逃走屋
「冤罪に関するNPO法人がいくつかヒットしました。ワゴンを購入したのは冤罪闘争屋。これは表向きで裏は逃走屋。いわゆる逃がし屋ですね。アポ失敗しました。このまま、向かいますか?」
車のAIが尋ねてくる。
「この分じゃ、無駄足になるだけだ。なにもしゃべらんさ。設立にかかわった政治家がいる。すこし早いが、そこへ行こう。」
車は、与党保守の大物議員事務所に着いた。
「ヒグラシ、ご無沙汰だな。」
奥から、細身の中年がスーツ姿で現れた。
「議員ではありませんが。」
ドローンから声がする。
「こいつは、秘書。先輩?同級生?後輩?なにせ、留年につぐ留年でわけがわからん。」
「ずいぶんデモに参加したから、すっかり学校から目をつけられちまって。おかげで、就職できず。やっと、ここの秘書になった。ヒグラシとはよく遊んだな。警察にいってからはちっとも遊びにこないじゃないか。」
彼は、ヒグラシの友人で園浩二。
「よく二人でつるんでたから、ソノ・ヒグラシなんてよばれたよな。」
「このドローンでVDに情報を伝えればいいんだな。議員が話したとなるとあぶないからな。おれが知ってる限りで話してやるよ。冤罪による誹謗中傷から被害者を守るために作られたのが、逃走屋だ。表の顔で買った車を、盗難車として逃走に使っている。逃げた先で別人として暮らさせる。そちらさんは、おそらく逃走中に、なんらかの理由で死んだんだろう。やつらは、よく行方不明や死亡を理由に消息を消す手口を使うからな。」
その時、奥のテレビから中古車屋の爆発のニュースが流れた。単なるガス漏れ事故としてローカルニュース枠で報道された。
「あれに巻き込まれたってか。あのリポーターは、政治ネタを扱ってるやつだ。ここにもよく来るよ。そいつが現場にいくなんて裏があるってことだ。」
「現場の解析結果がでました。」
車からの報告が入る。
「爆発した粉塵からわずかですが硝煙反応がでました。」
車があびた煙に、火薬が混じっていたってことだ。
「おまえ、またやっかいなものを押し付けられたんじゃないのか?」
園は眉をしかめながら、しゃべった。