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第1章落ちこぼれ、天才につき④

アクセスいただきありがとうございます。

まだ日常(?)パートですが楽しんでいただければ幸いです。


卒業試験から一週間後。私は担任の雅楽代から連絡があり、学園長室に着ていた。


「簪くん。今日呼ばれた理由はわかっているかな?」


私は今、学園長とテーブルを一つ挟んだ距離で対面して座っている。歴戦の猛者であり半ば伝説的存在の人と膝を突き合わす日が来るとは思ってもいなかった。その好々爺は笑みを浮かべて尋ねてくるし、その隣にいる雅楽代先生も頬が緩んでいて気色が悪い。


「それは・・・まぁなんとなく」


通常、卒業試験を終えると三日以内に護国光輪隊のどこかの隊から手紙が自宅に送られてくる。形式は部隊によって様々あるが、確かなことは『是非とも我が隊にきて共にこの国を護ろう』と言うスカウティングな内容となっている。言い換えればその手紙が卒業認定であると同時に内定通知である。だが一週間経っても私の家にはそのような手紙は送られてこなかった。


「確かに君は安座名くんを相手に諦めずに戦いました。私はすぐに降参すると思っていましたが、貴女は決して諦めなかった。これ以上戦えばどちらが危険だったが、見る者が見れば明白でした」


正直に告白するとあの試験の時の記憶はほとんど覚えていない。外気収斂―――自然界に無限に存在しているとされるマナを己に取り込む技―――も満足に出来ていたかも曖昧で

ただ本能のままに刀を振るっていたと思う。私がこの学園で二年間学んだことは一体なんだったのかと悔やんだ。


「実はな、簪。お前の戦いは各隊の隊長から高評価だったんだよ。どんなに劣勢な状況でも屈しず、刀を落とさず戦い抜く姿勢。それは人々の希望であり続けなければならい代行者にとって何より求められることだからな」


「でも・・・私のところにはどこからも手紙は着ていませんよ?」


雅楽代先生の話しが本当だとしたら、あくまで評価されたのは私の『精神面』だけと言うことだ。技量の面では評価されていないと言うことに他ならない。


「そのことなんだがね、簪くん。実を言うと日輪隊の神々廻隊長から『もしどこからも入隊の打診がなければ預かってもいいと儂が預かってもいい』との連絡が着ていてね。第三位階からのスタートだがそれでもよければとのことなのだよ」

私は空いた口が塞がらなくなった。まかさ護国光輪隊の中でも精鋭が集まる日輪隊の、しかも歴代最強の代行者との呼び声高い神々廻雲龍斎様からそのような打診が学園長の元に着ていたなんて。隣の安座名先生の表情からこの人も知っていたようだ。この不真面目担任め。


「だがね・・・君のことを欲しいと言っている隊が実は日輪隊以外にも実はあってだね。それがまた何と言うか・・・私としては残り少ない髪の毛が全部抜けるほど困っているのだよ。特に二年前とは違って神々廻も簪君のことを気に入っているようだし・・・」


私の顎が外れかかるほど驚きの告白が続けざまに発砲された。日輪隊があくまでも消極的スカウトだとすればもう一つの隊は積極的なスカウトだ。では何故私の家にその旨を伝える手紙が来なかったのだろう。


「試験後から手紙が来るまでに間があるのはまずは学園長である私の元にそれが来るからなのだよ。それを私が確認してから再度家に送るようにしているのだ。面倒なことだがね。個人情報故に住所までは彼らも知らないのだ」


私の仕事が増えるから直接送って欲しいのだけれど、と愚痴を一つ挟んで学園長は話を続けた。


「しかし、君の場合は事情が事情だったのだ。と言うよりも君を欲している隊がちと問題というか訳ありというかでの。申し訳ないが私の独断で保留にさせてもらったのだ。だがいい加減先方の隊長からドヤされてね。直接話をしようと思ったわけなのだよ」


言い終えると深いため息を吐いた。その姿が数々の伝説を残した歴戦の副隊長ではなく経営に頭を悩ませる中規模会社の社長のようだ。


「簪、今更だが護国光輪隊が幾つの部隊から成っているからは知っているよな?」


護国光輪隊。世界、生、この世のあらゆることに絶望した人間が行き着く成れの果て、異形【アスラ】からこの国を守護する組織。それはこの国に住む者ならば子供でも知っている常識だ。


