表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ライトホラーシリーズ

救命拒否カード

作者: 山家

 ここは、この市にある最大の病院の救命救急処置等センターだ。

 数年前までは、別の名前だったが、今では、救命救急処置等センターに名前が変わった。

 その理由だが。


「先輩、先程、運び込まれた交通事故の被害者ですが、救命拒否カードを持っています」

「そうか。回復可能性は」

「余り高くありません」

「それなら、僕が確認したら、処置を行うことでいいかな」

「ええ」


 救命救急処置等センターで働いている医師の僕は、後輩の医師の判断も受けて処置、安楽死を行った。

 安楽死という言葉がきつい、ということで処置という言葉が使われるようになっている。

 これで、この被害者は安楽に逝ける筈だ。


 様々な要因、特に生産性の問題から、植物状態等になった場合に死にたい、という希望を示していたら、安楽死を認めるべきだ、という声が数年前から高まり、救命拒否カード制度が設けられた。

 事故や病気等により、植物状態等になった場合、救命を拒否することを予め表明できることになった。

 その場合、それを示すカードを、基本的に携帯しておくことになっている。

 これを携帯している場合、予後不良により植物状態になる公算が高い状態になった、と二人の医師が判断すれば、安楽死、処置を行うことができるのだ。


 最近は、更にこの制度を拡充すべきだ、という声が挙がっている。

 家族の負担等を考え、本人の意思が示せない場合、親権者や後見人の判断があれば、未成年者や被後見人でも同様のことができるようにすべきだ、というのだ。

 救命拒否カードを、意思を示せる成年者のほとんどが持つようになった現在、そうなるのも時間の問題だろう、と僕は考えている。

 実際、僕も持っている。


「先輩、よく耐えられますね。私には中々できません」

 後輩のこの医師は、女性のせいか、優しすぎる。

 本人が救命拒否カードを持っていても、安楽死、処置を施すのをためらうのだ。

「そうは言っても、人口が減っている現在、生産性を日本があげるためには、救命拒否カード制度が必要だよ。実際、僕も君も持っているだろう」

「ええ。でも、周りが持っている以上、皆、持たない訳には、行きません。でも、本当はこんな制度はおかしい、と私は想うんです」

 彼女の言葉を、僕はさえぎった。


「首相も言っているだろう。日本のために、この制度は必要だと。首相や与党議員は、日本の国民が選挙で選んだものだ。救命拒否カードを否定するというのは、首相や与党議員を批判することで、本当の日本の国民なら赦されないことだよ」

 僕は彼女を諭した。


 今の日本は、事実上、一党独裁体制だ。

 首相、政府与党の批判は赦されない、という国民の声が高まり、ほぼ野党は消滅している。

 実際、野党なんて不要だ、あいつらは政府批判しかしないのだから。

 対案を出しても、どうせ野党だから実現不可能なことしか言わない。

 僕はそう考えているし、周りの多くもそう言っている。


「分かっていますよ」

 彼女は目をそらしながら言った。

「ともかく、僕の心の中に、その言葉はしまっておく、いいね」

 僕は彼女を諭した。


 彼女とそんな会話を交わした数日後。


 僕は職場で脳梗塞になって倒れた。

 幸いなことに救命救急処置等センターだから、僕は助かる、と考えていたのだが。

 脳梗塞になったせいか、眼が見えず、耳しか聞こえない。


「先生、この患者の容体は」

「どう見ても無理ね。先輩、判断をお願いします」

 看護師と彼女の声が聞こえる。


 僕の同僚の医師の声が聞こえる。

「これは無理だな。処置を行うしかない」

「分かりました。私がします」

 

 彼女が処置をするようだ。

 止めてくれ、僕は生きたいんだ。

 救命拒否カード制度に、なぜ反対しなかったのか。

 今になって僕は心から後悔をしていた。

 ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  カード保持者の容態判断が物凄い雑なところと、カード保持に自己判断を挟まないようになりそうなところが怖かったです。 [一言]  政治系の話は感想が書きづらいですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