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第1章落ちこぼれ、天才につき②

本日3話目です。

楽しんでいただけたら幸いです!

では、どうぞ!

私が在籍している光立代行者養成学校【新陰】は数ある代行者養成所の中でも光立、すなわち国が運営しているだけのことあって通う生徒も特別優秀である。そのため卒業試験は言わばその中でもより良い新人を自分の隊にスカウトするための青田買いの見本市でもある。それ故に御前試験と言われている。ちなみに私のような落ちこぼれがなぜここにいるかと言えば、入学の時点では母から教えてもらっていた【外気収斂】が上手く出来ていたので問題なかった。私の成績は入学してから落ちたとも言える。


「今年度の上級学生全九十名がこの場に全て揃ったので、これより卒業試験を始める。皆、準備はいいかの?」


養成学園は二年制。一年目は【外気収斂】や【五輪絶技】の型などの基礎や身体づくりを徹底して行う。二年目になると主に対人訓練を中心とした実技が中心となる。もちろん身体を動かすだけでなく一般教養なども身につける必要があるので非常に大変だ。なにより一番大変なのはまさに始まろうとしている卒業試験だ。


「これより皆には演習場でこの学園の教職員の誰かと模擬戦をしてもらうのだが、担当ははその時までの秘密じゃ。それと、卒業認定にこの模擬戦の勝敗は関係ないから安心しなさい。あくまでこの先お君達が戦場に出ても問題がないかを判断するのが目的だからの」


今話している少し腰の曲がった白髪の男性は何を隠そうここ【新陰】の学園長にしてかつて日輪隊の副隊長を務めていた猛者、みなもとグンジだ。護国光輪隊の中でも最強の日輪隊において隊長の座に長く君臨している最強の代行者、神々廻雲龍斎ししべうんりゅうさいの部下で、唯一まともに勝負ができると今でも言われている人物だ。それだけの戦力が簡単に引退できるはずもなく、その時はかなり揉めたそうだ。


「知っての通り、演習場には護国光輪隊の各隊の隊長、副隊長が見学に来ておる。お主たちがこの二年間で学んだことを如何なく発揮すればお主たちのことを認めてくれるだろう。じゃが気負うことはない。彼らも君達同じ人間だからの。だからお主たちは自分の力を目一杯吐き出すことに集中しなさい」


好々爺のような笑みを浮かべて学園長は話した。


「試験は一人ずつ行う。それ以外の皆はここで精神を整えておくように。では映えあるトップバッターはーーー」


こうして運命を決める卒業試験が始まった。


なぜこの試験が運命を決めるかと言えば、それは配属先が決まることはもちろんのことだが、入隊後の出世に大きく関わるからだ。


護国光輪隊には階級というものがある。下から第三位階・第二位階・第一位階と上がり、その上が隊長代理・副隊長・隊長となる。基本的には皆一番下の第三位階から功績をあげるなどして出世していくのだがどんなに手柄を上げても第一位階までが限界だ。それに対して光立学園出身者は始めから第二位階からのスタートとなり、この卒業試験で優秀な成績や観覧している各部隊の隊長に気に入られれば入隊即第一位階となるのも夢ではない。現に一昨年の卒業生にいきなりー第一位階を与えられた(そうなった)―者もいるのだ。前例がある以上希望がある。希望があるなら目指さない手はない。


「さて次は・・・簪ユウカ!演習場へ!」


ついに私の番となった。昼食休憩を挟んで待たされること五時間。ようやく私の順番が回ってきた。と言っても私が大トリなわけなのだが。


「今更自己紹介は必要ないと思うが規則だからな。実技試験を担当する安座名ヒサヒデだ。隣にいるのは採点官だからまぁ気にするな」


安座名あざなヒサヒデ。私のクラスを担当している雅楽代ナオマサと隊こそ違うが隊長代理の職についている人物だ。現役の隊長代理は他の教職員と異なり朝礼にしか顔を出さない。終礼は参加は任務次第。それでよく教員が務まるなと思うが、そもそも本職は代行者としての任務なのだから仕方ない。それに月に一度だけ手合わせできる特別鍛錬日が設けられているのでそれだけで生徒からすれば十分だ。


「採点官を務めさせていただきます、是枝これえだアンと申します。どうぞ宜しく」


安座名先生の隣に立つ是枝さんは初めて見る顔だ。おそらく護国光輪隊から派遣された文官だろう。知的な印象を与えるメガネをかけ、手にはリアルタイムで戦闘記録を入力するためのタブレットがあった。


「初めてに言っておくが、俺は雅楽代のように甘くはない。お前が落ちこぼれだろうと手加減も容赦もしない。死にはしないが二度と券を持てないくらいにはするつもりだ」


正直言って彼が実技試験の担当官になったのは大外れだ。そもそも試験官に現役の隊長代理が担当するなんてことは滅多にない。担当するにしてもそれは飛び抜けて優秀な生徒の実力をより深く見定めるため。私のような生徒を相手にするなんてどうかしている。


