死因
検死の結果、後頭部打撲による即死と診断された。
「転んで後頭部を打つこともあるが、公園の土の上だ。なんらかの隠蔽工作がされているのは確かだ。」
僕の記憶を分析する捜査官は、公園へ向かう車の中で語りかけてきた。
「記憶は残っている。が、それが散らばってしまてうまく引き出せない。だから、現場から生前の足取りを逆にたどっていく。」
いまや車も自動運転の時代。捜査官は公園につくまでの間、眠り込んでしまった。
人間とは不便なものだ。睡眠という非生産的な時をすごさねばならない。捜査官は、最高のコンディションを保つために必要な、至福の時だといっている。生前の僕にとっては、悪魔の時間だった。
明日が来る。
このことが、どれほどの恐怖だったか。また、あのバイトの時間が来ると思うと、憂鬱だった。しかし、真っ当な企業は、一流大学卒のエリートしかやとわない。三流大学卒でしかも1年留年している僕にとっては高嶺の花。かなわぬ恋と知りつつ、いくつか応募したが、書類選考にすら引っかからなかったに違いない。
今の店は、飲食業のチェーン店。『バイトには無料のまかないあり』の掲示にひかれて応募したが、超がつくほどのブラック企業だった。オーナーは掛け持ち。そのため店長はやとわれで、働かない。すべて調理師免許のないバイトが料理をつくる。メイン料理はセントラルキッチンから送られてくるので、AI付きの自動調理器に入れるだけ。僕らがやることは、フルーツをカットしたり、ドレッシングをかけるなど。たしかに、免許がなくてもできる。
「食中毒だけはだすな。必要なのはそれだけだ。それから、SNSへの投稿でわずかでも損失が生じた場合は、すべて損害請求するから。売上があがれば、ボーナスを出すことも検討しておく。」
最初のオーナーの言葉に、希望を持った連中もいたが、すぐに失望に変わった。『検討』ってのは、役人言葉で『やりません』という意味らしい。
それでも、ここに留まっていた理由は、飯がうまかったから。店長の腕がいいわけではない。セントラルキッチンで作られたものは、賞味期限切れでも十分おいしかった。バイトは無料で食べられたが、正社員になると有料。しかも、一割ほど安いだけ。廃棄品で金を取るって、豚以下か?同じ金を払うなら、自分の好きなものを食べる。これだけでも、正社員になることを拒否する理由としては十分だ。