臭い物には蓋
「お客さんになんて口きいてんだい。」
奥からかっぷくのいい年輩の女性がでてきた。
「プロパン、プロピレン、ジメチルサルファイド検出。」
AIがドローンを通じて叫ぶ。
「逃げろ!奥さんも早く!」
火蔵は二人の手を引いて店から離れた。
「ドーン!」
激しい爆発音とともに、中古車店の屋根が吹き飛ぶ。3人は爆風にあおられ駐車場に前のめりにたたきつけられた。
「店が、車が・・・。」
店主は赤黒い炎を上げる建物をぼうぜんと見ていた。店の裏から一台のシープが走り去る。
どうやら、店の裏のプロパンが漏れて、爆発したようだ。が、タイミングがよすぎる。
もし、お茶を出そうとコンロに火ををつけていたら、その時、爆発したはずだ。
「俺達をねらったのか、それとも次の客をねらったのか。」
なんにしても、もう客は現れないだろう。火蔵は、現場に到着した地元の警察に現場を託し、次の場所に移動した。今回はかなりやばいと思ったのだろう。車は防弾仕様になっている。それでも、すすや灰ですっかり汚れてしまった。
「お宅、いったい何したの?」
そう聞かれても、頭の中に重たい蓋があってうまく開かない感じだ。
「あの中古車屋どうなりますかね。」
AIにもわからないことはある。
「ガス漏れ事故で終わり。仕事が増えて、もっと立派なオフィスが建つんじゃないか?」
それって、やっぱり、大物が関わっているってことだろ。火蔵は窓を少し開けた。
「臭いますね。」
AIが言葉を発した。火蔵は外の景色に目をやったまま、小声で答えた。
「今のは俺のガスだ。」