新聞社と運転手
「だいたい飲食店で赤虫なんて飼わないだろう。やっぱり、君が急迫してたんだろ。」
火蔵は、本気でそう思っているのか、僕を問い詰める。ぼくは、薄れていく頭、いや記憶の中を必死でさぐる。
赤虫は水槽の金魚が元気がないってんで、誰かが持ってきたんだよな。釣りが趣味なやつ。
「彼ね。フラットきて数ヶ月でやめたな。仕事も手早くて、接客もうまかった。とにかくメモ魔だったね。写真もよく撮ってたな。金魚が元気になったって、オーナーは喜んでた。オーナーの運転手になったって聞いたんだけど、やめてからは店にこないね。」
店長の話で思い出した。一年前の運転手はDくんではなかったから映像をみても思い出さなかったが、入り口は、店の顔だといって、水槽の手入れもよくしていた。シフトの関係でCくんとDくんはほとんど顔をあわさなかったが、ある日二人で仲良くとなり街にいるのを偶然見かけた。後をつけたら、新聞社に入っていった。なんて新聞社だったな。最近、官房長官からきらわれてる女性記者のいるところ。
「東京うさぎ新聞社のもちつき記者ですね。粘り強くて、うさぎの餅つきって呼ばれている人気者です。一部の政治家からは、東京詐欺新聞と嫌われています。」
AIが補足する。
Cくんが新聞の定期購読したいっていうんでDくんがついていったらしい。バイトだと収入が不安定でネット契約ができない。ネット配信が増え、紙の新聞はほとんど出回らない。そのため、新聞配達もなくなり、いわゆる新聞屋が街からは消えてしまっていた。
「後日その話をしたら、バイトなのに新聞読んでるって知られたら、政治活動しているみたいに思われるのでだまっていてくれって二人に頼まれた。それと、なぜか二人で出かけていたことも内緒にしてくれとも頼まれた。」
僕は、当時のことを慎重に思い出しながら、できるだけ正確に火蔵に伝えた。
「運転手は、ジャーナリストだな。おそらく、今も。」
火蔵の推理が始まった。