この事件、やたら臭います
「監視カメラには、昼ごろ、白いつなぎを着た犯人に抱えられながら一緒に座り込む映像が残っている。直後、飛び跳ねながら走り去っている。」
火蔵は、ぼくの記憶をよみがえらせようと、解説をする。
「飛んだ糞野郎ってことですね。」
AIが反応する。
「公園のトイレのゴミ箱に、そのつなぎが捨てられていた。」
そこから、少し離れた作業着専門店で、白いつなぎを買った男がいる。店員に話を聞く。
「この前も刑事さんがきましてね。いやあ、臭かったのなんの。一番安いやつだから、きっと下までしみたでしょう。その時はサイズの異なる二着を買っていったんです。一着は自分で来て、もう一着はワゴンの中の男に着させてましたね。自分で着替えてましたよ。」
つまりは、ここままでは僕は生きていたってわけだ。
「ところで、最近は変装がはやってるんですか?いや、職人の手じゃなかったもんでね。こんな商売していると、手を見ただけで、わかります。電気屋とか塗装屋とかね。」
「ほう兄ちゃんすごいね。で、どんな職業だと思った?」
「へへん。ありゃ、体育会系ですね。爪が短くて、指が太い。手の甲がまるく盛り上がってる。柔道とか空手とかで鍛えてる手だね。仕事で言えば、警官とか自衛隊員とか。ちなみに普通の警備員はハードな稽古はしないから、だんだん衰えるんだ。」
「次は、ワゴン車の販売店だ。」
火蔵は自動車に向かって告げた。
「そのとき使ったワゴン車が、乗り捨ててあった。盗難車だった。持ち主が来たんだが、臭いがひどくて、買い替えるといってきた。大事な証拠品だから処分も洗浄もできなくて困ったものだよ。」
火蔵はぶつぶつと独り言をつぶやいた。
車は一軒のさびれた中古車販売店についた。
「いらっしゃいませ。査定ですか?それともご購入?」
愛想のよい店主が、もみ手をしながら飛び出してきた。
「なんだ、刑事さんか。お~い、茶はいらねえよ。」
奥に向かって大声で叫ぶ。
「あの車は、電気工事に使うってんで内装もそれらしくしたんだ。でも、買ってったのは、NPO法人の役員だったんだ。それも、なんか冤罪被害者の支援関係らしい。おれにはよくわかんね。まあ、車が売れりゃ、客の職業は関係ねえけど。」
「臭うな・・・。」
「なにいってる。客が来るってんで、さっき風呂入ったばっかだ。」