回はたまたま幾斗瀬隊長がいたからよかったものの、それにしてもこの盛り上がりようは異常だ。まるでお祭り騒ぎだ。
そしてそれ以上に問題なのはこの人だ。フェーズ1のアスラーーー生まれたてで膂力が高まった程度で大した能力のない状態―――とは言え、一瞬のうちに首を切って落とした。それもわずか一太刀でだ。しかもあの身体の発光は一体なんだったのか。白銀の光を纏い、それが身体に取り込まれたのを確かに視た。そんな現象、初めて視た。
思案の海に潜っていると、ポンと頭を叩かれた。
「考えるのは後にして、この光景をよく観ておけ。これがこの街の人達で、俺達が星輪隊が護る人達だ。さぁ、思わぬ時間を食ったが隊舎へ向かうぞ。いい加減にしないとトシゾウがマジでキレるからな。あいつがキレたらアスラも真っ青になるからな」
そう言って笑うと幾斗瀬隊長は羽織を脱ぎ、刀と一緒にトランクへと畳みもしないで押し込んだ。隊長が着る羽織は特注品と聞いているがこのような扱いでいいのだろうか。
「気にするな。羽織に変わりはない。そんなことはいいからほら、さっさと乗れ」
促されて、私は助手席に座った。
「安心しろ。お前が今疑問に思っていることは後でしっかり話してやるから。まぁこの時点で【星斂闘氣】を感知できているなら幸先がいいな。ホント、才能の塊だよ、お前は」
幾斗瀬隊長はアクセルを踏み込んだ。急激にかかった重力に私の体は背もたれに沈んだ。車の背もたれってこんなに柔らかかったけ。やっぱり高級車は違うなと呑気に思いつつ、未知なる単語に考えを巡らせた。
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