「現役の隊長代理が試験官を担当するのは今年はお前で三人目だ。まぁこれは上の意向もあるからなんとも言えないところではあるが、お前の場合ははっきりしている」


そこで安座名隊長代理は言葉を切り、手にしている模擬刀の鋒を私に突きつけた。


「諦めろ。お前に代行者は務まらない。よしんばなったとしても初陣で死ぬのが関の山だ。そうなる前にここで諦めろ。代行者にはなれなくとも文官という道もある。わざわざ死ににいくことはないだろう?」


これは最後警告だ。学園からでありこの演習場を取り囲むようにして設けられている観客席を疎らに埋めている強者たちからの通知だ。確かに、今の私では仮に代行者になれても精々肉壁となってあっけなく討ち死にが関の山。だがそれでも、私は父のような代行者になりたい。そして父をあのように傷つけた何者かを見つけたい。その思いでここまで来た。だから私はーーー


「諦めません。誰になんと言われようと、私は代行者になります」


「・・・そうか。ならここで完膚なきまでに叩きのめしてその覚悟をへし折ってやる。構えろ、簪ユウカ」


現役からの強大な殺気を突きつけられた。学生に向けていいものではないが、それでも私は臆することなく模擬刀を青眼に構える。それを見たさきほど採点官だと安座名から紹介された女性がやれやれと言わんばかりにかぶりを振って、しかしはっきりと宣言した。


「それではーーーはじめ!」


是枝さんの開始の合図とともに私は駆け出した。できることは限られているがその範囲で全力を尽くす。


―――五輪絶技ごりんぜつぎ 水書みずのしょ 壱ノいちのかた 微雨の太刀びうのたち


間合いを詰めながら浅い呼吸で最低限のマナを取り込む。模擬刀が淡く青く発光するのを感じながら、私は模擬刀を上段から振り下ろす。


「その程度のマナの収斂で五輪絶技だと!笑わせるな!」


安座名先生は外気収斂をすることなく、ただ素の膂力だけで私の技を難なく受け止め、力任せにはじき返した。なんとか空中でバランスを保ちながら、私は片膝をつきながら着地した。

「そも基本がなってない!外気収斂による身体強化【鎧闘氣がいとうき】すらまともにできないのか!?これは授業じゃない!卒業試験だぞ!にも関わらずお前は代行者として必要な最低限のことすらせずに挑むつもりか!」


集めたマナで自分自身の肉体を強化する技【鎧闘氣】と呼び、代行者ならば息をするかのように当たり前にこれを使っている。【アスラ】という己の内にある力を暴走させて化け物となった存在と戦うために必要な技術だが、私はそれが上手く使えない。マナを集めても肉体強化に回す前に霧散してしまうからだ。


「貴重な時間を割いて皆ここにいる。にも関わらず、お前は基礎すらできないと言うのにその時間を無駄にしようとしているんだぞ!恥を知れ!」


そう、確かに私は恥知らずだ。誰もができる基本が、この学園に入ってからすぐにできなくなった。理由は私を含めて誰にもわからない。諦めようと何度も思ったけど寝ている父を見るたびに思い直した。目が覚めたとき、父が安心できる自分でいたい。そのために今私はここに立っている。


―――五輪絶技 水書 弐ノ型 霖雨の太刀りんうのたち


一撃でダメなら連続で叩き込むまでのこと。私にできる最大攻撃数はわずかに五回。小雨程度の斬撃だがその分威力を高めるしかない。かつてように外気収斂が出来ていれば何回でも打てた技なのにーーー


「軽い!軽すぎる!この程度なら入学受験者の方がまだマシだぞ!ふざけているのか!」


一合目。正面から合わせられる。


二合目。わずかに体をずらしてかわされる。


三合目。安座名先生が模擬刀を下ろして無防備の姿勢を取るが【鎧闘氣】を発動させた。私の攻撃は左肩に直撃したが、蚊にでも刺されたかのように微動だにせず、そのままの体勢で前蹴りを放った。腹部に丸太のような脚が突き刺さり、私は壁際まで吹き飛ばされた。


「ガハッ・・・カッハァ・・ハァ・・」


「瞬間的にマナを腹部に集めたか。それができてなければこれで終わっていたが、どうする?まだ続けるか?」


「ハァ・・・ハァ・・・当たり前です」


「フン。よく言った。どこまで耐えられるか試してやる。それが、この退屈な試験を面白くする数少ない方法だからな」


学生に向けていいものではない極悪な表情を作りながら、安座名先生は【鎧闘氣】を維持したまま突貫してきた。私は全力でそれを回避して距離を取るべく奔走する。


「どうした!どうした!逃げてばかりじゃ試験にならないだろうが!」


一方的な私刑だが、客席からは笑いが溢れる。落ちこぼれが惨めに足掻く姿を見て楽しんでいるのだろうか。私は悔しさに唇を噛むが今は目の前のに集中する。


そんなユウカの姿を見てほとんどの者が哀れむような視線を送っているがこ三人だけが違った。そのうちの二人、観客席に座る青年とその隣にいる年上だが青年の部下と思われる男はまるで宝物を見つけた海賊のような笑みを浮かべていた。


ここまでお読みいただいてありがとうございます。


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