第1章落ちこぼれ、天才につき①
連続投稿になります。
前話からお読みいただければと思います。
光歴七百六年。日本光国。光立代行者養成学校【新陰】
息も絶え絶えになりながらもなんとか試験の時間に間に合った。まさか十七になってトースト咥えながらダッシュをする羽目にはるとは思わなかった。無理矢理にでもエネルギーを補充しないとこれからの試験がもたない。
「おいおい、よりにもよって落ちこぼれが最後にご登場とはな。人生がかかっているっていうのに気楽なもんだな」
教室に入るなりに声をかけてきたのは宗方キヨマサという男子だ。このクラスに限らず今年度の修学生の中で比べても非常に優秀な部類に入る。両親がどこかの隊の隊長代理をしている関係で、私と似たような境遇からなにかと突っかかってくるが根っこの部分は小心者だ。
「私のような落ちこぼれに構っている暇があったら精神集中でもしたらどう?だからあんたは万年六番手なのよ」
ぐぬぬと唸り声を出すキヨマサをこれ以上相手にすることはせず、私は無駄だとわかっているけれど目を閉じて心を落ち着かせる。間も無く訪れる御前試験を前に少しでもコンディションを整えておきたかった。無駄だとわかっているが。
「ハッ、俺が万年六番手ならお前は万年ドベの落ちこぼれだな!父親が隊長だったかしらないが、ずっと昏睡状態なんだろう?俺が隊員だったらそんな隊長の下では働きたくないね」
無視だ無視。父のことを言われるのは慣れている。
私が七歳の頃に父は事件にあって意識不明の重体となった。幸い命は取り止めることはできたがそれ以上良くなることはなかった。母と二人きりとなったが母は元隊員だったこともあり経済的に困ることはなく、加えて謎の人が父の医療費を負担してくれていた。母はそれが誰か知っているようだったが私には決して教えてくれなかった。
「お父さんの目が覚めたら、あの日できなかった誕生日会をやらないとね。その時にこの人も呼んで、お礼を言いましょうね」
あの日、父が何者かに襲われて病院に運ばれたと隊員の人から連絡をもらって病院に駆けつけた日は父の誕生日だった。私と母の二人で食事を準備して父の帰りを待って三人で祝うはずだった。しかしそれは十年経った今でも叶わずにいる。しかもその犯人は未だにわからずにいる。
「まぁ親父が親父なら子も子だよな!元隊長の忘れ形見のお前が満足に【五輪絶技】の技を使えない落ちこぼれなんだからな!」
私は唇を噛み締めた。そう、私は代行者として必要となる技を満足に扱えずにいた。それが間近に迫る御前試験を前に半ば諦めに近い境地に至っているのはこれが原因だ。
代行者。それはこの国を護る者達のことを指す。そして代行者が身を置く組織は七つ(・・)の隊から構成されている【護国光輪隊】。
彼等が相手にするのは生きることに絶望し、己のうちにある力―――通称オドーーーが暴走して異形と化した元人間の化け物。その名を【アスラ】。彼等から無辜の民を守り、希望の光となることが護国光輪隊の役目である。
異形の化け物相手と対峙する代行者はただの人に非ず。彼等が【アスラ】と戦うために身につけた技こそが【外気収斂】と言う世界に在る力、マナを己の中に取り込む技術とその無限の力を活用して振るう【五輪絶技】と言う無双の剣技である。それ故に代行者は人でありながら人の希望となり得る。
だが、私には致命的に【外気収斂】が苦手だった。世界から拒絶されているかのようにマナを十全に己の中に取り込むことができなかった。マナは技を発動させるだけでなく、単純に身体能力の強化にも使われる。それが出来ないから私は落ちこぼれなのだ。
瞑目しながらも悔しさで集中を乱される。このままではいけないと思いながら深呼吸を繰り返していると、教室の扉がガラガラと音を立てて開いた。
「おーす。元気にしているかガキども。そろそろ運命を決める時間だからまずは体育館に移動するぞぉーと言うかこのクラス以外は移動始めているからさっさと行くぞぉ」
全三クラスの中でも私達のクラスを担当しているこの男―――名を雅楽代ナオマサと言うーーーは教職員の中では比較的不真面目の部類だがその実力は他の者達と比べても引けを取らない。仮にも護国光輪隊の一部隊で隊長代理を務めているだけのことはある。決して不真面目なだけの人ではない。そう、決して。
「すでに試験会場である演習場には各隊の隊長、副隊長が集まりだしているみたいだから急ぐぞぉー。っあ、全部じゃねぇか。だけどあそこは弱小だからいいか。ほら、さっさとする!じゃないと心象が悪くなるぞぉ?」
この野郎ふざけんな、と生徒たちは口々に口汚く文句を垂らしながら統制などがガン無視して各々教室を慌てて飛び出していく。 私はため息をついてゆっくりとした足取りで教室を出ようとしたところで不意に声をかけられた。
「簪。お前本当に試験を受けるのか?」
「・・・はい。そのつもりです」
「そうか。わかった。だが無茶はするなよ?万が一のことがお前にあったら目が覚めたとき俺があの人に殺されるからな」
「全く、先生はどこまでいってもクソ野郎ですね」
「なんとでも言え。俺は自分の命が惜しいんだよ。それより急ぐぞ。お前が最後だし、遅れたら俺が学園長にどやされるからな」
雅楽代先生に急かされるようにして、私は試験が行われる演習場へと向かった。
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