幕間 それぞれの会話
アクセスいただきありがとうございます!
改題しましたが未だに迷走しています。
では、お楽しみいただけたら幸いです。
「中々思い切った決断をする子だの。さすがは簪イサミの置き土産と言ったところかの」
「そうですね。簪隊長は誰よりもこの国を護りたいと思っていた人ですから。あの子もその意志を継ぐと口癖のように言ってました。血は争えないと言うことでしょうね」
ユウカとの面談が終わり、雅楽代と学園長はお茶菓子をつまみながら雑談していた。ないよは当然のことながら先ほどまで行われていた話だ。
「それにしても迷いなく選んだものだの。私が言うのもなんだが、まさか今日この場で選ぶと思いもよらなんだ」
「・・・簪が聞いたら学園長と言えど殴られますよ?」
学園長としては決断を急かしはしたが持ち帰って検討させてくれと言ってくるものだと思っていた。それに、この件を事前に知っていたのは自分と彼女の担任の雅楽代ともう人り、彼女の母、簪ツヅラの三人。簪ユウカの反応を見るに、母から何も聞かされていないようだった。
「・・・例の事件からもう十年か。早いものだの・・・まだ下手人はわかってないのか?」
十年前に起きた月輪隊隊舎爆発事件及び簪イサミ隊長襲撃事件。テロリストによる犯行か、アスラによる襲撃か、急激に力をつけた月輪隊への他の隊による陰謀論など当時好き勝手に騒がれたが結局事件は未だ闇の中。いや、正しくは闇から誰も引き上げようとしなかったと言うべきか。ただ一人を除いては。
「彼だけだろう?この事件を追っているのは?」
「幾斗瀬隊長代理、いや、今は隊長か。あの人は簪隊長の相棒でしたから、なんとしてでもってことだと思います。その当時の憔悴具合は見ていて痛々しかったです」
あの事件をきっかけに幾斗瀬さんはおかしくなった。アスラの撃退はこれまで以上に苛烈となり容赦がなくなった。それと並行して簪隊長襲撃犯の行方も追っていた。誰も関わらせず、自分一人で。鬼気迫る様子だったことを雅楽代は今でも覚えている。
「事件から一ヶ月後、月輪隊を一旦解散させて当時の副隊長だった御子神龍一が隊長に昇進すると言う話が出たところで幾斗瀬さんは除隊しました。。それがまさか新しく隊を立ち上げて戻ってくるとは思いよりませんでしたけど」
「御子神の倅か。あいつは親父の七光りで入隊して出世したようなものだからのぉ。隊長の中では格が落ちるし部下への風当たりも強い。幾斗瀬の坊主の星輪隊を除けば生徒を送り出したくない隊だのぉ今の月輪隊は」
茶をずずっと啜りながら学園長はぼやいた。確かに今の月輪隊は以前のような、自分がいた頃のような賑やかでいい意味で騒がしい雰囲気は全くない。険悪な空気で、隊長である御子神を恐れて隊員たちは萎縮してしまっている。月輪隊に残った雅楽代の同僚も昔は良かったと酒の席で嘆くのをよく聞かされている。
「まぁ何はともあれ、私らにできることは未来ある若者たちの新たな門出を快く祝うことだの。今後も楽しみますよ、雅楽代先生」
「学園長からしたら自分もまだ若手なんですけどね」
湯飲みに残ったお茶をずずっと飲み干して、雅楽代は卒業していく生徒たちに想いを馳せる。水輪隊に配属されて引き続き面倒を見れる者もいるが、願わくば皆長生きしてほしい。
生きること。それが人々の希望である、護国光輪隊に所属する代行者の役目なのだから。
夜。俺は自宅でのんびり酒を飲みながら寛いでいた。グラスに注いだウィスキーをナッツをつまみにして飲んでいると、いつかの朝同様に携帯が鳴った。だがその相手は最近の者とは違っていた。
『もしもし、士さんですか?私です、ナオマサです。今大丈夫ですか?』
「あぁ、大丈夫だよ、ナオマサくん。それで、こんな時間に一体なんの用だね?まぁ大体想像できるが・・・決まったか?」
「はい。本日決まりました。遅くなり申し訳ありませんでした」
「ようやくか・・・全く、随分と時間がかかりすぎじゃないかね、ナオマサくん?どうせあの爺さんのことだ、俺が寄越した手紙を送らずに手元に置いていたんだろう?あのクソジジイ今度会ったらぶん殴ってやる」
『ハハハ・・・やっぱりバレてますか?』
「当然だろう?うちは人数こそ少ないが優秀だぞ?特に副隊長の情報収集能力を舐めてもらっては困るぞ?まぁツヅラには俺から口止めしたんだが」
『やっぱり・・・どうしてですか?その様子なら神々廻隊長が簪を勧誘しようとしていたのも耳に入っているのでしょう?今回はよかったものの、もし日輪隊を選択していたら目も当てられませんよ?欲しかったんでしょう?彼女のような才能が。結局自分は会得出来ず、あなたの隊に入れませんでしたけど』
「拗ねるなよ、ナオマサ。お前だって片足三歩手前くらいには足を踏み入れたんだ。最近はサボっているようだが、真面目に鍛錬していれば蓬莱のガキに苦戦なんてすることなかったろうに」
『相変わらず手厳しいですね。そうそう、紅葉谷はどうですか?元気にしていますか?』
「あぁ、イロハなら元気にやっているよ。元気すぎて隊長代理のハジメが過労死しそうだがね。今の彼女なら月輪隊の隊長(道楽息子)くらいなら余裕でぶっ飛ばせるだろう。どうだ、手合わせしてみるか?」
『・・・勘弁してください。あなたの技を知っている身としては土下座してでも逃げさせてもらいますよ。簪のこと、宜しくお願いします』
「あぁ、任せておけ。いつもすまないな、ナオマサ。気をつけろよ」
『やめてくださいよ、士さん。水くさいじゃないですか。自分が好きでしていることですから。ではまた、何かあれば連絡します』
そう言い残して電話は切れた。俺は間も無くやって来る一年ぶりの新人隊員にして元相棒の一人娘をどう鍛えていくかを考える。まぁまずはいつも通り、山登りからだな。カランとグラスの中の氷が音を立てた。
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