黒い交流
警察と聞いて店長があわてて飛び出してくる。
「さわやかな強い香りがしていますが、ニコチン臭も混じっています。」
AIは的確だ。
「いやだなあ、この業界じゃ調理中に喫煙しませんて。」
いや、おまえは実際には調理してないから喫煙してるんだろ。
「あの、バイトの件ですか。突然来なくなったと思ったら、行方不明で一年後に死亡でしょ。いや、おどろいたのなんのって。」
未払い給料もらってないんだけど。
「もしかして、未払いの件ですか?」
店長は恐る恐る尋ねる。
「それは、後でね。いなくなる直前になにかなかったかってね。」
火蔵は黒いコーヒーを飲みながら質問をする。
「あいつは、よくやってくれましてね。だから正規社員にならないかといったんです。いや、本人はえらく喜んでましたよ。」
うそうそ、断るつもりだったんだから。
「獣医学部卒でしょ。そんなすごい奴をほっとけないっすよ。」
いつもは、経歴に騙されたっていやみを言ってたくせに。
バイト仲間で先輩のAさん。
「モザイクと音声は変えてください。」
おい、取材じゃないんだから、そんなのなし。
「社員になれるって、先を越されちゃいましたよ。でも、入試もコネって噂で、またコネでも使ったんですかね。あいつがこなくなったおかげで俺がなれましたけど。こっちは、家族があるんで手当てとか助かってます。おかげで毎日愛妻弁当がくえますわ。」
表現は穏やかだが、語気が荒い。こいつは、先を越されて怒っていたに違いない。弁当なのは、まかないが有料だからだろ。
おっとりした後輩のBくん。
「いい先輩でしたよ。ブロッコリとか、ピーマンとかよく分けてくれました。わかいんだから、栄養をとれって。」
ああ、いいぐあいの間抜けっぷり。単に僕がそれらを嫌いだったからだってまだ気づいてないのか。
「残念なのは、一緒に食事とか飲み会に誘ってくれたことがないことですかね。」
そんな余裕なんかないから、してないだけだろ。それに、誘ったらおごらなきゃならないだろが。
「死ぬ前に、一度でいいから高級フレンチとか食べさせてもらいたかったですね。」
本音でてるよ。なんで、たべさせなきゃいけないんだ。だんだん腹が立ってきた。
うっかり屋でちゃっかり屋の同僚Cくん。
「あいつが居なくなったのはショックでしたよ。え?心配?オーダーミスしたときとか、よく代わりにあやまってくたな。やつが見てないときに、伝票直しておくと、自分のミスだと思って誤りにいってくれたね。」