「はい。全部で七つの隊で構成されています。日輪隊・月輪隊・火輪隊・水輪隊・木輪隊・金輪隊・土輪隊です」


「そうだ。世間一般では護国光輪隊は七つの隊で構成されている。だが実はな、ほとんど知られていないことだが八つ目の隊が存在するんだよ」


雅楽代先生が苦虫を噛み潰したかのような表情で話す内容もまた私にとっては驚きの事実だった。普通なら発足以来初めて新設の隊が誕生したことは国中を駆け巡る一大ニュースのはずだ。それが公表されずにいるとは何か理由があるのだろう。


「その隊なんだがな、少数精鋭と言えば聞こえがいいが各隊のはみ出し者を集めたような集団なんだよ。だから学園長もお前をそこに送り込むことに頭を悩ませているんだ」


「つまり、問題ありと。そう言うことなんですね?」


「それがの、そうでもないからまた厄介なのだ。二年前に卒業した生徒がその隊に入隊したのだが、それはもう信じられないくらい強くなっていての。学園にいた時は能力もさほど低くて君と同じで外気収斂が苦手のはずだったのだが。まぁ彼女については彼も『あいつは例外だ』と呆れていたくらいだから入隊後に才能が開花したのだろう。学園長としては恥ずべきことだがね」


「そういう意味で、その八つ目の隊は特殊なんだ。実際、昨年は誰一人としてスカウトしなかった。無闇矢鱈と人を増やすのではなく、あくまで隊長が見て、自分の隊にふさわしいと判断した者にしか声をかけないんだ。その結果がはみ出し者の寄せ集め、なんて言われていて正式には認められていない理由なんだけど。っあ、ちなみにその隊長は俺の元上司なんだけどね。俺は隊発足の時に声はかけらなかったけどね」


「っえ!?そこの隊長さんと安座名先生のお知り合いなんですか!?ってことは父とも関係が!?」


雅楽代先生は今は水輪隊に所属しているがかつては父が隊長を務めていた月輪隊に所属していた。その時の上司ということは未だ目を覚まさない父の部下であった可能性が非常に高い。


「そうだよ。その人は十年前、新生月輪隊になる前まで隊長代理をしていた人だ。お前の父君、簪イサミ隊長とは親しくしていた。その二人あったの月輪隊だったし、その当時は最強の日輪隊に勝るとも劣らない隊だった。それが簪隊長が昏睡状態になったと同時に隊を辞めて、気付いたら新しく隊を作って表舞台に戻ってきた変わり種だよ」


父さんの知り合いということは、もしかしたら母さんとも知り合いかもしれない。幼い頃、月輪隊の人が家に来た記憶はないから私は面識がないはずだが、聞いたら何か教えてくれるかもしれない。


「その人の名は幾斗瀬士いくとせつかさ。隊の名を星輪隊せいりんたい。たった四人の部隊だが、何処よりもお前を欲している所だ」


「それにの、簪君。幾斗瀬隊長はこうも言っておった。『簪ユウカは紛れもない天才だ。雲龍斎の孫でも、蓬莱の長男でもなく、彼女こそこの国の未来そのものだ』とね。彼がここまで強く言うのは本当に珍しい。紅葉谷君の時でさえもう少し控えめだったのに」


そうですね、と雅楽代先生は学園長の言葉に同意を示した。と言うより今の話は本当なのだろうか。私があの神々廻雲龍斎の孫にして卒業試験で隊長代理に唯一勝利をしてしまった彼女を差し置いてこの国の未来を背負えるのだろうか。


「さて簪君、君はどちらに行きたいかな?雲龍斎の日輪隊か、幾斗瀬隊長の星輪隊か。今この場で決断して欲しい」


「い、今ここでですか?持ち帰って検討とかは?」


「先も言った通り先方がうるさくての。それに代行者たる者決断は瞬時にしなければならない。まぁ私としては無難な日輪隊がオススメだがの」


この爺さん、自分の都合で保留しておきながら好き勝手言いやがってと内心で毒吐きながら私は努めて冷静に考えを巡らせる。自分を過大なほどに評価をしてくれているが曰く付きの未公認の星輪隊か、最強集団の呼び声高いが誰も引き取らないならと手を上げてくれた消極的な姿勢の日輪隊か。将来の安定性を考えるなら迷うことなく日輪隊だ。一択だ。だが、落ちこぼれと二年間言われ続けてきた私でも必要だと言ってくれた星輪隊。父の部下だったという隊長。私はじっくり悩むこと三分。答えを学園長に告げた。


「学園長、雅楽代先生。決めました。私はーーーー」


この三分間が、私の運命を決定づける三分となるのだが、それを自覚するのはまだ先の話だ。


ここまでお読みいただいてありがとうございます。


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『続きが気になるよ』

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